呪いの少女 12
「クラウス様!」
宙に浮いた俺を助けようとしたのか、ルナは俺の腰に思いっきり体重をかけて抱きついて来た。それにより直立の状態で宙に浮いていた俺の体勢は一気に崩れ、そのまま地面に叩きつけられてしまった。当然上にはルナが乗っており、押し倒された形となった。半裸の女の子に押し倒された俺はそれどころでは無いのだが、やり場のない興奮を感じた。
女の子とファーストキスしたり、押し倒されたり、呪いが尻に流れ込んでたりと初めて尽くめだな。などと呑気な考えが浮かんできたのは一瞬である。
俺の全身は今、一瞬も耐えられないほど、かつてない衝撃に晒されていた。例えるなら身体中のツボを屈強な男達に一気に押されたような感覚である。まあ要するに
「痛ってええええええええええええええええええええええ!!!!!!! 」
俺は半狂乱に叫んだ。これはもう耐えられる痛みではない。俺がギリギリ耐えられるのは握力20キロくらいの人にデコピンされるくらいの痛みまでだ。
「クラウス君!」
リーザ先生が硬い表情で覗き込んでくる!
「せ、先生! 何ですか!」
「今のクラウス君の顔めっちゃ面白い!」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
あと今日のパンツの色は赤だった。
「クラウス様! 心配いりません! 死ぬときは一緒にいきます!」
いやお前のせいで死にかけてるんだよ! しかしルナは抱き付いていた腕を更に強く締め付けてくる。痛みがどんどん増してくる!? 主に尻から呪いが流れ込んでくるのも感じる。
これはもう一旦リーザ先生に離してもらうしかない。
「リーザ先生! ちょっと一旦ストップしてもらえませんか!?」
「えー、やだ」
「何で!?」
この人、魔術が始まる前、「危ないと思ったらすぐ私に言うんだよ。いつでも止めてあげるから」って言ってなかった!?
「ほら、クラウス君のお尻も『まだ全然イケます』って言ってるよ」
「尻の声を聞くな!」
「代わりに飴食べる?」
「何の代わりなんだよお!!」
しかし呪いは容赦なく強まっていく。凄い。想像以上の呪いだ。もうこれ以上は耐えられない。体がバラバラになりそうだ。頭がおかしくなりそうだ。
行く。行ってしまう。行き着くところまで行ってしまう。そう。
「んピ! 凄すぎてイっちゃうううううううううう!!!!!!!」
無論、叫んだのは俺である。残念だったわね!
その瞬間、とてつもない光がルナから発せられた。もうこれ以上は無いだろうと思っていた以上の痛みと、掻き毟るような痺れが全身を襲う。
もう出る! 色んな穴から全部出りゅううううううううううう!
不意に静寂が訪れた。先ほどまで目を開けていられないほど眩しかった光も、体を貫く衝撃も、執拗に俺の尻から入って来ていた呪いも、何も感じない。
いや、ただ一つ。身体の上から暖かな温もりを感じる。心地よい重だるさとハリのある感触。俺はそっと首を起こし、目線を身体に向けた。
上にルナが乗っている。気を失っているらしく、俺の胸に顔を横たえたままだ。当然、彼女の身体は半裸のまま俺に密着している。ここだけ見たら完全に事後である。
このままだと俺の理性がどうにかなりそうだ。しかしルナを起こそうにも、身体が言うことを聞かなくて彼女を下ろせない。
「……ルナ・グレイプドールよ。大丈夫か? 起きるのだ」
俺はそっとルナの肩を掴んで揺すった。彼女のハリのある肌に俺の手が触れる。別に下心があっての事では無い。いやちょっとだけある。
「ん……」
そっと吐息を漏らした。この女の声は一々扇情的である。ルナが顔を上げ、俺と目が合う。
「あ、クラウス様……大丈夫、なのですか?」
「ククク……我があれ如きの呪いで取り込まれるはずが無かろう……」
まあ早朝に鳴く野鳥みたいな声で叫んだり、尻で宇宙へ飛び出し掛けたりしたけどな。
「し、信じられない」
と言ったのはリーザ先生だった。
「クラウス君。君きみ、本当にルナの呪いを全て取り込んでしまったよ……私でも少しづつ吸い込むのがやっとだった呪いを……。 本当に信じられない!」
リーザ先生は頭を抱えて、驚いているとも嬉しがっているとも取れる表情をしていた。
「つまり、我が魔法は成功したのか?」
「そうだよ!」
リーザ先生はここでやっと満面の笑みになった。その笑顔を見て俺も「成功した」という実感が湧いて来た。俺の決意は、修行は、無駄じゃなかった。
ルナの呪いを消せて本当に良かった。これで彼女が「不幸の女」と呼ばれて学園で避けられる事も無くなるだろう。
「クラウス様! ありがとうございます!」
ルナが俺の首に手を回し、また強く抱きついて来た。いや半裸の、しかも男の欲望を具現化したかのような体型のルナに抱き付かれて正気でいられる男はいない。しかもルナは至近距離で、じっと俺の目を見つめてくる。
大きな瞳を潤ませ、そのままキスでもする気なのではと思うほど、徐々に顔を近づけてくる。あ、もう無理。
「お、おい! 退くのだ!」
「退きません」
何その返答。予想外。
「は、離してくれ」
「離しません」
ルナの顔はどこか悪戯っぽくて、今まで見たどの表情よりも、初々しい年頃の少女らしい笑顔をしていた。不意にルナの顔が近づき、俺の頬と彼女の頬がくっついた。
「ずっと一緒です。ずっと」
ルナは耳元でゆっくり囁いた。
「こらぁ! もうおわったんだからくっつくなー!」
見かねたリーザ先生がルナを剥がしにかかった。
「私、疲れてしまって今動けないのです」
「嘘付けー!」
「そうだぞ。貴様の呪いは解けた。さあ飛び立つのだ!」
「クラウス様、動けない哀れな私の身体を優しくマッサージして頂けませんか?」
「え、良いの?」
「コラー!」
こうして俺たちの押し問答は、終業の鐘が鳴るまで暫く続いているのだった。
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