36.覚悟
──睦巳 View
深呼吸して気合を入れる、次行こう次!
「よし!じゃあ次は背中洗ってやるから向こう向いてくれ!」
「あ、ああ、分かった、頼む」
駿は俺に大きく逞しい背中を向けた。
こっからが本番だからな!こんな所で終わりにしたく無い。
ボディソープを手に取り泡立て、背中の上部から素手で洗っていく。
大きくて筋肉質な背中って良いなあ、自分には無いそれを頼もしく思う。
そして憧れる背中を丁寧に、余す所なく素手で洗う、それは俺自身にも心地良く、楽しい行為だった。
背中の次は肩と首だ。
素手で自分を洗う時は手触りはそんなに気にならないけど、駿を洗うとなれば話は変わる。
触る事による感触だけがハッキリと伝わり、細かな凹凸すら感じられる。
肩、首、そして鎖骨。
前回にも洗ったそこを丹念に触り、洗う。
やはり首と鎖骨は色気があると感じる。
そして喉仏、これも男女で明確に違う部位だ。
これがあるから男らしいと感じるし、無いと女らしいとも感じる、象徴的な部位だと思う。
以前の俺には有ったものだが今の俺には無い、だけどそれをもう羨ましいとは思わないし、無くて良いと思っている。もう俺は女の体で良いし、今更男に戻されても困る。
そして次は腕と手、前回やらかしてしまった部分だ。
今回はタオルじゃないから外れる心配は無いとはいえ、押し当ててしまう可能性はある、注意しなければ。
腕を前回と同様に両手で挟み込み、扱くようにして洗い、次に手の甲、平と洗い、指を丁寧に洗う。
指洗いに関してはボディソープで泡だった指同士を絡ませて洗うのが癖になりそうな感触だ。
と、背中と首と腕は洗い終わった、今日はギリギリまで洗うつもりで、まだ全然出来てないけど話もするつもりだ。
「んじゃ身体の側面から前を洗うからなー」
「え!?ちょっと待て!そこは良いって自分で洗うから!」
「いいから大人しくしてろって」
「ちょ!こら!」
俺はまず側面の上、脇から洗い始める。
俺と違いちゃんと脇毛が生えていて、まずそこから。
そこから段々と降りていって、腹の横まで。
駿はくすぐったいというかムズムズすると言っていたが、気持ち良くは無かったのだろうか。
側面が終わったので、前を洗わせて貰おうか。
「よし!そ、それじゃあ、次は正面だ、こっち向いてくれ」
「……マジで言ってんのか」
「ああ、大マジだ。あ、あそこは隠しといてくれよ、それにそこは最後に自分で洗ってくれ」
「いやそりゃそこは自分で洗うよ、いやでもマジか……ちょっと心の準備をさせてくれ」
駿がめちゃくちゃ悩んでいる、そりゃそうだろうけど……。
あ、そうか、後ろから洗えばいいのか。
「駿、こっち向かなくて良い、背中向けたままで前を洗うから」
「あ、ああ、それならまあ……」
というわけで両手を前に回り込ませて鎖骨から下を素手で洗う。
「悪いけど背筋を伸ばしてくれないか、背中を曲げてると洗いにくい」
「あ、すまん、これで良いか」
駿が背筋をピンと伸ばしたお陰で洗いやすくなって、ボディソープで泡立てた素手で洗う。
筋肉を張った胸板を洗う時、その感触をダイレクトに感じる。
そして両手に異物感、男の乳首を感じた。
後ろからだから感触しか感じないけどこんな脇の方についてるんだな、女とは結構違うんだ。
なんて思いながら胸を洗い、腹に移行した。
すると薄く張った腹筋を感じて、自分とはまるで違う凸凹として硬い感触に鍛えた男と女の違いを素手で感じて、なんだか興奮する。撫で回したくなる、というか撫で回した。
そして夢中になって腹を撫で回していると。
「その……睦、また胸が当たってるんだけど」
「え!?」
自分の胸を見ると駿の背中に水着の胸部分を押し当てていた、膝立ちの状態で背中からお腹を洗うのは少し距離があって、少しでも下を洗おうとすると胸が当たるようだ。
少し考えたけど、胸を押し当てるくらいなら正面から抱き着いた時にも当たってるし、まあそれくらい良いか、と思う事にした。
「まー、良いんじゃないか?いつも抱き着いた時とか多少当たってるだろ」
「え?いやまあそうだけど、全然違うというか──」
駿が何かむにゃむにゃ言ってるが俺が気にしないと言ってるんだから良いんだよ、気にすんな。
そのままお腹を洗いつつ下に下がってくと股間を押さえている駿の手に当った、どうやらここまでのようだ。
もう一度上部から胸板と腹筋の感触を楽しんだ後、手を離した。
胸を押し当てつつ、耳元で囁いた。
「駿、次は足だけど、どうする?こっち向く?」
「いや無理」
即答だった。
「つっても距離が遠いからな、こっち向け」
「いや無理だって!分かるだろ!」
分からんでも無い。
だから側面に回り、そこから足を洗い始める。
足は運動している最中だと筋肉だらけに見えてたけど、普段は柔らかくてビックリする。
特にふくらはぎは駿に頼んで力を入れてもらった状態と抜いた状態でまるで違うので特に驚いた。
足の指も手の指と同様にしっかり丁寧で洗ってあげる。
側面に回りこんだ事で俺は駿が股間を押さえてる所を、駿は俺の水着姿をしっかりと見ていた。
後はお尻と股間なので自分で洗って貰うとしよう。
「よし!大体洗ったな!残りは自分で洗ってくれよ」
「分かってるって、睦は湯船に浸かっててくれよ」
「はあ?次は駿が俺を洗う番だぞ」
「……え?本気で言ってるのか?」
「ああ、本気だ。なんだよ、自分だけ洗って貰って終わりなのか?」
「確かにそう言われたらそうなんだけど」
「じゃあ決まりだな!反対向いて待ってるから、椅子貸してくれ」
駿から椅子受け取り、反対を向いて座る。
今度はこっちが洗って貰う番、言っておいてなんだけどドキドキしてきた。
多分タオルは使わず素手で洗ってくれるだろう、そこが余計に緊張する。
駿もこんな風に緊張していたのだろうか、俺に洗って貰えて、しかも素手で、なんて。
直接触られてるのとそんなに違いが無いように思えてきて、余計にドキドキと緊張となんだか気分が高揚してきた。
駿に直接肌が触れられる、それは今までの行為とは全く別物でこれを超えるのは最近では毎日していてちょっと感覚が麻痺しつつあるけど、別れ際のディープキスだけだと思う。
あれだけは特別だ。あの行為だけはお互いが気遣いつつも求め合う深い気持ちが表れている気がする。
だから駿も俺の事が好きなはずだと思う。
俺は駿が好きだ、親友としても好きだけどそれとは意味合いが違う、女の子として、心の底から好きだと言える、異性として好きという感情はつまるところ一緒になりたい、一つになりたい、そういう感情だと思う。男の時には無かった感情だ。
今となって考えると、俺は女の子になって駿と会って、すぐに好きになってしまったような気がする。
だけど当時はまだ俺自身が女の子を受け入れてなかったし、その感情を親友としての感情だと勘違いしていた。
いつ頃から自分の気持ちに気付き始めたかは分からないけど、初めの夜に、駿にも頼られたい、甘えられたいという感情から女を磨く、という事を決めた事が始まりだと思う。
最初に髪留めを貰った時、ペアでのお土産を貰った時、誕生日プレゼントを貰った時、多分そのタイミングで一気に自分が女の子なんだとドンドン自覚していったような気がする。
テスト勉強で2週間近く一緒だったのは本当に大きかったし今思えば大事な事だった。
初めてキスをした日もそうだし、熱中症で倒れて介抱して貰った日も、海でのナンパから助けてもらった事も。
そう考えると日々、毎日どんどんと自覚しない内に女の子を受け入れていて、今じゃもう男に戻りたくないと思うし、他人の記憶も気にならない、駿と俺さえ覚えてれば良い、というところまで来た。
なんで男に戻りたくないか、それは簡単な話で、駿と結ばれるため、一生一緒にいるため。
生理は来てくれて安心した、俺はちゃんと女の子で子供も産めるという事が分かったから。
記憶にしても他人は結局関係無いし、親は今でも寂しく思う時もあるけど、もう上手くやっている。別に親の愛情が無くなったり変わったわけじゃない事に気付いた、だからもう大丈夫。
だから今日、駿がどう考えているかと俺の気持ちや状態を伝えて、駿に覚悟を決めてもらう。
そして願わくば。
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