第37話 道明寺の戦い
ちょうど古湊虎則が帰国したので呼び出しました。
「領内の仕置きもしないといけないのに、忙しい中呼び出して悪いな」
「いえ、お呼びとあらばすぐにでも参ります」
「うむ、虎則に頼みがあってな」
「どういった内容でしょうか」
「蝦夷地よりさらに北東に進むと原住民しかいない大地がある、そしてそこには金と銀が眠っているのだ」
「そこに行き港を建設するといこうことですね?」
「まあ虎則の仕事はそこまでになるな、後は奉行衆にやらせる」
「畏まりましたが、我々がやるのはいけないのですか?」
「鉱山のある場所まで富士の山より高い山々が連なっているが、やりたいのか? 道の開削もしないといかん、物になるのは十年以上あとだろうな」
「場所が分かっているのに、すぐに行けないのは悩ましいですな」
「まあそんなのばっかりだ、港を作るのはここだ」
「アンカレジですか?」
「好きな名前をつけていいぞ、その名前も未来人の記憶でしかないしな、ただ寒冷地だからな作る城も耐寒性をよく考えた城にせよ」
「畏まりました」
「次の用事だ、この大陸の地図を見るとわかるだろうが、ここの一部だけやたら陸と海の間が近いことがわかるであろう」
「確かに陸が細うございますな」
「ここに運河を作る」
「細いとは言っても結構な距離がございますが」
「閘門式運河を作る」
「聞いたことがございませんが」
「閘門は、水位の異なる水面をもつ運河に船を通航させるための施設だ。異なる水位間に水位が変化しうる一区画を設けて区画内の船を上下できるようにした設備を水閘という、水閘を区画するための界壁を閘門という場合もあるが閘門とまとめて呼んでよかろう、まあこちらも数年で結果が出るとは思っていない陸地で色々実験してから作成にかかるといい」
「はは!」
「以上じゃ下がってよいぞ」
「は」
現在北陸方面の統治が上手くいっておらず万が一の為に私も動けない状態が続いているので、仕事をしつつ桜を愛でる日々が続いている。
「殿は桜を娶ってから腑抜けになった」
「うん?」
「そんな声が出ているようですな」
「と言われてもな北陸が安定しないと動きようがないぞ」
「それは承知しておりますが」
「他家の流言ではないのか?」
「可能性はありますな」
「他家の忍びは殺せ」
「はは」
「しかし、殿の腑抜けの噂は放っておくと致命傷になりかねませぬな、良くも悪くも当家は殿あってのものですし」
「隙を作る忠孝が悪い、と言っても放っておいていい話では無いな」
「では出陣しますか」
「どこにだ? 三河か!」
「はい、吉良と一向宗で煮えたぎっている三河です」
「もう少し腐るまで待つのではなかったのか?」
「腑抜けていると言われては我慢が出来ませんしね、伊勢と尾張を動員します」
「田植えに間に合わんのではないか?」
「間に合わなかったら責任を流言に引っかかった馬鹿にとらせます」
「強引すぎる気もしますが」
「動けばどこから流れた流言かが分かるというもの、流言を流した者には盗賊に入ってもらうとしよう」
「流言を流したのは公家か!」
「さてはて、長門見張るべきはどこかわかるな?」
「今の会話で分かり申しました」
「ならよい、気軽に喧嘩を売って良い相手とそうではない相手がいると知らせて見せよう、陣触をだせ!」
陣触を出して十日後に親衛隊と八徳衆、すぐに陣触が出ても動けるようにしていた小国や佐藤といった奉行衆や感のいい桑山らの奉公衆がすでに集まってきていましたが、奉公衆の何名かと外様衆は遅参していました。
「もう待たん、三河に行くぞ」
「殿、暫く暫く」
「十分に待った、普段から戦の支度をしていないからこうなるのだ、私を腑抜けだとか言う風潮が流行っているようだが、遅参した者共こそが腑抜けというのだ、覚えておけ」
「そうかもしれませんが」
「出陣だ」
「はは」
三河に入り一向宗を戦っている最中に遅参していた連中が到着した、それを見た一向宗は援軍が来たと考えて撤退していった。
こっちからすれば遅参者なのに、向こうから見たら援軍か、面白いものだ。
「殿、この度の遅参について誠に申し訳なく思います」
「ふん、まあ面白い者が見えたから今回は許すこととしよう、が弓矢の道を忘れるなよ」
「はは!」
「殿」
「うむ?」
「吉良と一向宗が再び手を結んだようです」
「またか、面倒なやつらだ」
「どうされますか? 以前のように引いて分裂するのをまちますか?」
「いや、一気に踏みつぶす吉良の血縁も一向一揆も三河から消滅させる」
「族滅させると」
「うむ、東海に出るのに邪魔になってきた」
「降伏を勧告させていただきたく」
「ふむ、吉良は所領半減、一向一揆は壊滅若しくは禅宗への改宗が条件だ」
「分かり申しました、早速動いてみます」
「虎義は甘いのが欠点じゃな」
「美徳でもあると思いますが」
「交渉で何日もかかるとかたまったものじゃないぞ」
「それは確かにそうですが」
「虎政も手伝ってまいれ、無理だと思ったらさっさと切り上げさせろ」
「はは」
どうも古くからの家臣は私に余り人殺しをさせたくないらしい、私に悪名が付くのを避けたいみたいだが今更の気もするんだよね。
まあ、十歳児に好んで人殺しをさせる方がどうなの? って感じだし虎義や虎政の感覚の方がきっと正しいのだろうけどね、そしてあの二人の交渉は粘り腰で有名だから多分一向宗も受け入れて禅宗になっちゃうんだろうな。
そして本当に交渉を成功させてきた、思わず、まじで? と言ってしまった私に罪はないと思う、だって本證寺といえば二百年以上にわたって三河における一向宗の根拠地だった場所だよ、いったいどんな交渉してきたのさね、取り敢えずこれで三河は統一出来ました。
こういうこと言っちゃダメなんだと思うけど大決戦をしたいんだよなー、この調子だと遠江も駿河も簡単に落ちそうで正直面白くない。
何と言うかヒリヒリした戦場を楽しみたいんだよね、いかん、完全に目的と手段が入れ替わってるわ。
次の稲刈りが終わったら河内、和泉、摂津、紀伊を奪いに行こうそれで多少は気分がまぎれるだろうしね。
「次の戦略が決まったのか?」
「河内、和泉、摂津、紀伊を取りに行こうかと思います」
「畿内を一気に制圧するのか」
「丹波は今回は飛ばしますがね」
「動員はどうする?」
「伊勢、伊賀、大和、近江、尾張でいいでしょう」
「大軍だな、親衛隊と八徳衆を入れると十万くらいか」
「細川と畠山が一つにまとまってかかってくるもよし、ばらけて戦う場合は各個撃破でよし、私としては堺がどう動くかの方が楽しみです」
「焼くのか?」
「場合によっては焼きます」
「第二の津島になるか」
「会合衆の解散と羽津による直接支配、これ以外の条件は認めません」
「自治都市なぞ認められないからな」
「その通りです、支配下にいない都市なぞいりません」
「まあ余り殺しすぎないようにな」
執務をしたり桜と遊んだりしていたら稲刈りも終わったので陣触をだしました。
流石の津城とはいえ十万強の兵が集まると壮観です、大評定を開いた後に、軍奉行は小国虎義、総奉行は佐藤虎政として、旗本軍奉行は斎木虎綱、武者奉行は中島虎久とし、槍奉行は神童虎守と梓川虎犂、弓奉行は弓倉虎行、使番目付は戸田実久、鉄砲奉行に新井田大介、親衛隊隊長に六郷虎恭と決めて出陣です。
大和を抜けて河内に入った所で、細川・畠山・本願寺が連合軍を率いて陣を引いていました、大体八万といったところでしょうか、おそらく畿内で起きる最後の大戦になることでしょう、私も少し気分が上がっています。
「畠山の大将はだれだったか?」
「畠山義豊ですね、殿と同じ年です」
「まだ子供ではないか」
「殿がそれをいいますか」
「細川の大将はだれだ?」
「細川成之です」
「阿波家の当主ではないか、京兆家ではないのか?」
「細川は典厩家と野州家が京兆家の座を巡って争っていますので」
「それで阿波家が采配を握ると、纏め切れるのか?」
「成之の器量次第としか」
「敵は鶴翼か、ならばこちらも鶴翼で合わそう」
両軍が鶴翼の陣で睨み合いを始めて四刻が経ちましたが戦況は動きませんでした。
「ふむ、向こうが動かんな」
「こちらから動きますか?」
「まあ日が暮れる、攻めるにしても明日だな」
「長門」
「は」
「向こうが動かんのは何故だ? こちらの動きを探ってるのかな」
「どうも細川、畠山、本願寺で意見が割れているようで、細川としては無敗の殿に正面からぶつかるのは愚策といい、畠山は先の先を取り戦場を自分たちで動かすべきだといい、本願寺は殿の攻撃を受け流し包囲化に入れて殿を討ち取るべしと」
「どれも悪く無いが、悪く無いゆえに頭が三つに割れたか、頭が三つに割れていてはどうにもならんな」
「夜襲をかけますか?」
「いやいい、正面から叩き潰す」
「一応夜襲には気をつけておけ」
「は!」
頭が抜けた勢力が無い状態での連合軍なんて、まあこんなもんですよね、そもそも仲がいいわけでもないのに連合なんてうまく行くわけがないが、こちらとしては一回の戦である程度決まるのは楽でいいかな。
翌日は日が出る前に全軍を前進させ日が出ると同時に射程内におさめた敵軍を鉄砲隊と竜騎兵で撃ちまくってひるんだところを騎兵と竜騎兵で突っ込み敵陣で大暴れをさせて混乱を倍増させていきます、その後を追いかけるように足軽隊が敵陣に突っ込み一気に止めを刺します、これぞ羽津流乘り崩しと名付けることにしました。
「あっさりでしたな」
「乗り崩しの前にはこんなものだ」
「自信がおありで」
「私は防げる自信ないぞ、まあ火縄をこんなに集めれるのも当家だけだと思うが」
「勢いを落とさず高屋城を攻め落とせ」
畿内征服戦開始です。
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