最終話:ずっとずっと仲良くね

 夏の終わりを感じさせる西海岸。入道雲が季節の役割を終えようとしている。小高い丘にある霊園にヨシュアと7sセブンスが来ていた。


 二人で、7の墓前に百合の花を添える。


 20年の歳月を経た墓石は、ずっとそこで待っているように思えた。本当は、笑顔の貴方が大好きなのだと。


「僕、実はたまに一人で来てたんだ」


「親父から聞いた。百合の花を置いてく人がいるって。あれ、ヨシュアだったんだな」


 コクンと頷いたヨシュアは、墓石を愛おしげに撫でた。


「皆のお陰で幸せになる決心が出来たよ。今までありがとう、セブン


「叔父さん。俺にヨシュアと出会わせてくれて、ありがとうな」


 肩を抱いた7sが、頬に小鳥のついばむようなキスを落とす。「くすぐったい」照れ笑いするヨシュアは、薬指の指輪に手をやっていた。大切そうにてのひらで包み込む。

 

 二人を乗せたバイクは、ダウンタウンに向かって走り出した。


 渇いた喉を潤すのに、7sのアパート直行はまだ恥ずかしい。デートの説得(?)をされた、ゲイバー近くのカフェ。少し重たい木製の扉を開ける。

 そこそこに混んでいる店内から、酷く馴染みのある声が聞こえてきた。


「だから。私を守るってどういうこと?」


「ん? お前の矛と盾になるの」


「中世じゃないんだから。ホームセキュリティーあるし、SPの人もいるから大丈夫だよ」


 カフェのソファー席で、ホープがナオミに告白をしている真っ最中だった。

 

 あれから、キング夫妻とヨシュアはナオミに全てを打ち明けた。過去のヨシュアが何をしたのかについても。

 彼女は、キングの異能を遺伝している。どの程度の力かも分からないし、情勢によっては命を狙われかねない。

 

 淡々と話を聞いていたナオミは、家族を見据えると笑顔で言い放ったのだった。


「私には、ホープがいるから平気だよ」


「ちょっ、ヨシュア! なんでここにいるの!?」


 ナオミの隣に座ったヨシュアが、わざと意地悪な顔をして笑う。彼女は、ヨシュアの声真似に顔を真っ赤にしていた。

「よう」気さくな笑みを浮かべた7sが、ホープの肩を叩く。


 ヨシュアが片思いをしたその時から、一方的にホープを毛嫌いしてきた7s。彼は家出から戻ると、ホープが住む学生寮へ出向いて謝罪をした。

 本来の7sとホープは、脳筋同士で波長が合う。バイクという共通の趣味もある。ツーリングに出かけた二人は、そこで打ち解け合い、友人としての絆を結び直した。


「あ、いや。恥ずかしい所を見られちゃったな……二人は、デート?」


 珍しく動揺して赤面する褐色肌に、ヨシュアが笑いかけた。


「うん、お墓参りに行ってた。喉が渇いちゃってさ。ねえ、7s」


「俺達は二階席に行くからさ。後は頑張れよ、お二人さん」


 7sのムチムチな二の腕に、白くて長い指が絡まる。甘えん坊なヨシュアは、人目もはばからず筋肉に頬を預けると「お幸せに」思惑ありげな視線を送って、ソファー席を後にした。


 注文するのは、チリドッグとクリームソーダ。


 口の端をソースだらけにして頬張るヨシュアに、7sが目尻を下げた。ナプキンで拭ってやる。


「口の周り、チリビーンズだらけ……」


「うるっさいな、僕の口は小さいんだよ。チリドッグの方が、サイズを見直すべきだ」


「すごくお前らしいコメントで素敵だよ」


 ふと、ナプキンを下げた7sが指を伸ばした。冬眠前のリスみたいになっているヨシュアの頬からすくい取り、口に運ぶ。


「うわっ、タバスコかけ過ぎだって」

 

「モグ……自分のを食べろよな」


「へへ、かーわい。ねえ、今日さ。俺んちに泊まりに来ない?」


 その言葉にフリーズしたヨシュア。チーンとなったリスが、両手に向日葵ひまわりの種を抱えているようにしか見えない。『んんん! 俺のリスちゃん!』7sがもだえている傍らで、ヨシュアの喉仏が大きく動いた。


「……僕が映画を観たいって言ったから?」


「お前、ナオミの事言えないと思うよ。あのさ……プールに持って来た道具ってその、まだあったりする?」


「ハァ!? 当たり前だろ! 言っとくけど、僕はびっちじゃないぞ! 初陣だってまだなんだからな!」


 目を丸くした7sが、プンスコするヨシュアを見た。クリームソーダの氷がカランと音を立てる。


「……ああ、ってそういう意味だったんだ。なるほどね」


 ようやく初陣の意味を理解した7s。

 

 対するヨシュアは、お泊まりの意味を唐突に理解した。電気回路がいきなり繋がったロボットさながらの、ぎこちないまばたき。途端に『君がチリビーンズなのかな』な顔色になる。


「いや、賞味期限が切れてるかもしれないから……その……」


「なんの賞味期限だよ。もう本当に可愛いな、お前って生き物は。はい、答えて。泊まりに来るの、来ないの、どっち?」


 エメラルドグリーンのセクシービームがまぶしい。逞しい大胸筋をチラ見したヨシュアは、無言で首を縦に振った。節くれだった指が這ってくる。


「きちんと口で言って、ヨシュア」


「行く……行くよ! これでいいだろ!」


「ふん、大好き。世界で一番ずーっと好き」


「へえ、偶然だね。僕もだ」


 少し乾いた秋の風が入り込んでくる。

 二人はお腹を抱え、涙を流して笑い合った。


 薬指のサファイアがきらりと光って、二人の未来を祝福しているようだった。


 おめでとう。

 目の前の笑顔をずっと守ってあげてね、7s。

 大切な人をもう二度と離さないでね、ヨシュア。

 


 

 ーおわりー


 

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 あとがきに代えて


 アオハルBL『往生際の意味を知れ!』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 ようやくヨシュアが精神的な成長を遂げたと、嬉しく思います。

 

 本編からの読者さまも、今作からの読者さまも、最後まで7sとヨシュアを見守っていただき感謝でいっぱいです。

 

 この二人、いずれ何処かで登場します。


 ここから先、すこーしエブリスタさんで過激表現を掲載します。

 初陣、頑張って! ヨシュア!(他人事)


 過激表現OKな方は、今暫くお付き合い下さると光栄です。


 URLは以下の通りです。このまんま、過激表現しちゃいます。タイトルに明記しますので、そちらを参照してください。

 

 https://estar.jp/novels/26120733


 それでは!

 また別の作品でお会いしましょう by 加賀宮カヲ

 

 

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往生際の意味を知れ!〜人生二度目の俺様は溺愛されて愛を知る〜 加賀宮カヲ @TigerLily_999_TacoMusume

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