side fiction /森山猫劇場 第13話

 キャンプで、柴崎教授と聡が一夜限りの関係を持ったのではないかと、美優は疑いを持った。


 聡のテントで、なぜか柴崎教授が眠っていた。そして柴崎教授の車で聡が眠っていた。

 とりあえず、朝食の準備をイライラしながらしていると、先に起きてきた柴崎教授にインスタントコーヒーをブラックで用意した。


「あー、酔っぱらって、帰るテントを間違えたみたいだ。普段は一人でキャンプするから」


 その返事に呆れているところへ、聡が頭をかきながら、起き出して何事もなかったかのように、美優におはようと声をかけた。


「聡くん、どうして柴崎教授の車で寝てたの?」


 聡は少し考えてから、夜中に柴崎教授が来てテントで眠ってしまったから、しかたなく車で寝たと答えた。

 聡はその質問が、運命の分岐点なのではないかと慎重に答えた。

 その少し考えた返事の待ち時間を美優は、嘘をつくために聡が考えごとをした時間だと誤解した。


(ああっ、もう、二人で口裏を合わせて!)


 美優が明らかに不機嫌になっていると、柴崎教授はわかった。

 しかし、自分の不注意が原因だと思い、食事中に柴崎教授は、聡に謝罪した。


「どうして君が何もしなかったのかわからないが、悪かったな」

「いえ、まあ、驚きましたけど、勝手に柴崎教授の車で寝て、すいませんでした」


 柴崎教授は美優に、何もなかったということをアピールするつもりでそう言った。

 聡は柴崎教授が、昨夜の夜這いを中途半端におぼえていて、自分の誘いを断って逃げ出したと思ったのではないかと、ドキッとしながら返答した。


 聡は柴崎教授の夜這いを阻止しようとして、魔導書グリモワールの力が一時的とはいえ使えなくなったので、女性たちの気持ちを催眠状態にして自白させるのを躊躇ちゅうちょした。

 また、柴崎教授に魔導書グリモワールの力が干渉して眠った可能性を考えて、催眠状態にしたら昨夜の夜這い防止が打ち消されないか警戒した。

 美優にだけ催眠状態にして、気持ちを自白させたら、それを見た柴崎教授が、聡にどんな行動をするか予想できない。


 美優の二人に対しての疑いは残ったまま、口数少なく、走る車の窓の外の景色を見ながら、ため息をついてばかりいた。


「昨夜、焚き火のそばに一人でいて、君のところに何かあらわれたりしなかったか?」

「何もありませんでしたよ」

「ふうん、そうか。ならいいが」


 助手席にいる聡と運転中の柴崎教授の会話を、美優が気分が悪いと言ったので、後部座席に一人で乗車することになったので、二人の会話が気になって聞き耳を立てている。


 キャンプの一夜のあと、聡はそれまで大学に通って、「祈祷流離文明論」以外にも残されている資料や、坂口仁教授が海外の旅先で集めて持ち帰った品物などを魔導書グリモワールの力で変わったものはないかチェックしていたのを中断した。


 また「祈祷流離文明論」に仕掛けられた魔導書グリモワールの力を封じる罠に聡は気づけなかったので、用心して大学の研究室に近づかないことにした。


 それがまた、美優には聡と柴崎教授が、わざと親密な関係を隠すために、離れて見せているように思えてしかたがなかった。


 柴崎教授に、美優は大学で会わないように避けるようになった。


 聡は柴崎教授にフェラチオされて、イキそうになったのがなんとなく香織さんに気まずくて、美優のいない昼間に、香織さんとセックスしている時間が増えていた。


 8月6日。

 柴崎教授と校舎内で顔を会わせないように、美優が講義の受講のプランを見直して、さらに大学が夏休みに入ったので、それまで夕方まで帰宅しなかったが、午後1時過ぎに、つまり普段は帰らない時間に帰宅した。


 家の中に母親の香織の姿が見当たらず、聡も部屋に行ってみたがいなかった。

 二人が今日どこかに出かけるとは、朝食を一緒に食べた時に、美優は聞かされていない。


「えっ!」


 聡の部屋の窓から、なにげなく外を眺めた美優は目を疑った。

 そして、あわてて、カーテンの陰に身を隠した。

 美優から見えたということは、見上げたら、むこうからも聡の部屋の窓辺にいる美優が丸見えだということに気づいたからだ。




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