第40話 これは没落ですか?
「佳乃、パパにその男……いや、その人のことを、きっちり……ちゃんと話してくれるかな?」
家電付きの会社の社宅である佳乃の一人暮らしの部屋に、ブランド物のスーツを着こなした涼しげな目元の精悍な顔立ちをした中年だが
少し離れたコインパーキングには高級車が三台停車していて、車内には、舎弟がそれぞれ二人ほど待たされていた。
藤田佳乃の
若頭の
ただし、彼の背中には憤怒の不動明王の刺青があり、幼い五歳の佳乃はこわがってしまい「パパ」と入浴しなくなった。
ファイナンシャル・プランニング技能士の資格を持つ陽翔は、運営資金の増資に貢献した実績と、姫、つまり組長の娘の
組長の一人娘の葵は、大人になった佳乃と、よく似た容姿の女性だった。
佳乃が一歳の頃に、陽翔が外国人グループに襲撃され、佳乃の母親の葵は赤ん坊の佳乃をかばい刺されて亡くなっている。
のちに陽翔の愛人となる佳乃の母親の親友で、美容師の
「佳乃さん、お父様は海外で金融取引をなさっているお仕事をなさっている方ですから、とてもお忙しく、あまり日本におられないのですよ」
佳乃が10歳の頃に、他の家の「パパ」は毎日ちゃんといるのにあたしの「パパ」はたまにしかいないのか、絢音に質問した。
一ヶ月に二日か三日ほどしか、佳乃の「パパ」は会えない。
佳乃は父親の職業を、同級生に聞かれると「銀行の人」と答えていた。
佳乃ちゃんのパパはカッコいいと、クラスの女子の間で小さなブームになったことがある。
デパートのフードコートで、佳乃がおもいっきりハンバーガーを頬ばり、陽翔がそれをうれしそうに見つめている様子を、同じクラスの子の家族が見かけていた。
佳乃は、洋服売り場のマネキンみたいだけど、すごく優しいパパだよと答えていた。
(お母様ったら、なんでパパに話しちゃったのかな~、でも、いつかはバレちゃうことだから、ちょうどいいのかも)
佳乃は赤ん坊の時のようなトラブルに巻き込まれないように、美容師の絢音の養女として、離れた土地で育てられた。
絢音のことは「お母様」、陽翔のことは「パパ」と呼ぶように
佳乃は天崎悠に、どことなく自分には甘く、大人になっても「パパ」と佳乃に呼んでくれとお願いしてくる陽翔とイメージを重ねてしまっていた。
都市建設の利権争いで、天崎悠の建設家の父親と佳乃の「パパ」の陽翔は関係があり、また佳乃と佳乃の母親の葵がマフィアから襲撃された件で因縁はある。
だが、佳乃はそうした裏事情について全く知らない。
母親は不運にも交通事故で飲酒運転の自動車に轢き逃げにあったと、陽翔から聞かされている。
佳乃はシングルファザーの陽翔と、美容師の絢音が愛人関係で入籍しておらず、絢音の養女として陽翔の元妻の葵を、二人で偲びながらすごしているのを見ながら育っていて、結婚に関しては、あまりこだわりを持たない考え方をしている。
陽翔と葵と絢音の三人でキャンプをした時に撮影されたスナップ写真が、佳乃の実家のリビングに写真立てに入れられて、子供の頃からずっと飾られている。
暴力団が全盛期な時代なら、佳乃は跡継ぎの婿をもらう「姫」としての役割を背負わされていたにちがいない。
ヤクザのなり手の若者は少なくなった。構成員の平均年齢は五十四歳で、そのうち24%は七十代以上となって高齢化している。
若者は上下関係の厳しいヤクザの常識や考えかたを嫌い、深刻なヤクザ離れが起きている。
このままヤクザが消えたあとはヤクザが牽制したり、仕切っていた半グレやチンピラが好き放題に動き出すのではないかと懸念されている。
とはいえ、抗争で妻を失い、愛娘まで失いかけた陽翔は、このままヤクザが廃業していくのも悪くないと思うようになっていた。
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