★第57話 OH MY LITTLE GIRL

 夕暮れの勝己の部屋は、カーテン越しの窓からの夕日の色にすでに染まっている。

 本当にベッドと座卓しかない。

 座卓の上にはカフェ「ラパン・アジル」のサンドイッチが、紙皿の上でラップをかけられたまま置かれている。


 勝己が、孤児であることを話し終える。そして、アルバイト暮らしで生活には余裕はないことも、ため息をつきながら話す。


 透け感のあるシアータートルネックにツイードジャケット、デニム素材の細身のバンツの落ち着いた服装の佳乃が、座布団に正座して座っている。

 勝己の話を最後まで聞き終えて、静かにうなずく。


 勝己が佳乃の視線から目をそらし、窓を見て夕日に目を細める。

 勝己がゆっくりと立ち上がり、カーテンを閉じるために、佳乃に背を向ける。


 立ち上がった佳乃は、勝己の背中に頬をつけて抱きつく。

 勝己はそのまま動きを止めて、一瞬だけ、身を強ばらせる。

 ふうっとまた深い息を吐いて、何も言わずにいる。

 そうしている間にも、部屋が少しずつ薄暗くなっていく。


 佳乃が勝己の背中から離れる。

勝己が振り返ると、佳乃が勝己の頬を両手で撫でる。


 佳乃の柔らかな唇が、勝己の唇にふれる。

 勝己が、佳乃の名前を口にする前に――。

 

 佳乃を抱き寄せる。

 勝己は気づいた。

 緊張しているのか、佳乃の体は小さく震えている。

 しかし、勝己の抱擁を許して、受け入れている。

 

 薄暗い部屋。ベッドで、全裸の勝己は仰向けに寝そべっている。

 佳乃の手や指先は、勝己の肌をすべるように撫でる。

 佳乃の唇が、勝己の敏感な小粒の乳首をとらえる。

 勝己は目を閉じたまま、愛撫にビクッと反応する。

 小さな乳首は舐め転がされて、さらに敏感になっていく。

 唇と舌で愛撫を続けながら、佳乃の手が、勝己の痛いぐらい勃っているものを軽く撫でる。

 勝己が佳乃に抱きつき、手が背中を撫でる。

 勝己の手のぎこちない愛撫にうながされたように、佳乃が手のひらで勝己のそれを確かめるように包み込む。

 佳乃の手が動かされると、思わず、勝己は我慢しきれず、腰を揺らし切なげな声をもらす。

 佳乃が驚いたように手を離す。


 部屋の床には、脱ぎ散らかした服がそのまま落ちている。

 佳乃は目を細めて、唇に微笑を浮かべる。

 佳乃の上体が揺れ始める。

 勝己の上に、普段の佳乃から聞いたことのない艶めいた声が降ってくる。

 勝己の手が佳乃の腰をつかむ。

 艶かしい声にまざって、何度も甘えたような声で「……キョウくん」と名前を呼ばれる。

 勝己は下から手をのばして、佳乃の脇腹を撫でる。

 そして、ふくよかな胸のふくらみをおずおずとつかむ。

 

「……んっ!」


 佳乃のしっとりと汗ばんだ上体が、前のめりに、ゆっくりと倒れ込んでくる。

 勝己が腰を突き上げるように動かすと、パイプベッドがぎしぎしと鳴り続ける。


「……このまま、我慢しないでいいから……キョウくんっ……んあっ……んっ……」


 勝己の手の指先が、佳乃の尻の丸みに沈みこむぐらい強くつかんでいる。


 勝己は心がふるえて、荒々しいものと、愛しさがひとつになっているのを感じる。


 佳乃の中に包みこまれている。

 突き上げるたびに、佳乃が同じタイミングで声をこぼす。

 佳乃も、一緒に快感を感じているのがわかる。

 勝己の息が上がっていく。

 興奮だけでない胸の奥に、切なさに似た泣きたくなるような思いがあふれてくる。

 同じように、鼓動が高鳴っているのは、佳乃のかぶさって抱きついている体から伝わってくる。

 まるで二人でひとつの体になっているような感覚がある。


 これが勝己の初体験。

 そして、勝己は佳乃以外の女性と、セックスしたいと思えなくなった。

 

 自分の中に持て余していた、人に言えない悪いことのように子供の頃から教えられてきた欲望と、愛しさがひとつになっていく行為を、勝己は佳乃に教えられた。


 ありのままに生きていい。


 佳乃は勝己がなぜ、今、さらさらとした涙をこぼしているのかわからない。

 勝己の頭を「よしよし」と言って撫で、頬に流れる涙をちょっと舐めてみる。


「……ちょっとしょっぱい」


 そう言ってくすくすと笑うと、勝己の唇にまた佳乃の唇が重ねられる。







 

 


 

 

 

 



   


 








 


 

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