★side fiction/森山猫劇場 第12話

(その時は違和感なく、鮮明に全部のことを記憶している。でも、あとで思い出せない、か)


 聡はまるで、ループする前とループ後の話をされているような気がした。


 怪談話を聞いたのだから、幽霊が聡の前にあらわれると思うのを柴崎教授が期待しているとは、聡は考えない。


 聡が火の後始末で水をかけて、小さめのテントに入り、ごろりと寝そべると、眠くなってきた。

 考えても、わからないことはあるとそのまま、ふて寝するように眠りに落ちた。


「んっ……んん?」

「しーっ、今、君が騒ぐとあの子が目を覚ましてしまうよ」


 暗がりで聞こえたのは、柴崎教授の声だった。

 そして、聡の下半身は丸出しにされて、密着した柴崎教授の手のなかに、すっかり勃起したものが、やんわりと握られていた。


 ふっと柴崎教授が聡の耳に息を吹きかけてくる。くすぐったさに身をぴくって震わせると、柴崎教授はクスクスと小さな笑い声のあと囁いた。


「君のどこが感じやすいかを、私は知っている。あと、ここも、敏感なこともね」


 聡の下半身のものから手を離し、柴崎教授のしなやかな手はTシャツの中の脇腹を撫で、さらに小さな胸の突起を弄り始めた。


「んあっ……くっ……んっ!」

「ふふっ、かわいいな、君は」


 そう言った柴崎教授が、聡の唇を奪い、ねっとりと舌を入れて濃厚に絡みつかせてくる。


「ん……むぐっ……ふあっ……はぁ、はぁ……し、柴崎教授、や、止めてください」

「口ではそんなことを言っていても、ここはもっと刺激が欲しいみたいじゃないか」


 柴崎教授が再び唇を重ねて、しなやかな手で、勃起したものを包みテンポ良く上下に愛撫する。


 あえぎながら、聡が目を閉じ意識を集中して、魔導書グリモワールの力で、柴崎教授の夜這いを止めさせようと考える。


(なんで……こんな……んっ!)


「……ふふっ、審判者よ、まだ、気づいてないのか?」


 キスのあと、両手で巧みに聡の胸の突起や下半身のものを愛撫し続けている柴崎教授は「審判者」と聡のことを呼んだ。


「憎らしい魔導書グリモワールの力を今は使わせない。君は研究室で、祈祷流離文明論を魔導書に記録しようとした。全部、記録していれば、もっと早く、こうして愛し合えたものを」


「祈祷流離文明論」を魔導書グリモワールに記録すること。


 聡が全部ではなく中途半端に記録したので、聡のなかの魔導書グリモワールの力を、封じ切れなかった。


 途中の寺で、置かれている石仏を確認させること。

 怪談話を、焚き火の前で聞かせること。

 それらの行動で、一時的に聡のなかにある魔導書グリモワールの力を封じた。


れろっ……んんっ、ちゅぷっ……んふぅ……じゅむっ……んっ、んふぅ……れろっ……ちゅるっ。

れろっ……ふっ……んんっ……ちゅぱっ……んっ……れろっ……れろっ……んふぅ……ぬぷっ……むぐっ……。


 柴崎教授だけれど、今だけは柴崎教授ではない誰かが、聡の下半身のすっかり猛ったものを、ちゅっと湿った音を立て吸いながら、少しずつ、そして深くくわえていく。


 香織さんは夫の公彦さん以外の人とセックスしたことがなかったので、ぬるぬるの熱い口内で包み込み、柔らかな舌で舐め回し、唇でも咥えて、吸い立てるフェラチオの愛撫を知らない人だった。


 香織さんとの情事ではされない淫らで情熱的な愛撫に、聡は必死に声を上げないように、そして射精したら負けのような気がして、我慢していた。

 美優にだけは、この状況を見られるわけにはいかないと思った。


「……ふふっ、我慢するほど、どんどん硬く立派になって」


 痛いぐらいに反り返り、聡の背筋にぞわぞわとした快感が這い上がっていく。

 我慢していても、たかぶっていく。


 その時、聡は目をゆっくりと開いて大きく息を吸い込み、柴崎教授のさらさらとした頭髪を撫で、耳のあたりを撫でた。


 口唇愛撫をしていた柴崎教授が、聡のものを口から離して、思わず顔を上げた。


「ああ……やっと、思い出してくれたのか?」


 その時、聡は何も答えず再び目を閉じた。


「もう……時間切れのよう……だ……また……逢おう」


 そう言ったあと、酔っている柴崎教授に戻ったらしく、むにゃむにゃと寝ぼけながら、聡の内腿に頬をくっつけて眠ってしまった。


 ふぅとため息をついた聡は、手探りでゆっくりと脱がされたパンツやジーンズを見つけ、眠っている柴崎教授を起こさないように、そおっとテントから這い出た。


 少し離れた大きめのテントに行って、聡は美優が目を覚まさないように願いながら、どうにか車のキーを探し出した。


 聞こえてくる寝息はおだやか。美優は目を覚まさしていないようだった。


 聡は車の後部座席のシートを倒して平たくすると、身を丸めて、目を閉じた。

 柴崎教授の頭を撫で、耳にふれた瞬間、一瞬だけ、何かを思い出した気がしたが、何を思い出したのかを考えると、まるで思い出させないと拒まれたように、聡は強い眠気に襲われ眠りに落ちた。


















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