第29話 新航法
斯波勢にひと際元気な部隊がいるな。
「あれは誰の部隊だ?」
「織田大和守家の清州三奉行の一人、織田良信ですな」
信長の曽祖父きたー、殺しちゃうと信長生まれなくなる可能性が高いな。
「ふむ、悪く無いな」
「御所望で?」
「優れた将はいくらいても困らないからな、捕らえられるか?」
「試してみましょう」
「うむ」
足軽だろうけど秀吉の先祖とかもいるのかな、出来れば殺したくないけど、死んだらそこまでだよね。
鶴翼の陣形を整えたところ向こうも鶴翼を選んできた、隊列組もうとしてるところに仕掛けたら卑怯かな?
その後矢合せがあった後早速火縄隊の出番です、後ろ込めの火縄や雨覆やライフリングを付けた試作型は海外で戦う虎永に全部渡しているので普通の火縄です、だっけどおかしいだろ普通の火縄なのにその命中精度と次弾の装填速度なんだ、確かに最初から火縄を任せている部隊が中核とはいえ撃つたびに千人単位が倒れていくぞ、新井田大介も大概に化物だということが確認できました。
「火縄は下がれ、槍前に」
まだやりたそうな大介を下げて槍隊を前にだします。敵より長い三間槍での槍衾は破壊力ありますね、
「全体的に土岐勢が脆いな、敵左翼を中心に攻撃を強めよ」
「はは」
「斯波は思った以上に頑張っているな無理押しはするなよ」
あれだけ銃撃を食らっても斯波が頑張っているのは単純な話で斯波には領国が尾張と遠江しか残ってないから無いだよね、つまりある意味背水の陣って感じかな。
斯波を崩すのは苦労しそうだけど土岐はこの戦で失うものが無いと思い込んでいるからか脆い、この戦終わったら一気に美濃にも入るが分かってるのかね。
「敵一部部隊がこちらに来ます」
「虎恭任せる」
「はは」
本陣急襲もやるには間が悪いな、一か所からだけ突っ込んできても、うちの親衛隊は抜けませんよ、第一本陣急襲なんて難しい戦術使うには状況が整って無さ過ぎるでしょ、ただ何となく急襲掛ければ崩れるくらいなら本陣とはいわんのよ。
急襲の見本でも見せてやろうかと思ったが、その瞬間に寒気がしました。
うん、何だろう今のは、そして戦場をくまなく探すといました伏兵部隊、今の感覚は危険を知らせてくれていたのね。
「そこ伏兵がいるぞ」
「なんですって!」
「忠誠叔父に叩かせろ」
「はは」
お粗末な本陣奇襲を行い、それに対して私が反応することを見越しての伏兵か中々に私の性格を調べている感じだな、なら正攻法で押すのみ。
「全軍前進敵を押せ」
「はは」
奇策を潰すには正攻法が一番よ、それなりの軍配者がいるようだが奇策だけで潰せるほど羽津徳寿丸は甘くないぞい。
むむ土岐勢が崩れそうだな、一気におしつぶしてくれようか。
「土岐勢が崩れるぞ、水色桔梗めがけて突撃だ」
「はは」
「長門」
「は」
「斯波の軍配者は誰ぞ」
「戦前に殿が褒めていた織田良信みたいですな」
「ほう、やるではないか」
「さあ、土岐が崩れたぞ、どうする織田良信」
織田良信は周囲を見回したが優勢の戦線はどこにも見当たらなかった。
「御屋形様ここまでのようでございます」
「ふむ、いかんか」
「力が足りず申し訳ございません」
「では儂は遠江に逃げるぞ」
「では殿を務めさせていただきます」
「羽津に降ることも許すゆえ、時間を稼ぐのだ」
「はは」
「さてと、波のように押し寄せる羽津相手にどこまでもつか」
「ふむ、敵が揺らいだぞ。斯波義寛は逃げるか」
「追いますか?」
「どうせ遠江で会える、追う必要はない。それより眼前の織田良信を捕らえよ」
「は」
「それなりに手強かったが同盟者が悪かったな」
「土岐は脆かったですな」
「土岐のお陰で貰った勝ちのようなものよ、感謝せんとな」
「しかし織田が手強くて土岐への追撃が出来ませんでしたな」
「別に構わんさ美濃まで行けば逃げ道はなくなるのだからな」
それから衆寡敵せず、然程時間もかからず織田勢は壊滅していきました。
「織田良信の首は見つかったか?」
「未だ見つからず」
「家臣が首を持って逃げたのか、それとも良信自身が落ち延びたのか、まあ過ぎたことはいい尾張の各城と従わなかった国人を滅ぼすとするか」
「何名か家臣を挨拶に寄越していますが」
「何故自分で来ない、家臣になぞ合わんぞ」
「畏まりました」
「私は暫く清州で政務に入る、長門は忍んでいる者がいないかの確認、忠盛は私の副状を発給せよ」
『はは』
「それでは各将動け」
「殿、古湊虎則様がいらっしゃっています」
「おお、帰還してたかわざわざ尾張にまで来たのか、評定の間で話を聞こう」
評定の間には真っ黒に日焼けした古湊虎則がいました。
「焼けたの虎則よ」
「ずっと海のうえでしたからな」
「ガレオン船はどうであった?」
「凄まじい船ですね帰りに倭寇に襲われましたが大筒を放ったら一目散に逃げて行きました」
「それは重畳、船を増やせば交易の幅も広がりそうであったか?」
「我らのやっているのはあくまで密貿易ですから難しいかもしれません」
「そうか、では今度竣工される予定のガレオン船は虎永に回すか」
「うまく行っていないので?」
「言語を覚えるところから始まるからな、次に竣工予定の四隻を虎永に回して威圧外交といこう」
「はは」
「積み荷は準備しているゆえ、虎則の感覚で出発してよいぞ」
「では、早速にも」
「子供には顔出しておけよ、忘れられるぞ」
「まさか」
「ふむ」
「うむ」
「本当に忘れられるのですね」
「特にそなたは日焼けがすごいからな、息子に会って一週間くらいは休んでからいけ」
「心得ました」
「そういえば仕事を頼もうと思っておったのじゃ」
「それはどういった」
「航海年鑑といったものを作って欲しい」
「航海年鑑ですが聞いたことはございまえんな」
「そりゃあそうだ私が名付けたのだからな」
「それでどういったもので」
「年鑑は、太陽、月、惑星、分点が頭上にある地球上の位置を、一年中一時間ごとに指定する、選択した57の恒星の位置は、分点を基準にして指定する、更に天測航法という技術を身に着けてもらう」
「天測航法ですか?」
「うむ、天測航法とは、陸地の見えない外洋で天体を観測することで船舶の位置を特定する航海術だな、船乗りの勘に頼っていた所を技術として体系化するのだ」
「必要ですか?」
「今いる優秀な水主がいれば、今ある船は運用できるだろうよ、しかし船が増えていくのだからその限りではないのではないか? アジアの海を制し航海への不安を取り除く意味でも航海年鑑と天文航法の技術は必須だ」
「分かりました家臣たちと相談し何とかものにしてみます」
「虎永らの安心もそなたらに掛かっている、頼んだぞ」
「はは!」
虎則も下がって忠盛と二人で政務に励んでいると、長門がやってきました。
「ご苦労だった、置き土産はあったか」
「悪意のある置き土産は有りませんでしたな、米と少々の宝物があるくらいです」
「米に仕込まれていたりは?」
「一応俵を割り全て改めました」
「ならいい、宝物は焼き尽くせ」
「よろしいので?」
「我らは征服者であって盗人ではない」
「ならば斯波に返すというのは?」
「そこまで親切になる理由は流石にない」
「しかし勿体のうございますが」
「分かったそこまで言うなら刀と槍と弓は奪ってもいい、それ以外は燃やせ」
「茶器は」
「燃やせ」
「掛け軸は」
「燃やせ」
「屏風は」
「燃やせ! というかしつこいな」
「反応がいいもので」
「全く私で遊ぶな、それより長門は伊賀に戻り伊賀と甲賀を率いて音羽城と観音寺城を接収しろ」
「領地はだれに?」
「赤堀の叔父後に任せる」
「一気に十四万石は大変ですな」
「他の叔父達も似たようなものになる、忠盛は面白うに笑ってはいるが一志郡全土に加えて飯高郡も押し付けるぞ」
「十五万石ですか笑ってはいられませんな」
「南伊勢の飯高郡、飯野郡、多気郡、度会郡は時期をみて虎則と虎永に渡すつもいりだ、それ以外の伊勢は直轄領にしようかと考えている」
「なるほど加増転封であれば文句は出なさそうですな」
「七衆で十万石程度、奉行衆で五万から7万石、奉公衆で三万から五万といったところだな」
「では尾張はほぼなくなりますな」
「だから美濃も取るのじゃ」
「よし仕事終わり、美濃攻めの準備じゃ!」
「殿、字が読めません」
「ぐぬぬ」
「京の困窮している公家から字が達者な家を招きますか?」
「帝を殺した私に従う公家がいるのか?」
「京では殿を怖がる余りに何時までも新帝が即位出来ないでいます、それについて口を出さないことを条件の代わりに書家を送らせてはどうでしょう」
「元々口出しする気なぞは無かったからなよかろう、当代きっての書家はだれじゃ」
「飛鳥井雅親に飛鳥井雅康の名が高いですね」
「よし、その辺の手続きは忠盛に任す、私は美濃攻めの準備だ」
「伝令、大垣城が桑山宗矩様、清水守房殿の奮闘で落城いたしました!」
「ふふ、良い知らせではないか、守房にはそのまま大垣に入れろ、宗矩には鷺山城を攻めさせろ、我らは忠盛を留守居として清州に一万を置き残りで美濃攻めだ!」
「戦になりますと元気になりますな」
「政務も大切にしているつもりだが?」
「何と言いますか覇気が違いますな、政務に励む殿を百だとすると戦の殿は五百くらいでしょうか」
「何をふざけたことを、朝廷の件は任せる、殺しておいて何をと思われそうだが御大葬、御大典の費用をもってもいいぞ」
「分かりました手札として使わせていただきます」
「それでは出陣だ、宗矩を敵地で孤立させるな!」
尾張攻めに続いて美濃攻め開始ですが足方義視はまだ美濃にいるんでしょうか、取り敢えず見つけたら斬り捨てましょう。
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