31.イケメンポーズ
──駿太朗 View
実は土曜は少し遠出して、花火大会を見に行こうと思っていたんだけど、睦巳に生理が来てしまって体調が優れず遊べないという事だった。
花火大会は日曜にも有るんだけど無理強いは出来ないよなあ、なんて思う。
男からすれば生理というものは不可侵な領域だ。
話題として触れる事さえ許されない、男同士でさえ口にしたら、お前何言ってんの……みたいな空気になってしまう。
だからこちらとしても触れてはダメで、どの程度気を遣えば良いのか、とかどう対応して良いのか困る。
女性側も過剰に隠すので尚更どうして良いのか分からない。
睦巳だからと言ってそれを話題に挙げていいものかどうか……正直対応に困っている。
折角、意図しない形とはいえ明確に関係が進んで喜んでいたのに出鼻をくじかれた気分だ。
俺だって睦巳の前では一度拒否したけど、睦巳とするのを嫌がってるわけじゃない。本当はしたかった、だけどこのままだとズルズルと進む、それが嫌だった。だから線引きだけはさせて貰ったんだ。
話を戻す、睦巳に生理が来た、これはつまり、どうしようも無く女の子だ、という事だ。
俺としてはいつ男に戻っても良いと思っていた、そりゃ寂しくはなるだろうけど、女の子になった時だって寂しかった。もう男のあいつと一緒に遊べないのか、と。
最初の頃は性別が変わった程度ではあまり変わらないだろうと思っていたけど全然違った。
男の頃なら気にしなくても良い事を気にしないといけない、周りに女の子として見られて、身体能力もそうなっていて、俺の対応も変わらざるを得なかった。
睦巳は元男だったから、自分が可愛い女の子だという意識がなさすぎて危険だった。
幸いな事に俺にいつもくっついていてくれたので心配は少なかったけど。
他にも身長や身体能力面が顕著だった、元々運動が得意なほうでは無かったとはいえ、それでもやっぱり男だったんだなと今になって思う。それくらい今の睦巳の身体能力は低いと思う。
それは夏祭りと海でのナンパで表面化して、一緒に行動する時は片時も目を離せないと分かった。
そういう訳で女の子になってからはとにかく手が掛かり、男時代のような気楽な遊びはもう出来ないと思うと男の睦巳が懐かしく思えて、また会って一緒に遊びたい、と思う。
でもそれは無理な事なんだと分かってしまった。睦巳は今や完全な女の子、男に戻る事など無いだろう。
勘違いして欲しくないんだけど、別に女の子の睦巳が嫌なわけでもどっちが良い、と言っている訳じゃなくて、ただ寂しいと思うし遊びたいと思う、それだけだ。
女の子の睦巳は凄く綺麗で、可愛くて、ずっと一緒に居たいと思わせてくれる。
それにさっきの手が掛かる、にしても睦巳ならむしろもっと世話を焼かせて欲しい、頼って欲しいし甘えて欲しいと思っている。
男のように遊べない、ただそれだけの事。でもそれは女の子なんだから当たり前の事。
それぞれ別人なら、こんなに悩む事も寂しく思う事も無かっただろう、けど、別人だった場合友達ですらなかっただろう、それは寂しい。
◇◆◇
夏休み中の日曜昼間、宿題を片付けていた。
昨日に引き続き今日も花火大会があるんだけど、睦巳は誘えない、まだ昨日の今日だし、こちらから連絡を取るのも気後れしてしまうし。
土日どちらかで睦巳と遊ぶつもりだったから何の予定も入ってなくて、暇だから宿題を進めているというわけ。
ピンポーンと玄関でチャイムが鳴ったようだ。
特に気もせず進めていると階段を上がる音が聞こえる。
もしかして睦巳だったり?……それは無いか、どこかで聞いた話だと2日目は重いっていうし、なんか知らんけど。じゃあ誰だろう。
「よー!元気かー!暇してるだろうから来てやったぞ!」
扉を勢い良く開けて睦巳が入ってくる、いや待て待て。
「待て待て!体調はどうした?誰が部屋に上げた?」
「部屋にはおばさんが上げてくれた、体調は殆ど痛みがなくなったからもう大丈夫」
「まあ部屋に上げるのは良いとして、体調って、アレは何日も続くんだろ?早くないか?」
「ああ、生理な、人によって結構差があるらしくて、俺は痛みが殆ど無くて、普段と殆ど変わらないかな。昨日は突然大量に血が出て気分悪くなったりどうなるか分からなかったから寝込んでたんだ」
ん、んんッ、聞いてて良いのかコレは?こっちが恥ずかしい気分になる。
「駿には俺の状態を把握していて欲しかったからな、知らないと変に気を使ったりするだろ?そういう腫れ物を扱うようなの嫌だしな!」
「そういう訳だから俺は痛みは殆ど無いし、結構平気、唯一あるとしたらナプキンが慣れない事かな、だから気にしなくても良いぞ」
いや~、なんだろ、こうあけすけに聞かされる事になるとはな~、やっぱ俺が恥ずかしいわ。
でも状態を伝えない事で気を使われるのが嫌だ、なんて、睦巳らしいなあと安心する。
お陰でこちらも話しやすくなった、夜の花火大会行けそうか聞いてみよう、あくまで無理しない程度で。
「そっか、大丈夫そうなら今日花火大会あるから一緒に見に行かないか、あ、でも無理はしない程度でな」
「そういえばそんな時期だな、良いよ、行こう花火大会」
「それで、何やってたんだ?」
「ああ、暇だったから宿題進めてた、どれくらい進めた?」
「え?宿題やってんの?どうせなら一緒にやろうぜ、前のテスト勉強の時みたいにさ」
「そうだな、一緒にやるか、じゃあ宿題は此処までだな」
「どっちの家でやる?俺はどっちでも良いけど」
「そうだな、もし遅くなったら困るし睦の家でやるのが無難かな」
「そっか、じゃあ俺の家でやるか、細かいとこは後で決めよう」
ん?睦巳のやつどうしたんだ?なんかソワソワしてるな。やっぱり、その、生理が気になるんだろうか。
「あー、駿、前向いててくれ」
「ん、良いけど」
今椅子に座っていて、正面を向いて欲しいと頼まれた、何事だろうか。
正面を向いていると睦巳が後ろから俺の首に抱き着いてきて、首を匂うように呼吸をしている。
「うお!?なんだ、どうしたんだ、くすぐったいぞ」
「動くな!……そのまま動かないでくれ」
匂うのを止めたかと思ったら耳元で囁いてきて、ゾクゾクとした。
その内容にもびっくりしたんだけど。
「なあ、首舐めて良いか?良いよな」
「え!?……え?睦お前何言って──」
「動くなって、じっとしてろ」
慌てて振り向こうとした俺に対し、そう言って俺の頭を両手で掴んで正面向きに固定させる。
そのまま睦は後ろから俺の首横をペロ……ペロ…と舐めてきた。
「ンッッ!!??」
本当に舐めて来やがった!くすぐったい!
睦はじっくりと首横から上下に舐めて来て、舐めるだけじゃなく、キスするように首に吸い付いてきた。
そのまま身を乗り出し、鎖骨の辺りまで、特に鎖骨のくぼみを執拗に舐められる。
そして今度は反対側の首を舐めて、吸い付いて、鎖骨を舐めてくる。
初めて首元を舐められる感触は舌のザラつき、それが唇の柔らかさと合わさって、くすぐったくてゾワゾワしていた、そして少しだけの気持ち良さ。
特に首に吸い付いて、そのまま舐められるのは妙にいやらしく、少し痛い。
そして心の何処かにいる冷静な俺が、これ跡が残るやつだ……と思っていた。
「──ぷはあ、ごちそうさまでした」
ポンと音を立てて口を離し、食事を取ったかのような事を言っている。吸血鬼にでもなったのか。
「なあ睦、説明を求めてもいいか、それといい加減に頭を離してくれ」
最後まで頭を掴んだままだった、掴むだけならまだしも、睦が舐めやすい様に両手でグリグリンと動かされたので結構首が痛い。
「ああ、説明な説明……まああれだ、エネルギーが切れてたから補充させて貰った、そんだけ、気にするな」
「エネルギーってお前……なんだよそれは、後多分だけど首に跡が残ってないか?」
「マジか、どれどれ……うわマジじゃん、なんかキスマークみたいなのが残ってるな、まあちょっと夢中になっちゃったからな、元々は匂いを吸い込むだけのつもりだったんだけど調子に乗った」
「マジかよお前、どうすんだよコレ……」
「まあ良いじゃん、マーキングみたいなもんだと思ってさ、なんか言われたら彼女につけられた、って言えば」
「お前な……はぁ、まあいいか、そうする」
睦がつけたキスの跡を撫でる、やれやれと思いながらもなぜかちょっと嬉しい。
それはそうとそろそろ出掛ける準備をするとしよう、睦にもそれを伝えて俺は部屋着から外出用の服に着替えて2人で出掛けた。
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