43.誕生日プレゼント2

番外編2はお返しの駿太朗の誕生日回です。


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──睦巳 View


日曜の朝は大体駿と一緒のベッドで目が覚める。

違いが有るとすれば俺の部屋か駿の部屋か、くらいだ。


さて、今日は駿の誕生日だ。

俺の時はネックレスを貰ったし、お返しをするつもりでもう買ってある。

幸いにも今は俺の部屋だし、貰った時と同じ様にキスしてから渡そうか。


まずは身だしなみを整えようとパジャマを来て洗面所に向かった。


部屋に戻り、誕生日プレゼントを取り出し、直ぐに渡せる様に後ろ手に隠して駿を起こす。


「おい、駿〜、おきろ〜」

「……ん、ん〜、むつみ〜」


駿はぼんやりまなこで起き、俺に抱きついて来てパジャマの胸元に顔を埋めている、一緒の部屋で起きた時は大体こうだ、全く甘えん坊め。


「……俺のおっぱいどこ?」


いや、お前のじゃな……お前のでもあるけど……俺のだから!

夜は俺が目一杯甘えるんだけど、朝は駿が甘えてくる、良いバランスじゃないかな。

駿がパジャマのボタンを外し、隙間から手を入れて直接触りだした。

このままだとエスカレートしてプレゼントどころじゃなくなってしまう、いつもなら甘やかしてるけど今日は誕生日で渡したい物があるからシャキッとして貰おう。


「おい、もう良い加減に起きろよ、誕生日なんだろ」


それを聞くと、ようやく正気に戻ったのか顔を上げた。


「──ちょっと顔洗ってくる」

「おう、んッ!、……もう!早く行ってこい!」


名残惜しそうに最後まで摘まんでいた。摘まむんじゃない。

お返しとばかりにお尻を叩くと


「お尻触るなよ、睦はエッチだなあ」

「駿には負けるよ」

「確かに、俺たちエッチだもんな!」


なんて言ってくる。何を言って……そうかな?そうかも……そうかもなあ。


手早くシャツとハーフパンツを着て部屋を出ていった。

ちょっと渡しそびれたけど、顔を洗ってスッキリした状態に渡したほうが良いだろうし少しくらい待つか。

バレバレだろうけど、俺が誕生日プレゼント渡すって分かってるだろうけど、後ろ手に隠したまま待った。


……。


うん?なんか遅くね?

そう思って扉を開けるとお母さんと駿の話し声が聞こえてきた。

どうやらお母さんに捕まったようだ。


「もうね、お義母さんって呼んでいいからね!ううん!むしろ呼んでね」


やけに上機嫌なお母さんの声が聞こえ、その後に


「はい、これからもよろしくお願いします、お義母さん」


と駿の声が聞こえてきた。


「も~、そんな他人行儀じゃなくて良いのに~」

「いえ、そういう訳には──」


何言ってんのお母さん!まだ早いから!


昨日の夜、駿の提案で、駿と俺は食事後にお父さんとお母さんに結婚を前提にお付き合いしている事を伝えた。

もう付き合っている事は知っていても、安心させたかったらしい。まあ分からんでも無い、責任はちゃんと取ります、と。


お母さんは大喜びでお父さんも少し複雑そうな顔をしてたけど直ぐに喜んでくれて、駿太朗くんになら安心して任せられるとも言ってくれた。

今の両親の記憶からすれば、俺たちは小学校から大の仲良しで高校生になってようやく付き合い始めて、結婚前提な事を教えて貰ったんだから、ようやっと。という気持ちなのかな。


そしてそれを伝えた俺も、ちゃんとそういう意志表示をしてくれた事がとても嬉しくて、ジワジワと込み上げてきて何故かその場で嬉し泣きしてしまった。

駿にはなんで睦が泣くんだよ、と言われたけど、本当、こういうのって言葉にして態度で示してくれるの嬉しいんだからな。

駿は呆れながらも俺を優しく抱き寄せてくれて背中をぽんぽんと、俺は幸せを噛み締めて、それを見た両親も嬉し泣きしていた様に見えた。


こういう時の駿は朝の甘えん坊駿と違って本当に頼れる、好き。

というか普段から駿は頼れるし支えてくれるしクールでカッコいいしで本当に頼もしい。

そして甘えん坊駿は俺だけに見せてくれる駿で、それはそれで可愛いから好きだけど。

夜?夜はまあ、荒々しかったり乱暴だったり、優しかったり、気遣ってくれたり、色々だ、色々、どれも好き。


っと、いけないいけない、彼氏自慢に話が逸れた。


彼氏自慢と言えば、夏休み明けてから駿はさらにモテだした。

俺と付き合っている事を知らない、主に一年生からなんだけど、多分目標がはっきりして一皮向けて男前が上がったからだろうか。

俺の駿は本当に格好良いからな、そしてお前らの知らない駿を俺は知ってるんだからなと後方腕組み彼女面、いや実際に彼女なんだけど、優越感に浸る事もある──って、言ってるそばから話が逸れた。

ああ、モテる事に関しては心配をしていない、駿は俺一筋で俺しか見えないって言ってくれるから。思い出すだけで舞い上がってしまいそうだ。



何だっけ?ええと、とにかく!

そんな事が昨日の夜にあって、うちの親と駿の関係はより近くなった。

お母さんに呼び止められれば駿も無碍には出来ないだろうし、しょうがないか。


とはいえ、いつまで話しているのか、そろそろ戻ってきて欲しいんだけどー?、おーい。


「駿~、まだかー?」

「あっ、すみません、睦が呼んでるので戻りますね」

「あらあら、ごめんなさいね呼び止めちゃって、頑張ってね」

「は、はい」


何を頑張るんだろうか、まあ良いけど。

駿を部屋に招き、扉を閉めた。


「助かったよ睦、なんだか話が長くなっちゃって」

「まあ多少はしょうがないとは思うけどね、でも先が思いやられるなあ」


さて。仕切り直しますかね。

まずはキスをしてから、プレゼントを渡したい。


えーと……あ、あれ?

どうやったら自然にキスに持っていけるんだろう、いつも駿なら俺を抱き寄せるだけで簡単にキス出来るのに、俺からする場合はどうすれば……?


口を尖らせて駿を待つのはちょっと滑稽だし雰囲気もなんか違うし、どうしよう……。

こういう時に限って駿は抱き寄せてくれないし、取っ掛かりが無い。

あ、これ、駿も俺が何かするのを待っているんだ、いやー、困ったな。


少しの間沈黙が流れて、俺は決断する。

駿の胸に飛び込んでしまえ!後は流れでお願いします!ええいままよ!


後ろ手にプレゼントを持ったまま、駿の胸に飛び込み、空いている片方の手で抱き着いた。

そのまま顔を上げ、駿の目をジッと見つめる。

駿は察したのだろうか、顔を近づけてきてくれた、やった、さす駿。


俺は目を瞑り、駿の唇を迎えた。

夜にする貪り合う激しいキスと違い、お互いを気遣うような優しい口づけを交わし、身体を離した。

駿もこれが前哨戦だって分かっている。


今度こそ俺の番だ。


「駿、17才の誕生日おめでとう、これは俺からのお祝いだ、受け取ってくれ」


そう言ってプレゼントの入った袋を両手に添えて駿の前に出す。

駿はそれを受け取りこう言った。


「ありがとう睦、覚えててくれて嬉しいよ、それに世界最高の女からプレゼントまで貰えるなんて、俺は世界一の幸せ者だな」


駿は大げさな事を言いだした、やめろ!恥ずかしいだろうが!

それに、元男だぞ、世界最高の女とか、世の女性に失礼だろうが!


「大げさだ、大げさ。それに世界最高の女とか、本当の女性に失礼だって」


そう言うと、駿は真面目な顔をして優しく抱き締め、顔を近づけて言った。


「睦こそ何言ってるんだ、俺にとって睦こそが俺の求める理想の女性そのものなんだぞ。他の女性は比較対象にすらならないんだからな、睦は親友で、恋人なんだ。こんな女性は何処を探してもいない。睦巳は最高だ、睦巳は俺だけのものだ」


そんな言葉を聞いて平然としていられるわけが無い、顔は羞恥で真っ赤に染まって、でも何か言葉を返そうと必死に考えた、だけど何も思い浮かばず、口をパクパクさせただけで黙ってしまった。

でも目は逸らさず呆けたようにただ見つめていた。


「睦、誕生日プレゼントありがとう。開けてもいいか?」


ハッと正気に返り、コクコクと頷く、まだ喋られる状態じゃなかった。


駿が袋から取り出したのは刻印を入れる事が出来るペアブレスレット。

刻印は「Shun♡Mutsu」と入っている。

駿は少しの間固まっていた、俺は何かやらかしてしまったのだろうか。不安になる。


この反応はどういう事だろうか、少しの不安を覚える。そして俺は駿の心からの喜びが欲しかった。

駿は無言で俺の右腕を取った。


「睦、最高のプレゼントをありがとう、付けるよ」

「う、うん」


駿の反応が分かりにくい、言葉では最高と言ってくれたけど、どうなんだろう。

駿はそのまま俺の右手首にブレスレットを付けてくれた。

そして自分の左腕を俺に差し出した。

俺には右手に付けて駿は左手なのか、と思ったけどいつものポジションが右駿で左俺だ。だからブレスレットを付けた手同士で繋がる、なるほどそういう意図か。


「睦に付けて欲しい」


ブレスレットを付けてあげると駿はブレスレットにキスをして、微笑んでくれた。

そして俺を優しく抱き寄せる。


「びっくりしたよ、俺たちの考える事は同じなんだなって」

「え?どういう事?」

「今日さ、一緒に出掛けようって話してたと思うんだけど、実はペアリング作りに行こうって思ってたんだ。まさか先にペアブレスレットを貰うなんて思わなかったよ」

「え、なんで?駿の誕生日なのに……」

「恋人と一緒にペアリング作りに行くのに誕生日とか関係無いだろ?タイミングとしては丁度良いけどね」

「……うーん、確かにそうか」


そっか、駿も今日ペアリング一緒に作ろうと思ってたなんてな、一緒の考え、想いだったって事かあ……それって凄く嬉しい事だよな。うん。

やっぱり俺と駿の相性は最高なんだな、良かった。


見上げると駿が俺をじっと見つめていて、俺も見つめ返した。

駿ははしゃいではいないけど心から喜んでいるような気がする、多分だけど。


「駿、俺、今幸せだよ」

「奇遇だな、睦、俺もだ」


駿の首に抱き着き目を閉じた。


◇◆◇


お昼過ぎ、ペアリング作りに2人で出掛ける。

予約していた時間通りに着きそうで、ペアブレスレットを付けた手同士を恋人繋ぎしておしゃべりしながら向かう。

すごく幸せな気分で、それにこれからの事を思うとウキウキしてきて、こう……飛び跳ねたくなってくる。


ペアリング作成工房でまず説明を受けて、お互いの分を作り始める。

シンプルなシルバーのリングだ。


駿の分を俺が作る事になるので、普段以上に慎重に、心を込めて、綺麗に作りたいと思う。

ペアリング作りは地味な繰り返し作業が多く、1人でやっていたら投げ出していたかも知れない。

でも俺たち2人で作っていて、適度に話しながらの作業だから、苦にもならず、駿の指輪を作っているんだと思うと集中してリング作りを進められた。


そして──無事に完成した。


ペアリングが入った箱を受け取り、店を後にする。


◇◆◇


帰りにカフェに寄って開封し、まじまじと眺める。


他の人が見たら何の変哲も無いシンプルなシルバーのリングだろう、だけど俺のコレは駿が心を込めて、愛情を込めて、一生懸命に作ったものなんだ、だから俺には輝いて見える。


それにイニシャルの刻印も入っていて、この世に2つと無い俺だけの宝物だ。

そして同じ様に俺が作ったリングが駿の手にあって、本当に、大事にして欲しいと思う。


「睦、そのリング、俺にはめさせてくれないか」


暫くリングを眺めていると、駿が真っ直ぐに俺を見て、そう言った。

あ、なるほどそういう事か、と俺は理解した。

恋人同士でのペアリングは婚約指輪や結婚指輪では無いため、右手薬指につけるのが一般的だ、だからリングを駿に渡し、右手を差し出した。

駿はリングを受け取り、首を振って否定した。


「左手に付けたい」

「え!?」


それはつまり、左手の薬指にはめたい、という事なんだろう。

確かに左手薬指にはめておかしい事も無くはない、そこに意味を込めるかは本人たち次第なわけで。

いや確かに結婚する予定だけども!結婚するけど!だけど左手薬指にはめるのはなんだか恥ずかしくて。


「……」


俺が左手を差し出さずに1人で恥ずかしがっていると


「ごめん……嫌だったか、薬指にはめるのは。だけど大人になって働くようになったらちゃんとした指輪を準備するから、……それでも駄目か?」


ああ、俺が恥ずかしがったせいで余計な誤解を招いてしまった。

なんとか上手く説明しないと。だけど良い言葉が見つからない、だから気持ちだけ伝える事にした。


俺は左手を差し出し、一言だけ。


「嫌なわけない」


顔を真っ赤にしている俺を見て駿は破顔し微笑んだ。

眩しい、嬉しさが伝わってくる。

そして俺に伝染し、赤くなりながらも俺も顔を崩してニヤニヤしてしまう。


少しして、駿が真面目な顔になった。


「それじゃあ、いくよ」

「──あ、ああ」


駿の指が俺の指を掴み、指輪をはめる瞬間をジッと見る。

そして指先を通し、しっかりと、奥までリングを通す。サイズ合ってて良かった。


指を広げて指輪がはまった手を表と裏にして何回も見る、似合ってる……のかな?正直良く分からない。

ただ駿の手作りのリングを左手薬指にはめている、その事実が嬉しくて幸せで頭がボーッとして、良し悪しなど全く判断が出来ないでいた。


「うん、とても良く似合っているよ」


その駿の声でようやく、似合ってるんだ、という事を認識した。

まあその言葉で多幸感に包まれてぽーっとしてしまうんだけど。

しかし次の駿の言葉で頭を振り、正常な行動が出来るように戻した。


「睦、俺にも頼む」


左手を俺に差し出す駿、大きくて少し節くれだった、温かくて、俺に安心感を与えてくれる手。

リングを受け取り、手を添える。


「──はめるからな」


ゴクリと唾を飲み、少し震える手で指輪をはめる。

駿は俺のように手を広げるのではなく、指輪に口づけをした。


「ありがとう、睦」


くそう、少しキザだけど格好良い、似合う。さすが俺の駿。


「今回の誕生日はペアブレスレットを貰えるし、ペアリングも作れるし、睦が居て、本当に最高の日になったよ」


駿が左手に付いているブレスレットと指輪を眺めながらそう呟いた。


「安心しろ、俺はずっと側に居てやるから」


そのまま駿は口づけを交わそうとしてきたけど、ここがカフェだった事をで思い出してすんでで止まった。

俺もすっかり受け入れる準備をしていて、目を瞑って待ってしまった、恥ずかしい。


そして帰路につき、俺の家に戻った。


その日は俺も駿も昂ぶってしまい、日曜だというのにお互いの名前を何度も口にしながら、ベッドで何度も、シャワーで流すはずのお風呂でも愛を確かめ、別れ際に玄関先でも長い時間口づけを重ねて名残惜しむように愛を囁き合って別れた。

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