第44話 戴冠
合計で七十万以上の兵を動かすということで、善斎御坊や幽玄、さらに兵糧方が忙しそうにしています。
「なんか忙しそうだね」
「誰のせいだ誰の、兵は半分でもよかっただろうに」
「それでは脅しにはならぬではないか」
「朝廷か?」
「朝廷と国人」
「降伏を認めるので?」
「敵対もしてない相手の降伏を認めないという訳にはいかんでしょ、すでに出雲の尼子経久が降伏を申し出ています」
「早いな、しかし知らん名だな」
「まあ出雲を統一している訳じゃありませんからね、これで尼子と敵対している出雲の勢力が敵となるのだから美味しいものです」
「見逃す相手、というより許さない相手は決まっているのですか?」
「まずは赤松と山名、大乱を大きくした原因なので討ちます、他の小大名は逆らわないのであれば降伏を認めますが」
「大内はどうする?」
「大内は大きすぎるので討ちます、が今回は九州まで行く気はないのでね、しかし大内政弘を討っていますし降伏しますかね?」
準備をしているうちに正月を迎えて十五歳になり桜も十二歳になりました、更に小姓をしていた奉行衆の子供達も十五歳になったので元服させることにしました。
小国虎義の子は小国孝義、佐藤虎政の子供は佐藤孝政、斎木虎綱の子が斎木孝綱、中島虎久の子が中島孝久と私の孝の字に各家の通字というとても簡単な名付けをしたので楽でした。
「いくらなんでも手抜きではないのか?」
「武士の諱などこんなもんですよ」
「まあそう言われるとその通りですが」
「水軍を古湊と舟木の息子達に率いさせるぞ」
「他の十人はどうするのだ?」
「足軽を五千ずつ率いさせます」
「流石に奉行家の息子達だですな、期待値がお高い」
「御坊が育てられたのだそれくらいはできるでしょう」
「うむ、それくらいは出来るように育てたつもりだ」
「親元で初陣させないのですね」
「正直私の直轄は指揮官が足りていないからな」
「なるほどな、初陣をさせると同時に指揮官不足を補うか」
大軍の運用をする為の準備は思いのほか時間と労力がかかってしまいました。
そんな中、桜とも遂に結ばれましたが、その後は藤林長門と母上が子供はまだですかとしつこくなり、側室にした千の父親の石黒智安も子供はまだかとしつこく言いに来てかなり邪魔でした。
長門も遊びに来ていた訳ではなく、調略の結果を報告しに来ていました。
降伏条件としては、交戦前であれば、先鋒を務める事で所領は安堵、交戦後は降伏を認めないと決めていました。
すでに降伏したのは、先ほども名前が出てきた尼子家、一番最初に降伏したため出雲一国を加増安堵、四国は、讃岐が香西家と香川家に十河家など他にも全ての国人が降伏済み、伊予も河野家に宇都宮家と西園寺家更に小国人達もすでに降伏、土佐は一条家はすぐに降伏したため土佐一国を認めた、後は阿波だが阿波は細川の分国の最後の一つなので降伏を認めない。
中国地方は降伏を認めない相手が多かった為降伏を認めたのは山陰では尼子、山陽では別所と庄に三村と小早川と安芸武田とした。
後は刈り入れが終わり次第攻勢を開始して山陰、山陽、四国の統一が終わるでしょう。
「はよう刈り入れが終わらんかの」
「九州を攻める時もこれくらいの兵をだすので?」
「百万の軍を出しても道に詰まるだろうよ、九州攻めは三十万くらいで攻めるつもりだ」
「中国と四国からか?」
「少し遅らせてから大隅あたりに船で五万くらい送り込もうかと」
「ふむ」
「まあ九州は来年の事ですよ、それより統一が終わったら家臣の知行替えをしなければいけません、それが面倒ですね」
「どうかえるのですが?」
「関東の越後に朝倉、北信、甲斐、駿河、会津に八徳、奥羽に旗本ですね」
「関東は完全に羽津のものにするのか」
「足利の弱さを見習う訳にはいきませんからね、他に畿内にも譜代をいれて中国、九州、四国に七衆を入れる感じですかね」
「ふむ」
「まあ旗本の俸給は米では無く銭で払うがな」
「なぜだ?」
「天下が統一されると大名たちは何をすると思う?」
「なるほど開墾に力をいれるのですね」
「そういうことだ、そして開墾に力を入れると当然ながら米の価格が下がる、故に調整しやすいように銭で払う、我が旗本に貧しい思いをさせてはいかん」
「つまり米の価格が下がってきた場合には俸給をあげるということですか」
「うむ」
そして刈り入れが終わり大軍が動き始めた。
「それでは行ってまいる」
「殿お気を付けを」
「まあ恐らく私が戦うことは無いだろうが気を付けておこう」
「それでは桜、千、母上行ってまいります、御坊、幽玄は米を切らさないようにな」
「うむ」
「承知いたしました」
そして二十六万の軍勢を率いて出撃した。
四国ではすでに戦が始まっており土佐、伊予、讃岐の軍勢を三好家が何とか防いでいる状況で主家である細川家に援軍を要請しているが、機内軍がすでに淡路を制圧しているため細川家が動けずにいた、そして舟木水軍の援護の元淡路を制覇した部隊が阿波へと向かっていた。
山陽地方では赤松家の庶流である別所家が赤松家から裏切り、防衛の一角と考えていた別所家の三木城が失われたことで一気に数か所の城を落とされたが何とか踏み止まったと思ったところ後方の備中備後の国人が羽津側について動いた為赤松家は挟み撃ちに合い、忠孝がまだ関東にいる間に滅亡した。
その動きを見て安芸武田家が動き安芸統一に向けて動き出した。
山陰地方では尼子経久が出雲統一に動き出し、若狭武田家を中心とした部隊が山名家に攻撃を仕掛けているが本隊が到着していないこともあり、中々優勢にたてないでいた。
「以上が各地の戦況です」
「ご苦労だ、丹波」
「しかし忠誠叔父の動きが早いな」
「事前の準備でしょうな、それと東海は馬車軌道や道が整備がされていますので」
「北陸とて整備は十分できている、忠誠叔父の才気に孝盛は負けていないと思うが、経験の差かな」
「なんとも」
「まあよい長門と叔父上はようやっている、孝盛を急がせよ」
「殿はどう動かれますか?」
「朝廷からの動きもあるだろう、芥川城に入る」
「山陽に向かわないので?」
「叔父上が苦戦していたら行くさ、私はその前に朝廷との舌戦をせねばならないだろうしな」
東海道から大和に抜けて河内、摂津と入り芥川城に入城しました。
入場後すぐに一条関白が芥川城にやってきた、ちなみに私が上座に座っているが、一条関白は文句を言わなかった。
「お初にお目に掛かります、一条冬良と申します関白を申しつかっておじゃります」
「その若さで関白か」
「大乱の影響でかなりの公卿が死に申しまして」
「そうか、土佐家には世話になっておる感謝しよう、して何用か?」
緊張の余りか汗が止まらないよう様子の一条冬良が。
「皇帝と名乗るのは止めていただきたい」
「それは天皇の意見か?」
「そ、それは」
「天皇は私が皇帝を名乗る事を認めているのであろう」
「はい」
「だろうな今上は愚かではない、この広い世界で戦っていくには、王では弱いのだ皇帝が必要なのだが、天皇を廃するつもりもない」
「それはまことにございましょうな」
「廃するつもりがあるならそもそも大内裏など再建せん、不安だというなら誓詞を書いてもいい、それと皇帝の任命権は天皇に任せるつもりだ」
「ど、どういうことでしょうか」
「今上は私が皇帝を名乗ることに否は無いと言っているはずだ」
「そうですな」
「問題はその後よ、我が子が皇帝に相応しい人物であるとは限るまい、最終的には鎌倉のようになっても私は一向にかまわん」
「人物を見て決めろと」
「ただ一度皇帝制を作る以上空位はまずい、空位になるくらいなら鎌倉の時代の時のようにしてくれればいい」
「一度戻らせてもらってもよろしいでしょうか」
「構わん、暫くは芥川城にいる、叔父上が優秀だから無理に私が動く必要もなさそうだしな」
この頃になると四国は落ち細川家の生き残りと最後まで細川家に従った三好家を斬首としました。
山陽を進んだ忠誠叔父は順調に進み赤松家を滅ぼしそのまま安芸、周防、長門といった大内の本拠地を落としていきました。
山陰は戦力の逐次投入になりつつあり、戦力の削り合いになっていたのですが、朝倉孝盛の本隊が到着してからは一気に押し切り山名家を滅ぼしました、その後は尼子家と協力して出雲と石見を征服して中国地方の征服も終わりました。
主将を芥川城に集めた上ででこのまま九州に行くか一旦引くかを評議にかけてみたところ全員が一旦引くべきという意見が出たので、一旦解散させることにした。
その間も私が遊んでいた訳ではなく、朝廷との折衝が続いていました、私が武力を使った交渉をしないとわかった途端に、朝廷側の攻勢が強まってしまい、中々交渉が進みませんでした、ですが天皇自身が皇帝制を認める勅許を出したことで大分話が進んだのですが、天皇と皇帝の上下関係を中心に貴族が粘ってきたので参ってしまいます。
最終的に天皇と皇帝はあくまで対等であり職分が違うだけという方向におさめれました、朝臣の粘り勝ちといったところでしょう。
ついでに丹波と丹後を押し付けた上で宗教関係を押し付けて禁中並びに公家諸法度を押し付けることに成功したので今回の朝廷との交渉はこちらのやや負けくらいで済ませられました。
ちなみに交渉の途中で後の後土御門天皇が現れ密かに戴冠式を行った時点で交渉は向こうのやや勝ちくらいでいいかなと思いました。
結局私は戦をすることも無く兵を連れて朝廷との交渉で終わってしまいました。
「疲れた」
「戦っていないだろう」
「戦うより疲れたわ」
「しかし、これで朝廷との関係も決まったのでよろしかったのでは?」
「まあこれまで気にしてなかったが日本を支配する名分がたった」
「忠孝が帝位についたことを全国の大名と近隣の国に知らせねばな」
「まあ明は認めないでしょうがね」
「いずれは対明も?」
「考えねばならぬが、まずは九州だ」
派手さは無かったですが戴冠式を行い皇帝になりました。
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