12.恋人の振り
──駿太朗 View
テスト期間が始まって、今日で最終日、俺も睦巳も特に問題なく上位に入れると思う。
最終日の今日は俺も睦巳もクラスで打ち上げがあり、その後の予定は入ってないけど何かあればメッセージで連絡が取れるし大丈夫だろう。
で、打ち上げは定番のカラオケに決まり、カラオケボックスに居るんだけど、ちょっと不味い事になった。
始まりは高校生によくある、あの2人は付き合ってるだとか好きな人はいるのかだとかそういう話だった。
でだ、そういえば先週から毎日可愛い女の子が迎えに来てるよな、という話になり、睦巳の可愛さ談義が始まり、そして。
「で、どういう関係なの?」
うん、まあそうなるよな、分かる、俺もそう思う。
「そういや1度駿太朗をずっと待ってて、抱き着いて泣いてた事もあったよな」
なんて事まで暴露されて。
「あれで彼女じゃなかったら駿太朗最低だよな」
「だよな、可哀想だろ」
考えろ俺、此処で彼女じゃない、付き合ってないというのは簡単だ、だけどそう言った場合、俺の評価はどん底まで落ちるだろう。
前に告白してきた娘に答えたみたいに大事な人だ、というのもここまでやらせてそれは無いだろう、となり同じ事だ。
そして睦巳と付き合ってないとなると、最近モテている睦巳はフリーなのが明白になり、さらに告白やアプローチを掛けるやつが増えるだろう。
もうちょっと考えよう、睦巳があの状態な限り俺は彼女を作る気がない、そして睦巳は多分今の状態だと彼氏をつくるような状態じゃない。
そう考えるとだ、もういっそ、睦巳を彼女って事にしたほうが八方丸く収まるんじゃないか?
俺や睦巳に言い寄る人は減り、今みたいに一々関係を聞かれなくなり、一緒に居ても何か思われる事もなくなり、睦巳にしてもデメリットは無いはずだし、多分拒絶はしないと思う、しないといいな。
良し!とりあえずそういう事にしよう!もし睦巳に拒絶されたら振られたって事にすれば良い。
「流石にバレたか、俺と睦巳は付き合ってるよ」
「いやバレたかってお前、むしろどうやったらバレないと思うんだ」
「だよな、毎日あんな可愛い娘が甲斐甲斐しく迎えに来てたんだぞ、羨ましい」
「そもそも1年の頃から今ほどじゃないけど仲良かったよな」
「まあな、俺達は幼馴染なんだ、だから昔から仲は良かったよ」
「いいなー、羨ましいなーあんなに可愛い娘だしなー、結局は駿みたいなイケメンスポーツマンがモテるのかよ」
「妬むな妬むな、これも積み重ねだって」
そんな感じで俺達は付き合ってる事にした。
あーでもどうしよう、睦巳になんて説明したら良いのか。
親友だと思ったのに!とかそんなつもりじゃない!って怒られたりしたらやだなあ。
結局俺はその日、睦巳にそれを伝えられず日を跨いだ。
◇◆◇
テストが終わり翌日の金曜日、今日から部活が再開される。
放課後になっても睦巳が来ない事に少しの寂しさを覚えたがこれが本来の姿。
サッカー部の部活動に参加した。
部活を始めて直ぐに、グランドの脇に女の子が1人見物していた。
なんだか可愛い娘が来ているぞと少し話題になっていて、初めてそれに気付いた。
あれは睦巳じゃないか、こんな所で一体どうしたんだろうか。
俺に気付いたのか、小さく手を振る睦巳。
周りの男子はちょっと騒いでいる、俺に手を振っただの言っている。
俺は周りにも分かるように大きく手を振り、睦巳に応えた。
すると睦巳もぴょんと跳ねて大きく手を振り、それに応えてくれた。
ちなみに跳ねた時に大きな胸が揺れて、一部男子がおお~と喜んでいた。
分かるよ、男は何故かおっぱいが揺れるだけで嬉しい、俺も嬉しい、でも見るな。
「おい駿太朗、あの娘ってお前の彼女か」
「ええ、はい、そうです」
先輩部員に声を掛けられ、それに答える、もうそういう設定だからそれでいいや。
「わざわざ見に来てくれるなんて良い彼女じゃないか、大事にしろよ」
「ええ、本当に、大事です」
「あれ矢内さんじゃないか、まさか迎えに来たのか?」
「迎えに来たかは分からないけど、どうしたんだろうな」
同じ部活のクラスメイトにも言われた、でも本当、どうしたんだろうか。
◇◆◇
休憩時間になり、睦巳の所へ向かう。
「おーい、どうしたんだ、何かあったのか?」
「いや」
睦巳はなんだかモジモジしている、マジでどうしたんだ。
「どうしたんだ、マジで何かあったのか」
「──あの、俺、さ、……駿の、……彼女って、事に、……なってる?」
あッ!そういえば伝えてなかった!
どうしよう、なんて言おうか、……ええい!下手な言い訳して怒られるより、正直に話して怒られよう。
「えーとな」
「……うん」
睦巳は顔を真っ赤にして少し俯いている、どういう感情なのか分かりにくい。
怒ってるのだろうか、もしかして嬉しいのか、いやでも勝手に彼女扱いされて嬉しいはずがあるわけないか。
「結論から話すと今、睦は俺の彼女って事になってる」
「!?……やっぱりそうなんだ……」
「経緯を話させてくれ」
「うん」
「昨日の打ち上げでな、話題に上がったんだ、毎日俺を迎えに来てた甲斐甲斐しくて可愛い女の子がいたよな、って」
「そんな甲斐甲斐しくて可愛いだなんて……」
「でまあ当然、俺に話が振られるわけだ、彼女なのか、と」
「まあ、そうなるよね」
「その時俺は考えた、俺は睦が近くにいる限りは彼女を作れないし作る気も無い、睦も彼氏とかそんな余裕はないだろう、と。
それにフリーだって分かると俺もそうだけど睦はもっとモテて今より告白やらアプローチが増えるだろう、と。
どうせお互いが恋人を作るつもりが無いなら、いっそ付き合ってる事にしたほうが面倒臭い事が無くて良いんじゃないかと思って、睦巳は俺の彼女、って事にした」
「なるほどそういう理由だったんだ、でも勝手に恋人にしちゃうなんて酷いなあ。
俺達はそういう関係じゃないのにさ」
やはり睦巳は怒っているようだ、そりゃそうだ、勝手に恋人にされたんだから。
俺達はあくまで親友、振りとはいえそれを勝手に越えてしまった。
「本当にごめん、勝手に恋人って事にしちゃって、俺がやらかして振られた事にして分かれたって話するよ」
「え!良いよ良いよ!そんな気にしてないし!それに……そう!面倒臭い事が無いのはその通りだからね!その設定でいこう、うん!」
俺には睦巳が無理して笑顔を作っているよう見えたので俺は付け加えた、これは本気じゃないという事を示すために。
「念のために言っておくと、これは偽装恋人だから、つまり恋人の振り。
だからさ、睦巳に本当に好きな人が出来るか、心が落ち着いたらちゃんと俺が振られた事にして終わりにするから」
「大丈夫、うん、でもさ、それなりにちゃんと恋人同士しないとバレちゃうかもだよ」
「確かにそうだな、急に人前だけで恋人の振りしようとしても失敗する可能性はあるな」
「だからさ!普段から恋人同士っぽくしようぜ!俺達は分かってるから大丈夫だし、周りには恋人同士に見えるしで、バレにくいと思うんだよね」
「んー、まあ、睦巳がそれで良いなら、でも本当ごめんな」
「良いから!気にしてないから!……もうこれで謝るの無しな!んでやるからにはちゃんと恋人同士だからな!」
「分かった。さっそく今からそうするか、っとゴメン、休憩終わったから戻る」
「うん、あ、今日は終わるまで待ってるからな!」
「駿ー!がんばれー!」
睦巳は大きく手を振ってくれた。
良かった、睦巳は俺のやらかしを許してくれるみたいだ、しかも恋人の振りまでしてくれるって云うし、この件は睦巳を頼るとしよう。
「お前ら部活中からイチャイチャすんなし」
「はは、羨ましかろう」
この日、休憩毎に話掛けに行って、出来るだけ退屈させないようにしたりもして、部活が終わるまで睦巳は待っててくれた、そして皆の前で腕を絡ませて帰った。
振りとはいえ恋人って思うだけで同じ腕の絡みでも違う感じがした。
っといかんいかん、あくまで振り、俺達は親友だ。
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