幼馴染
マイペース七瀬
第1話
ここは、東京の吉祥寺のうどん屋だった。
うどん屋の厨房で、大将は、ヒロタカにこう言った。
「おい、ヒロタカ、そっちのネギを刻んで」
「はい」
とヒロタカは、言った。
ヒロタカは、もう、20代後半になっていた。
ここの吉祥寺のうどん屋に勤務して7年は経過していた。
元々、都立高校にヒロタカは、通学していたのだが、卒業前に、都立高校の教師が、「ここで、仕事をしなさい」と言われて、仕事をしている。
最近では、勤務に身が入っている。
ヒロタカは、今、ネギを刻んでいる。
正直、ネギを刻むにしても、うどんを練るときも、最近では、周りの会話などは、耳に入らなくなっている。
そして、その集中力たるや凄かった。
最近の日本人は、若い人だけではなく、年配もスマホに夢中になっているのだが、それでも、ヒロタカは、一心不乱になって仕事に精を出していた。スマホのゲームなんて忘れて仕事に精を出している。
「おい、ヒロタカ」
「はい」
「少しは、休憩しな」
と大将は、言った。
時計を見たら、1時間以上、仕事をしている。
気が付いたら、肩が凝ってきた。
ヒロタカは
「少し、休憩します」
と言って厨房を離れた。
ヒロタカは、高校時代、学校の食堂で、唐揚げを、無銭飲食をした。
そして、それが、きっかけで。校長先生や教頭先生に怒られ、停学になった。唐揚げ定食を、無銭飲食したので、本当は、警察の事情聴取を受けないといけなくなったのだが、ヒロタカのお母さんが、「警察の事情聴取だけはやめて欲しい」となった。
そこで、ヒロタカは、警察の事情聴取を受けない代わりに、高校の卒業生が、経営している吉祥寺のうどん屋で就職が決まった。
かれこれ、卒業して、もう7年が経過する。
そして、時々、都立高校の先生が、チェックするために、来店をしている、客として。
「うどん屋吉祥寺たいよう元気うどん」
という名前のお店だが、そこに7年が経過している。
卒業生は、みんな、大学を卒業して、そして、会社員になっているし、中には、それなりの奥さんがいて、なんて妄想を、ヒロタカは、したのだが、もうどうにもならないと思う。
いや、ヒロタカは、夢があった。
本当は、京急快特が、好きで、電車の運転士になりたいと思っただが、眼科で、色弱と言われて、ショックだった。それでぐれて唐揚げを無銭飲食したのだ。
空は、晴れている。
お店の外には、鬼滅の刃のイラストが描いているTシャツを着た男の子が歩いている、おかあと連れて。
しかし、そうした時、ヒロタカは、まだ、彼女が、ここにいない。
本当は、最近、付き合うことが出来た彼女がいたのだが、上手くいかない。
その彼女は、大卒で、銀行に勤務しているのだが、最近では、違う男と付き合ったと知った。
いや、ヒロタカは、彼女、志帆と一緒に、東京ディズニーランドへ行ったり、さいたまスーパーアリーナへ行ったり、横浜アリーナへ行ったり、サッカー観戦へ行ったり、野球観戦へ行ったのだが、乗り物酔いをしていた。
すぐにクルマに乗っては、吐くのだが、片付けたのは、俺だぞ、と思っていたのに、裏切られた気持ちだった。
ただ、ヒロタカは、本当は、うどん屋で仕事をしていてそれなりの夢があった。
「本当は、オレは、店を持ちたい」
などと思っていた。
気持ちだけは、大きく持っていたのだと思う。
そんなヒロタカは、志帆に、よく「オレは、お店を持ちたい」などと言っていたのだが、志帆は「現実逃避をしている」と言っていた。または「地に足のついた生活をしていない」とも。
そして、到頭、ヒロタカは、志帆と口論になって、それで、志帆は、違う男と交際をしたのだ。
それが、銀行マンだった。
いや、ヒロタカよりも優秀で、不器用な男ではなかったと思う。
そんなある日だった。
ヒロタカは、こんなに志帆が、粗相をしても世話を焼くには、もう、幼馴染の女の子のことがきっかけで、こんな性癖が出たのだが、今は、呆然としている。いや、志帆は、美人だと思う。
なのに、志帆は、違う男と一緒に、どこかへ行ったのは、ヒロタカは、とても頭が来ていたのだと思う。
それは、ヒロタカは、少し、変人だっただと言われたらそうだと言える。
志帆は、幼馴染の女の子に似ているわけではないのだが、それでも、三つ子の魂百までといったように、そうした行動パターンは、変えることができないらしい。例えば、野暮な会話だが、ヒロタカは、志帆が、「トイレへ行く」と聞いたら、ほっとしているのだから。
何だか、それが、違う男と一緒にいたら、それは、かなり嫉妬をしていたし、許せなかったように、ヒロタカは、感じていた。
どこへ行ったのだろうか?
とも思って、内心、カッカカッカしていたのだと言える。
そして、頭の中では、その男を何度も殴っていた。それくらいカッカしていたのだと分かる。
そして、うどん屋の仕事が終わろうとしていた。
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