白の鳥、青の城

夏の終わり、僕は故郷を訪ねた。

遺跡があちこちに残るその町は、長い戦争によって廃墟と化していた。

知らず知らずのうちに止めていた息を吐き出して、僕は歩き出した。


町の中心から外れた所に、

ひどく小さな遺跡があった。

それはきっと、

ずっとずっと昔の劇場だった。

壁も屋根も無い、質素な劇場ーー。


ふと見ると、向こうに一人の少年が居た。

何も無い劇場の真ん中で

大きなキャンバスを置いて、

小さな椅子に腰掛けて。


近付いて見てみると、彼の視線の先には一面の青があった。

「空、か…」

僕は呟いた。

少年はようやく目を上げ、長い間僕をじっと見つめた。

そして再び筆をとると、何やら熱心に描き始めた。


しばらくして、彼が筆を置くと

その空には、一羽の鳥が飛んでいた。


少年が微笑んだ。

僕もつられて微笑み返した。


午後のやわらかな陽が、町を包んでいた。




ーーーーー


白鳥はかなしからずや

空の青海のあをにも染まずただよふ

若山牧水

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夏の短編集 朱井 @akaimukei

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