18.猛暑日
──睦巳 View
放課後、駿と話がしたくてサッカー部を見物している。
今日は猛暑日らしく、湿度と気温が高い、何もしてないのに汗がじんわり出てくる。
休憩時間になり、駿が俺の所に来た。
先週の見学時にやりたいと思っていた、タオルを渡す、というシチュエーション。
今こそやる時だ、と勢い込んでバッグから大きめのタオルを出して駿の額の汗を拭く。
「はい、お疲れ様、汗拭いてやるよ」
「ん、あ、さんきゅー」
やりたかったシチュエーションが実行出来て内心やったやったと喜んでいると。
「あー、すまん睦、タオル貸してくれ」
「ん、良いけど」
とタオルを渡すと、それで腕や首、頭をゴシゴシとしっかり汗を拭き取っていた。
そして駿の汗をたっぷり吸い込んだタオルが返されて。
「ありがとう、しっかり汗が拭けたよ」
「あ、う、うん」
どうやら今日のような猛暑日に、額の汗を優しく拭く、という程度では全く足りなかったようだ。
まあそりゃそうか、少し残念ではあるけども。
しかし暑い、一応木陰に居るというのに汗は止まらず、体温はドンドン上昇しているかのようだ。
「睦もちゃんと汗拭けよ、それとちゃんと水分も、熱中症になったら大変だからな」
「うん、でも水筒からっぽなんだよね、汗は拭くけどさ」
そう言って、返して貰った駿の汗が染み込んだタオルで首筋や額、腕を優しく拭いた。
これが駿の汗の匂いかあ、汗の匂いとフェロモンなんだろうか、なんだか頭がクラクラしてくる。
駿の部屋でも感じた、なんだか良い匂いに感じる、好きだ、この匂い。
「水筒空っぽなら水道でもいいからちゃんと飲んどけよ、マジで危ないから」
少し強めに言って駿は戻って行った。
そんな事言ってもなあ、水道の所まで行くの更に汗かきそうでやだなあ。
そういえば、話したい事があったのに言いそびれてしまった、まあ良いや、時間はまだまだ有るんだ。
帰りにでも話できるだろうし、慌てない慌てない。
◇◆◇
次は練習試合形式っぽくて、駿はFWだった。
試合中盤、シュートかと思うような勢いのクロスに駿がダイレクトにボレーを決めて、勝ち越し点を決めた。まさにスーパーゴール、ゴラッソだった。
その美しいまでの連携が相当嬉しかったのだろう駿とパスを出した人はお互いに喜びあって、抱き合っていた。
汗を気にせず、汗まみれで抱き合って喜びを表現している、なんというか、こう……。
羨ましい。
俺も駿と汗なんか気にせず抱き合って喜びたい、感情を爆発させたい。
同じ目標に向かって一緒に戦うって良いよな……。
まあ制服だし、女子だし、そんな事は無理なんだけどさ。
それに男だった時もあんまり運動が得意では無くて、体育祭では余り目立たないようにしていたくらいだ。
それにしても暑い。風があまり強くないせいか余計に暑く感じる。
なんだか頭がボーッとしてきた。
身体がフラフラ、フワフワする。
……駿がこちらに走って来ている、……わざわざ俺の所にまで来て喜びを分けてくれるのか?……優しいなあ……。
視界がグラリと大きく傾き、立っている感覚が無くなり、意識が途切れた。
──駿太朗 View
今日は珍しく、いや先週のテスト後も見に来てたからそこまで珍しくもないか。
とにかく睦巳が見物に来ている。
それは嬉しいが、今日は猛暑日だ、何もこんな暑い日に見に来なくても、と思う。
俺達でさえ、多めの休憩に多めの水分補給をしっかりするように言われているんだ。
そこの準備は大丈夫だろうか。
休憩時間になったので睦巳の所へ向かう。
「はい、お疲れ様、汗拭いてやるよ」
「ん、あ、さんきゅー」
睦巳がタオルを取り出し、額の汗を優しく拭いてくれた。
それは嬉しい、うん、だけどもっと汗を拭きたい、首や頭、腕をしっかり拭いてくれとも言いづらく、タオルを受け取って自分で拭く事にした。
「あー、すまん睦、タオル貸してくれ」
「え、良いけど」
頭、首、腕などの汗が出て拭けそうな所をしっかり拭いた。
睦巳を見ると汗をかいていて、自分のこそ拭いて欲しい。
「睦もちゃんと汗拭けよ、それとちゃんと水分も摂るんだぞ、熱中症になったら大変だからな」
「うん、でも水筒からっぽなんだよね、汗は拭くけどさ」
これは分かってない感じで危険そうだ、念を押しておこう。
「水筒空っぽなら水道でもいいからちゃんと飲んどけよ、マジで危ないから」
本当は塩分も必要だけど、いきなり言って確保出来るものじゃないしなあ。
とりあえず、水だけでも、だ。
それだけ伝えると俺は部活動に戻った。
友達が茶化してくるけど、今は恋人同士の振りをしているんだ、堂々と言い放った。
「睦は俺の彼女だ、そりゃイチャイチャもするだろ」
そう言うと今度は羨ましがられる、ふふ、睦巳には悪いけどとても良い気分になる。
睦巳は自分で分かっているか怪しいけど、100人に聞いたら100人がとびっきりの美少女だと答えると確信するほどの美少女だ。羨ましかろう。
しかし同時に虚しい、しょせんは偽りの恋人だからだ。
あくまで俺達は親友同士、睦巳の距離感がおかしいし、俺もそれに甘えてるからこんな関係になっているだけで。
でもこんな関係でもまだ続けたい、もっと睦巳に甘えたい、キスだけじゃなく、その先も、と欲張る自分がいる。
腕枕にかこつけて、全身で抱きしめたい。そう思ってしまう。
強引にでもシたい、そう思ってしまう事も、だけどそれは俺を信頼しきっている睦巳を見ると抑えられる。
そんな事を考えたりするくせに、俺は睦巳と一番の親友でいたいとも思っている。
恋人では無く、精神的な距離の近さや気易さとでも言うか、男同士の時のように、いやそれ以上の親友に。
……全く矛盾している、度し難い。
そんな親友関係は存在しないし、そんな恋人関係もない。
◇◆◇
練習試合形式で試合が始まった。
控え組でポジションはCF、左WGの位置には同学年では一番上手い友達が入った。
レギュラー組の先制点から始まって、抜け出した俺のマイナスのクロスから左WGの友達が流し込んで同点。
その後、左WGの友達がドリブルで一人抜き、高速クロスを入れてきて、ギリギリ抜け出した俺のダイレクトボレーが決まって逆転した。
2人で良く練習した形が見事に決まり、逆転出来て嬉しくなった俺達は汗まみれなのも気にせず抱き合って喜んだ。
ひとしきり喜んだ後、睦巳を見るとなんだかボーッとしてるような……そして身体が少しフラついているように見える。
直ぐに危険だと判断した俺は睦巳へ駆け出した。
あいつ!ちゃんと水分はとったんだろうな!?流石に試合中は気にかけてやる余裕は無い。
だから忠告した後にどうしたかは見ていない、でも多分、この感じ、嫌な予感がする。
睦巳の身体が大きく斜め前方向へ傾き、倒れる。
睦巳が倒れる寸前、ギリギリで身体を支えられた。
何かを考えるより先に、背中におぶって保健室へ連れて行く事を伝え、出来るだけ早く保健室へ向かった。
抱える身体が全身濡れているように感じる、熱中症じゃない事を祈る。
◇◆◇
「先生!睦巳が倒れました!直ぐに見て下さい!」
保健室に入るなり、大声で先生に声を掛け直ぐに対応して貰った。
症状の軽い熱中症のようだった。
症状が軽くてホッと一安心する、ただ、水分が足りない事には変わりなく、体力低下している事もあり暫く保健室で安静にする事になった。
部活も今はどうでもよくなっていて、睦巳に付き添った。
うちわで睦巳を仰ぎながら、様子を見ていた。
「ねえ君、この娘の彼氏で合ってる?」
「え、はい、そうです」
保健の先生から声を掛けられる、なんだろう?
「じゃあ、熱を逃がすために少し服を脱がしてあげて、頭、首、胸元、脇の熱、それに靴下と……本当は下着もなんだけど、スカートは脱がしてあげて、熱を逃がして下げるようにしてね」
「え?え、ええ!?……俺がですか?」
「うん、彼氏なんでしょ?まさか嘘だったりとか?」
「いや恋人です、だけど、そういうのは先生がやるんじゃ?」
いや嘘だけど、恋人じゃないけど。
でも何を言ってるんだ、この先生は、睦巳は女の子なんだぞ、男である俺がやっちゃまずいんじゃないのか?女性である先生がやるべきだと思うけど。
「なんだよ君は、冷たいなあ、恋人が苦しんでるのに自分で助けたいと思わないのかい?」
「う……」
そう言われちゃやらざるを得ない、それにこんな事で押し問答してもしょうがないし、早く睦巳を楽にして助けたい。
「分かりました!やります、いや、睦巳を楽にさせてあげるのは俺の役目です」
「お!いいぞ、それでこそ男の子だ」
「あー、でも目的はあくまで楽にさせて、そんで熱を逃がして下げる事だからね、それを忘れないように。汗を拭く時は渡した濡れタオルで拭いて適度に濡らす事。あと起きたら水分摂らせる事。
じゃあ、頑張ってね」
「え、先生どこいくんですか」
「んー、ちょっと野暮用、任せたよ」
マジか、この先生無責任すぎないか。
でもそんな事より、睦巳を楽にしないと。
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