第19話 羽津八徳之陣
翌日早朝に八徳を集めて昨日思いついた策の説明をしようとしたところ。
「八徳陣ですか?」
「違う羽津八徳之陣だ」
「八徳陣じゃだめなんで?」
「後世に誤って伝わってはいかん」
「そういうもんなんですね」
「そうだ」
こいつらが微妙にからかってくるから話が進まないです。
「もういい! 説明に移るぞ」
というと途端に武人の顔になる、最初からその顔でこいよ。
「基本的には昨夜の様な夜襲だ」
「まあこの人数だと昼間に打って出るのは難しいですな」
「うむ、相手の状況を見て私からの指示があった場合にだけ実行することとする」
「殿のご采配なら安心でさあ」
「では説明するぞ、合図を出すのでそれと同時に各城門を守っている八徳が敵を蹴散らしながら別の城門に入るということだ」
「どの門を目指せばよろしいので?」
「日高広胤が西門から北門に向かう、小島棟員が北門から東門に向かう、稲葉景兼が東門から南門に向かい、成田秀元が南門から西門に向かう。更に加藤孝吉が西門から出て南門に向かい菅谷義継が南門から東門に向かって、速水吉光が東門から出て北門に向かい、石黒智康が北門から出て西門から入るという戦法だ。最優先は敵の首を取ることではなく流動的な動きで敵を混乱させることにある」
「なるほど見事な策です」
「上手くいけば何日か日を挟みながら度々やってみる門の移動をした後はその門の守備に当たれ、それとその方らが失敗する訳ないだろうから出た後は門を開けっぱなしにしておくからな、期待しているぞ、以上だそれぞれの持ち場にいってよい」
「これは面白い策だな」
「門を開けっぱなしとは殿の胆力よ」
「殿は流石だべえ」
「と大絶賛のようです」
「恥ずかしくなること言うな」
「しかし籠城戦と言えば受動的な策しか使われないことを考えれば素晴らしいのでは?」
「使い道がない策が多いから受動的な策しかないと考えないか? 実際八徳がいなければ実行しないぞこんな策」
「八徳の強さの一つに無比なる忠誠心があると思いますが」
「その忠誠心に答えるのも楽ではないということさ」
「それが分かっていれば安心ですな」
「それで用件はなんだ? まさか誉め言葉を伝えに来ただけではあるまい?」
「長野が兵糧が無いのを気付きました」
「やっとか、しかし必死になりそうだな。八徳陣で混乱している中で長野が持ってきているであろう兵糧を焼けないか?」
「無理ですな」
「そこまで守りが固いのか?」
「もはや腰兵糧しかありません」
「長野が必死になりそうだな、気を付けておこう。それにしては長野も北畠も元気がないな」
「腑分けしてみたところ食事をしておりません」
「北畠はどうなのだ?」
「北畠は純粋に殿を恐れているようで」
「火縄か」
「いえ、殿が恐ろしいみたいです」
「どういうことだ」
「斎藤妙椿を討っていますし、兵力差なぞ気にしないだけの名将と言われ始めています」
「六歳児が名将などと何を寝ぼけたことを」
「実際に不敗ですからな」
その時西門で騒ぎが起きました
「門が破られたか?」
伊賀者が長門に耳打ちしていました。そういう時は見ないことにしています。
「で?」
「西門を攻めていた北畠の武将が孝吉殿に一騎打ちを申し込み孝吉殿がそれを受け門を開けたところに一気に敵が突撃してきました」
「孝吉も孝吉だが敵も敵だな誇りがないのか?」
「まったくですな」
「それで援軍は必要そうか?」
「怒り狂った孝吉殿が大暴れしていると言えば状況がわかるかと」
「広胤はどうしてる」
「好機とみて門を開いて突っ込んでいきました」
「八徳に防衛は無理だな」
「それで今夜やるので?」
「敵の旗色が悪い、狙い時だ」
「諸将に休息を取るように伝えておきましょう」
「頼んだ」
羽津八徳之陣は昨日寝る前のテンションで考えちゃったんだよな。何となくうまく行きそうな予感はあるんだけど失敗したら私の信頼だだ下がりかな。
一回くらい軽い失敗しときたいけど、仲間の命を預かる戦場で態と失敗するのはやっぱり不味いよね。
それに私が名将として名を売り始めているみたいだけど私に将器なんて本当にあるのかね、未だにその辺心配だわ。
まあ今回は羽津八徳之陣で楽に勝たせてもらいましょうかね。
しかしそろそろ中央との付き合い方を真剣に考える必要があるな、北畠を滅ぼせば嫌でも目立つことになってくるだろうしな。
私が他人に頭をさげるのか、それは未来人の記憶で散々にやってきた、徳寿丸は絶対に誰にも頭を下げたくない!
決めた、幕府にも朝廷にも献金するのはもうやめだ、多度山城と長嶋城を追加で銭使って難攻不落の城にしちゃう、その上で伊賀方面から来る敵は私自身が打倒する、これで数年待って銭と人材を集めて濃尾を落とす。
京の方にいくと政局にまきこまれそうだしね、取り敢えず伊賀の二木氏は滅ぼしとくかな。
今後の方針を考えていたらすっかりお昼寝をしてしまったらしく既に夜になっていました。
「おや、お目覚めですか?」
「大介か、今何刻だ」
「丁度亥の刻といったところでしょうか」
「ふむ、頃合いだな合図をならせ」
「は、合図だ!」
「少し腹が減ったの」
「食事をご用意させます」
「うむ」
「殿は今回の策の成否はどのくらいとみているのですか?」
「十割だ」
「必ず成功すると」
「まあ見ておれ、暇なら偉そうにしてるやつが慌てるから狙ってもいいぞ」
「中々狙い撃つのも難しくて」
「そういう不満は長門に徹底的に言うがよい、火縄は新しい兵器だ現場での意見が今後の発展に大きく寄与することになる」
「そうですな、不満点があればなんなりと」
「急に現れるな、大介が驚いておるであろう」
お、城門が開いた敵は全く反応してないな。我勝てり! ってか。
「秀元が敵にぶつかりおったわ」
「敵が綺麗に割れていきますな」
「あの突進力は伊勢最強だろうよ」
「直接言って差し上げればよろしいのでは?」
「それくらいはやると思って使っている。更なる武功を上げたら褒めて、褒美が無くて困ってる現状だから更なる武功は要りません」
「ははは、無欲な家臣は困りますな」
「次は揃いの刀かな」
全部隊が敵を切り裂くように突っ込んでいってそれが去ったと思ったら別の門から出てきた部隊に切り裂かれていきます。
「これぞ羽津八徳之陣なり」
「各城門近くに布陣している敵を切り裂きながら、入城する門の近くに布陣している敵も切り裂いていくのか、これは恐ろしい攻撃だな、しかし陣ではなくはないか?」
「語呂合わせです」
「まあ、そちが満足しているのならば何も言うまい」
「野戦では違う使い方が出来るのだ、長門」
「は!」
「敵の被害状況を」
「調べて参りましょう」
「私は寝ます」
「八徳にも寝させておいてください」
今回も何故か思っていた通りに戦果がでた、ご都合主義的な何かがうごいているのか、それとも本当に私の将才なのか。とか難しく考えてはみたが、よく考えたら二人分の頭脳が詰まっているようなもんだからなその時点でずるをしてるようなもんなんだよな、一条兼定と今川氏真が詰まってるとかじゃない限り二人分詰まってたら早々弱いことにはならないはずなのよね。
信長と謙信が詰まっていることを祈りながら眠りにつきました。
翌日は久しぶりにのんびりと目が覚めましたが、遠くで騒ぎが聞こえます。
「長門なにごとか?」
「夜に行った羽津八徳之陣の影響で長野と北畠が同士討ちを始めてな、今もまだ同士討ち中です」
「十六回攻撃を受けたのだから我々だけでは無いはずだということか」
「そういうことだ、それに元々仲が悪い所に軽く流言を流したらこの様だ、仕掛けるか?」
「やめておきましょう、藪をつついて蛇を出すことになりかねませんし、下手すれば三つ巴になりかねない、それに」
「それに?」
「兵達を休ませたい」
「大介、各部隊に連絡を入れろ聞いての通り今日は休息とする、各部隊交代で休息をとれ、私は再び寝る」
「は! もう寝てしまわれた」
「この小さな体で沢山の命を背負っているのだ疲れもするだろうよ」
「なるほど」
臣下ではなく信者が生まれた瞬間であった。
「長門」
「は」
「私は何刻くらい寝ていたのだ」
「およそ丸一日といったところでしょうか」
「寝すぎだな」
「北畠と長野はどうなった?」
「今は直接のぶつかり合いは終わり、睨み合っていますな」
「米がないのにか」
「北畠から取るつもりかと」
「北畠は米があるのか?」
「こつこつ取ってきました」
「ああ、ないのね」
「時間は私達の味方だが、こんな終わり方は面白くはないな」
「動かれるので?」
「今夜八徳で北畠に夜襲をかけさせる」
「伝えておきましょう」
「助かる、それと今夜は好きなだけ首を上げていいと伝えてくれ」
「長野じゃなくていいので?」
「長野はどうせ城に米がない、すぐ落とせる」
「では伝令をしてきましょう」
「気を付けろよ、長門と言えど近距離で近づけば首をおとされかねんぞ」
「それは恐ろしい」
「さて、やる事がなくなってしまったな」
はあ、っと軽く欠伸をしてしまった。大介にからかわれるかと思いきや
「まだお疲れなのではないですか、夜まで休まれるといいですよ」
となんかやたら気を使われた。まあ眠いのは本当だったので寝とくことにしました。
夜になり八徳衆が出陣するのを見守り戦果が届くのを待ちます。
「北畠中将うちとっただー」
え、中将討っちゃったの? てかどんだけ声でかいのさ?
「藤方刑部少輔討ち取った!」「鳥屋尾満親討ち取った」
うわ八徳衆えぐ、中将本人のみならず重臣も討ちまくってるじゃないですか。
取り敢えず引金を鳴らせましたが引いてる途中も討っているようで、
「小浜民部少輔討ち取った」「五ヶ所治部大輔討ったり」
北畠ってもう再建無理なレベルなんじゃないかなって思いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます