第34話 驟雨に駆ける
本願寺蓮如から使者が来ました。
「お初にお目にかかります下間頼周と申します」
「うむ、羽津徳寿丸じゃ、それで何用か?」
「我々は羽津様と敵対するつもりはありません、これ以上の攻撃を止めていただきたい」
「それは無理だな」
「なぜでございますか?」
「本願寺は五戒すら守る気がないではないか、そんな破戒僧の集団を僧侶とは認めない、ただの武装集団としか見えんな、五戒をしっかり守り、諸宗寺院法度に従うのであれば認めないではないが、そちらは受け入れまい?」
「本願寺を滅ぼすつもりということですか」
「ずっとそう言っているではないか、害悪でしかない宗教は滅ぼす、今後の日本のためにな」
「それならば私共も全力で抵抗します、後悔なさらぬように」
「後悔云々は言われるのは四度目だな、後悔したことは無いので是非後悔させてみてくれ」
「失礼いたします」
「言って置くが本願寺の降伏を認めるつもりが無いからな、後悔しないように過ごすがよい」
「くっ」
蓮如の使者を帰したことで、本願寺と完全に敵対することになりました、領内の本願寺派の寺院は全て潰してありますが、隠れ信者がいかねないので注意する必要がありそうです。
現在の蓮如はまだ吉崎御坊にいるはずなので越前攻略が必須になってきましたね、となると朝倉と一向宗を同時に戦わないといけないので当初予定の二万五千だとちょいと厳しいかもしれないかな。
まあ久しぶりに不利な状態の戦も悪く無いか、無理そうなら引けばいいだけだしね、久しぶりに頭を使って戦ってみましょうか。
そういえば法度に従わなかった南都の寺社も焼き討ちを叔父上達にやらせました、従わない仏教徒からは魔王と言われ始めているようです、信長君のあだ名を貰っちゃいました。
破戒僧共に何を言われても気にしませんが、民衆にも恐れられるのが困ったものです、武家よりも寺社勢力が最終的な敵になりそうです。
北陸遠征の準備中に古湊虎則がハワイから帰還しました。
「遠くまでご苦労だったな」
「ガレオン船の力ならそれほどの苦労ではありません」
「航海年鑑と天測航法についてはどうだ?」
「家臣任せにはなってしまいましたが、大分進んでいます。年明には完成させれるかと」
「それは重畳、今建造中のガレオン船が完成次第メキシコに向かって貰うことになる、それまで英気を養うといい」
「九隻で向かうということですか?」
「それ以外に足軽を三千ほど連れて行ってもらう」
「詳しくは後日に話すが現地の良港を作れそうな場所を占領して現地にも足軽を駐留させる」
「侵攻をしますので?」
「まずは港作りからだな、その間に物資を羽津から送るので水城を作ってもらうことになる」
「足元を固めてから動くということですね」
「そういうことだ、足軽を最低一万、遊女を千人程送る」
「遊女は何故ですか?」
「現地人を攫うような事をされては困る、我らの知らない病があるやもしれんからな」
「そういうことでしたか」
「ガレオン船が出来るのにも時間が掛かろう、新航法を試しがてらハワイの港建造に必要になりそうな物資と駐留部隊の交代要員として足軽を五百つれていくのだ」
「はは、ハワイは交代制にするのですね」
「あんなに良い島にずっと置いておいては腑抜けになるわ」
「確かに過ごしやすい気候でしたね」
「ハワイの兵は一年単位で交代させる、それと現地住民に気を許すなよ、特に火縄を奪われるなんてことはないようにな」
「はは!」
「では新航法が完成するまでは休んでいいぞ、完成次第忙しく働いてもらうからな」
「承知いたしました」
「では下がってよい」
「は」
中南米は平和的に行こうと思っていたけれど、スペインに先を越されたくないので侵略することにしました、血は流れますがスペイン侵攻よりは犠牲は少なくなると思います。
最終的には鉱山の利権だけを得て従属させる方針で行こうと思いますが、どれくらいやれば鉱山を手放すかがわかりませんね。
一万を送れば十分だと思いますが、二万送る可能性も考えておきましょう、そして城を建てるので大工等の職人や商人も向こうに送る必要が出てきそうです。
私の後世の評価凄い悪そうな気がするわー、寺社を焼き払って海外を征服してってね、しかし動くと決めた以上は動くしかないのよね。
「考え事は終わったのか」
「私は後世では悪人って言われる事が分かった」
「八歳児が自分で決めていたとは後世の人間も思うまい、儂たちこそが幼子を操っていた悪人とされるだろうよ」
「そういうものかね」
「そういうものだ」
「では遠慮なく蓮如の首を取ってくるとしようかな」
「刈り入れが終わるまでまあ待て」
「いや、もう動く我らは足軽で戦えるが向こうは農兵を動員せねば戦えまい」
「刈り入れが出来ないようにするのか?」
「うむ、朝倉孝景に隙があれば一気に叩き潰す」
「ふむ、考えての事ならば敢えて止めはせんが」
「では御坊内治は任せる、陣触を出せ親衛隊と八徳で越前にいくぞ」
勢いよく出発したものの奇襲で金ヶ崎城を落としたところで朝倉と本願寺の連合軍と会敵、お互いが鶴翼の陣を引き睨み合いになりました。
朝倉は三万といったところか、今年の収穫は諦めたか、本願寺も二万はいるな、こちらは親衛隊と八徳で一万二千か、精鋭とはいえ野戦で四倍の差があるのは厳しいな。
何時までも睨み合いという訳にはいかないので二千の火縄で一斉射させました。
それが戦いの合図となり双方衝突となりました。
兵力の差もありやや劣勢といったところですが、八徳衆の踏ん張りと親衛隊の力の前に向こうは押し切れないといった感じです、
「そこ左からくるぞ、次は右の頭を潰せ、その次は前の出足を潰すのだ」
親衛隊の指揮を取りつつ戦っていた所夜になったので呼吸を合わせて引きます。
「どれくらいやられた?」
「負傷者はそれなりにいますが死者は少ないです」
「ならまだいけるな」
「殿、僭越ながら申し上げます」
「なんだ」
「お味方の到着を待ってから戦ってはいかがでしょうか」
「それをすれば孝景は確実に引く、越前での戦いが長引くことになる」
そしてそんな戦が数日続いた後にそれはやってきました。
「殿、驟雨です木陰にお入りください」
「我勝てり」
「殿?」
「全軍進むぞ! 驟雨で油断している朝倉孝景を一気に討つぞ、この驟雨に駆けるのだ! 我に続け」
「殿,お待ちを、ええい皆殿に続け」
「駆けよ、駆けよ、今が絶好の好機じゃ」
前も見えぬ驟雨の中朝倉孝景は陣所としていた屋敷に避難していた、激しい雨はあらゆる音をかき消し、朝倉軍の誰一人、近づきつつある敵勢の蠢動に気付かなかった。
暑気払いに一杯を飲み干した孝景は、急に騒がしくなった足軽ら声に苛立ちを覚え、怒鳴りつけようとした次の瞬間、孝景の前に槍の穂先が突き出された。
「朝倉孝景覚悟するべ」
「貴様は何者か」
「羽津家八徳衆加藤孝吉だ」
「何故羽津がこんなところに」
そう言い残し朝倉孝景はその波乱に満ちた一生を終えた。
「朝倉孝景討ち取っただー」
「一気に朝倉の将兵を討ち取れ!」
「はは」
突然の奇襲を受けた上に大将を討ち取られた朝倉勢は組織的な反抗も出来ずに次々と将兵が討たれていってしまった。
「これを待っていたのですか」
「うむ、この辺りの今の時期は激しい驟雨が降ると聞いていたのでな」
「しかし先頭を走るのはお止めください」
「私が走らねば付いてこないだろう」
「そうかもしれませんが武器も無しに敵陣に突っ込むのは聞いたこともございません」
「次からは気を付けよう」
「後は本願寺ですね」
「火縄で撃ちまくれば終わるわ」
「陣形は」
「鶴翼でいい、撃って撃って撃ちまくれ!」
「はは」
朝倉軍が壊滅したのもあり本願寺側も士気が下がっていた、そこに二千の火縄が休む間も無く撃ちかけられて一気に壊走した、そこを八徳が追撃に走り最終的に朝倉勢一万八千、本願寺一万二千の犠牲者を出し壊滅的な打撃を受けた。
羽津勢はそのまま一乗谷まで攻め入って一気に攻略をし越前の他の城も攻略していき近江衆と美濃衆が合流した頃には越前の敵は吉崎御坊だけという状況になっていた。
「吉崎を包囲し、火をかけろ一人も逃がすなよ」
「女子供もですか?」
「全てだ」
「承知いたしました」
蓮如は吉崎御坊と共に火で焼かれて死ぬこととなった。
しかし蓮如の意思を継ぐ子供たちが反羽津を掲げて戦い続けていくことになる。
「取り敢えずは越前の掃除は終わりだな」
「敵対する勢力はいなくなりました、民の中には本願寺を信じている者がいるやもしれませんが」
「統治の難しい土地よな」
越前の掃除が終わったので加賀に向かい富樫家を攻撃しましたがあっさり終わりました、富樫よりも加賀に根を張っている本願寺勢力を駆逐することに時間が掛かりました。
その後は能登と越中に攻め込み敵を野戦で打ち破り七尾城に追い込むことに成功しましたが七尾の守りが固かったため包囲部隊を残し越中と能登を制圧していきました。
その後は七尾をひたすら包囲していましたが中々落ちません今年は久しぶりに新年を迎えることになりました。
「九歳になったからといって七尾が落ちるわけでもなし」
「兵糧がそんなにもつとも思えませんので、しばらくの我慢です」
「ついでだ飛騨もとっておくか、八徳に飛騨攻略を命じておいてくれ」
「承知しました」
七尾が落ちるのは時間の問題、飛騨もすぐに落ちるだろうし、そうなると領土的には伊勢、志摩、伊賀、大和、尾張、美濃、飛騨、近江、越前、加賀、能登、越中か次は東海に勢力を伸ばしていくとするかな。
でもその前に本願寺との戦いで荒れた、北陸の内政に力を入れた方がいいかもしれないですね。
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