第50話 名もなき詩

 世界には残酷さが潜んでいる。


 泉美玲は、虐待を受けていた渡辺瑞希と出会ったことで、世界に潜む残酷さを実感した。

 

 藤田佳乃は、母親の葵が赤ん坊の佳乃をかばって殺害されたことや、父親の陽翔がヤクザで時には命の危険にさらされる世界で生きていることで、世界には残酷さがあるのを感じている。


 佳乃の親友の水原綾子も、戸籍上の父親の水原真が、アルゼンチンのスラム街で殺害されているのを知り、世界には残酷さがあるのを感じた。


 人の出会いには、別れがある。

 本質は単純シンプルで、いろいろなことに共通していて、どの時代にも通用するもの。

 本質を理解していると、そこにつながることもわかってくる。


 本宮勝己には「生きる」という保護施設で与えられた目的しかなかった。

 人生に退屈していた勝己は、図書館の文庫本の詩集の余白のページに書かれた「詩人はモテる」という流暢りゅうちょうな筆跡の書き込みから方向性を見つけ出した。


 目的のための方向性、行動するためのきっかけや確認地点のようなものを目標という。


 本宮勝己が教えられている「生きる」という目的は、生きている人たちに全員に共通している目的といえる。


 もしも、世界にはたくさんの残酷さが潜んでいることを知ってしまったとしたら、誰でも不安になる。

 それは「生きる」という目的を妨害するものだから、人を不安にさせる。


 「生きる」という目的のために人は何かを目標を見つけ出し、行動し続けていく。


 何を目標にしているのかわからなくなっていても、生命維持のために必要な行動が続けられていれば「生きる」という目的をとりあえずは達成できている。


 目標を達成している状態をどうやって維持し続けるか。また、それさえも不安を感じていないときは、安心感と退屈さを人は同時に感じている。

 だから、目標を求める。

 目的は同じなはずなのに、人はそれぞれ、目標とするものがちがっていて同じ行動をしない。


 「生きる」ということが目的になっていることすら、気づいていない人がいる。

 それは、死の恐怖がない人だからではない。

 世界に潜む残酷さをまだ知らないからなのか、または残酷さはあまりに不条理なものなので、何か理由があるものとして考えるようにしている。

 不条理で残酷な「生きる」ための気力を失わせてしまうもの。

 人が「生きる」ためには、気力が必要。

 そのために「生きる」方向性となる目標だけを考えていて、目標を目的だと思い込んでしまっているからだ。

 「生きる」のは、自分の目標の達成の手段だと思い込んでいる。


 目標が見つけられなくなり、無気力な状態に陥っているときには「生きる」ことにつらさを感じている。

 その時、自分に何が起きているのかを理解することは、とても難しい。


 人の頭脳は、刺激に対して、反射的に、想像力で物語を作り出している。人はその物語に従って行動する。


 物語を生成し続ける装置としての頭脳。


 この想像力で物語を作り行動する能力がなければ、瞬時の刺激に対して頭脳の情報処理が終わるまで待っていたら、素早く人は対応することができない。

 刺激に対して頭脳は何が起きているのかの情報処理をしながら、同時に想像力によって物語を作り出すことで、反射的に物語に従って人は行動している。


 何を認識するにしても、頭脳によって物語が生成されている。

 たとえば、自分とはどんな存在なのかという認識も、物語として生成されたものなのだ。

 自分はこの性格なのでこういう行動をするとか、私は過去にこういう経験があるという、自分がどんな人なのかという生成された物語が頭脳には収められている。


 さて、頭脳は想像力で物語を生成して人は認識している。

 けれど、それは現実だと思い込んでいる物語であって、人はまちがった物語を生成してしまうこともある。

 

 たとえば、目の前の他人は自分に対して嫌なことを考えているのではないか、自分はこういう人だからダメだと不安に陥って、限りある気力を自分から削ぎ落としている人がいる。


 これは他人の頭脳のなかに生成される物語と、ネガティブな気分になった過去の自分自身の物語を重ね合わせて、想像してしまっている。

 自分の行動のせいであの人はこういう行動をするのかも、自分が何か失敗したのかと、自分と他人の物語と言動を、不安になるほど強く結びつけていくことで、くよくよしがちになる。

 

 この不安な時、脳内ではDFN(デフォルトモード・ネットワーク)という神経回路が活発になっていて「私のせいで」というようなネガティブな物語を生成し続けてしまう。

 脳内では、目には見えないけれど、変化が起きている。

 実際に鬱病の人の脳内ではDFNの活動量が大きいことが、医学的に証明されている。

 まちがった虚構の物語によって動かされていることに、理屈はわかっていても、自分で気がつくのは難しい。

 頭脳が物語を生成するために必要な時間はまさに一瞬。

 0.1秒にも満たない。


 不安のもとになっているのが人間の頭脳の機能なら、なるようにしかならないとあきらめるのは、まだ早い。


 不安に有効な手段はある、それも2つも。


 人は何かの作業に没頭していると、頭脳による物語の生成を止めることができることもわかっている。DFNの活動量が下がり、自己認識の物語生成が減る傾向がある。何か別のことに意識を集中すること。


 もう一つは、生成された物語を観察し続けて、観察慣れしていくこと。

 たとえば、目を閉じて、じっとしてみる。鼻が痒いと反射的に思ったとする。その時に、今、自分は鼻が痒いと思ったと観察するように考える。

 家の外の物音が気になったとする。その時、今は音を聴いていると観察するように考える。

 こんなことをして何の意味があるんだろうと思ったとする。その時、今、こんなことをして何の意味があるんだろうと思ったなと観察するように考える。

 慣れないうちは集中力がつづかずにあれこれと主観的に考えてしまいがちになる。

 けれど、観察した第三者になったつもりで一定時間のあいだ続けていくと、慣れてきて集中できる時間は長くなってくる。観察する想像力がついてくる。

 

 すると頭脳の物語は勝手にどんどん生成されてくること、そして冷静に放置しているうちに自己認識、思考、感情はすーっと消えていくのを実感することになる。


 自意識も頭脳の生成した物語の一つにすぎなかったとわかってくると、自分の行動を縛っていた思い込みや他人に依存しがちな感情を手放す気持ちの余裕から、気力を自分から削ぎ落とさなくなる。


 世界の残酷さのなかに生きる登場人物たちの行動、思考、感情などを、第三者の目線で観察して、ナレーターとして記録するように小説を書くコツがある。

 それは不安のもとの自意識と、うまくつきあうコツに似ている。


 本宮勝己を心配する藤田佳乃や佳乃をながめている泉美玲。

 そして勝己と佳乃が話すあれこれを、そばで聞き役になってくれている天崎悠や水原綾子とも、勝己は話をしながら、知らず知らずのうちに、自分の心をなごませるコツを、ゆっくりとだけれど、つかんでいった。


「今夜はかなり冷え込んでます。水溜まりが凍っているかもしれないね。みんな気をつけて」

「はい、村上さん、いつもありがとうございます」


 本宮勝己の返事の声は、来店して村上さんに珈琲を注文した時よりも、ずっと明るく力強い声になっている。

 


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今回は、Mr.Childrenの「名もなき詩」です。


どれほど分かり合える同志でも 孤独な夜はやってくるんだよ

Oh darlin このわだかまり きっと消せはしないだろう Wow Wow


 この歌詞の部分は、勝己の隠している心として書きたかったけれど、うまく書けなかったです。


あと、地の文(ナレーション)ばっかりで、読みにくいですよね。

本当にすいません。


心をほぐす方法は人の数だけあるとは思いますが、読んだ人にも、少しでも役立つ情報があればと思い書いたら、肩に力が入りすぎてしまいました。


(ー_ー;)まだまだ未熟なり


失敗してもめげずに、心の成長中の本宮勝己に負けないように、がんばって書いていきます。


たくさん失敗すれば、失敗はこわくなくなる……はず。


・他人の期待を勝手に想像して、無理をしてがんばりすきない。

・失敗しても、ムダなんかじゃないから、やってみると気づくことがたくさんある。

・おいしい食事をして、ゆったりお風呂のお湯につかって、寝る。


みんなの心のほぐしかたや、元気になれるコツは他にこんなことをしてますよ~っていうのをがあれば、近況ノートにコメントお願いします。


みんな幸せになればいい!

ついでに僕もwwww

(* ´ ▽ ` *)ノ











 













 

 


 

  

 

 





 





 


 

 






 

 


 

 


 

 


 



 

 


 

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