第37話 Boy Meets Girl
非正規雇用で働いているフリーターの数は2064万人。日本の労働人口は6800万人。
およそ三人に一人が非正規雇用という契約で働き、長期的な安定した雇用が保証されていない。
本宮勝己も、デビュー後しばらく、かけもちでそんな非正規雇用の工場勤務をしながら生活していた。
モンスター討伐をする冒険者になる前の登場人物が、ギルドに登録してもらい、薬草採取の依頼をこなして日々の宿代や食費だけでなく、装備品を購入する資金を貯めていく。
そんな内容が書かれているライトノベルの作品を、本宮勝己と藤田佳乃は読んでカフェ「ラパン・アジル」で雑談していた。
雑談をしながら、この二人の関係は親密になっていった。
勝己は子供の頃に、ポータブルゲーム機を所持していなかった。保護施設にいても、家庭の事情で子供を施設にあずけて別居して働いている親がいる子供は、誕生日などにゲーム機やゲームソフトを贈られている。
震災孤児で両親のいない勝己を同情した女子の子供たちは、おままごと遊びに勝己をまぜて遊んでくれていた。
だから、流行りものを持っていないから仲間はずれにされるかもしれないという不安を、勝己は知らずにいた。
勝己は藤田佳乃が読んではまり始めたライトノベルの作品を一緒に図書館で読むことで、SFやファンタジー小説の世界観に、大人になってからふれて感動した。
小学生になると塾通いしている子供やゲームで遊ぶ子供たちと勝己はなじめなかったので、勝己は学校の勉強ばかりして教科書を丸暗記できるぐらい読んでいた。
運動が得意でスポーツができる子供と、テストの点数が良い子供は一目置かれる。
「ん~、あたし、勉強嫌いな子だったから、外で男の子たちとサッカーしてみたり、自転車で遠くに行ってみたりしてたよ」
勝己は藤田佳乃がそんな男の子っぽい活発な女の子だったというのが、不思議な感じがした。
なんとなくだけれど、佳乃はおとなしかった女の子のイメージだったからだ。
学区外に子供だけで行ってはいけません、と言われていた。小学校ごとに学区で、地域が分けられていた。
普段は近所の公園や友達の家や神社などで遊んでいた佳乃たちだったが、隣の学区にはデパートがあった。
親たちは、休日に自動車で子供たちを連れ出し、フードコートで昼食を食べたり、自分たちの買い物に子供をつきあわせていた。
自転車でデパートに行ってみようと佳乃が提案しても、バレたらおこられると尻ごみする子供たちは、嫌だと言った。
「ふん、いいもん、ばーか!」
佳乃は一人でデパートまで行ってみた。
デパートについたけれど、一人で店内にいるのがつまらなくなって、帰ることにした。
帰りに道をまちがえて、日が暮れてしまい、家が見えたら、ほっとして泣いてしまった話を勝己は聞いた。
芥川龍之介の「トロッコ」という短編小説みたいだと、勝己は佳乃の思い出の話の感想を話した。
(なんか子供の頃の話を、キョウくんはしたくないみたい。でも、なんでだろう?)
一番最初のギルドの依頼の薬草採取に、家で家事の手伝いをすると親がちょっと毎月のおこずかいに上乗せしてくれたのを、佳乃は思い出した。
「テストで100点を取ると、別におこずかいをくれる家とかもあったんだ。けど、あたしの
勝己は子供の頃に、大人からおこずかいをもらったことがない。
「テストの結果でお金をもらったことは、僕もないよ。なんか、派遣会社に登録して、一日だけのアルバイトしたみたいな感じは、薬草採取の話と似てる感じだね」
勝己は派遣会社の人材で仕事しやすい職場を見つけられなかったり、そこで長期的に雇用してもらえる正社員や、パートタイマーでもいいので、個人で契約してもらえる見込みがなさそうだったら、ねばらずに別の職場に移るのもいいと思うと、佳乃に話した。
佳乃は、今の会社以外で働いたことがない。転職するのはなんとなくこわいと思う。
「ダンジョンを探索したり、傭兵団や騎士団に入隊しなくても、ちゃんと薬草採取で暮らせるなら、危険なことをしなくても良さそうな気もするんだけど」
佳乃がそう言ったので、勝己は苦笑しながら「それも、まあ、おもしろい展開になるかもしれないね」と珈琲を飲んだ。
佳乃ではなく二人の話を聞いていた美玲が後日、一人で来店した勝己にこう言った。
「もしかして、子供の頃の記憶がないか、大人になって、もうあまり思い出せなくなった人なんですか?」
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