第33話 焼き討ち

 山城国を朝廷に任せて暫く経つが問題なく治めれているので、こちらも約束を果たそうと思いまう。


「全公家に大内裏についての詳しい内装や構造などを調べるように依頼したが中々情報が上がってこない」

「大体必要なのが

朝堂院、大極殿

豊楽院

左近衛府・右近衛府

内裏、紫宸殿、清涼殿、後涼殿、仁寿殿、蔵人所詰所、春興殿

東宮

後宮、常寧殿、弘徽殿、承香殿、飛香舎、昭陽舎

宴の松原

太政官府

神祇官府

八省庁

令外官府

といったところか」

「建てればいい物はわかるのですが、外装も内装も分からないのでは話になりません」

「羽津には大内裏の資料なぞないがどうするのだ?」

「今天皇が音頭を取って各家の資料をあつめているみたいですが大乱の影響で資料が散逸してしまっているそうで苦労しているみたいですね」

「まあ自分たちの為の施設を作るためだ、多少の苦労は甘んじて受けた方がよかろう」


 今回の件で改めて大乱を起こした連中に対する恨みが再燃した上に前帝に対する同情も弱くなり、当家に対する印象が好転しているようです。

 天皇を上手く操るための餌のつもりが公家達も上手く操れそうです、しかし武力がないのに生き延びてきた公家達を甘く見ることは出来ません。


「次は何を考えているのだ?」

「天皇と公家を縛る法度を作らねばと」

「その為にはどういう天下を作る気なのかわからなければ作れんぞ」

「その前に全国の八割位は抑える必要はあるでしょうね」

「ならば戦か」

「そうなりますね」


 大和と近江がまだ治まっていないのでそれを待ってから越前の朝倉ですかね、一向宗も気になるなか、朝倉を潰した後は続けて加賀をつぶすのがいいかもしれませんね。

 そうなると一向宗との全面戦争か三河も潰したい所ですね、ならば越前、加賀、能登、越中を一気に攻め尾張衆で三河を攻めさせましょうかね。


「となると私自身が出る必要がありそうですね」

「突然何の話だ?」

「越前、加賀、能登、越中を私自ら兵を率いて落とします、さらに尾張衆で三河を攻撃します」

「三河は攻撃なのか?」

「恐らく浄土宗が敵に付くと思われるので尾張衆だけで落とし切るのは難しいかと」

「遠江の斯波も敵に付きそうだが」

「なので伊勢、大和、伊賀、志摩は動員をかけません、私の親衛隊と八徳と近江、美濃で攻めようかと思います」

「近江はまだ治まりきっていないぞ」

「ゆえに近江が治まって出ようかと思います」

「大体三万くらいか」

「東美濃は小笠原対策で兵を割くので二万五千くらいになりそうですが」

「朝倉は強いぞ」

「なので精鋭を連れて行きます」

「まあ、なんにせよ大和と近江の情勢次第だな」

「近江で浄土宗があばれていますからね」

「延暦寺はどうするつもりだ、このままというわけにはいくまい」

「延暦寺は今後の日本に不要そうなので焼きます、近々親衛隊と八徳を率いて近江入りしようかと」

「自らの手を汚すか」

「家臣の手だけを汚させるわけにはいきませぬゆえ」

「その汚名は後世にも祟るぞ」

「やむをえません、誰かが正さねばいけませぬ」

「ではそれを後押しした腐れ坊主として一緒に汚名を被ってやろう」

「では、共に地獄に参りましょう、親衛隊と八徳衆に陣触を出せ!」

「比叡山も終わりか、時代が進むのを感じるな」


「羽津さんが比叡山を囲んでいるようでおじゃります」

「何でも焼き討ちするという話しでおじゃるな」

「朕は叡山を庇わぬぞ」

「よろしいのでおじゃりますか?」

「叡山は調子に乗り過ぎたのだ、聞くところによると人身売買までしているそうではないか、焼かれてもしかたあるまい」

「麿達も覚悟が必要でおじゃりますかな」

「大内裏を作るくらいだ、羽津は朕達を殺す気はあるまい、問題はどう扱う気かだな」

「相国寺さんのように太政天皇を狙うとかでおじゃりますか」

「それはなかろう、朝廷と距離を取り過ぎている、未だに無位無官じゃ」

「帝は何か予想がついているのでおじゃりますか」

「新しい地位を作り上げるのではないかと思っている」

「帝を廃するということでおじゃりましょうか」

「そう思っているのなら大内裏など作らせまい、おそらく朕と同格の地位を新たに作り、我らには儀礼や伝統文化の継承をさせていくつもりなのではないかと思う」

「何故そう思われたのでおじゃりますか?」

「羽津がこれまで我らに求めたのが字と和歌だからな、伝統文化を途切れさせることは無いと思っている」

「それではどうなさるのでおじゃりますか」

「朕はそれでもいいと思って居るし、羽津がそれを言い出した時には既に天下のほぼ全てを治めている時であろう、反対して皇統が途切れるよりは羽津の天下で皇統を栄えさせた方が良いと思う」

「これは他の者には」

「言うな、余計な事をして羽津の邪魔をすれば朕達の将来も不安定なものになるぞ」


 と天皇達が的を得た話をしている最中にも精鋭部隊である親衛隊と八徳は素早く何も言うことも無く比叡山延暦寺を包囲した。

 突然に現れて何も言わず包囲をされたことに流石の延暦寺も驚き僧を送り羽津の存念を聞こうとしたが、何も聞かせてもらえず追い返された。

 ここにきて羽津の本気に気付き包囲の穴から各地に仲介を頼みに行ったが天皇にすら袖にされた上に天皇に仲介を上奏した公卿が解任されたと聞き絶望に襲われていた。


「包囲完了しました」

「では焼き討ちをせよ」

「女子供はどうされます?」

「何故出家坊主の所に女がいる?」

「そ、それは」

「まあいい女子供はそなたらの存念で好きにせよ」

「坊主は皆殺しだ」

「はは」

「では夜になり次第、各自行動に移れ」

「は」


「お侍様この子たちだけでもお見逃しください」

「子供はええだ、でも坊主は見逃すわけにはいかんだ」

「子供達が助かるなら構いません」

「お侍様和尚様殺しちゃダメ」

「和尚様を助けて」

「し、しかし坊主は皆殺しにせにゃいかんのじゃ」

「お前達」

「和尚様が死ぬなら私も死ぬ」

「うぅ、だめだおらにゃ斬れねえだ」

「しかしそれでは大殿から罰を受けますぞ」

「それでもおらにゃだめだ、そっちから下におりるだ」

「ああ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「おらは切腹かの?」

「お供しますよ」

「倅の家臣がいなくなるからだめだべ」


「ということが各地あったみたいです」

「そんな報告はいらんよ、長門」

「よろしいのですか?」

「包囲網をすかすかにして敢えて夜にやってるのだ、それに気づかん馬鹿は暫く切腹の恐怖に震えていればよい」

「最初から皆殺しにする気はなかったと」

「かといって善良な坊主は見逃していいと言っても誰が善良なのかわかるまい」

「殿、法元という僧が目通りを願っております」

「何で法元がこんな所にいる、永平寺の僧ではないか、会うとしよう」

 

 法元はすぐに通されました


「永平寺の法元です」

「羽津徳寿丸じゃ、こんな所に何用じゃ?」

「そろそろ十分ではないかと思いまして参りました」

「そうか十分だとおもうか」

「はい」

「叡山への攻撃を終了する、伝令を回せ」

「ありがたく」

「いや、ちょうどいい止め時だったのかもしれんな御坊には礼を言おう」

「いえ、それでは失礼します」

「法度には永平寺も従ってもらうことになるが?」

「あの法度なら文句なく従えますので大丈夫です」

「ならばよい、御坊をお送りしろ、八徳を集めろ」


「おら切腹かもしれないでよ」

「黙っていればばれまい」

「殿をだますなんてゆるされないべ」

「うむ」

「さっさとこい!」

『はい!』

「部隊を率いるということは主将の考えを正確に読み取る必要がある、何故私がこんな隙間だらけに包囲をし夜に攻撃を仕掛けたのかを理解していなかった者が多いな」

「それはいいお坊さんは見逃していいってことだべか」

「そういうことだ、理解して動いていたのは景兼と広胤だけだったな、他の六名は理解しないで逃がしていたな、理解して逃がしていた二名は別として他の六名はただの命令違反だからな、何らかの罰則を覚悟しておくことだ」

「ひええ」

「比叡山を登りますか?」

「ここまで来て残ってる坊主に生臭はおるまい放っておけ、再武装をしたら再び焼きに来るさ」

「法元御坊の出てくる間がよすぎますが」

「善斎御坊の手まわしだろうよ、私を地獄におくりたくはないらしい」

「なるほど」


「ふむ、助かったか」

「どうします、僧都様」

「羽津の殿様の怒りがとけるまで再興は無理であろう、妙法院にでも世話になりに行こう」

「分かりました」


「近江にある従わない寺社は全て焼くぞ」

「はは!」



「条々の五が従えないという寺社が多かったのう」

「坊主も女好きということだ」

「御坊も好きなのか?」

「若い頃は気になって仕方がなかったが、禅を組めば忘れる程度のきもちだったな」

「私はまだ分からないな、桜殿の事を考えると気になる気持ちが少し沸くが政務に励んでいれば消えてしまうわ」

「まあそなたはこれからだろうよ、近江が片付いた越前に行くのか?」

「いくつか寺社を焼いたせいで領内に動揺が見られる、少し待ってからかな」

「領内の地ならしをしたことが朝倉攻めの布石だということくらいは朝倉孝景は気付くぞ」

「それでこそ我が敵というものよ」

「三河はすでに火が付きそうな感じになっているな」

「家臣たちの宗門を改めさせておいて良かったわ」

「尾張衆だけではなく最初から伊勢衆も動員して三河を攻めた方がいいかもしれんな」

「本證寺が手強い感じかな?」

「三河の武士も一向宗が多い」

「では最初から伊勢衆も動員するとしようかな」

「朝倉孝景を甘く見るなよ」

「久しぶりの強敵、むしろやる気にみなぎっているさ」


 しかし近江の混乱が終わるのに時間が掛かり、攻め込むのは数か月先になるのを徳寿丸はまだ知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る