4.甘えて!甘えたい!


──駿太朗 View


「駿、睦巳ちゃん迎えに行ってくるから準備して待ってなさい」

「あー、うん、分かった」


今日は土曜で俺と睦巳と和香姉さんの3人で買い物に行く予定。

姉さんは1人で睦巳を迎えに行くようだ。

睦巳にオシャレを教える為に1人で行ったのだろう、戻るまでは結構かかりそうだな。


とはいえもし直ぐに戻ってきて準備出来てなかったら怒られるし、俺も準備を済ませておこう。

スキンケアをしてニュアンスパーマを軽く手櫛でいい感じにする。

正味15分くらいで準備が終わってしまった。


◇◆◇


そろそろ姉さんが出掛けて1時間くらい経とうとしていた、流石に長くないか。

待ち疲れて睦巳にメッセージでも送ろうとスマホを出したら丁度玄関でチャイムが鳴った。


やっと来たかと思い、玄関で扉を開ける。

睦巳が玄関前に立っていた、そしてそれを見た俺は思わず。


「可愛い…」


と声を出してしまった。

腰まである僅かにウェーブがかった艶のある濃いダークブラウンな髪、筋が通り小さい鼻、二重で大きな瞳、沢山の長い睫毛、薄くて桜色で艶のある唇、色白で卵型の輪郭に加えて、肩出し服に膝丈上のフレアスカート。

女の子らしい可愛さとセクシーさを両立させていて、ヤバい、俺の好みすぎる。


「本当に!?んふふ、嬉しいなあ、駿が好きそうな格好をしてみたんだよね」

「ああ、本当に俺の好みすぎてビックリした、よく分かってるな」

「当たり前だろ、駿の好みはバッチリ覚えてるからな、これからも好みな服装を出来るだけ着るから期待しててくれよな」


「──しかし睦、ありがたいけど良いのか?そんな何処からどう見ても女の子みたいな格好して」

「ああその事か、駿は気にしなくていい、俺も考えたんだ、これからどうしたらいいか。

駿は支えてくれる、頼っていいって言ってくれたけど、やっぱり俺は駿と対等な関係で居たい、だけどもう男みたいな頼りがいは無い。

だからこれからは駿の為に女の子として磨きをかけるから、そんで駿を支えて頼られたいし、それに…あ、あま、甘えて…ほしい…から、な」


そう言って上目遣いで俺を見つめてくる、破壊力がヤバい。

そんな事気にしなくても良いのに、でもそういう律儀な献身性は睦巳らしいと感じる。

その上目遣いに目を合わせていられず恥ずかしくて思わず顔を背けてしまった。


「うん、ありがとう、でもな、俺が支えたいって思ってるだけだし、お前が無理しなくても良いんだぞ」

「何言ってんだ、そんな一方的なのはダメだ、俺達は親友なんだからお互いに頼ったり支え合うものだろ、俺には駿しか居ないんだし、それに俺は女の子なんだし、お前も甘え……たい…だろ?」


今度は睦巳が顔を真っ赤にして顔を背けた。

お互いに目を合わせられず顔を真っ赤にして背けていると和香姉さんが車から降りてきていて呆れていた。


「あんたらイチャつくのは良いけどね、待ってる人がいる事は忘れないでよ」

「あっ、姉さんごめん、すぐに行くよ」

「和香さんごめんなさい」


和香姉さんは運転席で睦巳は助手席へ、俺は後部座席へと座った。

今どきの軽自動車は後部座席もそこそこ広いよな。


「睦巳ちゃん、どうだった?って聞くまでも無いか」

「はい、可愛いって言ってくれました、凄く嬉しかったです」

「うんうん、悩んだ甲斐があって良かったね。駿も恥ずかしがらずにちゃんと感想言えて偉いぞ~」

「あー、うん、思わず口から出ちゃったんだ」

「へー、ってことは心からの感想だね、睦巳ちゃんもやる気が出るんじゃない?」

「和香さん、お、私にもっと色々教えてください」


ん?今睦巳のやつ"私"って言ったか、そうか、女の子としてやってくからそれに合わせて言葉遣いも変える気なんだな。

後部座席から眺めているとなんだかどんどん俺の知らない睦巳になっていくようでそれはそれで少し寂しい気もする。

こうして2人の会話を聞いているとまるで女の子が普通に話をしているみたいに感じるし、なんだろうなこの疎外感。

まあ睦巳が楽しそうだから良いんだけどさ。


玄関先での会話を思い出すと、睦巳のやつ、甘えて欲しいとか甘えたいとか言っていたな……。

もう何回も思ったけど、それって親友の枠じゃなくて恋人だよなあ、どうも睦巳の親友に対する認識や距離感が大きく変わっていて恋人同士の行為も親友でやる事のように認識しているのだろうか。

睦巳も"俺には駿しか居ない"とも言っていたし、やっぱり過去を知るのが俺しか居ない、というのは相当な精神的負荷で多分俺への依存が凄い事になっているのかも知れない。


見た目の可愛いさとか多少のスキンシップ位なら受け入れられる。

けど、睦巳に対して恋愛感情を持っている訳じゃ無いからあんまりグイグイ来られても正直困る。

俺にとっては睦巳はまだ男で親友なんだ。


そんな事をぼんやり考えていると目的地のショッピングモールに着いたようだ。

まあ荷物持ちな俺は2人の後を着いていくだけだけど。



姉は弟の俺が言うのも何だがまあまあ美人だと思う。

大学1年で162センチで背中まであるセミロングの茶髪で、全体的に細身の美人、だと思う。

そして睦巳はとても可愛い、美少女。

この2人が一緒に歩いているんだから結構な視線を集める、主に男から。

睦巳は肩出しと鎖骨がばっちり見えていて色白な綺麗な肌も相まって相当な色気を醸し出している。

可愛くてエロいってのは俺の好みなんだけどさ。

なんだかイライラしてきたぞ、俺の為の格好なんだからお前ら睦巳を見るなよ。

そう思って2人の後ろをついて行ってると睦巳が振り返り、俺の横に並んだ。


「なあ駿」

「ん、どうした?」

「思ったより見られてる気がしてさ、その、ちょっと安心させて貰っていいか?」

「ん?睦巳が安心できるならいいけど」

「やった、あ、駿はそのまま動かなくて良いからな。……よし、えい!」

「うお!」


睦巳はうれしそうに俺の左腕に抱き付いてきた、そしてその大きな胸で俺の腕を挟み込んだ。

柔らかい。視覚的にもとんでもない破壊力だ。

ちょっと待て!それはダメだ、俺の俺が臨戦体制に入りそうになる。


「睦巳!待て!その……な、(胸で挟むのはダメだ)ヤバい事になる」


周りには聞こえないように胸の部分は声を下げて伝えた。

睦巳はそれで気付いたようで、顔を赤くして身体全体じゃなくて腕だけを絡ませてきた。

うーん、それでも胸の横部分は当たってるけど、……まあこれくらいなら我慢出来るか。


そうしていると姉も近づいてきた。


「ちょっと目を離すと直ぐにイチャイチャするんだから。よし!愛しの姉も協力してあげよう」


空いてる方の右腕に腕を組んできた。


「これで両手に花だねえ、嬉しいでしょ?」

「あー、うん、片方が姉じゃなったら最高だった」

「は?なんだって?」

「嘘嘘!冗談だって!いやあ和香姉さんと睦巳に挟まれて最高だなあ」

「ふーん、良かったねえ」

「!?いってぇ!」


和香姉さんは笑いながら俺の右脇をつねってきた。

思わず大声が出てしまった。


「おや?どうしたんだい弟くん、往来では静かにしないとダメじゃ無いか」

「いてて……姉さん痛いのは勘弁してよ」

「まさかそんなオーバーリアクションされるとは思わなかった、ごめんごめん」


確かに傍目には両手に花でしかも2人とも美人で可愛い、羨ましく見えるかもしれない。

でも片方は姉で、もう片方は元男で親友だ、たしかに睦巳は可愛いけどそれはそれ、俺の心情は複雑だ。


女性下着専門店の入り口に来て、俺と睦巳の足は止まった。


「何立ち止まってるの、早く入るよ」


そう言って和香姉さんは俺の腕を無理矢理引っ張って入っていく。

それにつられて睦巳も店内に入った。


「(なあ、俺こういう所入るの初めてで緊張するんだけど)」

「(俺も下着売場は初めてだ、てか男の俺が入って良いのか?)」


睦巳と小声で話した。


「睦巳は今は女の子なんだから堂々としてて良いんじゃないか?」

「まあそうなんだけどさ」


「睦巳ちゃん、まずは下着のサイズを測ろう、今のサイズで合わせる事は大事だからね」

「はい、分かりました、……それであの、全然分からないので教えてください」

「大丈夫大丈夫、分かんない事は店員さんに聞けば、じゃあ店員さんこの娘をお願いします」


睦巳と店員さんは2人で更衣室に入っていった。

姉さんは自分の服を見て回るのに夢中になっているようだった。つまり俺は一人。

あまりキョロキョロしないように歩き回らず更衣室の前付近でいかにも連れを待ってます感を出して不審がられないように気をつけた。

流石に下着売場はすごく居づらい、睦巳~俺を1人にしないでくれ~。


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