第36話 祝言
なんだかんだで祝言を上げることになってしまった徳寿丸です。
十歳で祝言は早いのではないのかと思うけど、早々に私と桜殿をくっつけたい勢力が身内にいたため抵抗できませんでした、桜殿は見た目も良く性格も穏やかで七衆の曾孫という家柄なので文句をつけるところが無いのですが! ですが、未来人の記憶を持つ私には幼女趣味など無く七つの子を妻に娶っても面倒にしか思えません。
何とか桜殿が十歳になってからとか抵抗いたのですが、母上と長門の組み合わせの前に敗北してしまいました。
「何を悩んでいるのか?」
何時ものように私が悩んでいることを推察した御坊が話しかけてきました。
「よく悩み事があるとわかりましたね」
「逆立ちしている時はいつも悩んでいる時だろう」
気付かないうちに逆立ちしていたようです。
「いえ、祝言を考えますと」
「婚姻を控えて憂鬱になる者は少なくないそうだ」
「そうなんですか?」
「まあ悩みの原因は色々あるそうだが、そちの場合は相手を見たことがない上に、相手が七つというのが原因となっているのではないか?」
マリッジブルーってやつかな?
「だが向こうの方が心細く思っているだろう、七つで親元から離されて主筋の家に嫁に行くのだ、何か不始末を起こせば藤林の家にまで咎がいくかもしれないのだ、不安でいっぱいであろう、安心できるように手紙でも書いてやったらどうだ?」
確かに言われてみれば私は七つの子の相手が出来るかどうかしか考えていなかったが、向こうは主筋の家に嫁ぐ上に数名の侍女以外は味方がいない状態か、心配で一杯であろうな、
「うむ、心配を減らせるか分からないが手紙を書いてみることにしよう」
「では、そなたはたまった書類をしっかり片付けるように」
「こんなにあるのですか」
「当家は今や、伊勢、志摩、伊賀、大和、尾張、美濃、飛騨、近江、越前、加賀、能登、越中の十二ケ国の太守だからな仕事が常になくならんわ」
「側近を増やすべきですね」
「それには賛成だが機密も多いから信用出来る人物でないといかんぞ」
「それと嫁を娶るのでそろそろ元服を考えているのですが」
「まだ早い気はするが嫁を娶るなら元服してもいいかもしれないな」
「では、先に元服を済ませてから、その一月後に祝言を上げる」
「ちと駆け足にすぎるのではないか?」
「祝言を楽しみにしている母上と長門を待たせ過ぎにしたくはないな」
「元服後の名前は忠孝にすると言っていたが、ただ単に忠孝を尽くすという訳ではあるまい?」
「この日本のすべての先祖たちの為に日本を世界最高の国にするという忠孝よ」
「ふむ、よいと思うが名前負けせんようにな。烏帽子親は誰にするのか?」
「忠盛でよかろう、髪は茶筅でよい」
「茶筅とは珍しいことをしよる、子供と大人の間ということか」
「まあそんな感じです、その一週間後に忠盛の嫡男を元服させます」
「勝手に決めていいのか?」
「忠盛には後で話す、芳菊丸もいい年ごろだからな」
「それで何をやらせるおつもりで?」
「忠盛を隠居させる」
「何か咎が?」
「いや、ここで政務に参画させる、その際に朝倉領が邪魔になるから芳菊丸に継がせる」
「朝倉領を急に継がされる芳菊丸も大変じゃな」
「鈴木と布谷がいるから問題あるまい、それに芳菊丸の器量ならば忠盛の後を継いでやっていけよう」
「長門、忠盛を呼んでまいれ」
「承知」
長門っていっつもいる気がする。
数日後、
「朝倉忠盛お召しにより参上いたしました」
「いくつか相談があって来てもらった、楽にしてくれ」
「は」
「まずは聞いているかもしれないが、祝言を上げることになった」
「おめでとうございます」
「うむ、ありがとう、でだ祝言を上げるのに何時までも徳寿丸というわけにはいくまい」
「では元服を?」
「要件の一つがそれだ私の烏帽子親になってもらう、名自体は私が決めているがな」
「それは光栄なことと存じます、是非にもやらせていただきたく思います」
「うむ、それでだ、その数日後に芳菊丸も元服させたい、烏帽子親は私だ」
「それはありがたく思いますが、続けて元服させるのは何故でございますか?」
「まず、烏帽子親を忠盛にやらせることで当家が朝倉家に対して何ら遺恨が無いことを示し、私が芳菊丸の烏帽子親をやる事で朝倉家を大切にしていることを示したい」
「なるほど、儂は隠居させられるのですね」
「話が早くて助かる」
「話は分かりましたが、何故隠居をさせられるのでしょうか」
「この部屋を見ろ」
「書類で埋もれていますな」
「これを毎日私と御坊の二人で処理している」
「たった二人でですか?」
「そうだ、機密に触れることも多い上に処理能力が低い者を置いても邪魔になるだけじゃ、ここまで言えばわかるな」
「家を芳菊丸に預けて、某はこちらに詰めるという訳ですな」
「その通りだ、芳菊丸の器量は幸いにも高い上に鈴木と布谷といった名と実力が知れた家臣たちもいるから朝倉の方はなんとかなろう」
「分かりました、元服が終わった後に家督を譲り殿の側近として動きます」
「うむ、朝倉本家とは別に扶持を与える故励んでほしい」
「はは!」
「これで書類仕事が減るといいが」
「そなたの決裁が必要な書類は減らんからな、儂は楽になるだろうがそなたの忙しさは変わらないかもしれんな」
「何という残酷な一言!」
取り敢えずちゃっちゃと仕事を終わらせてしまいます、お、火縄に続き大筒の施条にも成功したのか大量生産させてガレオン船の換装しちゃおうかな国内は普通の火縄でも十分だけど、そろそろ新型に換装しちゃおうかな、親衛隊と八徳衆には銃身を短くした新型火縄を持たせるかな、それで全員を騎馬にして竜騎兵にしちゃうのも悪く無いかな、その場合は護衛用の足軽も必要になって来るかな。
「長門」
「はは」
「新型火縄の銃身を少し短くして馬上でも使える火縄を作ってくれ」
「馬上で運用するのですか?」
「一斉射で敵が動揺したすきに乗り崩しを掛ける」
「確かに強そうですな」
「これを竜騎兵と名付ける」
「馬も必要ですな」
「馬も奥州辺りから購入してきてくれ」
「承知いたしました」
そしていよいよ元服の日特に何事も無く終わり、今後は羽津太郎忠孝と名乗ることにしました。
そして一週間後には芳菊丸の元服も終わり、朝倉孝盛と名乗ることになったのと同時に我が姉である詩乃との婚約が決まりました。
そして祝言が始まり始めて桜の顔を見た時に雷が落ちました、ああ、長門お前の言うとおりだこんなに可愛らしい人は二人といないわ、幼女趣味は無いはずだったのですが一発で恋に落ちました。
それからは何をするにも二人で一緒にいるようになり桜をひたすら愛でていたのですが、それも一週間もすると善斎御坊の雷が落ちて政務室に引っ張られていきました。
「嫁を愛でるなとは言わん、邪険にするよりはずっとよい、しかし忠孝は羽津の大将なのだ、七つの子を相手に腑抜けられては困る」
まったくもっておっしゃるとおりです、ってことで政務を片付けて桜に会いに行くとしましょう。
「そなた、これまで手を抜いて仕事をしていただろう」
違うんです桜に会いたいだけなんです、桜に会う為ならこれまで以上の力が湧いてくるだけなんです。
「この分なら仕事を増やしても良さそうだな」
よく無いんです、桜と会う時間が減っちゃうじゃないですか、やだー、もー。
「意外と余裕がありそうじゃな」
「ないわ!」
「祝言に悩んでいたのがまるで嘘のようじゃな」
「長門の言うことを話半分に聞いてたからな、まさかそれ以上が出てくるとは思わなかったわ」
「まあなんにせよ良かったではないか」
「確かにそうかもしれませんね」
「長門の話だとああ見えて上忍並みの実力らしいぞ」
「え、ええ?」
「そなたの寝室に忍び込んで来るものを予め教えておかないと桜殿に殺されかねんぞ」
「丹波、半蔵、いいやつだったよ」
『殺さないでいただきたい』
「じゃあ、多羅尾か」
「儂もまだ生きたいですな」
「機密たっぷりの部屋に入室許されていない奴がなんでこんなにいるんだ」
「殿に一度桜様と面通しをさせていただきたく」
「儂の潜んでいる場所に恐ろしい殺気を放ってきて怖いですな」
「まあよい、面通しは良いが寝室の護衛は今後いらなそうだな、護衛を置くにしても、くノ一にせよ」
「はは!」
「うちの上忍はなんで出たがりなんだか」
「よそじゃ忍びなぞ人としては扱われないからな、忠孝は人として接してくれるから嬉しいのであろう」
「当家の領内に住み当家の法度を守る全ての領民は身分の上下に関わらず人として扱う、それが忍びだろうが、河原者だろうが変わらない」
「ふむ、そうじゃな」
「ハワイの水城はどうなっているのかの? 直接見に行けないのが残念だ」
「大分完成に近づいてはいるようだが資材を全て羽津領内から運んでいるから時間が掛かって入るな」
「ということはメキシコに作ろうとしている城も時間がかかるか」
「まずは大地を探さねばいかんからな」
「そういえば蝦夷地よりも更に北東に進むとアラスカという原住民しかいない土地がある」
「ほう」
「そこでは金と銀が取れる」
「それをはよう言わんか!」
「今度虎則に行かせてみるかな」
「埋蔵量にもよるではあろうが財政が潤うのがありがたいな」
「潤った財政で当初予定のガレオン数を増やし欧州を叩きのめしに行こうかと思っている」
「欧州が海外に打って出る前に海外の恐怖を教えてやると言う事か」
「ということでパナマに運河を作ろうと思う」
「あれをやってこれをやってと忙しいな」
「天下の仕置きとは忙しいものなのですよ」
次の目的はアラスカとパナマです!
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