35.睦巳の決意
──睦巳 View
今日は鍋という事で、宿題は中断し、晩ご飯の時間まで休憩する空気になった。
休憩というと概ね雑談か、駿のバックハグから最後は口づけで締めだったけど、今回は久々に膝枕をして貰おう。
久々に膝枕をやってもらって気付いたのだけどバックハグと違い、頭を預けて、駿の手を両手に抱えて、頭を撫でられる、自分が子供になった様に感じて、包まれたりするのとは全く違う安心感と落ち着きを感じる。
口づけも親が子供を労るようなものに感じて、安心感を与える為のもののように感じる。
偶にはこういうのも良いかも知れない、がっつく事も無く、ぐらぐらと湧き上がるものも無く、ただ安らぎと落ち着きを与えてくれる。
本当に俺が子供になってしまったように感じ、頭を撫でてもらい、目を瞑り、駿の手を大事に抱えて時間まで過ごした。
◇◆◇
トマト鍋は俺の好物の一つで、美味しく、辛くないので余計な汗をかく必要もなく、ベストチョイスと思えた。
ただ想定外だったのは豆腐が想像以上に熱かった事だ。
豆腐を小さくして、ふーふーと息を吹きかけ冷まし、パクッと口に入れた。
十分に冷ましたつもりだったけど、まだ足りなかったようでアチアチでその場で皿に豆腐を吐き出してしまった。駿の見ている前でなんて汚い事をしてしまったのか。恥ずかしい。
だけど熱さと痛さで恥ずかしがる余裕も無い、あひゅいしいひゃいし、と上手く話せない。
駿に見せてみろと言われて、顔を向けると、顎を軽く掴んで、顎クイをされた。
そしてそのまま駿の顔が近づいてくる、顎クイされた時点で口づけを意識させられて、痛いのも忘れてドキドキと心臓が高鳴っている。
駿に口を開けてくれと言われて火傷の事を思い出した。
じっくりと口の中と舌を見られる、間近で口の中を見られるって結構恥ずかしいぞ。……口臭とか大丈夫だろうか。
お母さんから氷を受け取り、舌先につけて冷やす。
なぜか嬉しそうにお母さんが俺が駿の話をよくする事を、その内容を話し始めた。
なぜ急にそんな話を、しかも駿に話始めるのだろうか、余計な事は言わなくていいから!
お母さんに抗議をするも嬉しそうに話すお母さんは止まらない。
それに俺が舌先を冷やしながらなので上手く話せずイマイチ何を言ってるのか伝わってないのかも。
いやでも分かるよね?この状況で何を言いたいかなんて。
そして駿はそれを嬉しそうに聞いているのか微笑んで、俺を見つめている。
止めろ、今見つめられると恥ずかしいだろ!
お母さんのお喋りは続き、最後に俺をお願いします、と締めた。
それは多分、そういう意味なんだろう。
そして、その時の駿の反応は、スッキリしない、余計な事を考えている時の駿の顔だった。
返事も大丈夫です、なんて、お母さんも内心では不安になったのでは無いだろうか。
◇◆◇
別れ際、毎日のように俺の部屋で抱き合って深い口づけを交わすようになっている。
何度もしているからかお互いに慣れてきてコツを掴み、呼吸も合ってきたように感じる。
それに合わせて気持ち良さや感度なんかも上がっている。
駿も気分が上がって気持ち良いんだろうなと思う。
終わった後、明日泊まる様に伝えた。
駿はまだ吹っ切れていないように感じる、覚悟を決められないのもそのせいだろう。
あいつは考えすぎるし、気を使うのは良いことだと思うけど、大事なのは俺と駿の気持ちだ。
俺はもう前から覚悟を決めている。
駿が覚悟を決める為にも、俺が一肌脱いでやらないとな、手の掛かるやつめ。
◇◆◇
今日は駿が泊まる日、晩ご飯を食べ終え、風呂に入る所。
脱衣所で服を脱ぎ、準備をして、扉を開ける。
「睦か!?」
ある程度予想していたのだろう、駿が俺の名を呼び反応する。
今回も一緒に風呂に入る為に駿に先に入ってもらった、と言ってもただ前回の様に先に入れと言っても、後から入るんだなと思われて待ち構えられても面白く無いので、お母さんに用事を頼まれた事にして先に入ってもらった。
だけど駿は前回の事もあってある程度予想はしていたのだろう、そこまで驚いてはいなかった。
「入ってくると思ってた、また身体を洗うのか?」
「まあな、洗ってやるからありがたく思え」
駿は下を向いて座ったままこちらに向き直し、俺も膝立ちになって駿の頭を洗い始める。
もう少し大きな背中を見ていたかったが仕方がない、楽しみは後に取っておくとしよう。
既にタオルで股間部分を隠していて、本当に予想はしていたようだな。
駿の頭を掴んで揉み解す、適度に力を入れて洗い漏れが無いように。
人の頭を洗うというのは不思議な感じだ、目も瞑っていて、無防備な姿を晒して大事な頭を差し出されている。
自分の頭と違って触られている感覚が無い分、より指先に細かな触感がある。
「お客さま、痒い所や気になる所ありませんか?」
「ん~、この辺をもうちょっと強くしてくれ」
冗談で言ったら、普通に返された、前頭部が気になるらしいのでそこを力を入れて揉み、解す。
「あ~、良いね、気持ち良いよ」
気持ち良かったようで良かった。
シャワーでシャンプーを綺麗に洗い流し、駿の頭を洗い終わった。
「終わったか?じゃあ反対向くぞ」
「待て!そのまま顔を上げろよ」
俺は膝立ちを止めて立ち上がった。
「え?どういう事だ、まさか裸とかじゃないだろうな」
「んな訳ないだろ、ちゃんとタオル巻いてるから見てもいいよって事だ」
「いやお前タオルでもまじまじ見ちゃ不味いだろ……」
「まーまー良いから見てみろって」
「まあそこまで言うなら……」
駿は濡れ髪を後ろにかき上げる、その仕草に色気を感じ、ちょっとドキッっとする、な、なんかよくないか?これもイケメン仕草なのか?くそう。
そして少しの間の後、目を開け俺を見る。
「うん、ちゃんとタオルだな」
「そうだろう?でもこっからが本番だ」
「何?まさか睦お前──」
俺はタオルを掴み、バッ!と勢いよく外した。
「バカ!脱ぐな!……水着?」
そう、タオルの下は以前着た白ビキニなのだ、海に行った時は露出面積の問題で着る事を見送った白ビキニ。
駿に見せるだけなら全く問題ない!はずだ!結構恥ずかしいけど!
ちなみに駿はバカとか言いながらしっかり見ていて目を逸らさなかった、正直者め。
「これなら前回みたいに途中で外れる事もないし安全だろ?タオルだと見えてしまわないか気にする必要があったけど水着ならそれも無いし、それにこれならそのまま湯船にも入れるし」
「その水着ってそんなに信頼出来るようなものだっけ?それに湯船なあ、まあ睦が良いっていうなら良いけど。っていうかその水着あらためて見ると相当な露出具合だよな、……あれ?なんかサイズ小さく、いや大きくなってる?」
「実は胸が成長してて少し小さいんだ、まあ紐で調節できるからまだ良いけど、それにしても良く気付いたな」
「まあな、よく見てるし──ッ!」
駿はしまった、という顔をして口を覆い目を逸らした。
なるほどなるほど、そうかー、あれよく見てるのかー、そっかそっか。
女の子になった翌日にこの水着を買った日の夜、調子に乗ってこの水着で何枚も自撮りして送ったやつか、結構大胆なポーズなんかも送った気がする。
当時はまだ自覚が足りなかったから出来た事で、今ならそんな姿を自撮りして送るとか恥ずかしくて無理。
というかそれを聞いてしまった俺も相当に恥ずかしいんだが?
分かっていたしそりゃそうだろと思うけど、あらためてそういう対象として見られているという事が証明されたんだ。
お互い様ではあるけど、そういう事を示唆しちゃダメだと思うんだよ。
お互いに顔を真っ赤にし、視線を逸し、沈黙が続いたが、口火を切ったのは駿だった。
「ゴメン!えーとその……予想はつくと思うけど、その、ゴメン……」
「べ、別にいいよ、まぁ、なんだ、うん、気持ちも分かるし……」
お互いに直接的に言い辛いそれを口にはせず、謝り、許した。俺も元男だし、理解出来るし、それでいいじゃないか。
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