44.修学旅行

番外編03は修学旅行編です。

新作も近々投稿予定ですのでそちらも見て下さい。

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──駿太朗 View


10月のテストに向けてテスト勉強を始めた俺たち、睦巳の家で毎日の勉強を経て、無事に学年上位を2人でキープ。

夏からずっとお盛んな俺たちだったので、このテストで成績が落ちてるようだったら本気で考えなければならないと思っていた、でもこれで一応問題無さそうだと判断出来た、良かった、本当に。


テストが終わり、俺はバイトを始めた。

平日夜に適度に、土曜日にシフトを入れて貰うようにした。

サッカー部も平行で続けている。


土曜の夜と日曜は睦巳と一緒に居たいので絶対に空ける。


バイトでお金を溜めてもっと遊びに行けるし、旅行にだって行きたい。

まだ皮算用だけど楽しみだ、目標もあるしバイト頑張ろう。


そういえば睦巳は睦巳で何かやり始めたらしい、楽しみにしとけよと言われたので詮索せずに楽しみに待っていよう。

もしかして、何か作っているんだろうか、なんだろうなあ、本当に楽しみだ。


◇◆◇


睦巳に対する想いは天井知らずらしく、ずっと上昇し続けている、流石に夏休みの時みたいに急激に上がったりはしないけど、下がらずに毎日毎日じわじわと上がっている、本当に、心から好きだ。


ずっと言葉を交わしていたいと思うし、かと言って言葉が無くても空気感が心地良いし、会う度に抱きしめたくなるし、唇を見つめてしまうと口づけしたくなるし、睦巳を後ろから抱いていると俺の睦巳だ、という感情が溢れて止まらないし、正面だから抱き締めるとそのまま力の限り抱きしめたいと思うくらい愛しい。


そういえば以前正面から抱き締めている時に思わず睦巳の名前を呼びながら強く抱き締めてしまった時は、もっと抱き締めていいよ、と言われたので痛いというまでのつもりで力を込めていたら、声も出せない程に締めていても我慢しているようで、それに気付いた俺はすぐに力を弛めて謝った。

でも睦巳は、駿に力強く一杯抱き締められたかった、なんて言ってきて、俺はやさしく、労るように、心を込めて抱き締めた。あの時の睦巳はいつもより健気で、可愛く、自分がどれだけ幸せか、もう何度目か分からないけど噛み締めた。


睦巳と他の女との決定的な違いは元男だという事だ、そして元男だから俺の心の機微が分かるのか男の心理が分かるのか、全ての行動、といってもいいくらい俺に刺さる。

そして親友の気安さや心の繋がりがあって、昼間はそれがいかんなく発揮されているし、夜だって発揮されている。これは俺だけが知る秘密なんだけど。


そして最近考える事がある。

これほどまでに最高な睦巳に俺は釣り合っているのだろうか、いや、どう考えても釣り合っていない。

睦巳は本当に俺なんかで良いのだろうか、そんな事を考えてしまう。


睦巳がクラスメイトの男と話しているだけでも俺は不安に襲われる。

いつか、誰か、もっと良い男に盗られてしまうんじゃないか、そんな漠然とした不安を覚える。


そしてそんな不安を吹き飛ばすために睦巳を求めてしまう、しかしそんな時は決まって睦巳が苦しそうになっているのだ。

俺が苦しませてしまっているにも拘わらず、終わった後は俺を気遣って、慈しむように俺を包んでくれるんだ。そして不安が一時的に解消されて元気を取り戻す事が出来る。


俺はどこまでも睦巳に甘えてしまって、俺の中で睦巳の存在がどこまでも大きくなっていて、もう睦巳無しでは俺は空っぽになるだろう。

睦巳は俺の全てだ。


しかし、漠然とした不安はどうすれば良いのか、俺に自信でもあれば良いのだろうが。


◇◆◇


10月のテスト明け、そして高校2年生といえば、修学旅行の時期が近づいている。

行き先は沖縄、俺も睦巳も行ったことがないので楽しみだ。


準備やスケジュールなんかがあり、気になる事の一つは班分けだ。

基本的に仲の良いメンバーで班を作り、自由行動でどこを回るか、などを決める。


睦巳はクラスが違うので自由時間か何処かで会いたいと思う。

こまめにメッセのやり取りをして会う時間を作ろう。


「そういや修学旅行の班分け、菜々果(ななか)ちゃんと同じ班になったから、駿が丹羽(にわ)くんと同じ班なら自由行動で同じ場所で会えるんじゃないか?」

「元々仲が良いし、綾斗(あやと)と同じ班になってるよ、それなら自由行動でも一緒になれそうだな、まあ班のやつらには悪いけど」


菜々果とは睦巳の友達で石黒 菜々果(いしぐろ ななか)、もう一人は俺の友達で同じサッカー部の丹羽 綾斗(にわ あやと)。

この2人は夏休みに海で一緒に遊んだのをきっかけに付き合い出して、一度ダブルデートもした事がある。

その頃はまだ綾斗は石黒さんが気になる程度で好きという程では無かったけど、石黒さんの努力で今はちゃんと両思いの恋人同士になっている、めでたい。


そんな2人がそれぞれ一緒の班なのは心強い、もう班行動はずっと一緒でいいな。

向こうは睦巳と石黒さんを除いて3人、こっちは綾人と俺を除いて3人、その6人で新しい関係を始めてみるのも良いんじゃ無いかな。うん。

と言う事で自由行動時は俺と睦巳の班で一緒に行動する事になった。


◇◆◇


修学旅行は3泊4日で初日は自由行動無し、夜に少しの自由時間があるだけだった。

団体行動では定番の首里城なんかを周り、3日目は自由行動時に水族館に行く予定。


初日の夜、少しだけ睦巳と顔を合わせる。

自由行動の話を少しと、今日の振り返りなんかを話して、最後に人目につきにくい所で軽く口付けを交わして別れた。


部屋に戻る時に綾斗でばったりと鉢合わせて、どうやら考える事は同じようで石黒さんと密会していたようだ、明日が楽しみだなと声を掛けあい、2人で部屋に戻った。


2日目、団体行動は海の体験学習でシュノーケルなどのマリンスポーツを楽しんだ後に、睦巳たちと合流して国際通りで睦巳と2人で食べたりお土産買ったりをした。


睦巳たちと合流した時に俺たちカップルと綾斗カップルはしっかりとカップルアピールをした。

残りの6人は分かってるよ、という呆れ顔していたけど、俺と綾斗は知っている、3人の男子たちはこのチャンスを無駄にしないと決めていた事を。

俺たちカップル4人はここでアピールする事で2人での行動を邪魔されにくくなるし、残りの男子たち3人は必然と女子3人に声を掛けやすくなる、そして頑張れ!という事を昨日の夜に話し合った。


まずは全員集合しての写真を撮る。

その後は集合時間を決めて俺たちカップル2組は先に別れた。


そうなれば俺と睦巳は沖縄デートだ。

まあ国際通りから遠く離れるほどの余裕は無いけども、店を見て回ったり、食べ物を食べたり、お土産を買ったり、とやれる事は多いはず。


ぶらぶらと2人並んで歩きながら店を覗き、沖縄の空気を感じながら楽しんだ。

思ったよりイチャイチャ出来なかったのはかなりの割合の学生が国際通りにいたからだ。

近いし、そこまで時間的余裕も無かったから必然的にここに集まるのは仕方ないけど。


本番は3日目の明日だし、まあこんなもんだろう。


時間に近づき、集合場所に戻ると一番だった。

次に綾斗たちカップル、最後に6人組だった。

最後まで6人だったってのは意外と良い感触だったんじゃないのか?

途中で男子と女子で別れてしまうのが最悪だと思ってたからな。


そして班ごとにホテルに戻る。


そして3日目、今日は朝食終わりから門限まではずっと自由行動となる、もちろん班での行動だけど。


早速睦巳たちと合流して水族館方向へ。


水族館へ着くと、まずは先日と同様にカップル2組と他男女6人に分かれる。


◇◆◇


夏休みに行った水族館とはまるで規模が違い、大迫力で、とても沢山の種類の魚たちが居て、そしてやはり水族館という所は不思議な空間だと感じた。

青というか海の色というか、本当に不思議な魅力で、そしてこの大迫力、近場の水族館には申し訳ないけど比較にならない感動を受けた。

思わず睦巳と繋いだ手に力が入り、痛い思いをさせてしまった。


「ごめん、思わず見入って力が入った」

「大丈夫、俺も痛くなるまで見入ってて気付かなかったくらいだし、しょうがない」


回りに人が居なければ、こんな幻想的な雰囲気を2人きりでいられたら……そう思わずにはいられなかった。


水族館ではジンベイザメの迫力に驚き、マナティーに少しがっかりして、チンアナゴを見て癒やされた。


「ジンベイザメでっか……!」

「ショップでジンベイザメのぬいぐるみ有るらしいぞ」

「え!?マジで!?絶対可愛いやつじゃん!後で見ようぜ!……なんかサメのぬいぐるみって全部可愛いよな、凄い造形だよな」

「サメな、格好良くて可愛いよな、それなのに怖いって、凄いな」


「マナティーって名前が可愛いよな、まあ見た目も、でも、人魚の元なんだろ?……で、あれ?」

「まあ可愛い……か」

「なんであれが人魚なんだろうな?」

「本当にな、昔の人の想像力が逞しすぎる」


「見ろあれ!チンアナゴだ!チンアナゴ!思ってたより可愛いな!チンアナゴ!」

「わ、分かったから、少し落ち着け」


指をさしてちょっと興奮気味に名前を連呼する睦巳、回りの人が見てるから美少女が名前連呼は止めようね?


「チンアナゴって、穴子の仲間だとしたらもしかして美味しかったりするのかな?」

「身が少なそうだな」

「確かに可食部は少なそうだな」


グッズショップへ行き、お目当てのジンベイザメのぬいぐるみを探す。


「あ!あった!──何これ可愛すぎるんだけど、結構大きいし、抱いて寝たら気持ちよさそ~」

「良し!じゃあ俺からプレゼントするよ、バイトやってるし余裕はある」

「え!?本当に?……あ、でも悪いよ、折角バイトしてるのに」

「何言ってんだ、バイトは俺と睦で遊ぶ為なんだぞ、今がまさにそれだ、それに俺は睦がぬいぐるみを抱いてる姿を見たい」

「──まあ、そういう事なら……ありがとう」

「うん、でも、ぬいぐるみばっかりに構ってたら嫉妬するからな!」

「そうだな~、駿もふわふわもこもこになるか?」

「なんだよ、太れって事か?いくら睦のお願いでもそれは難しいな」

「冗談だよ、駿はそのままでいて欲しい」


俺は睦巳が抱き抱えられるサイズのジンベイザメぬいぐるみを購入してプレゼントした。


「ありがとう、大事にする」

「もしかして睦の部屋に置かれるぬいぐるみ第一号か?」

「あっ!そういえばそうかも!ジンベイ~お前がお迎え第一号だぞ~」

「安直な名前だな」

「良いんだよ、分かりやすい名前なら」

「それもそうだな、羨ましいぞジンベイ、睦の部屋に住めるんだからな」

「何言ってんだ、駿だって半分住んでるようなもんだろ、親公認で」


そんなやり取りを交わし、楽しく盛り上がった。


◇◆◇


集合し、次は無料のイルカショーを見に行く。


そこで気付いたんだけど、はしゃいだり、楽しんだり、ワクワクしている美少女の横顔って、絵になるという事。

俺はイルカショーそっちのけで睦巳の顔ばかり見て、目が離せなくて、数えきれない何度目かの恋に落ちた。

晴天の下、はしゃぐ彼女、驚く顔、時々俺の視線に気付き、ニコっと笑う顔。

全てが可愛く美しく、綺麗だ。写真を撮るのも忘れて完全に見入った。見とれた。睦巳以外視界に入らなかった。


また、晴れた日の下でこういう表情を見たいと思った。そして、今度こそ写真に収めたい。


イルカショーが終わった時、俺は思わず両手で睦巳の顔を捉え、口づけをした。

場所など関係無い、もう我慢が出来なかった。睦巳の魅力に勝てる訳がない。


結構な時間、口づけをし続け、唇を離す。

睦巳は何か言おうとしているように見えたけど何も言われなかった。

だけど、これだけは伝えたい。耳元で囁く。


「綺麗だ」


睦巳は顔を真っ赤にし、照れ隠しにサメのぬいぐるみを抱き締めて顔を背けた。

そして小声で呟いた一言を俺は聞き逃さなかった。


「……ばか、あほ」


あほは余計じゃないか?、あほは。


◇◆◇


次はエメラルドビーチへと向かう。

ここは10月末まで泳げるらしいけど流石に水着は持ってきていない。

なのでビーチを散歩したり、景色を見るにとどまる。


だけどこのビーチも綺麗だ、睦巳とは全く別の意味で綺麗だ。


2人海に向かって並んで、手を繋いで海岸線まで走っていき、波の動きに合わせて押したり引いたり、そんな子供のような事をして無邪気に戯れていた。


暫くして堪能した後、海を2人で見て、お互いに見つめ合い、人目も憚らず、同じ班の連中がいるのも関係無しに、口づけを交わした。

唇を離して回りを見ると綾斗たちもしていた。


6人の方を見ると、1組、言葉を交わした2人がぎこちなくキスをしていた。おめでとう!

そんな空気にしたかいがあったというものだ、長く続くと良いなと思う。

狙い通り!……偶然だけど。


皆で祝福して、これでカップル3組になった。


◇◆◇


4日目、帰り支度をして、飛行機へ、修学旅行は終わった。


時間があればもっと回りたいと思ったし、今度は2人で来たい、思い出が増えて、楽しみが増えた。

俺の中で睦巳と2人で旅行に行きたいという欲がどんどん膨らんでくる、時間を気にせず、2人だけの時間で何日か過ごしたい。


「駿、今度は2人で来ような!」

「ああ、今度は2人っきりだ、その時は時間一杯楽しもう!」


行きたい所ばかり増えてしまって困る、優先順位を付けるのが大変だ。


帰って来た俺たちは、疲れているはずなのに夜遅くまで求め合うのだった。


「これじゃ、ジンベイが嫉妬するな」

「そうか、……じゃあ」


睦巳はそう言ってジンベイを反対方向に向かせた。


「これで良し、と」

「酷い女だ」

「イイ女、の間違いだろ?」

「最高の女だ」


言い返す暇を与えず唇を塞ぐと睦巳も抱き締めてきて、愛し合った。

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