第22話 伊勢統一

「何やらのんびりしていますな」

「戦闘になれば一気に気が入るから心配はしていないわ、それに周囲に物見はだしておる」

「それにしてものんびりしていますな」

「前線では戦闘が起こったのか?」

「朝倉殿の隊に奇襲が仕掛けられました」

「忠盛なら問題あるまい」

「しかし、珍しく忠盛が頭にきていたようですな」

「うむ、覚えておこう」


 そのままのんびり進み多気御所というより霧山城に到着した。


「ううむ」

「むむむ」

「これは無理じゃな」

「殿、総大将が言うべき言葉ではありません」

「取り敢えず評定じゃ、皆を集めよ」



「まずは待たせてすまなんだ、大荷駄が思ったより足が遅くてな」

「それは良いのですが、霧山城はどうされますか」

「ぱっと見ただけだが落とすのは無理だな、長門詳しい情報をくれ」

「はは、標高五丁を超え、比高二丁を超える山の頂に築城され」

「むむむ」

「更に急峻な尾根に二条の堀切を設け、長さ一丁×幅三十間の範囲に北東郭と南西郭の二郭が存在しています。北東郭は三方を土塁で固め、南西郭は北東郭よりも高い位置にあり、四方に土塁を築いています」

「これは無理だな、長門北畠の米はどのくらい持つ?」

「半年持てばいい方かと」

「よし、付城を九つ作って八徳と私が入って締め付けることとしよう」

「殿が自らですか?」

「七衆や奉行衆は領内の仕置きがあるであろう、私は放っておけば御坊がやってくれるしな」

「殿この幽玄におまかせいただけませんか」

「ふむ、まあよかろう忠盛の大叔父におまかせしよう、とは言っても付城が完成するまでは我々は包囲を続けなければいかんぞ」

「はは!」



 勝手に善斎御坊がやっといてくれると思いきや、善斎御坊時代が馬に乗って陣中まで来て政務を持ってきてくれました。

 思わず、うそやん。って言ってしまいました。


 大名の政務で一番重要となるのが裁判です、猫の額ほどの小さな領土を巡って争うのが武士というものです。


「三雲と古井の訴訟はおかしいですね」

「そうか?」

「三雲め、どさくさに紛れて領土拡張を狙っているか」

「これまでの戦で得をしているのはわずかだからな」

「津に移り次第論功で領地替えをしようと思っていたのですが」

「言われなければわかるまい」

「ふむ」


 その夜諸将を集めて自分の存念を話しました。


「津に移り北畠を討伐次第大規模な領地替えを考えている」

「それは減俸もありえるということですか?」

「減俸は無いとおもってくれていい、基本的には加増転封だけだと思ってくれていい、ただ先祖伝来の故地から離れてもらう必要はあるかもしれないが」

「ふむ」

「まあ例えばの話だが朝倉を一志郡霧山城にと考えているが」

「殿はどうなさるので」

「安濃郡と鈴鹿郡を貰おうかと思っている他はまあおいおいな」

「殿七衆は万石越えと考えていいか?」

「まあ、そうなるかな」

「よし、やる気がでてきた」

「とまあ今領域争いをしても無駄になる可能性が高いので取り下げてくれると私が楽になるな」


「思い付きで言いおって、忠盛など普段の仏頂面から考えられない程よろこんでおったわ」

「まあ嘘はいっていませんよ、正直今後を考えるとちまちまと領土の事を考えている暇がありませんし、それに兵は銭でなんとかなりますからね」

「しかし家臣が約九万石を超えているのに対して、そなたが十二万石程度では格好がつくまい」

「十万石持ってる長門もいることですし」

「ふふふ、よく見抜かれた」

「兄上も六歳児に見破られて喜んでいるのではありません」

「まあ、何となく忍びは分かりました、ただ対抗できる手段があるとなると別ですが、それで先ほどの評定の件ですか」

「うむ我ら伊賀者と甲賀者はどうなるのかと不安に思うものがおってな、伊賀も甲賀もこれまで通り儂が治めた方が都合がよさそうだ」

「他国者に締め付けられるよりはましでしょうからね」


 続いて朝倉幽玄入道忠盛がやってきました。


「殿、新領地は嬉しいのですが当家の規模では治めきれませぬ」

「先ほどは嬉しそうだったが」

「冷静に考えると人が足りません」

「普段から人を増やせと言っておいたであろう」

「ここまで領土が増えるとは思ってはおりませんでした」

「転封自体には不満はないのだな?」

「これほどの加増転封となれば文句を言う家臣はおりません」

「では一志郡全部から五万石に減らし霧山城を与えるとしよう」

「それならなんとかなりそうです」

「うむ、下がってよいぞ」

「殿、倅は役に立っておりますか?」

「最近は必要な物を見ただけで持ってきよる、頼りにしているぞ」

「はは、ありがとうございました」


 続いて忠頼叔父達五人が纏めてきました


「仲がよろしいのは知っておりますから、こういう時まで見せつけないでよいのですよ?」

「違う、七衆に万石以上という話だが」

「治めるだけの人材がいないのですね」

「その通りだがよくわかるな」

「先ほど朝倉の大叔父から相談を受けところですから」

「儂と忠季は赤堀や浜田の旧臣がおる故まだましなのだが、他の三人は完全に新規立ち上げなので人材に難があるのだよ」

「と言われましても私の所も人材が余っているわけではないですからな」

「それに北畠を滅ぼしてから決定するつもりなのですが」


 そこに御坊が口をはさみます


「だがそなたのことだ既に頭に素案があるのであろう?」

「御坊」

「諦めろ口の軽さが原因だ」

「桑名郡のうち三万石を赤堀家の物とする、ただし多度山城と長島城に桑名城は城代としていた清水守房と桑山宗矩をに浦継光を正式に城主とし周辺を三者の知行にわけるものとする、つまり三者は一万石というわけですな」

「なるほど後詰が任となって来るか重要だな」

「一門だからこそ厳しく行きますぞ」

「忠季叔父には員弁郡に同じく三万石で入っていただく残りの二万石は小国と佐藤に扶持しますゆえ国づくりに困ったら両名に伺い下さい」

「うむ、ありがたく」

「朝明郡には忠雅の叔父が二万石で入っていただきます、同じ朝明郡には斎木を入れますので何かありましたらご相談を」

「承知した」

「忠誠叔父と忠度叔父には三重郡にそれぞれ二万石で入っていただきます。梓川と織田を入れますので何かありましたら」

「それにしても北の守りが固いな」

「長島や多度山に敵が迫って来ましたら我が許可なく援軍に行くことを許可します。但し事後報告はしてもらいますがね」



 そして安心した叔父達が去った所で奉行衆から面会要請が来た。



「え、もしかして全家臣に説明しないといけないです?」

「適当にあしらっておけ、それより伊勢には当然だが伊勢神宮があるがどう扱う」

「しばらくは無視ですね」

「後回しにしているだけでは?」

「まあそれが無いという訳では無いですが、相手しても得がなさそうなのですよね」

「それは、確かにのう」

「それに伊勢は天皇崇拝の本拠、天皇と敵対しかねない私にはやはり不要なのですよ」

「うむ、考えてのことならばよい」


 築城を始めてから数か月経ち全ての付城が建て終わりました。

「さあ徳寿帰るぞ」

「ようやく付城が建て終わったというのに」

「それにしても敵の奇襲を次々見抜いていたのはすごかったの?」

「ふふふ、それほどでもあります」

「はあ、油断だけはせぬようにな」


 そして久しぶりの羽津城に久しぶりの母上いつも通り抱き付いてくれるのですが、臭い為すぐ離れていきます。戦場や野営地でも石鹸使おうかな。

 津城の建設を急いでいないのもあって羽津に暫くいることになりそうです、津より最前線の長島、多度山、伊賀上野が大切ですからね。


 日々の業務に忘れそうになっていた頃、長門が真剣な表情で北畠材親の切腹と重臣達の切腹で許してあげて欲しいと言ってきた。

 どうも城中は食べる物も無く野草を巡って争いが起きている状況なようです。

「北畠材親はまだ十二歳じゃなかったか?」

「殿よりは年上ですね」

「そりゃあね、だだを捏ねなかったのか」

「捏ねたと思いますよ」

「まあ腹を切るならいい、籠城していた兵達には少しずつ食料を与えよ、一気に食べると命に触る」

「しかしなあ」

「しかし?」

「これで伊勢統一完了かと考えると感慨深くてな」

「伊勢一国統一して終わりではない」

「その通りではあるが動き難くてなるだろうしな」

「六角、土岐、斯波、興福寺そして室町も近い。確かに動きにくいな」

「まあ暫くは守勢だな」

「銭を稼ぎ兵を集め農業を盛んにすれば六十万石もこえるでしょうよ」

「北畠の首は持ってきますか?」

「いらん、そのまま墓にいれてやれ、死んだ以上は遺恨は既に無いからな、女衆には暮しに困らない程度の扶持をやれ」

「畏まりました」

「以前に話した通りに霧山城は朝倉の物とする、全体の論功については全軍が戻ってからにする、後忘れていたが八徳に志摩を落とさせろ」

「承知いたしました」

「では、いけ!」

「はは!」


「志摩攻めか」

「大した大将がいないでよ」

「まあそう言うなお褒めの言葉がほしくないのか」

「それは欲しいな」

「ということで疲れているとは思うが八徳に任せる」

「承知した」


 志摩は小国なので一週間かからずに落とすことに成功しました。


 志摩は分割して答志郡を古湊家に英虞郡を舟木に任せるとするか、立派な水軍を作ってくれるように祈るとしようかな、その前に二人を呼び出そう。


『お待たせいたしました』

「急に呼んだのは私だ気にするな、それで急な話なのだが外に出れる船が欲しいのだ、これがガレオン船という船の設計図じゃ」

『これは暗号!』

「は?」

「機密を守るために暗号にするのはよろしいですが、これでは我らも読めません」

「うるさい、私が一生懸命書いた字じゃ。善斎御坊にでも解読してもらえ! それと積み込む大筒に関しては藤林で密かに既に完成させている」

「では後は船を作るだけですな」

「この外洋船を使って何をするのですか?」

「なに、世界の海の支配者が誰か知らしめてやろうかと思ってな」

「それは室町にですか?」

「いや、世界だ、この海の遥か先にいる者共よ!」


 陸上では動けそうにないので東南アジアを征服しようと思います。キニーネは何の木から取れるんだっけかな。

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