第6話 Agent file 《閃光》
俺は昔、両親の仕事の都合で言葉もわからない外国で暮らした。
でも、両親が何をしているのかは知らなかった。
そして俺は異国に慣れず、学校にも行けなかった。ただそれはその国では珍しくないことで、変な目で見られることはなかった。
結局、何年も経つとなんだかんだ言葉は会話ができるくらいになっていた。
そんなある日、俺は両親と共に大きな都市に買い物に出かけた。
こうして出かけることも珍しかったので、俺は嬉しかった。だがその都市では、俺の気持ちをぶち壊すかのようにデモ行進が行われていた。そのおかげで警備が入り、道が狭く混みあっているし、そのデモ行進で耳は壊れそうになる。最悪だ。
「さすがに人が多いな……」
「離れないでね」
「う、うん」
俺は母の手をしっかりと掴み、人混みの中を進んでいった。
そしてなんとか目的の店までたどり着いたその時、デモの声に紛れて何か別の言葉が発せられたような気がした。
――『死んでしまえ』……?
直後、大きな爆発音がすぐ近くから聞こえた。それとほぼ同時に、爆発を予知していたかのような速さで母が俺のことを抱きかかえ、爆発があった場所から離れるように走る。
だが他にも爆弾が仕掛けられていたようで、それらも連鎖して爆発した。
「っ……!」
怖くなって目を瞑ったその瞬間、すぐ隣の配電箱が爆発し、爆音と風圧で吹き飛ばされ、俺は意識を失った。
次に目を覚ますと、そこには悲惨な状況が広がっていた。
焦げた地面、湧き出る鮮血。今でも覚えている。
「……母さん……! ……父さん……!」
体はもう動きそうにもないが、懸命に手を伸ばす。
でも届かない。
もうどちらも死んでいるだろうか。どちらも血だまりができるほどの血を流している。
父の近くにあるのは、拳銃……?
そう思った瞬間、甲高いサイレンの音が頭に響き、俺はもう一度意識を失った。
意識が戻ると、そこは病院だった。俺は重症だったが、生きていた。
両親は死んだのだろうか。いや、あれはもうダメだろう。子供ながらにそうわかるほどだった。
どれだけ体が回復しても、誰も教えてくれない。精神的なダメージを考えてのことだろうが、これほどの時間会いにも来ないことからもわかる。
初めのうちは、実感がまだなかった。悲しかったけど、急に両親を失って、埋めることのできない心の喪失感の方が大きかった。でも段々と、一人異国でどう生きていけばいいんだという不安に襲われ、自暴自棄になっていった。
体が大体回復し、リハビリをしながら精神科に送られたある日のこと。俺のそんな不安を無くすような来客があった。
その来客というのが、エージェントだったらしい両親の仲間の《慧眼》だった。
俺は《慧眼》と帰国し、養成所で暮らし、エージェントとなった。
あれはテロだった。あれが無ければ、俺は両親を失わずに済んだ。
だからもう、テロは嫌だ。
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