第3話 陽と陰


 自分が陰キャか陽キャかで世界が二分される。

陰キャグループ事務局長でもある私の夏休みの過ごし方は2つだ。

家でアニメかVチューブを見て過ごすか、部活に行くか。

 

 流れるプールなんてのはご家族か陽キャが行くところで、

家族揃って外出は中学と同時に卒業した私には縁遠い存在。


 目の前を走って騒ぐお子様に、危ないよーと心の中で声をかけながら、

水着の私はに焼かれていた。

来てしまってます。流れるプール。


「ごめーん、お待たせ! ついクセで死ぬ前のわたしに合う水着買っちゃって」


 とても健康的とは言えない白い肌。筋肉の具合でいえば私より日陰が合う身体になってしまった元先輩は、ピタッと寄り添うように隣に腰掛けてくる。


「パッドありがとね!」


 今朝慌てて用意したという2枚のパッドじゃ足りず、私からも1枚支援することになった。


「先輩、あんまり前かがみにならないよう気をつけてくださいね」


 多分上から見たら先端が出ちゃうから。


「これほどまでヌーブラが欲しいと思うなんて、前世ではなかったよ。あー! てかまた先輩呼びに戻ってる!」


 見た目はこの前知り合ったばかりの知らない幼なじみなのに、中身は確かに真惟先輩だから脳がバグる。


「る、瑠衣」


「へへへ。ずっと先輩呼びで、一回も真惟って呼んでくれなかったから新鮮だな」


「自分じゃない名前で呼ばれるってどんな気持ちなんです?」


「司法取引で新しいパスポートを貰って海外で暮らす元テロリストの気持ちが分かったよ」


「それはきっと日本人初ですね。二人乗りの浮き輪借りたので、乗りましょっか」


 左右相互で向かい合うタイプしかなかったから、ちょっと恥ずかしい。







 元先輩、もとい瑠衣は当たり前だけど真惟先輩とは別人の顔をしていて。

なんなら先輩より随分可愛らしくなって。本人はそれがとてもうれしいようだけど。

私はまだ慣れてなくて、もし瑠衣がキスをせがんできたら目を逸らせて悲しい思いをさせてしまうかもしれない。

 

 先輩の見た目は確かに好きだったけど、見た目が変わったからといって好きでなくなるなんて、それじゃ私あんまりだ。

 

「空、やっぱり無理に誘っちゃったかな?」


手の平で水をチャプチャプと撫でながら、心配そうな顔を見せる瑠衣にちょっと申し訳なくなってしまう。


「あ、いえ……。その、まだ自分の中で色々消化しきれてなくて。せんぱ……瑠衣はあれから――」


 ふと視界にあかく長い髪の毛のようなものが映り――

景色がスローモーションでスライドして、ついにはひっくり返って。

ゴポゴポゴポという泡の音で、自分が水の中に引き込まれたことに気が付いた。

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