40.新しい関係


──睦巳 View


駿は扉を開けてくれない。

暫く会いたくないと言って聞かない。

こんなに駿らしくない、子供みたいな駿は始めてだ。本当に何があったというのか。


どうしたものかと悩んだけど、ある約束を思い出し俺はこう言った。


「駿、前にテストが終わったらなんでも一つ言う事聞いてくれるって言ってくれたの、覚えてるか」

「……ああ、覚えてる」

「じゃあさ、今から一つお願いを聞いてくれよ」

「……」

「──駿……今から俺と、嘘偽りなく話をしよう」


俺は駿がご褒美で言ってくれた、なんでも一つ言う事を聞いてくれる約束、それを使った。

こんなにもらしくない駿を見るのは始めてで、きっとこれはとても大事な事で、今ちゃんと話をしないと取り返しが付かなくなる、そう思ったんだ。

でも適当に返されても困るから、嘘偽りなく、を入れた。


暫くの沈黙、俺は何も言わずに、黙って駿の返事をまった。


「……分かった、なんでも一つ言う事を聞く、そういう約束だったからな、……話をしよう。でもちょっと待ってくれ」


何かゴソゴソとしている音の後、少しして、ガチャと扉を開けて俺を部屋に招いてくれた。

その駿の顔を見ると、疲れていて、いつものような元気と余裕が感じられない、そして拭き漏らしだろうか、少しだけ涙で濡れた後のようなものがあったように思う。


小さなテーブルを挟んで、座る、いつものように隣やバックハグではなく、あくまで普通に対面で。


駿はというと、ずっと俯いていて俺の顔を見ない、目線は下で、こんなの駿じゃないとすら思う。


「駿、一体どうしたんだ、何があったんだ、なんで帰ったのか、教えてくれ」


駿は返答に困るように、少しの沈黙の後、話した。


「睦、俺たちの関係はあの風呂で終わった、そうだな?」

「そうだな、今の関係は終わった」


「そう、睦巳が落ち着いて、吹っ切れた事で俺たちの関係、俺に頼って、甘えて、支えられる、そして偽装恋人の関係が終わった。それはつまり、睦巳が女の子としてやっていけるって事だ」


そうかな?まあそういう意味でもあるか。

駿以外の人とも仲良くやっていけるって事でもあるし。

でもそれが今回の行動とどう関係が──


「女の子としてやっていけるって事はつまり、俺たちは親友じゃいられなくなるって事だ。睦巳に好きな人や恋人が出来た時に睦巳に男の親友がいる事なんてありえない、どれだけ親友だって言っても絶対に信じてくれないし、回りにもよく見られない、だから俺たちの関係もここで終わりだ」


「普通の女の子として生きていく以上、男の親友は居ないほうが良いからな。それに男友達としてもだ、睦巳は元男友達にはあんまり良い感情を持ってなかっただろう?だから新しい関係でやって行くべきだ」


俺は頭に血が登った、駿は勝手に何を言っているんだ、そう思ってる。

それにその話は大事な部分が抜けている、俺の気持ちだ。

俺は駿が好きだし、この後も恋人になって、頼って、甘えて、支えてもらうつもりだ。


今までの関係が終わって、新しい関係になるだけだ。そのつもりだ。

俺は駿が好きだ、だけど駿が俺の事を本当はどう思ってるのか、それを聞きたい。

好きじゃないから、こんな事を考えるのだろうか。


「……駿は、俺の事どう思ってる?」

「──嘘偽り無く、だったよな……俺は睦が好きだ!……だけど、関係が終わるなら……離れたほうが良いと思う」


──許せない、俺の気持ちを無視して決めて。許せない、勝手に全てを終わらせて。

何よりも許せないのは、駿にこんな勘違いをさせて、こんなにも苦しませてしまって、こんな答えを出させた自分が。


駿に俺の真意を伝える必要があると感じた、そこさえ伝わればこんな事は何の問題も無いはずだ。


「お、俺は……!そういうつもりで今の関係が終わりだなんて言ってない、確かに落ち着いたし、吹っ切れたけど、駿との関係を終わらせるつもりなんて毛頭ない!」


「いやダメだろ……さっき言っただろ、好きな人や恋人ができたら──」

「その好きな人って、駿じゃダメなのか?」

「え!?」


「今の関係を終わらせて、次の関係にステップアップさせたかっただけなんだ。駿も俺の気持ちに気付いてて、きっと喜んでくれるって、勝手に俺が思ってて……、ゴメン、ちゃんと話が出来てなくて」


そうだ、風呂では俺が一方的に駿の考えを聞いただけで、俺の考えを全く話してない、だから駿が勘違いしたままになったんだ。

俺があの時に次のステップの話しも合わせて出来ていればこんな事にはならなかったはずなんだ。


「いや、俺のほうこそゴメン、俺は今の関係をずっと続けたかったんだ、睦に頼られて、甘えられて、俺が支える、そして、恋人のように振る舞って、睦が俺をどこまでも甘えさせてくれるから、それに甘えてしまって、親友という間柄なのにディープキスまでさせてくれて」


「だから俺は睦が落ち着かなければ良いって、吹っ切れなければ良い、そう思っていたんだ、そうすれば睦は俺だけを見てくれる、そう考えていた。……だからかな、その関係が終わると全てを失うように勘違いしちゃったのかも知れない」


駿は駿で今の関係に入れ込みすぎていたみたいだ、でもそれも全部、俺が風呂場で話していれば問題無かった、むしろ、風呂場で関係が進んだ可能性もあった、本当にダメだな俺。



駿は顔を上げて、正面から俺を見据えていた、さっきまでの情けない顔じゃなくて、いつものキリッとした、頼もしい顔になっていた。


「えーっと、まずは謝るよ、ゴメン」


と頭を下げた。俺は慌てて


「いや謝るのは俺のほうだよ──」


駿が手で俺の言葉を制した。


「いや、これは勝手に帰った事、部屋に入れなかった事、俺が勘違いして暴走した事に対してだから。気にしないで。……でさ、俺バカみたいだな、暴走して、泣いて、睦に迷惑を掛けた」


ここで俺も悪い、という話をしようかと思ったけど、駿の顔を見るとどうも様子が違う、ここは乗っかるのが正解かと思った。


「そうだな、バカみたいだよな、俺に心配かけさせやがって。俺には変わらずお前しか見えてないっていうのに」


乗っかるだけのつもりだったけど、少し気持ちが漏れた、だって俺はこんなにも駿の事が好きでそう行動してきたつもりだったから。

駿は少し面食らったような表情になったけど直ぐに戻して続けた。


「だから、勘違いや間違えないようにあらためて言わせて欲しい」



真剣な表情をして、俺の肩を掴んだ。



「睦巳、好きだ、愛している、恋人になって欲しい。親友としても、恋人としても、一生俺の側に居て欲しい」


やっと、やっと駿から俺の欲しい言葉が聞けた、俺は駿が求めるなら、俺の全てで応えたい。


「うん、俺も駿を、駿太朗を心から愛している、そしてこれからは親友で恋人だ、一生駿だけを見てるから、駿も俺を愛してくれ、約束だぞ」


「ああ、約束だ」


恋人になっても俺たちは親友だ。

こんな関係は俺たちしかありえない、世界で唯一のカップルだ。

俺が元男で親友の駿にしかその相手は務まらない。特別で誰にも真似できない。


「睦……睦巳!」

「駿!」


感情が爆発し、名前を呼びたい、肌で感じたい、口づけを交わしたい。

2人で抱き締め合い、そのままディープキスを交わす、今までよりさらに強く深い、愛を交わすキスを。



暫くの時間が経ち、落ち着いた頃、一応謝っておこうと思い話し始める、これは俺たちの関係で大事な事だから。


「ケジメとして謝るよ、俺がちゃんと次のステップを説明しないせいでこんな事になってしまって、本当にゴメン」

「別に良いのに、俺が悪いって事でさ」

「いいやダメだ、俺たちは親友でもあるんだから、対等な立場じゃないと」

「……確かにそうだな、ちゃんと謝って許す、そういう風にしていかないと何処かでやらかすだろうしな」

「そうだな、誰かさんが浮気でもして隠したら大変だ」

「はぁ!?俺がする訳ないだろ、お前は自分がどれだけ美人で綺麗か分かってないのか……いや俺は睦を信じるけど」


返しが無くて照れる俺に駿が口づけをしてきた。


「信じてるし、愛してる、睦」


さらにディープキスまで、今さっき一区切りついたところだろ!?

まあ、俺も乗り気になっちゃうのが悪いところだ。

そのままお姫様だっこで抱えられ、ベッドに移動させられた。

これは……そういう気分になっちゃったのかな?うん、良いよ、覚悟は出来てる。


「睦、男の部屋に女の子が来るって事の意味を教えてやるよ」

「おいおい、無理すんなよ、……お互い初めてなんだし話し合いながらしようぜ」


駿は照れていて、やはりちょっと無理していたのだと分かる。

お互い初めてなんだし、協力して、一緒に気持ち良くなろうぜ。


「良いんだな?」

「今更聞くなよ、野暮だなあ」


見つめ合い、口づけを交わす。


恋人同士になって、将来を約束し、結ばれる。


一生懸命な駿の、俺への愛を囁く声が甘く、身体が痺れて、愛されていると感じる。

俺も愛を返したいと、声で、身体全体で応える。


この間までは男同士で、愛なんて考えた事も無かったのに、今じゃ駿以外考えられなくなって。

そして恋人になって結ばれて、将来まで約束して。

俺は幸せだ、このまま駿と一緒に愛を育んで、一生を共にしたい。


今日が記念すべき始まりの第一歩だ。


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これを区切りとして完結とします。

後日談を明日投稿し、以降は不定期投稿となりますのでご了承ください。


ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

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