第21話 決意

 七衆と奉行衆に奉公衆に外様衆更には八徳を集めて大評定を行いました。


「まず伝えることがある、私は誰にも頭を下げる気はない」


 家臣を代表して小国虎義が問いかけてきた


「それは室町や朝廷にもということでございますか?」

「むろんだこの国を荒らす原因達に下げる頭なぞない」

「それは茨の道ですぞ」

「この国を一旦掃除しつくす必要がある、付いてこれない者は遠慮なく我が敵に回るがよい」

「殿に従います」

「うむ、宗矩」

「は」

「長島城の築城はどの程度進んでいる?」

「当初予定の八割は進んでいますが、その後追加がありましたので完成には半年はかかるでしょう」

「うむ、守房」

「は」

「多度山城はどの程度だ」

「進捗は長島は同程度ですな」

「ふむ、長門」

「は」

「八徳を使っていいから二木から上野を奪い城を築け」

「八徳を借りれるならば楽な仕事ですな」

「私自身は津に城を築きそこを本拠とする、菩提寺である開源寺も移すぞ」

「ふむ、まあよかろう」

「後は北畠か、刈り入れが終わったら動員をかける、そこで北畠を叩くぞ」

「本拠を移すということですが羽津ではいかぬのでございますか?」

「数万石の居城程度なら羽津でもいいのだがな」

「狭すぎると?」

「それに津は交易により利益を得やすい場所だ、しばらくは津を本拠としてやっていく」

「しばらくですか?」

「天下を取るのだ、伊勢に何時までもいる訳にはいくまい、津は天下の府とするには狭いだろうしな」

「機が熟すまでは伊勢と伊賀に籠るということですか?」

「うむ、足軽を増やし常備兵を増やす長島に三千、多度山に千五百、上野に二千の常備兵をおく、まあそのためにも銭を稼がないとな、その為に公界を叩き潰す必要がある、正直北畠より手強いな」

「矢銭を送ってきたらどうしますか?」

「受け取り拒否だ、公界を解散しない場合は焼き払う、一時的に収入は減るだろうが当家の領内に当家の指示に従わない勢力があることが一番許せん」

「山田や宇治に大湊に公界を解散するように勧告したいのですがよろしいでしょうか」

「私の家臣は私の手を汚させるのが本当に嫌いみたいだな、まあ良いだろう好きにせよ、では大評定は終わろうと思うが何かあるものはいるか?」

「殿、禁裏御料はどうなさいますか?」

「伊勢にあるのであれば当家の領地だ」

「畏まりました」



 徳寿丸が去った後の評定の間はざわめきが起こっていました。



「室町も朝廷も敵に回すか、面白い」

「しかし何で殿は両者とも敵に回すことにしたのだ」

「両者に献金はしていたのに、完全に無視されてきたからな、殿のお怒りもごもっともよ」

「宗矩の長島はどれくらいの敵を相手に耐えれるのだ?」

「援軍無しでも数年は耐えて見せるわ」

「多度山もか?」

「長島を落とさないと多度山に大軍は送れないからな、こちらも問題なく守り切れる」

「そして伊賀方面は殿ご自身が出張ると」

「その間に銭と米を溜めて機を伺うと」

「ふふ、面白そうじゃな」



「方針に関しては好意的に受け入れられておりました」

「ふむ、ここで諸将が離反するようだと話にならないからな」

「では某は伊賀国衆と八徳で二木を討ちに参ります、ついでに六角も追い出しましょう」

「甲賀もほしいところだな」

「では甲賀衆にも声を掛けてみましょう、石鹸と清酒教えてもよろしいので?」

「その辺はもう長門に一任する、信用できそうな相手なら教えて構わん」

「それではそのように、では準備を始めたいと思います」

「うむ、いけ」

「はは!」


 室町と朝廷を敵に回すことに関して思った以上に家中の中に反対意見が無かったなね、応仁の乱を起こした幕府と無力な朝廷に対しての考えなんてそんなものなのだろうか。

 もしくはうちの家臣の忠誠度がマックス状態だとか? しかしそんなに忠誠度上がるようなことしてないしな。

 虎義の話だと今年は大豊作らしいから遠慮なく動けるね、しかし田植えの時期に動員していた北畠領内は大凶作らしいが、多気御所は難攻不落だから大凶作な事を利用せねば落とせないだろうね。

 まあそれはいいか、見て見ないと何とも言えないしね、一応付城作るための資材は用意しておこうかな


 そして刈り入れも終わり、その間に二木家の討伐と六角家の追い出しも終わったので伊賀を完全に支配下にしました。 

 最初は軽い従属関係のつもりだったのですが、服部達がしっかりとした主従関係にしたいということになり、長門の与力という形にしました。

 そして今年は大豊作だったので大々的に秋祭りも行い、農村民の士気も上げて、北畠討伐準備に着手します。

 まずは陣触を出しますが(伊賀と長島、多度山は免除)付城を作る可能性を考えて資材も持参するように指定します。

 更に私の管轄に大きな荷駄部隊を作り戦前は八徳に護衛させます。

 陣触れを受けた各将が着到していますが当家の力ってこんなにあったんだ、っと驚いてしまいました。


「当家はこんなに兵力あるんだな」

「伊賀で四千はさらにだせますし、長島と多度山も入れれば合計で二万にはなるのでは?」

「いつも少数で戦ってたから気付かなかった」

「一万五千に千五百で挑む殿ですしね」

「よし、この一万に八徳と足軽の一万三千に鉄砲足軽五百を加えたら北畠など簡単に打ち砕いてやるわ」

「流石に二万三千あれば数では勝てそうですね」

「だが数千の差など誤差だ、油断せぬようにせんといかぬ

、それでは評定じゃ」



 ちなみに八徳衆も人数を増やし一徳辺り千人になっています。



「それでは評定を始める」

「はは!」

「七衆と奉行衆がそれぞれ千を率いて出発する、それぞれを支援できる位置取りででるように、私は八徳と大荷駄隊を引き連れて進軍する。八徳と鉄砲足軽がいるとはいえ、大荷駄隊を引き連れての行軍だ、敵に不意を突かれぬように七衆と奉行衆はしっかり周囲の確認をして行軍するように」

「他に何かあるか?」

「室町から停戦命令がきたらどうします?」

「室町なぞ無視じゃ、が適当にあしらえなかったら私の方に回していいぞ」

「では出陣じゃ」

『はは!』



 軍勢が多いこともあり最後尾の私達はその日の内に羽津城からでられそうもありません。


「よし、今日は羽津で寝るか、しかし諸将の気合がすさまじかったな」

「これで伊勢統一が成るかどうかという戦ですしね」

「それはそうだが」

「室町にも朝廷にも従わないという殿の覇気が移ったのかもしれませんね」

「それよりそちは七衆だろう、そちは軍内にいなくてよいのか」

「こんな位置で奇襲をかけてきたら逆に敵を尊敬しますね、ということで倅に任せてきました」

「それに私を暗殺されたらお終いといった所か」

「さようです、北畠に勝機があるとすればそれだけですからな」

「それで忍びがいつもより多いのか」

「ほう、何人いるかおわかりで?」

「藤林が十人、百地が八人、服部が六人いるな、後は甲賀か知らん奴が三人いるな」

「お目通りをお願いしても?」

「構わないよ、見ての通り暇じゃ」


 そして天井から降りてきた壮年の人物


「ふむその風貌に、その力量は多羅尾玄頻か」

「これは恐れ入りました」

「ふむこれからは頼むぞ」

「拙者にはいただけないので?」

「なにを?」

「初めて会った上忍には脇差をくれると」

「長門、変な噂流すな。まあいい持っていくが良い」

「殿は今無防備ですがよろしいのですか?」

「そもそも六歳児ぞ、自衛など出来るか!」

「ふふふ、確かにそうですな」

「長門は戦場に立つ、丹波と半蔵と玄頻は私の護衛を第一に考えろ」

『承知仕りました』

「しかしやはり羽津の様な小さな城では大軍の運用ができんな、私は寝る、最後尾が動きそうならおこせ」

「はは」

「殿はよく寝るようですな」

「まだ六歳児ぞ、寝るのも仕事じゃろ、それに」

「それに?」

「恐らく寝ている間に膨大な情報を頭の中で処理しているのだろうよ」



 この爺共うっさいなー。寝るっていってるじゃないのよ。それにしても長門の言うことは一理あるかもしれないが、どちらかというと二人分の思考をして熱暴走起こさない為に長めの睡眠が必要なんだと思う。

 大人になってもこのままだったらどうしよかね、まあ大人になったら収まる予感があるしなんとかなるだろう。

 正直北畠はどうにでもなるが六角に思いっきり喧嘩売ったからな、しかし伊賀と甲賀を失った六角なんて怖くないかな、そうなると六角が甲賀に逃げられないから鈎の陣が起きなくなるな、まあ義尚の死因は脳溢血かなんかだと聞いたからどっちにしろ死んでくれそうだね、応仁の乱の原因になり将軍として大した実績もなく酒におぼれて死ぬか、まさに無能だね。


「殿」

「時間か!」

「はい」

「では参るぞ」

「鎧は?」

「重くてきれん!」

「はぁ」

「大荷駄隊出陣じゃ」


 鞭声粛粛 夜河を過る 曉に見る千兵の 大牙を擁するを 遺恨なり十年 一剣を磨き 流星光底 長蛇を逸す


 何て歌が後の時代に生まれるが、生まれない可能性も?


 我が軍の何てやかましい事かがやがや喋って進むさまを頼山陽に見せてあげたいものだ


「もっとこう粛々と行軍できないのか?」

「暇なのだから仕様がありませんな」


 いつも通り私を馬に乗せて稲葉景兼が抜かす


「隊列とかは乱れないのだから不思議なものだ」

「日頃の訓練の方がつらいですからな」

 

 と話していると成田秀元も加わり


「特に罰則の穴を掘ってその穴をただ埋めるって言うのは止めてあげて欲しいです、皆泣きながらやってますよ」

「罰の意味は有ったということだ」

「足軽隊は殿の事を鬼と呼んでいますよ」

「仏と軽くみられるよりはよかろうよ」


 まだ先は長いこともあり側近達と喋りながら進みました。

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