呪いの少女 10

「ーー我は漆黒の王。全ての咎を、全ての苦を、全ての呪詛を従えし者。


 ーー夜の塔を閉ざす者。深き窟に潜む者。紅き森に住む者よ。


 ーーその戸を開けて出いでよ。此岸に来きたれ、同胞はらからよ。


 ーー我は常闇の支配者。全ての罪を、穢れを、業を総べる者。


 ーー屈服せよ。平伏せよ。跪け!


【冥府の檻】」




「ああっ」




 にわかにルナの姿が黒く霞んだ。彼女からおびただしい量の黒さが溢れ出し、包んでいるのだ。


 呪いの揺れ動く様は、まるでドス黒い炎が燃えさかっているようだった。二週間の修行中にリーザ先生が作ってくれた擬似的な呪いとは邪悪さが桁違いだ。


 今更足が震えてくる。怖い。これを全て俺の中に移せるのか。移したとして俺は無事なのか。生きていられるのだろうか。


 いや、今は術に集中しなければ。俺はルナの呪いを解くんだ。




「んっ、はあ……」




 目の前のルナが悩ましく表情を歪め、かなり甘ったるい吐息を漏らす。


 大変エロい。こんな時に言うのも何だがかなり官能的である。




 ルナから湧き立つ闇は徐々に一塊となっていき、渦巻きながらその規模を増していく。深い。深い闇だ。それを見ただけでルナの背負っていた呪いがどれほど強いのか、それがどれだけ彼女を苦しめ続けてきたのか分かる。




「あっ……! んんっ!」




 ルナも身をよじらせ、艶やかな声を上げる。これもう喘ぎ声じゃん。


 不意に闇の塊は動きを止めた。まるで時間が止まったかのようにピタリと静止する。


 空気が落ちる。


 呪いが満ちる。


 身動きが取れないほど不穏で、今にも爆発しそうな邪悪。




 見られている。


 収縮した闇に目があるわけでもないし、視覚があるわけでもないのに、何故か俺はそう感じた。


 だが確実に「呪い」は俺を狙っている。取り込もうと画策している。


 来い。


 来るなら、来るなら来い!


 俺は呪いをキッと睨み返した。






 その時、静止を続けていた闇が動いた。吸い込まれるように向かってくる。


 ぶち当たる!


 と、思ったら、そのまま俺を通り過ぎていった。


 ……あれ?


 と少し気を緩めた瞬間、下半身に強烈な刺激を感じた。




「んほおおおお!!」




 俺はキャラも忘れて甲高い声を発してしまった。それくらいの衝撃だった。呪いが一気に流れ込んで来たのだ。俺の「尻」から。


 まるで閉じ込められた場所から出口を見つけた人々のように、呪いが俺の尻に殺到している。まあ確かに出口なわけだが。




「あああああああ! 何これ! 何これえ! 何で俺の尻から呪いが!?」


「落ち着いて、クラウス君。これが闇の奔流というものよ」


「嘘つけえ!」


 入って来た呪いはまるで電撃のように尻から全身を疾っていく。既に尻周辺の衣服は破れ去り、俺は女二人の前でSiri丸出しになっていた。




「クラウス君!」




 背後からリーザ先生の声がした。




「何ですか先生!」


「すごく綺麗なお尻ね!」


「ありがとう!」

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