第5話 合同任務

 旧スラム街一件が終わると、何事もなかったかのように日常が訪れる。


 普通の日常だが、それはユーリにとって初めてのことだったし、楽しいと感じていた。


 子供らしくどこかに遊びに行ったりもそうだが、何より初めて家族のように接してくれた二人のことを大切に思うようになった日々だった。


 そんな日々が過ぎると、二人にはまた仕事の連絡があり、自分の班の部屋に向かった。


「どうもー」

「こんちはー」


 そう言いながら二人は部屋の奥に進む。


「ケイさん」

「おお、来たか。座ってくれ」


 そう言われて二人はケイと机を挟んで向かい側の椅子に座った。


「今回の任務は?」


 レイは早速そう聞いた。


「今回は首脳会議の警備で他の班との合同任務だ」

「警備? そんなの、俺たちの仕事じゃ……」

「一見そう思うが、ちゃんとした理由があるんだよ。ヒカル」


 殺し屋が警備に繰り出されるなんてどんな状況だよ……と二人は思った。警備には警備のプロがいるわけだし。


「まず首脳会議には、不安定な情勢の国の首相が来る。テロがあるかもしれない。次に、世界最大の犯罪組織ダークフェニックスが何かを行う可能性があるという情報を掴んだ」

「でもなんで俺たちが? 相手が誰かもわかんないし、本当に起こるかもわからない。何より、俺たちは何もしていない人を殺せない」

「そうだな」


 首脳会議の話が出た時点で国々の事情は頭に浮かんでいたが、その制圧は警察の仕事だ。


「でも本当に人を殺しに来た時、しかも一般人への無差別的なものの場合。向こうは殺そうとしているのに、こっちからは殺せないから、警察では手に負えない」


 どの国も警察は抑え込むように解決するので、それではどうにもならない時がある。


「じゃあオレたちは、何か起きた時のために待機ってことですか?」

「それもあるが、情報が掴めればテロを食い止めてほしい」


 それならエージェントとしての仕事範囲になるし、レイは引き受けようと決めた。


「わかりました。いいよね? ヒカル」

「……うん」

「よかった。じゃあ、詳しい情報は送っておく」

「はい。ありがとうございます」



 話を済ませて建物を後にした二人だったが、他の班も合同ならユーリは介入させられず、なんとなく少し不安も感じていた。


「……なあ、ヒカル。さっき話聞いてたか?」

「え?」

「反応遅かっただろ。そんなに悩む話だったか?」

「その……テロは、ちょっと嫌な思い出が」

「あぁ……なるほど、ごめん」

「いや、別にいいよ。何なら話してもいいくらい」

「何で?」

「俺はレイの過去知ってて、レイは俺の過去知らないのは、なんかフェアじゃないじゃん?」

「別にいいよ。聞きたくない」

「……そっか」


 レイはヒカルの過去を聞くのが怖かった。自分とはあまりにも違いすぎる世界で生きてきたということを実感したくなかった。


 ヒカルは真っすぐで、純粋で、悪を許さない。善人には優しく、殺し屋という点を除けば理想の善人といった人間だ。レイにはとても真似できそうにもない、住む世界が大きく違う。そんなことを薄々気付いていた。


 実感してしまったなら、今と同じように接することができないかもしれない。実際はそうではないだろうけど、そう思ってしまって怖かった。

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