★第47話 Fly me to the Moon
カフェ「ラパン・アジル」がまだ池上珈琲店だった頃――。
待ち合わせの場所として図書館を使っている。
図書館の駐車場に停車されている来た人の愛車の車種や汚れ具合で、どれだけ「おこずかい」をねだっても大丈夫か値踏みする。
図書館の駐車場に停車したままで、歩いてすぐの池上珈琲店に、珈琲を飲みに行って、分厚いふわふわの「たまごサンド」セットをおごってもらう。
気持ちも、財布の中身も、余裕がある人かどうかこれでわかる。
SNSサイトのGREEかモバゲーのサイトメールからメールアドレスを交換したあと、直接メールで交渉して会う約束をする。
すっぽかされたり、約束の時間に来なければ、しかたないから、STAR-BEACHの掲示板で、募集することもある。
業者の勧誘メールが入ってきやすいのと、利用者が多い時間だと、メール着信がありすぎてうざいので、あまり使わないけれど。
mixiにはプロフィールを見ていると、芸能人のなりすましの業者もいるみたいで騙された人もいると聞いたので使ってない。
ホリエモンが逮捕されたニュースの話か、亀田興毅がチャンピオンになった話をする人が多い。
CanCamのモデルの蛯原友里の巻き髪にするのが流行っていたけど、倖田來未と大塚愛、湘南乃風とKAT-TUNの亀梨和也も流行っていて、政治とか株とか難しい話をされたあとは、そんな話はわからないから、流行った歌の話でごまかす。
図書館の開館時間が、夜の21時までなので、とても便利。駐車場もその時間まで使用できる。
「変わった待ち合わせ場所だね。あのさ、もしかして、この近くに住んでるのかな?」
そう聞いてくる人もいる。
また図書館に、車で送ってもらうときは、この近所に住んでいると話を合わせる。
その人と「じゃあ、またね」した一時間後に、別の人と待ち合わせの約束しているときは。
ダブルブッキングして鉢合わせにならないようにすることに気をつけなくちゃいけない。でも、一人でゆったり休憩するには、この図書館は、静かでちょうどいい。
夕方か夜19時ごろに待ち合わせすると、図書館の駐車場からすぐに、高速道路のインターチェンジのそばの「Crystal Castle」というラブホテルに直行することも。
そのあとは、ファミレス「ジョイフル」で、食事をおごってもらう。
「ジョイフル」の大盛りポテトフライ、チキンドリア、あとチーズケーキが好き。
チーズケーキのストロベリーソースみたいなのがおいしい。
「ジョイフル」からは、15分ぐらい歩けば、最寄り駅まで行ける。駅前のコンビニ「セブンイレブン」の駐車場まで車で送ってくれたら、いい人な感じ。
ラブホテル「Crystal Castle」には、恋愛のパワースポットの部屋がある。そんな噂を聞いたことがある。
その部屋に宿泊すると、とても幻想的な夢をみる。
巨大な湖のような水面の上に、足がつかないすれすれで、ふわりと浮かんでいる。
水面に青空と雲が鏡のように映りこみ、広々とした空の上に立っているような感じがする。
頬にそよ風がふれて涼しい。
遠くの水面は風でゆれているらしく、きらきらと日射しに反射している。
美しい湖に潜って泳ぐことも、大空を翼がなくても高く軽やかに飛翔することだってできる。
そんな夢を、一緒に眠っている二人でみると、ずっと仲良くなれたり、時には相手の考えていることが言い当てられるようになるらしい。
同じ人と何度も待ち合わせしたくない。前に会ったことがあるという人には「大人のデート」はお断りするようにしている。
自分の部屋で撮影した姿見鏡の前で、顔を手や携帯電話でしっかり隠して、首からの下着姿セミヌードの画像を送信する約束を条件に、必ず待ち合わせの前にすることがある。
ねぇ、ちょっと、声を聞いてみたいな……ダメ?
と甘えた内容を送信する。
こっちからしたら、下着姿の画像なんて、水着姿と、あまりかわらないんだけど。
電話をかけてこない人や、わざわざ電話番号を非通知にしてかけてくる人は疑わしい。
聞いたことがある声だと思う人には、会わないようにしている。
同じ人と何回も会っていると、こっちが相手の人のことを気に入っているとかんちがいされたり、変わったやり方を求められたり、値切られたり、こちらのことを聞き出して親しくなろうしてくる。
暇な時間が、お金になるほうがお得だ。人生の時間は無限じゃない。とにかく行動力がある人が勝つ……なんてビジネス関係の手軽な本には書いてある。
たしかに、とてもやりがいがあるとか、将来に役立つことをしてるなんて自慢できることじゃないのはわかってる。
たまにだけど、やることはやったくせに、歳上だからって偉そうなことを言う人がいる。
我慢しなきゃいけないことは、いろいろある。自分の性別、大人になった身体。
最近、どこか遠いところ、自分を知らない人たちしかいないところへ行きたい。
恋愛なんか一生するつもりなんて、まったくなかったのに……。
あの噂は本当だった。
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