第30話 朝廷

「ふむ」

「父上ご命令にはなんと」

「鷺山城を落とせとのことだ」

「では我らだけで美濃に攻め込むのですか?」

「殿は川手に押し入るらしい、殿の予想では土岐は川手を放棄して稲葉山にでも籠るのではないか殿もことだ」

「では稲葉山で殿と合流ですか」

「いや加納口だ」


 土岐勢は川手城を放棄して稲葉山に引き上げたらしい加納口の戦いみたいになりそうで怖いな、いや、むしろ利用してやろうか、一応宗矩を南下させる間を調整して合流するようにするか。


「美濃を放火してまわれ」

「よろしいので?」

「別に撫で斬りにしろといっているわけではない、丁寧に避難を呼びかけた上で放火してまわるのだ」

「なるほど宗矩殿と呼吸を合わされるのですね」

「うむ、それを悟らせないために時間を掛けてのんびりと放火して回る、家屋は立て直せばいいだけの話だ」

「どれくらい時間をかけるので?」

「十五日といったところだな」



 土岐成頼と足利義視が領内が放火されている状況について話し合っていた。

「好きかってに領内を焼いてくれおって」

「逆に考えると稲葉山を落とすだけの力がないのではないのかね」

「しかし、これでは羽津勢を追い返した後の復興がすぐにはいきませぬ」

「ということは麿の上洛も遅れるということか」

「妙椿がいる時はいる時で邪魔だったがいなくなった影響がここまででるか」

「羽津勢は申の刻には必ず引き上げるようでおじゃるぞ、そこを利用してはいかが」

「確かにあの隙は見逃せませんが罠の可能性もあり得ます」

「たったの七歳児に怯えるとは成頼殿も頼りにならぬの」

「徳寿丸なぞに怯えてはおらぬわ! 明日になった目に物みせてさしあげますよ」


「仕掛けて来なかったな」

「そうですな」

「明日になれば宗矩も合流するというのに敵の合流をまつのか、どういった狙いがあるのか」

「何も考えていないのでは」

「妙椿死後の混乱した美濃を纏め上げたから手腕はあるのかと思ったが、簡単な戦になりそうじゃな、で観音寺と音羽は抵抗があったか?」

「我らの軍が迫る前に逃げ出しましたな、簡単な仕事でしたよ」

「まあそんなもんだな」

「褒めてくれませんので」

「そんな簡単な仕事で褒めれるか、土岐は動くつもりか」

「夜襲ですか」

「いや,恐らくは放火が終えた後の我らの尻をもやそうとかんがえているんじゃないかね、当家は夜襲慣れしているしな」

「ということはかかりましたね」

「宗矩も間に合いそうだし言うことは無いな」


 翌日も申の刻まで放火を行って兵を戻している所に稲葉山の土岐勢が一気に攻撃に出てきました。

 まるで敵の勢いで引き下がれたように部隊が真っ二つになり土岐勢はその勢いのまま徳寿丸の本陣に向かっていきます。

 が、親衛隊によりその勢いは止められて更に真っ二つになったと思われた部隊がそのまま挟撃に入りました。


「これは羽津の罠か、急いで稲葉山に戻るのだ」


 そして背後には戦場に間に合った桑山宗矩が現れて退路を塞ぎました。

 兵力も少なく完全な包囲状態に陥った土岐勢は何もできずに倒されていきました。


「土岐成頼討ち取った!」


 との声が響き土岐勢の組織的な反抗は終わりました。


 捕虜を縛り上げるのと同時に稲葉山に攻め込み、足利義視と後の十代将軍予定であった義材を捕らえることに成功した。

 未来人の知識だとまだ美濃にはいないはずなのだけど、おそらく西側の重要人物が討ち死にしまくったのが原因じゃないかと思われる。

 足利義視が何か言いたそうだったが無視して斬首、後日の禍になりそうなので足利義材も処しておいた。

 これで将軍になりえる足利家の血統が減り満足です。


 美濃にはまだ落城していない城も多かったので叔父達や重臣達を残し私は津まで戻りました、清州まで軌道が引いてあったところに忠盛の仕事の早さを感じて正直ビビりました。


 馬車軌道を使おうとすると愛馬月風が寂しそうにするのでわざわざ馬上での帰還となりました。

 そこには真っ黒に日に焼けた舟木虎永が待っていました。


「黒いのー」

「南国は湿度は高くないのですが日差しと日光がきつくて」

「それでミクロネシアの人々はどうだった?」

「話も通じるようになり、ある程度友好的な関係は築けましたが、我らに降るのには難色を示しております」

「正直したくないが砲艦外交といこう出来上がってるガレオン船を四隻を預けるから大砲を景気よく撃ってまいれ、他葦現地住人にはあてるなよ、後の統治の障りになる」

「は」

「まあ他の水主との話し合いもあるだろう、十日程のんびりして子供に顔でもだしてやるんだな、次の任務も長いのだからな」

「それではお言葉に甘えます」

「地球儀を」

 

 そう声を掛けると小姓衆が大切そうに運んできます


「見ろ虎永よ、此度の戦で奪ったのがこれよ、蟻より小さいわ、大してそなたの仕事はこのように広いのだ、密貿易の方が落ち着いたら虎則にもやらせるが、これほどの広さの仕事を今任せているのは虎永のみだ、たまには陸で暴れたいであろうが当家の行く末を左右する仕事じゃ、頼んだぞ」

「はは!」


「殿、飛鳥井雅康様がいらっしゃっております」

「よし会おう」

「お初にお目にかかります飛鳥井雅康と申します朝廷からは参議を頂いております」

「では今後は参議殿とお呼びしよう、参議殿、私には致命的な弱点があってな」

「戦えば無敗、内政をしても非の打ちどころがないと噂の徳寿丸様に弱点などあるのでごじゃりますか」

「これだ」


 そう言いこれまで書いた紙の束を小姓を使って渡す。


「これは、解読に時間がかかりそうでおじゃりますな」

「それが私の筆じゃ、字が致命的に汚い」

「なるほどそれで祖父や麿が呼ばれたのでおじゃりますか」

「祖父殿はこれなかったのか?」

「何分歳なのでご勘弁を」

「天皇を殺した私の仕事を受けたくなかったのではないか?」

「それは、無いとはいいかねまするが」

「まあいい、仕事を受けてくれれば、御大葬、御大典の費用くらいは私が持つぞ」

「それは魅力的でごじゃりまするが」

「まあ敵と言ってもいい私からの依頼だ、受けにくいのもわかる、話を一度持ち帰ってから考えてくれればいいぞ、但し次来る時は胸元の刃を持ってこないことをおすすめするがな」

「こ、これは一応の用心にと」

「別に持ってきたことを責めてはいない、その方の仕事次第では上京を大々的に立て直してもいいぞ」

「大々的にといいますと?」

「せっかく焼けて土地が開いてるのだ平安の御代の姿に戻そうではないか」

「一つだけ伺います」

「何個でも構わないぞ」

「貴方は朝廷の味方なのですか?」

「どうかな、公家は多すぎるので減らすつもりだが朝廷を完全に潰そうとは思ってはいない」

「徳寿丸様の考える朝廷の役割とは?」

「権威付けと儀式、更には伝統文化の継承だな、それ以上は求めぬし、それ以上をやられたくもないかな」

「なるほど」

「無理は言っておるまい?」

「禁裏御料をお返しいただくことは出来ませんか」

「無理だな、代わりに山城一国をそのうちくれてやるから我慢するのだな」

「山城一国ですが?」

「足りんか?」

「いいえ、ただ私が判断できるところには無いので」

「まあ私が参議殿に求めるのは字を綺麗にしたいということだけだ、あまり難しく感がられるな」

「は、それでは本日は失礼させていただきます」

「うむ、賊は随分減ったがいない訳では無い、気を付けて帰られよ」

「殿、あそこまで話して良かったのですか?」

「構わないさ肝心なことは話してはいない、公家は強かだからな」



「飛鳥井宰相さん」

「これは近衛内府殿」

「こちらへ」

「はあ」

「ここなら余人が入らぬ羽津家との話をきかせてたも」

「余人と言いましても、これは失礼いたしました」

「私はいない者として話せ」

「分かりました、羽津徳寿丸殿からの要求はただ一つでした」

「それでなんじゃ?」

「字を習いたいと」

「誠にそれだけが目的だと?」

「徳寿丸殿の書付を見せて頂きましたが、まあ酷いものでした、練習の後があるのが哀れさを誘います」

「朝倉忠盛から出ていた条件についてはどうだったのでおじゃろう」

「御大葬、御大典全て費用を払ってもいいと」

「つまり羽津徳寿丸は父の罪は死で相殺されたと考えているということか」

「言い方が悪いでおじゃりますが、あまり興味が無いようでした」

「死者の罪は問わずでおじゃるか、義政や義尚の首が取られても気にした様子がありませんでしたな」

「朝廷の事は何か申していたでおじゃろうか?」

「朝廷には権威付けと儀式、更には伝統文化の継承、これ以上もこれ以下も求めないとおっしゃっていたでおじゃる」

「言ってみればこれまで通りだな」

「ただ公家は減らすかもしれないとおっしゃっていたでおじゃる」

「その辺は丁寧に説明すれば回避できそうなきがするな」

「宰相は直接話をしてみて、人の話を聞かないような人物に見えたか?」

「いえ、丁寧に話せば聞いてくれる人物に思えました、思慮深く、努力を惜しまず、内治を大切にし、無双の軍略家といった感じです、それと上京を立て直してもいいぞと言っておりました」

「立て直しても言うがこちらには金がないでおじゃろう」

「当然徳寿丸どのの懐からです、ついでに平安の御代の内裏にしてしまおうかと仰っておりました」

「すぐ受けよ!」

「はは!」

「反羽津派は納得しなそうですが」

「その反羽津派は羽津が京を襲った時に何をしていた、私は供が一人もおらずむしろ八徳衆に守られておったぞ」

「それはなんとも」

「恐らく徳寿丸は国内を変革するために他にも色々やるのであろう、が対抗する力がない以上は羽津に早めに付くのが一番いい」

「しかし羽津は禁裏御料を没収していますが」

「禁裏御料は返さないが代わりに山城一国を渡すと仰っておりました」

「ほほほ、羽津は剛毅じゃな」

「ではこれからは羽津とやっていくと」

「それはこれからの羽津次第よ約定を一つ一つ果たしてもらってから、こちらも近寄って行けばいい、急激に接近しては正面衝突じゃ」


 とりあえず、字の勉強はできそうです。

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