呪いの少女 11

 いやふざけている場合ではなかった。会話している間にも入り込んでくる呪いが増してくる。おびただしい呪いだ。




「ところでクラウス君。まだ大丈夫そう?」


「ふ、ふん、この程度んバババババババ!!」


 もう声が抑えきれない。




「おンンンンババエバ!」


「楽しそうね」


「んべへえ!」




「そんなわけないだろ」と言おうとしたが謎の言語になってしまった。いよいよ不味い。手も足も震え始め、尻も上下左右にバルンバルンと立体起動している。




「と言うか、呪いを吸収するってどういうお尻してるのよ」


「俺が知るかあ! これ教えてくれたの先生じゃないですか!」


「いや実は私もこの魔法使った事無いんだよね!」


「!?」




 じゃあこれ人体実験じゃねえか! なんて文句なんて言っている余裕はない。更に更に流れ込んでくる量が増えてくる。青春と呪いは止まってくれないのだ。




「ちょ、ちょっともうキツイかもしれません!」


「なら今すぐ門を閉じるのよ! 閉門するの! 肛門だけに!」




 こんな時に俺の尻で言葉遊びするな! いや、しかしこの状況で俺に出来るのは肛門括約筋を活躍させる事だけかもしれない。やってみる価値はある。俺は歯を食いしばり、あらん限りの力を肛門に集中させた。……これ何の描写?




「ああっ!」




 ルナが艶っぽい悲鳴を上げた。俺の目はさぞ見開かれていた事だろう。俺の視線の先にあったのは半裸の女体である。いや、半裸と言っても下着しか身に付けていない状態だったので限りなく全裸に近い。


 恐らく逆流した呪いがルナの衣服を剥ぎ取ったんだろう。何てスケベな呪いなんだ。




 豊満な胸も、膨らんだお尻も無防備にさらけ出されて目の前にある。こんな時に「すごく抱き心地が良さそう」なんて下世話な思考も湧いてくる。健全な男なら理性が欲望に殴り倒されているような状況だが、俺は今肛門を締めるので忙しい。




「クラウス君! やっぱり肛門絞めちゃダメ! このままだと呪いが全部ルナに逆流して全裸になっちゃう!」




 リーザ先生の緊迫した声がした。いや何その文字列。




 俺はここで一つの決断に迫られている。このまま呪いを遮断してルナに呪いを返すのか、それとも開門した肛門で受け入れるのか。


 答えは、最初から決まっている。俺は何のために修行をしたんだ? 何のためにこの二週間を捧げて来たんだ? 呪文を中々覚えられなくて泣きそうになったのも、先生に何度鞭を打たれて諦めなかったのも、朝昼晩と先生のご飯を作らされたのも、全てはルナを呪いから解放するためだ。俺は、ギラに居た時の俺とは違うって証明するためだ!




「クラウス君! 全てを受け入れるのよ!」


「覚悟は出来ているぞ!」




 俺は身体の力を緩め、呪いの受け入れ態勢に入った。




 それを待っていたかのように、逆流していた闇の塊がゆっくりと俺の方に飛んできた。綿のように漂っていたそれは地面に落ち、俺の足元に滞留する。静かになった。


 不気味なほどの静けさが部屋を覆っていた。




 次の瞬間、闇の塊だと思われたそれは急激に光を放ち、まるで柱のようにぶち上がった。行き先は俺の尻である。




「ぎゃああああああああ!!!!!!!」




 俺はシンプルに大声を上げた。視界には無数の火花が弾けて見える。呪いは宇宙に飛び出すかのようなエネルギーで俺の尻に飛び込んできた。実際俺の体は少し地面から浮いていた。呪いを動力にして飛んだ人類第一号になったかもしれない。


 何このパワー! 




「ちょ、クラウス君浮いてるよ! お尻も光ってるし……! 蛍か!」




 何そのツッコミ! 

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