第3話 交錯

パラドックス

交錯




行動を伴わない想像力は、何の意味も持たない。      チャップリン






































 第三薔【交錯】




























 例えば、「私は嘘つきだ」と言った男がいたとしよう。


 その男が本当に嘘つきだった場合、男は嘘つきではないということになる。


 男が嘘つきでなかった場合、男は嘘つきということになる。


 果たして、男は嘘つきか否か。




 例えば、ワニが口を大きく開いて、今にも子供を丸のみしようとしている。


 そこに子供の母親がやってきて、助けてくれと言う。


 ワニは母親にこう言った。


 「私が次に何をするか当たられたら、この子を食べない。だが当てられなければ、この子を食べる」と。


 だから、母親はこう答えた。


 「あなたは私の子供を食べる」


 もしもこの答えが正解だった場合、ワニは子供を食べることが出来ない。


 答えが外れだった場合、子供を食べてしまうのだから、それはつまり母親の答えがあっていることになってしまう。


 ワニはどうすることも出来ずに、子供を食べることも出来ない。






 このようなパラドックス、つまりは矛盾やジレンマというのは、いつでも、どこでも、はびこっているのだ。








 「こいつらを殺せ」


 ジョセフの一言に、ブランたちは二人を取り囲む。


 イデアムとブライトは互いに背を合わせながら、こんな会話をしていた。


 「あーあ。こんなところでハチの巣になるなんて、俺は御免だぜ?」


 「私もです」


 すると、一人だけ武器を持っていないジョセフが、二人を囲んでいるその外から声を大きめにして言う。


 「あんたがいなくなれば、お前の革命家はいなくなって、新たな革命家として俺達の名が世界を馳せる」


 「はっ。俺達はそんなの興味ねえっての。そんなに有名になりたきゃ、勝手になりゃあいいだろう」


 「とにかく、俺はあんたに消えてほしいんだよ。あんたさえ消えれば、今の革命家だって解散するかもしれないしな」


 「・・・それが分かってて俺を殺す心算なら、とんだ阿呆だな」


 イデアムが笑った瞬間、ひゅんっ、とジョセフの頬を何かが掠めた。


 ジョセフはそっと自分の頬を触ってみると、そこからは微かに血が出てきていた。


 そして、それは明らかに銃で撃たれたものだと分かると、シュ―ナーはその弾丸が飛んできた方向に銃を向け、ジョセフは唇を噛みしめる。


 「あんた、一人で来なかったのか!」


 「あれー?俺は一人で来たと思ったんだけどなー。あいつら勝手についてきちゃったのかな―」


 「小賢しい真似を!」


 「どっちがだ。それに、俺が素直に一人で来るとでも思ったのか?お前等が相手にしてんのは、正義でも英雄でも無いんだぜ?」


 ざざ、と、気付けばジョセフたちは取り囲まれていた。


 一人離れた場所で、イデアムたちが丸見えの高さにいるホズマンは、うつ伏せになって遠距離用の銃を構えていた。


 ブライトも剣を抜くと、一触即発のその場面で、口を開いたのはイデアムだ。


 「例えば、俺がここで死んだとして、こいつらが黙ってると思うか?」


 ニイッと笑って言えば、アリナスが両手を合わせるようにして、指で何か形を作っているのが見えた。


 それを見て、イデアムは相手が女だろうと構わず、背後に移動してアリナスの両腕を後ろで掴み、そのまま前に押し倒した。


 さらに動けないようにと片膝を背中に乗せると、アリナスは全く動けなくなってしまった。


 アリアナが銃でイデアムを撃とうとすると、マリアが銃口を剣で弾き、銃弾は虚しくも空中に飛んで行った。


 「私の相手をするには、力不足だと思うけど」


 「それはやってみないと分かりません」


 銃と短剣を上手く使ってくるガルマには、ジュアリ―が対応した。


 ホズマンは同じスナイパーのシューナー、オリバーは同じく力自慢の男メトナーシャ、そしてブライトはブランの相手をする。


 その間に、イデアムはアリナスの腕を紐で縛り、その辺に放置した。


 「ったく。血の気の多い奴らだ」


 肩を揺らしながら笑っているイデアムに対し、ジョセフは歯の奥を噛みしめる。


 「・・!!!」


 キィィィィン、と剣が弾かれ、マリアは剣を取ろうと腕を伸ばすが、そこにまたアリアナは銃を撃ちこんできた。


 動きを止めたマリアに対して、アリアナは髪をかきあげながら近づいてくる。


 「あなた、随分弱いのね。それでよく今日まで生き残ってこれたもんだわ」


 「・・・私は、みんなの足手まといで、まだまだ未熟な人間です」


 「分かってるなら、ここで死んでおいた方が、役に立つってもんなんじゃない?」


 風に吹かれれば、さらっと靡くアリアナの髪と比べると、マリアの髪は少しばかり傷んでいた。


 それは、奴隷市場で売られ始めてからというもの、髪などに気を使っている時間なんてなかったからだ。


 そう考えると綺麗に整えられているが、それはジュアリ―が頻繁に毛先を切ってくれているからだろう。


 あともう少し腕を伸ばせば剣に手が届くというのに、アリアナはマリアのことをじーっと見ていて、身動きひとつすれば、きっと身体に風穴が吹くことだろう。


 「あら、もしかしてあなた、奴隷だった?」


 「・・・!」


 クスクスと笑い、アリアナは続ける。


 「隠してあるようだけど、鎖骨のところ、ちらっと見えてるわよ?」


 親に裏切られて奴隷市場に初めて行ったとき、逃げないようにということで、鎖骨のところに印をつけられてしまった。


 焼印やタトゥーなどといったものではなく、切られてつけられた痣。


 見ず知らずの男の手によって、身体からは多くの血が流れたことを思い出す。


 「だったらなんですか。今の私には関係ありません」


 「あら、そうかしら?奴隷っているレッテルは、何処へいっても消えないものよ?かく言う私も、元は性奴隷でね」


 そう言って、アリアナはぺらっと服を捲って腹を見せてきた。


 へその下につけられたそれは、マリアのものと似ているが、きっと地域が異なるからなのか、マークもつけられ方も違っている。


 服を戻している間に、マリアは剣を掴もうとしたが、横目で見ていたアリアナが銃で撃ってきたため、遠のいてしまった。


 「あの当時は、男たちなんてみんな殺してやろうと思ってたけどね。今となってはまあ、良い思い出よ。銃一つ手にしただけで、私の世界は一変したの」


 「どこで、銃なんて」


 「ジョセフがくれたのよ」


 売られていたアリアナは、憔悴しきっていた。


 男に買われて飼われて、身体の肌が剥けるまで鞭で叩かれたこともあった。


 蝋燭の蝋を身体に垂らされたり、犬のように首輪をつけられたり、精神が崩壊するほど強引に抱かれたこともあった。


 そんなときに救ってくれたのがジョセフだ。


 「この銃を渡されたとき、私は恐怖よりも復讐の方が込み上げてきたわ。やっとあいつらをこの手で殺せる日が来たのかと思ってね。あなただって、殺したいと思ったくらいあるでしょ?」


 「私は・・・」


 「女に生まれたってだけで、男たちに乱暴に扱われる。欲望を吐き出すためだけに買われて、あとはポイッ。正妻には言えないような性癖を持った男には、妾になれと言われたこともあったけど、馬鹿にしないでほしいわ。私にだって意思があるの。男に抱かれただけで喜ぶような、そんな安い女じゃないわ」


 キッ、と、その時のことを思い出しているのか、アリアナはこれまでにないほどの鋭い目つきでマリアを睨んだ。


 「この武器ひとつ手にあるだけで、今まで私をただのヘタイラと思っていた男たちがひれ伏し、力無く倒れて行くのよ」


 銃を握りしめていた手を再びぎゅっと強く掴むと、アリアナは呼吸を荒げながらマリアを狙う。


 「初めて男を撃ち殺したとき、私わかったの。結局、力のある人間が勝つんだって。私を救ってくれたジョセフの邪魔は、誰にもさせないわ」


 ぐっと引き金を引いたアリアナだったが、目の前にばさっと何かが覆った。


 「!?」


 急いでそれを取り払ったときにはすでに、銃を持っている方の手をマリアの足に蹴られるところだった。


 その衝撃で思わず銃を落としてしまったアリアナは、銃を取ろうと身を屈めたが、すうっと自分の首元に剣をあてがわれたことに気付いた。


 マリアはマントを脱ぎ、それをアリアナに向けて投げ着けたようだ。


 「・・・殺さないの?」


 「私は、違うと思います」


 「はあ?何がよ?」


 アリアナは片膝を地面につけ、銃の方に手を伸ばしたままの状態で、自らに剣を向けているマリアを見上げる。


 「確かに、私たちは弱くて、力のある男性に敵いませんでした。けど、力だけでは私たちを変えることは出来なかった。私達が変わろうとしたのは、私達の心を救ってくれた人たちがいたからです」


 「・・・ふっ。心?それこそ馬鹿にしてるわね。力さえ持っていれば、何でも変えられるのよ」


 「力で変えられるものなんて、本当に変わったとは言えません」


 現に今、マリアもアリアナも、こうしてここで戦っているのは、自分の意思である。


 初めて男に買われたときには、言う事を聞かずに暴力を振るわれたこともあった。


 無理矢理口づけを交わされたときには、舌を噛んでやろうかと思ったこともあった。


 言う事を聞かせるには、痛みを与えるのが一番だと言う男たちの世界で生きてきた女にとって、自分の意思のもと動けるというのは、自由と言っても過言ではない。


 「じゃあ、あなたは何で変わったのか、見せてもらおうかしら・・・!」


 「!!」


 そう言って、アリアナは銃を勢いよく掴むと、マリアに向かって一発撃ちこむ。


 間一髪避けられたマリアに、体勢を立て直したアリアナが次々に銃を撃ちこんでくる。


 弾の入れ替えも手早く、慣れていた。


 『マリア、一度剣をおいてみな』


 『え?剣を置くんですか?』


 『ああ。今からお前に教えるのは、武器がなくても自分の身を守れる技だ』


 アリアナがまた弾を入れ替えたそのとき、マリアは剣をアリアナに向かって思いっきり投げ着けた。


 まさか剣を手から放すとは思っていなかったアリアナは、目を見開き、剣から逃れるために身体を避けた。


 すると、避けた先にはマリアがいて、銃を構えるが、マリアは身を屈めると銃を持っている腕を回し蹴りした。


 銃をまた落としてしまったアリアナに、マリアは躊躇なく肘で喉を狙った。


 咳こんでしまったアリアナは、喉に手をあてていた。


 剣を鞘におさめたマリアは、はあはあ、と肩で息をしている。


 「・・!よくも、やってくれたわね!」


 「・・・もう私は、何も出来ない、昔の私ではありません」


 「はあ?」


 「まだまだ弱いけど、あなたと違って武器なんて持っていなくても戦えます」


 「だから何よ・・・。持って無いより持ってる方が良いに決まってるでしょ」


 そんなアリアナの言葉に、マリアは小首を傾げた。


 「そうでしょうか?」


 剣も銃も他の武器も、人を傷つけるためだけにあるのではない。


 マリアはアリアナに近づくと、両膝を揃えて曲げる。


 「イデアムさんは、武器を持たないのに、強いんです。それに、みんなの心を動かすのがとても上手で、みんな、イデアムさんの為に強くなろうって頑張っているんです。あなたたちだって、そうじゃないですか?戦うためだけなら、あの人について行かなくてもいいことですよね?」


 ニコッと笑うマリアの手にも足にも、痣や包帯が巻かれている。


 マントを羽織っていたから目立たなかったようだが、こうしてみるとあちこちにある。


 「そんなに傷だらけじゃ、女として終わってるわね」


 「ふふ。本当ですね」


 「・・・・・・」


 困ったように笑うマリアに、アリアナはため息を吐いた。


 一方、銃と剣を使うガルマを相手にしているジュアリ―は、なにやらじれったくてイライラしていた。


 「っがーーーー!!なんなのよもう!腹立つわあの男!!!」


 それはなぜかと言うと、ガルマは銃と剣を両方使っているのだが、ジュアリーには一発も当たらない銃の腕前に加え、剣も切れ味が悪いものだった。


 手入れをしていないのか、それとももとから切れ味が悪いものなのか。


 「あのねえ!!!いっくらズボラな性格だったとしても、これはないわ!てか、銃が一発も当たらないってどういうことなの!?あんた、ちゃんと練習してる!?」


 「武器を二つもってればインパクトあるかなと思って始めたけど、使いこなせなかったんだよ。やっぱダメかな」


 真顔でそんなことを言うものだから、ジュアリ―は愕然と肩を落としてしまった。


 まさかこんな奴の相手を自分がするとは思っていなかったジュアリ―だったが、そこで油断をしたのがいけなかった。


 ひゅんっと音がしたかと思うと、ジュアリ―はギリギリのところでガルマの蹴りを避けることが出来た。


 「俺、こっちが本筋だから」


 「あらあら、それは意外ね」


 そう言うとジュアリ―も剣を鞘におさめて、ガルマと向かい合った。


 男だから、という言葉は使いたくはないが、瞬発力も腕力も、女とは全く違う。


 避けてばかりいたジュアリ―に、ガルマはガードが薄くなっていた腹を目掛けて一発入れた。


 「ごほっ・・・!!」


 咳こんだジュアリ―に近づき、髪を引っ張って顔をあげさせたガルマだったが、顔をあげた瞬間にジュアリ―はガルマに唾を吐きかけた。


 髪を掴んでいない方の手で拳を作り、ジュアリ―に向けて殴りかかっていくと、ジュアリ―はその腕に頭突きをした。


 「・・・!!」


 思わず髪を離してしまうと、ジュアリ―はガルマの両足を脇の下に挟みこみ、グルグルと大回転を始めた。


 「うえっ」


 そのあまりにも豪快なやり方に、イデアムたちでさえも、口を押さえながらガルマに同情するのだった。


 遠心力をそのままにして、ジュアリ―はガルマをぴょいっと放り投げる。


 ガラガラと音を立てて瓦礫へと放り込まれたガルマだったが、頭と胃を抱えながら思ったよりも元気そうに出てきた。


 「あー・・・。まさか女に投げ飛ばされる日が来るとは思ってなかったな」


 「伊達に鍛えてないわ」


 「褒めてはいないから。なんなのその適当さと乱暴さは」


 「男たちの中にいるとね、自分の身を守ろうとして強くなるのよ」


 「・・・あんたさ、絶対狙われないだろ」


 そう言って、ガルマは小さな瓦礫を手の中で弄んでいると、いきなりそれをジュアリ―に向かって投げる。


 手でそれを止めたジュアリ―だったが、ガルマはその隙にジュアリ―を押し倒した。


 「!!!」


 「なら、こういう体勢は慣れてないかな?」


 ニヤリと笑うガルマは、ジュアリ―の首筋から鎖骨にかけて舌先で舐めとる。


 眉間にシワを寄せ、唇を噛みしめるジュアリーを横目で見て、ガルマはジュアリ―の耳に舌を這わせたその時。


 パンッ、と乾いた音が聞こえたかと思うと、ガルマの膝の手前に、銃弾の痕があった。


 顔をあげると、小さく見えるそれは、きっとイデアムたちの仲間だろう。


 「ナイス、ホズマン」


 「!」


 下からジュアリ―の声が聞こえると、ジュアリ―はガルマの襟部分をぐっと掴み、ガルマの身体を両足で持ちあげると放り投げた。


 体勢を崩したガルマに乗りかかると、まるでプロレスのように技をかけていく。


 「ギブギブギブギブ!!!」


 「ギブなーし」


 「タイムアップ!」


 「それもなーし」


 手でバンバンと地面を叩いても、解放する気配のはいジュアリ―に、ガルマはなんとかしようとするが、出来なかった。


 動きが鈍くなってきたところで、ジュアリ―はようやくガルマを解放した。


 「ごほっ・・!俺を殺さなかったこと、後悔させてやろうか」


 「やってみなさい」


 「さっきはお前んとこのが援護したからだろ。カウントしないぞ」


 「何言ってるの?団体戦でしょ?仲間がピンチの時に助けないようなら、それは仲間としてどうかと思うわ」


 そんな言い合いをしているとき、ジュアリ―を援護したホズマンもまた、同じくスナイパーのシュ―ナーと睨みあっていた。


 睨みあっていたといっても、距離があって互いに銃を覗きこんでいるため、どんな顔をしているかなんて分からないが。


 「下手過ぎ」


 狙いを定めると、ホズマンは引き金を引く。


 すると、銃弾は真っ直ぐに狙ったところへと向かい進んで行く。


 銃を構えていたシュ―ナーの目元を覆う様にして、先程のマリアのマントが飛んできた。


 飛んできたというのは確かではなく、引っかかっていたマントをシュ―ナーのもとへ飛ばす為、ホズマンが引っ掛かっていた個所に銃弾を撃ち込んだのだ。


 マントをどかすと、舌打ちをしたシュ―ナーは銃を構えてホズマンを狙う。


 タイミングを見て撃ったとき、ホズマンはぺろっと唇を舐めていた。


 「今撃っちゃあダメだな」


 そう言うと、まるで知っていたかのように、強風が吹いてきて、シュ―ナーの銃弾は僅かにずれてしまった。


 風速、風向、角度、弾の速度、そういったものを見極める力は、ホズマンはずば抜けている。


 ただちょっと面倒臭がりなのが玉に傷。


 「それにしても、下手くそだな」


 ホズマンは、直接シュ―ナーを狙って見ると、簡単にシュ―ナーの手から銃を離すことが出来た。


 そしてがしゃん、と次の弾の準備をすると、目を凝らして別の場所に向ける。


 そこには、力勝負のオリバーとメトナーシャがいた。


 そこらへんにある、といっても、普通の人であれば持ちあげられないような大きな瓦礫を、二人は軽々と持ち上げていた。


 「そりゃ!!」


 「とりゃ!!」


 そんな大きな瓦礫を、まるで雪合戦のように投げ着けて行く。


 「この俺に対抗できるなんて、お前も大したもんだな」


 「お前なんかひと捻りしてやる」


 そう言うと、メトナーシャは何か地面に埋められていたスイッチのようなものを踏みつけた。


 すると、ゴゴゴ、と大きな音が聞こえてきて、地面が割れたかと思うと、地面の下から何かロボットのようなものが現れた。


 女性陣はぽかん、と見ていて、遠くから見ていたホズマンも、思わず咥えていたキャンディーを落としてしまった。


 「見よ!俺の最強の相棒!メトロポリスドロシー号!」


 「最弱のネーミングセンスだな」


 「馬鹿にするならすればいい!このメトロポリスドロシー号は、今世紀最大の発見と言われたあの何とかっていう素材が使われているんだ!!」


 「なんとかってなんだよ」


 「忘れたけど、なんかすごいやつだ!鉄板よりも丈夫で強く、しかし重量は軽い。スピーディーに動ける代物だい!」


 「・・・なんかあほっぽい、こいつ」


 オリバーは、今まで出会った人の中で、初めて自分よりも頭が弱いだろう人に出会った。


 だが、確かにメトナーシャの言うとおりなら、相当厄介なものだ。


 操縦席に座ったメトナーシャは、なんとかドロシー号を器用に動かすと、腕からは丸いチェーンソーが出てきて、大きな大砲まで出てきた。


 「ゲッ!!それあり!?」


 チェーンソーから逃れたとしても、大砲によって動きを封じられてしまい、オリバーは近くに瓦礫を投げたりして、なんとかそれから逃げ回っていた。


 ホズマンが援護しようと銃を向けるが、その銃弾さえ弾かれてしまった。


 「あ、やっぱダメか。オリバー御免」


 逃げ回っていたオリバーだったが、覚悟を決めた。


 ぴたりと足を止めると、くるっと身体を反転さえ、そのドロシー号を向かい合った。


 「逃げ回ってばっかりじゃあ、俺の名が廃るってもんだ」


 「馬鹿め。このメトロ・・・号に敵うはずがないだろう!!」


 「覚えておけよ。自分でつけた名前くらい」


 メトナーシャが操縦をすると、オリバーに向かってチェーンソーや大砲、それ以外にも出てきたドリルや粘々する大砲。


 それらを避けながらも、オリバーはまず大砲のついている腕へと飛び乗った。


 「ハハハ!逃げ場はないぞ!!」


 そう言って、チェーンソーを動かしてオリバーを狙うが、当たると言う寸前でオリバーはくるんと身をひるがえしたため、チェーンソーはそのまま大砲がついている腕を斬り落としてしまった。


 「・・・!!!」


 「馬鹿はお前だ」


 そのままチェーンソーを持っている腕を掴むと、オリバーはぐぬぬぬ、と全身を使って腕ごともぎとった。


 「な・・・!そんな馬鹿な!」


 その腕を地面に落とすと、次は粘々が出てくる腕に飛び乗る。


 メトナーシャは、ドリルを高速回転させながらオリバーに振り下ろして行くと、そこには粘々した物体があった。


 「しまっ・・・!」


 そう思ったときにはもう遅く、ドリルは粘々に絡め取られてしまい、動かなくなってしまった。


 なんとか動かそうと操縦席でがちゃがちゃやっていたメトナーシャだったが、オリバーはロボットから下りると、ロボットの下にもぐりこんだ。


 「は?は?」


 なんとか号に乗っていたメトナーシャは、まるで地面が動いているような感覚になり、落ちないようにと必死に近くの操縦にしがみ付いた。


 目線はどんどん高くなっていき、メトナーシャは下を覗いてみようにも、この体勢でこの位置にいては何も見えなかった。


 ただただ、浮遊感だけが襲って来て、気付いたときにはぐらぐらぐらついたロボットの操縦席に大人しく座っているのだった。


 この時、何が起こっていたのかというと、重量が何十、何百キロあるか分からないそのロボットを、オリバーが一人で持ちあげているのだった。


 「っがあッ!!」


 そして、そのロボットを投げ飛ばした。


 当たり前だが、それに乗っていたメトナーシャも自然と投げ飛ばされる形となり、その勢いでロボットから放り出されてしまった。


 「おいおいおいおい、冗談じゃねえよ。一人で持ちあげるもんじゃねえって」


 「俺様の辞書に、不可能の二文字はねえ!」


 「・・・三文字じゃね?」


 「そんなことはどうでもいいんだ」


 先程まで、五分五分だと思っていたメトナーシャは、ここにきてようやく、オリバーを敵に回してしまったことを後悔した。


 メトナーシャなら両手で持てるだろう、ロボットに装備されていたドリルを、オリバーは片手で軽々と持ち上げているのだから。


 しかも、それを持ったまま、ジャンプをしてメトナーシャに攻撃をしてくる。


 避けるだけで必死なメトナーシャは、オリバーの足下に粘々の残りを見つけ、それを利用しようと考えた。


 足元を見ていなかったオリバーは、案の定それに足をくっつけてしまい、一瞬動きが止まった。


 チャンスとばかりにメトナーシャが攻撃をしようとしたが、オリバーはタダものではなかった。


 くっついた足を、これまた力付くで強引に粘々がくっついた土ごとはがすと、メトナーシャの顔横スレスレにドリルを突き立てた。


 「あ・・・あ・・・」


 ガクン、と腰を抜かしてしまったメトナーシャに対し、オリバーは靴にくっついてしまった粘々をとろうと靴を脱いだ。


 「な、なんで止めをささない?」


 そんなメトナーシャの問いかけに、オリバーは靴と粘々を左右の手で持ち、強引に引きはがしていた。


 「ああ?別に殺す理由はねえだろ?」


 「だからって・・・。俺たちは敵だぞ?またお前たちのこと狙うかもしれねえんだぞ?」


 べりっと剥がれると、オリバーは嬉しそうに大きく笑って靴を履いた。


 「そんときはまた、相手してやるよ」








 二人は向かい合い、沈黙していた。


 間合いというのか、互いに剣を鞘におさめた状態で、じりじりと動いていた。


 ブライトもブランも、そこまでお喋りな方では無い為か、この二人だけはとても静かに勝負をしていた。


 勝負は一瞬にかかっているのだ。


 数十分睨みあった後、その一瞬は訪れた。


 キィィィン・・・


 響き渡る金属音に、何かが弾けたような音。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 ブライトは自分が手にしている剣の先を見てみると、数本の罅が入っていた。


 「大した腕だな」


 「・・・そちらも」


 ブライトの剣に罅を入れたブランの剣の先は、綺麗に折れていた。


 折れているというのか、斬られたというべきなのか。


 ブランはその折れてしまった切っ先を眺めると、それをそのまま鞘におさめた。


 「このような腕を持ちながら、どうして人を殺めるのですか」


 「愚問だな。殺める為に手に入れたんだ」


 「・・・・・・」


 それを聞きながら、ブライトも罅が入ってしまったその剣を静かに鞘に収める。


 「剣に罅を入れられたのは初めてです」


 「剣を折られたのは初めてだ。俺の負けだ」


 「・・・残念です」


 そのブライトの言葉に、ブランは少し怪訝そうな表情を浮かべた。


 自分が負けだと言っているのに、何が残念なのかと。


 「このような勝負ではなく、もっと違う場所で剣を交えたかったものです」


 「・・・お前のとこの大将は、なぜ武器を持たない?」


 一時期、イデアムは剣を腰に下げていた。


 だからといって抜くこともなく、飾りといっても良いくらいに抜かなかった。


 すぐに邪魔だからという理由で武器を外し、その剣は別の者に渡された。


 なら、銃はどうかと言われると、銃も持っていたことがある。


 しかしそれもまたすぐに邪魔だからと外してしまったのだ。


 「イデアムさんは、そういう人です」


 「答えになっていない」


 数人を一度に相手にしても、一振りで倒してしまうほどの剣の腕に、ホズマンでさえ見張るほどの銃の腕を持っているにもかかわらず、イデアムは武器を持ちたがらない。


 「武力では人は動かない」


 「え?」


 ぼそっと言ったブライトの言葉が聞こえたのか、ブランは聞き返す。


 「私達を信頼してくれているんです。だから、イデアムさんは武器を持ちません。それに、武力では限界があることを知っているんです」


 「・・・・・・」


 「ですがきっと、私達が本当のピンチに立たされたときは、武器を握ってくれると思います」


 「たった一人で戦うのか」


 「そういう人なんです」


 冷たい風が吹いてきて、ブライトは空を見上げる。








 「やべぇな」


 「油断し過ぎだよ、あんた」


 イデアムは、ピンチだった。


 縛っておいたはずのアリナスがいつの間にか逃げ出しており、イデアムに呪術をかけて動けなくしてしまったのだ。


 「アリナス、よくやった」


 「はい」


 「なあ、そいつとアリアナって姉妹?双子?」


 「いや、違うが」


 「なんだ。名前も顔も似てるからてっきりそうかと思ったんだけどな。なんだ。違うのか」


 こんな危機的状況においても、イデアムはいつものようにしていた。


 「あんたも終わりだよ、イデアムさん」


 ジョセフが銃を手にし、イデアムに銃口を向けて引き金に指をかける。


 ここで止めをさそうとしていたジョセフだったが、あとは引き金を引くだけというときに、イデアムはニヤリと笑った。


 ぐっと指に力を込めようとしたその時、後ろでドサッと音がした。


 なんだろうと振り返ってみると、そこには倒れているアリナスがいた。


 「!?アリナス!!?」


 ピクピクと痙攣のように身体を動かしていたアリナスを見ていると、気配を感じて勢いよく振り向く。


 目の前にはイデアムがいて、ジョセフが持っていた銃をジョセフの手の上から握っていた。


 このまま撃とうとしたジョセフだったが、イデアムは器用にも引き金の部分に自分の指を喰い込ませ、引き金を引けなくした。


 「安心しな。気絶させただけだから。あいつが」


 そう言ってイデアムが動かした視線の先には、遠くに見える小さな影があった。


 「さっすがホズマン。あの距離で的確に狙えるなんてな」


 「!!!くそっ!!」


 「お前の先輩として、教えてやるよ」


 「なんだと!?」


 ふと気付けば、ジョセフの周りにはブライトたちがぐるっとジョセフを取り囲んでいた。


 「引き際を覚えな」


 「引き際だと!?」


 「玉砕覚悟で突っ込んで来てるなら話は別だが、そうじゃねえなら優勢が劣勢かを見極めて引かせる。それもリーダーとしての役割だと思うぜ?」


 「・・!!」


 「仲間を死なせたくねえならな」


 ジョセフが何か言おうと口を開いたとき、イデアムが空を見上げながら、軽く舌打ちをした。


 ブライトたちに何か指示を出すと、動こうとしないジョセフにこう言った。


 「俺達は人殺しをしてるわけじゃねえ。この世界を変えたいだけだ」


 バタバタと動き回るブライトたちの傍らでは、ブランたちも何事かと空を見ていた。


 「それに、早く避難しねえと、また嵐に巻き込まれるぜ?」


 「嵐?雨が降る程度だろ?」


 「ホズマンの予報をみくびっちゃ困るぜ?あいつの予報は百発百中的中しちまうから厄介なんだよ」


 そう言うと、イデアムたちは避難する。


 ホズマンが見つけた岩に囲まれた隙間に誘導するが、徐々に荒れてきた天候は、その岩の隙間にさえも入り込んでくる。


 雨風ともに激しく、雷まで鳴りだしてしまった。


 「ヤベぇな。またびしょ濡れかよ」


 「ふっふっふ・・・」


 「なんだよオリバー、その笑いは」


 台風でも来るのだろうか、激しくなるばかりの空に向けて、オリバーは大きく笑った。


 ついにおかしくなったかと思っていると、オリバーは入口を塞げるくらいの大きな岩を見つけ、それを運んできた。


 「おお。初めてオリバーをすごいと思った」


 「遅ェよ」


 すっぽりと入口を閉じれば、雨風が中に入ってくることもなく、濡れる心配もなかった。


 馬鹿にしたように、ホズマンは手をパチパチ叩きながらオリバーを褒めていたが、それが返ってオリバーをいらっとさせてしまった。


 「どのくらいで止みそうだ?」


 「そうっすね・・・。多分、雲の動きからして、明日の昼には止むと思いますけど」


 「そうか」


 ジョセフたちは無事に逃げただろうかとか、思っていたが、口には出せなかった。


 ジュアリ―はマリアの怪我を見て手当をしていると、そこにマリアのマントを拾ってきたオリバーが汚れたままのそれを渡した。


 「ちょっと。せめて綺麗にしてから渡して頂戴よ」


 「仕方ねぇだろ?この天気でどうやって綺麗にしろっちゅーんじゃ」


 「あ、あの、ありがとうございます」


 岩に腰をかけて座っていたイデアムは、近くで邪魔な大きいスナイパーの銃を解体しているホズマンに声をかける。


 「あの視界が悪い中、よく狙えたな」


 「・・・当たったら謝ろうと思って」


 「おい」


 俺一応リーダーなんだけど、と言いながらも、ホズマンは決して外さないことを知っているイデアムは、笑っていた。


 アリナスを狙う時だけは弾を入れ替えて、電流が流れるものにしておいた。


 だから、万が一、外れることはないにしても、もしも当たったとしても、死ぬことはなかったのだが。


 「それにしても、ここ最近、天気が不安定っすね」


 「ああ。これでまた雨が降らない日がずっと続くのも嫌なもんだな」


 雨が降り続くと続いたで、なんでこんなにも降るのだと文句を言いたくなる。


 しかし、だからといって晴れた日ばかりが続いたとしても、どうして雨が降らないんだと言いたくなる。


 本当に、人間とは身勝手なものだ。


 「ブライト、ちょっとこっち来い」


 「はい」


 ちょいちょいと手招きすると、ブライトは忠実にやってくる。


 「テマ―エに連絡とってくれ。それから、少し疲労が見えるから、馬を手配して馬で移動しよう」


 「わかりました」


 言われるとすぐにブライトは無線機を手にとり、テマ―エに連絡を入れてみる。


 すると、連絡を入れたのだが出なかったと言われ、きっとジョセフたちと戦っている時だったのだろうと思った。


 テマ―エは無事に到着したらしく、そこの国では国王が女性のようだ。


 その女王のタイプの男性というのが、シュッと引き締まった身体のクールな男性のようで、女王から情報を聞き出す為に、テマ―エは呼ばれたそうだ。


 そこの統治下にある街で暮らしていた仲間によると、その女王は夜な夜な城を抜け出して街に来ているとか。


 基本的には一人しかスパイ置いておけないのだが、そうなると昼夜問わず見張る必要が出てくるため、その手助けもあるようで。


 「そうか。わかった」


 「それからその女王というのが、人身売買のオークション会場などに寄付をしているという噂もあるようです」


 「はあ・・・。まったく、同じ女だってのに、こうも立場が違うとな」


 「どうします?」


 腕組をして首をコキコキ鳴らしながら、イデアムはふう、と息を吐く。


 「行くっきゃねえだろ。行って、その女が何してんのかこの目で見るしかねえよ」


 翌日になって、ホズマンが言ったとおり昼ごろになると雨は止み、オリバーが岩をどかせると、すでに虹がかかっていた。


 「わあ」


 「久しぶりに見たわ」


 昨日戦った場所へ行ってみると、そこにはもうジョセフたちはおらず、石で出来たその建物もボロボロになっていた。


 「ジョセフたち、何処へ向かったんでしょうね」


 イデアムたちが隠れていた岩場の他には、隠れられそうな場所はなかった。


 だからといって、この場所で一夜を過ごすことも出来なかったはずだ。


 ブライトが折ったはずのブランの剣の切っ先も無くなっており、きっとそれを持って何処かへ逃げたのだろう。


 「さあな」


 「イデアムさんは、迷うことはないんですか?」


 「迷う?」


 「私は、時々迷います。自分の剣が正しいのか。歩んできた道が間違ってはいなかったのかと」


 「・・・うーん」


 オリバーは昨日の壊れたロボットに興味があるのか、近づいて行ってツンツンと突いて遊んでいた。


 ホズマンは丁度良い高さの瓦礫に銃を構えて、その先に小さな石を数個置いて、それを狙って撃っていた。


 ジュアリ―とマリアはのんびりとおしゃべりをしていて、何とも和やかだ。


 ちなみに、ドンジャンはオリバーと一緒になってロボットをいじっていた。


 「迷っても、進んできた道は変えられねえ。正しいかどうかで動くんじゃなくて、正しいと思って動くしかねえよ。あいつらにはあいつらのやり方があって、俺達には俺達のやり方がある。それだけのことだ」


 「・・・そうですね」


 そういえば、とブライトが続けると、手配していた馬を連れてきて、全員それに跨った。


 イデアム、ブライト、ドンジャンは一頭ずつなのだが、オリバーとホズマンで一頭、ジュアリ―とマリアで一頭だった。


 「おいおい。なんで俺こいつと一緒!?こいつとんでもなく馬の操作下手くそなのに、俺の前にいるんだけどなんで?」


 「お前が前だと俺の視界が悪くなるだろ。黙って後ろに乗ってろ」


 「うおおおおおお!?まじやめて!俺が運転変わるからまじやめろ!!」


 そんな二人の横で、ジュアリーたちはとても安定していた。


 「まったく。あいつらに乗られてる馬が可哀そうだってのよ。マリア、大丈夫?ちゃんと捕まっててね?」


 「はい」


 ぎゅうう、とジュアリ―に捕まるマリアを見て可愛いな、と思っていたジュアリ―は、前でイデアムと話しているブライトに目がいく。


 「それともマリア、あっちに乗る?」


 「え?」


 ニヤニヤと笑ってブライトの方を指させば、マリアは首をブンブン横に振った。


 「私、こっちでいいです!!」


 「ブライトの方が身体安定してるし、安全だと思うけどなー」


 ケラケラと笑いながら言っていると、二人が乗っている馬の横を、ホズマンが走らせる馬がひゅんっと過ぎていった。


 「頼むから俺に代われって!ホズマン!」


 「嫌だ」


 「俺達真っ先に死ぬって!イデアムさん!こいつに何とか言ってやってくださいよ!」


 右に行ったり左に行ったりと、自由に走っている馬に、イデアムは「おい」と少し大きめに声を出した。


 「ホズマン、お前は後ろだ」


 「・・・へーい」


 大人しくオリバーの後ろに乗ったホズマンだが、オリバーと背中合わせになって乗っており、腰には紐が縛られていた。


 手には銃を持っていて、これで敵が狙ってきてもへっちゃらだぜ☆という体勢だ。


 「その格好で分かってると思うけど、お前等一番後ろだからな」


 「「へーい」」


 「よし。じゃあ、行くか」








 「はあっはあっ・・・」


 「ジョセフ、大丈夫か?」


 「ああ・・。くそ。それより、この辺にあるはずなんだ。念入りに探せ」


 なんとか嵐から逃れたジョセフたちは、とある遺跡の村に来ていた。


 そこで何かを探していると、アリナスが何か感じ取り、そこを指さす。


 土に埋もれてしまったそこを掘り起こすと、そこには祭壇のような場所があり、その祭壇の下から、分厚い本が出てきた。


 「見つけたぞ・・・見つけた!!」


 縦三メートルほど、横二メートル弱、そして厚さは三十センチ以上あるだろう、その本の表紙には、真っ黒で牙や角、羽根の生えた何かが描かれていた。


 それを手にしたジョセフは、ペらぺらを捲っていくが、ブランたちには、何と書いてあるか全く読めない。


 しかし、ジョセフは何やらぶつぶつと言って興奮している。


 「やっと見つけた・・・!!」


 「ジョセフ、それは?」


 「世界を滅ぼす、悪魔の聖書!!」








 「おい、お前等いい加減にしろよ」


 「イデアムさん!こいつがずーっと俺の背中に寄りかかって寝てるんですよ!」


 「しょうがないっすよ。だって俺、後ろ向きで酔いそうなんすもん」


 「おまえっ!!!酔わねえって言ったじゃねえかよ!!」


 「あー、もうダメだわ。なんかオリバーの体温が背中から感じられる時点でもうダメだわー」


 「イデアムさああああん!!!!」


 「・・・はあ。ドンジャン」


 「はい」


 馬を止めると、ホズマンがドンジャンの方に移動し、オリバーが一人で馬に乗ることになった。


 「えー。俺イデアムさんの運転手でもいいんすけど」


 「俺がお断りなんだよ」


 「ちぇ」


 文句を言いながらも、ホズマンはドンジャンの背中でそのまま寝息を立てて寝てしまった。


 「ちょっといいんですか、イデアムさん。こいつめっちゃ寝てますけど」


 「寝かせてやれよ。俺達が寝てるとき、起きて守備してんだから」


 「腑に落ちねえです」


 「ガキか」


 ふくれっ面をしていたオリバーだったが、走りはじめればもうなんてことはない、軽快に馬を走らせていた。


 「マリア、今なら自然な感じでブライトのところ行けるわよ」


 「・・・ジュアリ―さん」




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