第39話 野分に駆ける
若狭武田氏は安芸武田氏4代武田信繁の嫡男である武田信栄が、室町幕府第6代将軍・足利義教の命を受けて一色義貫を誅殺した功績により若狭守護職を任命されたことによって始まります。
武田氏一門の中で一番高い官職に任じられていたこと・丹後守護を兼ね幕府のある畿内周辺で二ヶ国もの守護に任じられていたことなどから、武田氏の本流という見解も存在するらしいです。
といった名家・名族なんですが弱い弱い、侵攻して十日程で若狭を制圧ついでに朝倉孝盛をそのまま丹後におくり、私は丹波攻略に向かうことにしました。
丹波は細川家の所領なのですが、道明寺の戦いと高屋城の戦いで細川の力が衰えていた為、国人達が我こそはといった勢いで降伏してきたため、さしたる抵抗も無く統一することが出来ました。
なお丹波と丹後は使い道があった為、国人達には転封を条件に降伏を許可させました。
ちなみに丹後も早々に降伏したため武田家には若狭で二郡与えて終わりました。
「若狭を落としに行ったと思ったら余計に二国も落として来るか」
「この二国は使い道が決まっています故、掃除したのですよ」
「といいますと?」
「飛鳥井雅康を呼べ」
「なるほど」
「しかし朝廷にその力がありますかな」
「それを含めて聞く」
「飛鳥井黄門どの、現在朝廷はどうかな?」
「以前に比べれば財政も安定して朝臣たちも表情も明るくなりました」
「なるほど、今は、山城だけで満足だということか」
「はい、今は、問題ないです」
「それが聞けたので満足だ、津を堪能して帰られるといい」
「飛鳥井黄門さんこちらに」
「はい近衛羽林殿」
「こちらへ」
「はい」
「羽津殿が黄門殿を呼んだのは何故であった?」
「私はいない者として話せ」
「現在の朝廷の様子を聞いてきました、ただ」
「ただ、なんでおじゃろう」
「山城以外も任せる気がありそうでした」
「断ったか?」
「はい、今は無理だと伝えました」
「それでよい、よくやった、しかし、これ以上の領土となると地下家を増やす必要があるな」
「清華家や羽林家から分家を作りますか?」
「そうするといたそう」
「新しい分家が出来て喜ぶ家も増えることでおじゃりましょうな」
「何を他人事を、飛鳥井は当然ふやすぞ」
「なんと」
「羽津との交渉役でおじゃりますしな」
「朝廷は乗ってこなかったの」
「中々に賢いな」
「自分たちの統治能力の限界を理解しているみたいですね」
「やってみればいいのだ、無理だったら改めて当家に頼ればいい」
「その頼るのが嫌だから断ったのであろう」
「中々先を読める御仁でありましたね」
「まあ現状を朝廷が分かっているというのが分かっただけ重畳だ」
「恐らく丹波を貰う準備を始めると思うがどうするのだ?」
「私も意地悪で言っているわけではないですからね、準備が出来たなら渡しますよ」
「ならよい、無駄に敵を増やすこともなかろうて」
朝廷が乘ってこなかった為暫く丹波と丹後は代官を置いておくか、しかし乗ってこなかったのは意外だったな、これで朝廷に影響力を及ぼせるかと思ったが、まあいいそのうち乗って来るさね。
しかし朝廷が思っていた以上に頭がいい、今上天皇が優れているのもあるのだろうが側近衆がこれまた優秀なようですね、まあ治天の君と呼ばれるような人が頭が悪いよりはいいかもしれませんが。
そろそろ朝廷の在り方を相談する段階にきているのかもしれませんね。
その後は政務をして、桜と遊んで、古湊虎則の報告を聞いたりしました。
アンカレジと思われる場所を見つけたので港の建設と水城の建設を開始したそうです、しかし水城じゃ寒くないのかなと思いつつ好きにやらせました。
稲刈りも終わった為、古河公方・関東管領連合軍との戦の時期がやってきました。
陣触を出し、近江、越前、加賀、大和、伊勢、尾張を集め、対小笠原用に美濃と飛騨、対越後用に越中と能登を招集しました。
「結構集めたな」
「しかし、連合軍は二十万を号しております」
「直接連合軍と戦うのは十二万か大分兵力で劣っているな」
「殿ならば覆しそうですが」
「不利な状況で戦うことが戦略としては間違いなのだ」
「それはその通りですが」
「まあ、任せて見せるか」
「ところでこの書類を二人で処理するのですか?」
「そういうことじゃ」
「儂を隠居させたのがようやくわかったわ」
「羽津は正直内務に弱い、忠孝がいてようやく回るといった次第だ」
「文官を育てる必要がありそうですね」
「そうじゃな」
「殿まずはどちらに」
「三方ヶ原だ」
「曳馬城の北方のですか?」
「うむ、そこをそのまま東進する」
「曳馬を無視なさるので?」
「ほうっておけ」
「はあ」
「三方ヶ原を進むとは我らを無視するつもりか」
「追撃をかけて背後から攻撃をしろ」
「お待ちを! これは羽津方の罠ではないでしょうか」
「これほどの隙を晒す罠などありえまい」
「その通りだ、今こそ羽津の小僧の無敗記録を止めてくれるわ」
「では某は羽津が逃げぬように羽津の前方を押さえます」
「好きにしろ、全軍出撃だ」
「全軍停止反転せよ親衛隊は背後を固めろ、陣形は魚鱗だ」
「え、はい、全軍反転魚鱗の陣だ」
それから一刻後に我々の眼前から古河公方・関東管理連合軍が現れました、
「全軍一斉射だ」
号令と共に弓と鉄砲により一斉に射撃を放ち敵がひるんだところに
「騎馬隊突撃だ敵陣を乗り崩せ、足軽隊も続け」
一斉射と騎馬突撃により敵陣が大混乱になったのを見ていると
「殿危険です」
ぞわっとした感覚を感じた瞬間に素早く刀を抜き後方からの一撃を防ぎました。
「はは、お見事!」
「すわ! 無礼者よ名を名乗れ」
「太田道灌と申す」
「扇谷の家宰ではないか」
「これ以上の話は不要!」
「悪いが爺の一騎打ちに付き合う気はないぞ」
「殿、横やりご免」
「くそ、引くぞ」
「逃がすな、殺せ!」
「申し訳ございません、逃げられました」
「ふむ、まあよいわ、曳馬城を落とすぞ」
「はは」
連合軍は兵糧が足りないらしく遠江や駿河で乱取りをしたらしく城内にも米が無かったので簡単に遠江と駿河を奪うことに成功しました。
連合軍は立て直しに成功したようで箱根に陣を張って待ち受けているみたいです、尾根よりやや下りた所で布陣をしているようで我らの火縄を恐れているのがよくわかります。
しかし、こちらも山を取ってしまっては向こうの矢の射程内ということもあり山を挟んで向かい合うことになりました。
「殿どうなさりますか?」
「ここは我慢比べだな、連合軍の様な烏合の衆が、我慢比べに付き合えるかは分からないが」
「分かりました奇襲にだけは気を付けて我慢比べといたします」
「うむ」
「道灌どうするつもりだ!」
「なにがでしょう」
「睨み合いになってしまったではないか、これでは羽津の小僧を討ち取れないでは無いか」
「まあまあ、実際に十歳そこらの子供を討てなかった道灌に言ってもしょうがあるまい」
「羽津忠孝は強かったですぞ」
「まあ、いい訳はいくらでも出来るな」
「失礼する!」
陣幕から出たと笑い声が響いた、そもそも三方ヶ原で負けたそなたらの責任ではないか、こんな奴らの為に死ななくても行けないかと思うと憂鬱になってくる。
「大分内部もぼろぼろなようです」
「ふむ」
「太田道灌どうしますか?」
「討つ」
「調略できそうですが」
「いや、無理だ、あれは忠義で出来ている」
「分かりました」
「風が強いな」
「野分が近づいているようですな」
「ふむ」
本格的に野分がやってきたときに出陣の太鼓を鳴らした。
「殿、この野分の中本当に出陣するのですか!」
「今が好機、今こそ好機なのだ!」
「確かに敵は油断しているでしょうが」
「いくぞ、出陣だ」
「まだ集まっておりません」
「遅れた者は置いて行く、追いついた者だけついてまいれ!」
「はは!」
「駆けろ駆けろ野分に駆けろ!」
「殿、先頭はお止めください」
「集まってきたな」
「遅れてご免、先頭を譲っていただきます」
「おお、孝盛か、いけいけ先陣を駆けろ!」
「一番槍朝倉孝盛がもらった!」
「いけ、孝盛に続くのだ」
「おお!」
「一体何事か」
「殿羽津の奇襲です、すぐにお逃げ下さい」
「分かった、道灌殿に頼むぞ」
「これだけ尽くした最後が殿か」
「そこに見えるは太田道灌殿か」
「そちらは?」
「羽津は七衆朝倉孝盛だ」
「大物じゃな」
「そちらも大物だ、いくぞ」
「まだ負けられん」
激しい野分の中、この時代には珍しく一騎打ちを行う二人、周辺の戦闘は羽津勢が勝利し、羽津忠孝自身が見守る中、二人は数合槍を打ち付け合い八合目で孝盛の槍が道灌の右肩を貫いた、衝撃で落馬した道灌に忠孝が話しかける。
「道灌よ、よくやった、三方ヶ原でも箱根でも見事であった、そんなそなたを扇谷は捨て駒にして逃げたぞ」
「う、う」
「道灌よ、私に仕えないか?」
「うぅ、お言葉は嬉しく思いますが、我が忠は扇谷家にあります」
「そうか切腹するか? 一騎打ちで敗れた孝盛に首をやるか?」
「うぅ、孝盛殿に我が首を」
「孝盛、楽にしてさしあげろ」
「はは」
孝盛が馬から降りて道灌の首を苦しませないように斬った。
「朝倉孝盛、太田道灌を討ち取ったり!」
「おお!」
「潔い生き様だったな、武士とはこうありたいものだ」
「さようでございますな」
「敵を追いますか?」
「いや、死者の供養をしてやろう」
「再び敵が集まるのでは?」
「集めているのだよ」
ようやく箱根を超えましたが関東平野まではまだまだ遠いです、
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