第23話 室町との決別

「話を聞いておられるのですか!」

「うん? なんのはなしだったか」

「この餓鬼が、だから北畠家に所領を返還せよという幕命に従えと言っているのだ」

「よくわからんのだが、北畠は滅んだはずだが?」

「分からない奴だな、だから再興しろと言っているのだ」

「で、それに従う道理は?」

「将軍の命だと言っているではないか」

「将軍? 大御所の間違いではないのか?」

「どちらでも命令として出ているのだ、さっさと言うことを聞けばいいのだ」

「では力づくでやってみるといい」

「な、なんだと」

「大乱を起こす馬鹿と傀儡にすぎない奴の言うことを聞く道理なぞない、いつでもかかって来るがよい、一応言って置くが将軍だから死なないなどと寝言を言っているようだったら、我が八徳が一瞬で首を刎ねてしまうぞ」

「後悔されますぞ」

「その言葉を聞くのは三度目だが未だに後悔はしたことないの、さあ、口の利き方もなっていない使者もどきがお帰りだ塩をまいておけ」

「き、貴様」

「すでに敵地なわけだが偉そうな言葉をよく言えるな」

「な、使者を殺す気か」

「そうされたくないのなら使者らしい態度と言葉を使うのだな」



 羽津から引っ越しも終わり文明七年になり七歳になりました。しかし新居城である津城最初のお客様が先ほどの人物だというのにため息が出ます。


 そのため息に反応し善斎御坊が話しかけてきました


「ため息などつかれてどうされた?」

「新居最初の使者があんな馬鹿だと思うと気が滅入ります」

「ははは、しかし良かったのかこれで完全に将軍に喧嘩を売ったぞ」

「向こうが売ってきたのを買ってやったまでです、しかし喧嘩を売ったは良いが負けた場合は室町の威信が更に地に落ちますが考えているのですかね。それとは別に、御坊に仕事を振ってばかりで申し訳ないのですが家中と領民の宗門の確認作業をしていただきます」

「一向衆か」

「まあ法華宗もですが、出来れば当家の領内では両宗派を禁止にしてしまいたいのですよね」

「それで宗門の確認か、羽津法度之次第では一応両宗派とも認めている以上七衆掛かりか宗徒の大きさ次第では七衆及び奉行掛かりになるな」

「富樫の状況を知ればまあ反対はないでしょう、それに御坊に言う言葉では無いですが権力に逆らう寺社はいりませんな」

「法度を守ればいいだけなのだろう? ならば難しいことはないな」

「禅宗はわかりやすくていいですね」

「それより室町には勝てるのか?」

「多度山も長島も完成しましたからね、長島には足軽を五千に火縄を二百、多度山にも足軽を三千と火縄を百配備している上にいざとなれば叔父上達に後詰をしていただけますから問題ないでしょう」

「伊賀はどうなる?」

「私が即座に応援に向かいますよ」

「ならば問題はなさそうじゃな」


 

 ところ変わって花の御所では伊勢についての問題が話し合われていた、大御所義政としては伊勢を統一し強力な戦力になっている羽津に関わらず伊勢守護と伊勢守でも与えて懐柔するべきではないかと思っていたが、臣下の者が勝手にやった北畠再興話で関係がこじれることになる。


「北畠再興なぞ誰が命令したのだ」

「御所が任じている守護を勝手に殺したので、御所の為を思い」

「それで大乱も終わっていないというのに羽津はどうするのか」

「斎藤妙椿が死んだことで土岐成頼殿を赦免し斯波家と共に尾張と美濃から攻めさせて六角も赦免する代償として甲賀と伊賀に攻めさせ更に大和から筒井に攻めさせるのです」

「大乱も終わっていないというのにこのような大戦をするなどと、まあ好きにやってみよ、余はあずかり知らん」

「お任せ下さい、羽津等所詮は田舎者と目にもの見せてくれます」



「とのことです」

 

 忍者こわ!筒抜けじゃん


「話の内容より忍びの怖さの方が際立って話きけんかったわ」

「まあ大御所は我らに興味なさそうですな」

「それはやっかいだな」

「さようでございますか?」

「誰を倒せば終わりかわからんではないか、今回向かってくる敵を倒してもまたくるぞ?」

「なるほど、確かに厄介ですね」

「やはり義政と義尚を殺すしかないか」

「やりますか?」

「いや、戦で倒してこそ意味があるというものだ、北勢は宗矩と守房に任せれば問題なかろう、足軽を招集し伊賀上野に入るぞ」


 それから二日もせずに伊賀上野に到着しました。


「流石に農兵よりは早いですな」

「まあそれが強みのひとつだしな、でどんな感じだ?」

「甲賀方面に二万、大和方面に八千といったところでしょうか」

「それでは八千は任せるぞ、私が付くまでこらえるだけでも構わんぞ」

「冗談ではございません、ここは我らが故地ですぞ筒井等如き殲滅して見せます」

「あまり気負い過ぎるな、今回で戦いは終わりではないのだ、兵力を削られると痛いことになるぞ」

「確かにその通りですね」

「忍びらしい戦いをすればいい、相手をからかってやれ」

「は、ご教授ありがとうございます」

「うむ、それでは甲賀に向かうとする」

「お気をつけて」

「誰に言っておる、これでも常勝無敗ぞ」



 その頃伊勢長島



「城の中に街も田畑も作ると聞いた時は、殿がおかしくなったかと思ったがなるほど、理にかなっている」

「殿がおかしいなどと止めて下さい」

「相変わらず肝の小さいやつよ、殿なぞ鎧も着ないで戦場にいくぞ」

「それは兎も角、総構えでしたかこんな城よくできたものです」

「殿の倉の銭を半分も使ったらしいからな、殿の本拠の津の数倍銭が掛かっておる、更には船での補給も可能な上、虎の子の火縄まで二百までくれたからな、斯波如きに簡単には落とされてやらんぞ」



 その長島を望む斯波陣は騒然としていた



 斯波義敏は長島城を見て唖然としていた、それは織田敏定ら家臣も同然であった。


「あんな巨大な城だとは聞いていないぞ!」

「街が城内にあるではないか」

「畑も城内にあるようですな」

「どうやって落とせばいいのか」

「火をかけましょう」

「そ、そうだな」

「どんな巨大な城でも火攻めをしてしまえば無力よ」


「どうやら火攻めのようですね」

「まあ他に手はなかろう、各守備兵に消火の用意をさせておけ」

「はい」

「しかし、これだけでお終いかの? 少々物足りないの、夜襲でもしかけてみるか」

「父上各地点の消火は順調です」

「うむ、暫くはこれが続く、我慢の戦じゃなまあ数日間は、じゃが」

「しかけますか?」

「当然」



「数度に渡り火攻めを仕掛けてみましたが、成果らしい成果はありませんでした」

「成果が無いで済むわけがなかろう、成果が無いのなら次の策を考えるのが家臣の仕事ではないのか」

「そ、それは」

「何か騒がしいの? 敏定よ見て参れ」

「は」

「一体何事だと、あ」

「急に出てくるとは運の無い、こいつは見覚えあるな、ああ、織田敏定、桑山宗矩が討ち取った」

「父上進み過ぎです」

「そうか恐らく斯波義敏も近いぞ、ということでこの陣幕に進むぞ」

「何者か!」

「桑山宗矩と申す」

「桑山なら城にいるのでは」

「左様、冥途の土産に教えて差し上げよう、これを夜襲というのだ」

「た、助けてくれ、儂はだまされええ」

「見苦しい、さっさと死んだ方が自分の格を落とさぬという物だ」

「父上引き上げましょう」

「堂々たる凱旋じゃな、しかし楽な戦じゃわ」

「殿の無茶な戦に付き合わされたから伊勢衆は鍛えられたのかもしれませんね」

「ふむ、そうやもしれんな」



 場面は戻って、徳寿丸。


 ふむ、あれをやってみるか、しかし部隊運用が難しいんだけど、まあ浪漫だよね。

 敵が遠めに見えてきました。


「思った以上に多いな六角だけではなく京極の旗もみえますな」

「よし、戦評定じゃ」

「はは」


 暫くして諸将が集まったので


「臥龍の備えで戦うとする」

「また珍しいですね」

「山より下の敵を討つのに的した陣形なのだよ」

「先手は加藤孝吉と成田秀元、二陣に石黒智安に小島棟員、三陣に菅谷義継と日高広胤、旗本の指揮と私の護衛は稲葉景兼だ、以上だ」

「はは!」

「生を必するものは死し、死を必するものは生く、運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり。何時も敵を我が掌中に入れて合戦すべし」

『はは!』

「よし各自持ち場に付け近江勢など敵ではないと見せつけろ!」


 よし、これで私の仕事は終わりかな、臥龍の備えはどんな状況にも対処しやすいし後は勝手にやってくれるっしょ。

 お、矢合せだ、なんか最近変な戦ばっかりでちゃんとした戦してなかったから新鮮だわ。って矢合せで飛んできた矢を掴んで討ち返しやがった、そんな野蛮な事すんの誰だよと思ったら日高広胤だったわ、まあいいや見なかったことにしよう。

 鉄砲足軽の一斉射の後槍隊が続く、これですよこれ、これが普通の戦ですよ、まあ火縄は五十年以上未来の物だけどね、

 お、敵陣乱せそうだな



「景兼、小島隊をもっと押させろ、乱せるぞ」

「はは!」



 殿の戦に関する勘は理屈では無いのでこういう命令が出たら素早く動くことにしている。



「使い番、殿からの命令だ小島隊に押し出させろとのことだ」

「はは!」

「急げよ」



 そして私も殿の元に戻る、殿の独り言が勝利に繋がることが多いからだ



 左翼が面白くないな、このままだと削り合いになりそうだ六角やるやん?


「左翼が面白くない、義継を大回りさせて横腹を突かせろ」

「はは!」



 正直自分にはどこが面白くないのかが分からないのだが殿がそういうからそうなのだろう。我らは兵を率いる将であり殿は将を率いる者なのだから物の見方自体が違うのかもしれん。


「使い番」

「は!」

「義継殿を大回りさせて敵陣の横腹を突かせろ」

「承知いたしました」


 だが使われている存在であることに満足している自分もいる、きっと自分は上に立つ器ではないのだろう。


「かげかね」

「はいはい」


 この殿が何を成し遂げるのかと日記に付けておくのもわるくないかもしれない。

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