第31話 交渉

 朝廷にはあれである程度の関係改善ができるかな、正月を迎え八歳になった徳寿丸です。


「そこで筆をあげるのです」

「ここか」

「はい、大分よくなりましたぞ」

「どうじゃ御坊見よ」

「ふむ、人が書く字に近づいたようじゃな」

「上手くなろうとするときりがないでおじゃりますからな」

「これなら我が婚約者にもちゃんと見せられる手紙が書けそうだ、参議殿に一月教えて頂いただけで大分かわったわ」

「字は書かなくなると下手になります故、しっかりと練習をされるのがよいでおじゃりましょう」

「では此度の礼じゃ、御大葬、御大典全ての費用を羽津でもとう」

「ありがとうごじゃります」

「さて、朝廷は次は何をしてくれるかな、それによって私もお返しを考えるぞ」

「ちと私では考えられません」

「さようであろうな、また機会があったら手直しをお願いしたいものよ」



「飛鳥井宰相さん」

「近衛内府殿」

「徳寿丸殿はなんと?」

「此度の手直しの礼として御大葬、御大典全ての費用を羽津でもつと」

「羽津は巨大船も持っていると聞くが剛毅なものよな」

「次はこちらが何をするのかと言っていました」

「ふむ、朝廷の下に付く気が無い羽津に官位はいらないだろうしの」

「飛鳥井宰相よ、羽津は何故に字を上手くなろうとしていた?」

「婚約者に文を送るためにといっておりました」

「飛鳥井宰相、そなたが再び羽津に赴き今度は和歌を教えるのだ」

「確かに女子に送るには和歌じゃろうて」

「なるほど、麿が再び赴けばよいのでおじゃりますな」

「ただ同じ人物では面白くないの、権中納言があいているから昇進していくといい」

「こちらは望んでいる人物をしっかり送ったぞ羽津よ次は何をしてくれる?」



「ほう、黄門になられたかおめでたい、では早速明日から和歌を教えて頂きたい」

「承知しもうした、なんだか知恵比べをしている気分でごじゃるわ」

「仮にも治天の君を名乗るのだこれくらいの知恵比べくらいには付き合って貰えねば。今回も一月ほどで恥ずかしくない程度に歌えればよい」

「分かり申しました」

「それでは明日からお願いします」

「こちらこそ希望に答えれるようがんばりましょう」


「長門いるか」

「ここに」

「山城の全ての国人を掃除しろ」

「兵が些か足りませぬな」

「八徳を使ってもいいぞ」

「ならば簡単な事ですな」

「一月以内だ」

「簡単なこと」

「任せた」



「なるほど、下手なうちは変に技巧を頼るよりは思った気持ちを込めた方が良いのか」

「気持ちを込めるのが大切でおじゃります」

「和歌の入り口には入れた気がする、黄門殿感謝する、此度の礼は既に作ってある故皇居にでも行って確認するが良い」

「はい、わかりもうしました」

「では、また会う機会があるといいな」



「飛鳥井黄門さん」

「近衛内府殿、何時もの部屋ですか」

「今回は渡されたものが大きすぎる故、延臣を集めての発表よ」


「今回朕が羽津徳寿丸から返礼として受け取ったのは山城一国じゃ、既に山城内の武士たちは排除されている、つまり山城を守るのも朕たちでやらねばならぬゆえ大変なことぞ。更に羽津徳寿丸からは一年間山城の安泰を守れたなら平安の御代にあったような御所を再建してくるとのことだ」



 直接朝廷と交渉する気が無かったからこのような形になったが結果的に良かったかもしれないですね、お互いに遺恨がある状態で直接的な交渉は上手くいかない気がしますしね。

 

 現状、伊勢、志摩、伊賀、南近江、尾張、美濃を制覇してるのよね凄い大大名! 抵抗できそうなのは細川くらいなんだけど絶賛内乱中ってことで私自身はちょっと忙しいので動かないけど家臣たちに動いて貰おうと思う。


「殿ご用件とのことですが」

「我らが呼ばれたということは大和ですかな」

「忠盛大叔父正解、二人には大和を攻略してもらう、しかも今回は何と調略していい」

『なんと!』

「二人の得意分野だね、半年以内に大和を攻略し南都の寺社を焼き討ちでお願いします」

『まてまて』

「なにか?」

「寺社を焼き討つのか?」

「邪魔じゃないです?」

「それはそうですが」

「羽津の法度に従うのと検地をさせる事、この両者が認められない場合は焼き討ちにして下さい、開源寺は楽なのに」

「法度に従うだけじゃからむしろ羽津の方が楽なのだがな」

「では、よろしくお願いします、次いで叔父上達ですが忠季叔父は長門達に付いて行ってそのまま大和太守です」

「ううむ、転封かやむをえんな」

「次いで忠頼叔父と忠雅叔父は北近江の討伐をお願いします、忠雅叔父はそのまま北近江の太守に残りの三叔父は美濃を三分割してそれぞれ治めていただきます」

『承知した』


 家中の転封を一気にはしないように思っていたけど一気にしてしまった。大きな隙を晒すことになったけれど、いざとなったら親衛隊と一緒に駆けまわるか、しかし中央を取ると一気に楽になるな、信長の場合はここから包囲網って感じか、細川が内乱中なので包囲網を組まれる危険は少ないが確実に一つ一つ敵を潰していくとしましょうかね。

 次に私が出陣するのは対朝倉くらいかな、それとも今川かそして鎌倉公方が最大の敵になってきそうですね。

 

 それと並行して南進を勧めないと行けないが思った以上に進まない、言語の壁というのがここまで厳しいとは正直思ってもみなかった、よく考えたら未来の私は英語すら話せなかったな、そのへんを甘く考えていたな。

 かと言って原住民を虐殺みたいなことはしたくない、おそらくその道を選ぶと私はいずれ家臣に討たれることになりかねない、気がする。

 というか私の良心が持たない気がするのよね。


 中米三大銀山とキニーネを手に入れる為に早く動きたいけれど我慢してのんびり行きましょうかね。


「考えはまとまったのか?」


 いつの間にか逆立ちしていたようだ、いつも通り受け身に失敗しつつ立ち上がる。


「何事もすぐには解決はしない!」

「まあ真理ではあるかもしれないな、何を悩んでいた」

「南方の住人との意思疎通問題だ」

「日本内でも意思疎通が難しい地方があるしな」

「正直甘く見ていた」

「そなたの文字だって通じたのは儂と大方殿だけだったではないか」

「そう言われると痛いな」

「舟木は苦労しているであろう労ってやるのだな」

「それを言うと家臣皆よ、我が思い付きに振り回されているわ」

「ではどうする?」

「今年いっぱいは攻めの戦これ以上は無しにする、家臣と領民を労わらねば」

「我慢できるのか?」

「我慢を覚える年とします」


 舟木虎永が休暇を終えて出発する時に挨拶にきた。


「それでは再び行ってまいります、此度こそは服従させてみせます」

「虎永よ、あまり焦るな」

「し、しかし」

「もし乗り気でない場合は津まで何人か連れてきてみよ、津の街並みを見れば気持ちも変わろうというものだ、その際は賛成派と反対派を同数連れて来るようにしろ、場合によっては私が会ってもよい」

「畏まりました、お願いするやもしれません」

「先は長いのだ気を入れすぎるな」

「はは」

「ついては言語に達者なものを一名置いて行け」

「どうするのですか?」

「自分たちの事を知ってくれてようとしている者に悪意は抱きにくいものだ」

「承知いたしました、現地の言語に長けた者を一人置いて行きます」

「では気をつけてな」

「はは!」


「言語を覚えるのか?」

「覚えることで価値観の違いが分かるやもしれん」

「ふむ、だが簡単ではないぞ」

「まあ家臣にだけやらせるというのも」

「いかんわな」


「殿、舟木家の梶原永智殿がいらっしゃっております」

「ふむ、通せ」

「舟木家の梶原永智と申します」

「永智も日に焼けているの」

「海で働いているとこんなものですな」

「では早速だ現地語を教えてくれ、簡単な挨拶からでいいぞ」

「はは」

 

 こうして現地語を学ぶ日々が始まった。マリアナ諸島からは風が良ければ二月もあれば往復できるようなので取り敢えず急いで勉強することとした。

 そして二か月後、虎永一行が再び戻りました、先住民には津を案内させることにして、その間に今回の成果について報告を聞いてみることにします。

 報告によると反対派の連中も大筒の迫力に負けて、何も言えなかったそうです、その上で虎永から一度津に来てみないかと誘われて賛成派と反対派それぞれから二名ずつ各島から連れて来ることに成功しました。

 後は私の最後の仕上げと言ったところでしょうか、津を観覧し終わった連中が謁見の間に入ってきました、私が子供であることは事前に聞かされていたので驚きはないようです。


『まずはよく来てくれた』


 と向こうの連中の言葉で挨拶をします、軽いジャブですね。


『驚くことはあるまい、呼びつけて置いて簡単な会話すら出来ないのではその方達に無礼というものだ』

『この度はお招きいただきありがとうございます』

『はは、正座が苦しそうだな足を崩して普段通りに座って構わないぞ』

 

 そう言うと全員が戸惑いながらも正座を崩して胡坐を書きました


『我々に何を望むのでしょうか、羽津様にとって我らなぞに価値があるとは思えませんが』

『それがあるのだよ、航路という価値がな』

『航路ですか?』

「地球儀を彼らの前に」

「はは」

「虎永は私の言うとおりに地球儀を刺して教えてやれ」

『まず我らの国はここだ』

『ちいさいですね』

『そうだな、決して大きくはないが、そちらの島はここだ』

『こんなに小さいのですか』

『そして我らはこの大陸に向かっている』


 と虎永が南米を指をさす


『大きい、そして何より遠い』

『まっすぐ行くのは難しかろう?』

『それで我らが必要なのですね』

『そういうことだ近くにある島々も征服しながら進めて行くから時間が結構かかることになるな』

『なぜあの大筒で我らを攻撃しなかったのですか?』

『私はそなたらを人として遇したい、故に無理やりの征服はしたくなかったのだ』


 私の気持ちが届けばいいのですが、この後は色々質疑応答しました、結果は島に戻って衆議したいとのことで虎永に送り届けさせました。

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