第2話

 ヒロタカは、部屋で、豚肉を包丁で切って、炒めていた。

 そして、玉ねぎと、砂糖と醤油で絡めて、豚丼を作っていた。

 キッチンは、シュワシュワ音を立てていた。

「ああ、今日の読売巨人軍は、勝ったな」とか思っていた。

 そして、阪神タイガースは、負けている。

 投手は、菅野智之だった。

 ヒロタカは、中学時代、野球部だったが、補欠で、いつもベンチを温めていた。中学時代、野球選手になりたいとか思っていたが、そもそも、資質なんてなかった。そもそも、プロの野球選手の身体を観たら、怖い。

 ませていると聞いたが、ヒロタカは、それは、本当だと思った。

 ヒロタカは、周りで、「プロ野球の選手になりたい」と言って、甲子園出場が出来る高校に行った同級生を二人知っていた。

 一人は、東北の山形県の高校へ行き、もう一人は、岐阜県へ行った。

 しかし、彼らは、高校時代、肩を壊したり、輿を痛めた。

 そして、選手生命を、怪我のために、終わった。

 壁には、有村架純のカレンダーが飾っている。

 一度だけ、女優の有村架純が、吉祥寺に来て、ファン感謝祭をしていた。ヒロタカは、何故か、握手ができた。

 もう何年前だろうか?

 忘れたのだが、今でも、飾っている。

 そして、テレビの画面で、今日のニュースが流れた。

 今晩の関東地方は、曇りがないらしい。

 そんな時だった。

 LINEが鳴った。

「志帆」と名前が表示された。

「もしもし」

「なんだ、志帆か。どうしたの?」

「今日、会える?」

「志帆は、俺のことが嫌じゃなかったのか?」

「いや、そんなことあった?」

「あったよ」

「そうか」

「うん、めちゃくちゃむかつく」

「今さ」

「うん」

「ヒロタカのハイツの前にいるよ」

「え、志帆は、今日は、男とデートじゃなかったのか?」

「あいつ、嫌だ」

「そう?」

 ピンポーンとチャイムがなった。

「はい」

「ヤッホー」

 化粧の濃い志帆がいた。

 いつも志帆は、化粧は、そんなに濃くない。

 寧ろ、志帆の化粧は薄いのだが。

 志帆は、玄関で、ハイヒールを脱いで、バタバタしながら、リビングルームへ向かった。

 志帆は、ヒロタカが、リビングルームに置いていた枕の上に、尻から腰を下ろした。

「やめろよ、枕の上に、尻を載せるな」

「良いでしょう」

「何が?」

「やっぱり、ヒロタカしかいないもん」

 ヒロタカは、訳が分からない。

「あ、これ!」

 有村架純のカレンダーが飾っている。

「おーいお茶」と書いている。

「有村架純ちゃんだよ」

「架純ちゃん、パンチ」

 として、志帆は、有村架純のカレンダーにパンチをした。

「これが、いけなんだ」

 と志帆は、有村架純のカレンダーをべりっと破った。

「ああ、これ、かなり高かったんだぞ」

「もう良いじゃない」

「おい、これ大事なものだったんだぞ」

「私が、いるじゃない」

 と志帆は、そのまま、涙が出て、鼻水を垂らした。

「ヒロタカ、ティッシュどこ?」

「ここだよ」

 とヒロタカは、志帆にティッシュを渡した。

 志帆は、鼻を咬んだ。チーンと咬んだ。

 数分、泣いた後、志帆は、こう言った。

「ねえ」

「ん?」

「何か美味しい匂いがするよ」

「ああ、豚丼作ったのね」

「へえ」

「私が、来るのは、意外だったね」

 ヒロタカは、志帆が嫌いになっていた。だって、志帆は、尻軽だもの、と思っていた。

 そして、志帆は、こんな時間に来ること自体、図々しいと思っていた。もう、7時になっているのに、何て奴だと思っていた。

 だが、ヒロタカは、涙を流し、鼻水を垂らしている志帆の不幸な事態を観て、内心喜んでいるのだから。

 不幸になっている志帆は、そのまま大人しくヒロタカを観ていた。

「食べたら?冷えるよ、豚丼」

「ああ」

 と頷いてヒロタカは、豚丼を食べた。

 映画のワンシーンではないけど、喜んでいるのだが、そうとばかりは言えなかった。

 ヒロタカは、一人で、豚丼を食べていたが、だが、内心、志帆は、涙を流しているが、これで良いのかと思った。

 志帆は、食欲はないのか、と思った。

「何か、気に入らないことがあったのね」

「うん」

 二人の間に沈黙が流れた。

 しかし、ヒロタカは、こう切り返した。

「後で、スーパーさとちゃんへ、何か買いに行くか?」

「うん」

「クルマを出すよ」

「ありがとう」

 20分が経った。

 志帆は、ヒロタカの食器を洗った。

 そして、ヒロタカは、スーパーさとちゃんへクルマを発信させた。

 吉祥寺駅から、15分のスーパーである。

 横には、銀行があって、薬局がある。薬局の前には、ゾウのさとちゃんが、マスコットキャラクターの置物として。おかれている。

 ヒロタカは、そのままスーパーさとちゃんのパーキングで駐車して、そのまま入口に入っていた。

 そして、カートを持って、ヒロタカは、志帆と店内を歩いた。

 最初に野菜のコーナーに着いた。

「ほら、ヒロタカ、ニンジン」

「えー!」

「それと、玉ねぎ」

「やだ」

「ヒロタカの健康管理だと」

 そのまま歩いて、志帆は、フライドチキンと辛子明太子のおにぎり、鉄火巻きをカートに入れた。

 そして、パーキングへ向かった。

 

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