第18話 長野の戦い
流石に十倍の敵。妙椿の時も思ったけど壮観ですね。妙椿みたいにあっさり火縄に当たってくれないものか。
「火縄勢はのんびり撃てばいい、二発に一人当たれば敵は全滅ぞ」
「大将を狙わなくてよいので?」
「付城戦略の効果もみたい」
「なるほど火縄勢は適当にやらせてもらいますよ」
「結果として将を撃ってもまあ構わん」
「よっしゃあ、敵将狙うぞ!」
まあ大将級は離れて布陣しているので当たることはあるまい。一割の戦力でどうもっていくか。
「北門が薄い足軽五十を連れて援軍にいけ」
「はは!」
「西門への手当は不要そうだが、敵本陣に近いから、一応五十連れて行け」
「長門」
「はは!」
「今のうちに長野城と多気御所の米を好きなやり方で減らせ」
「いやあ、儲かりますな」
「長野はいっそのこと一俵たりとも残すなよ」
「承知仕りました」
「米は好きに使え」
「それでは」
「いけ!」
「は!」
これで長野は籠城戦が出来なくなるから、ここを守り通せば勝ち筋がみえてくるな。
しかし敵の圧力が思った以上に弱いな。
「なんだというのだ、ただの付城だというのにその辺の城より守りが固いぞ」
「城を出たのは間違いだったのかもしれませんね」
「そちが田植えの為に打って出るべきだと言ったのではないか」
「それはそうですが」
「このままでは被害が出る一方じゃ、敵の謎の武器もあることだしの」
っと北畠・長野連合軍は余りに守りを固くし過ぎていた付城に手をこまねいていました。徳寿丸はやり過ぎるということを知らなかったようです。
その頃羽津城でも重臣達が評議をしていました。
「若が十倍もの敵に囲まれているとのことではないか、今すぐ援軍を出すべきだ」
「しかし、若からの命はしっかり農作業をさせることだからな」
「今から動くとなると田植えに問題が起きるぞ」
「これ、各々方おちつかれよ、若からの書状が届いておるからこれを見てから決めるといい」
「おお、若が遂に字をかけるようになったのですな」
「稲葉景兼殿の代筆みたいじゃな」
「おお、若はまだ字がかけないのか」
「無駄に長い時候の挨拶を抜くとだ、十倍程度の敵はどうにかなる。それよりこれ以後にも戦が続くだろうから農民には今はしっかり農作業に励まさせるようにとのことだ」
「十倍がどうにかなるのか」
「若は斎藤妙椿も討っている自信と策がおありなのだろう」
「では、我々は援軍要請が来るまでは農家への指導に力を入れればいいということですね」
「そうなるだろうな」
「しかし八徳が付いているとはいえ、不安は抜けんな」
取り敢えず重臣達は落ち着いたか、もっと早く手紙をよこさんか。
ところ戻って付城
「うーん」
「どうなされましたか殿」
「いつまでも付城では味気ない」
「はあ」
「地名からとって美里城と名付けよう」
「伊賀から援軍を出しますか?」
「別に疲れている訳では無いわ!」
「それではどうされたのですが」
「そろそろ四月だ、おそらく総掛かりで攻めてくる」
「でしたら守りを厚くするする必要がありますな」
「長門よ、攻める準備をしている敵が一番嫌がることは何だと思う?」
「攻撃準備を邪魔されることですか?」
「その通りじゃ、今宵八徳衆を城外の敵に夜襲させる。北畠政郷は流石よの、ここまでは隙らしい隙が無かったがようやく隙が出来た。各部隊に伝令を出せ」
「ようやく攻めて戦えるか」
「北畠政郷は手強かったな」
「しかし殿の戦機を見るに敏なことよ」
「敵の数が多いのには変わらない、あまり深く攻め込まないようにな」
「敵将の首を取るまで帰らんぞ!」
「夜襲は得意とするところ」
「まだ勝利は確定しておらん、油断はせぬように」
「えっと生を必するものは死し、確か死を必するものは生く、そいで運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり。何時も敵を我が掌中に入れて合戦すべしだべ!」
「大介」
「は!」
「夜襲で慌てて且つ防衛が一番厚くなる場所がある、そこに北畠政郷がいる。狙い撃て!」
「承知いたしました」
「それでは夜を待つか」
「長門、裏切り者が出たと叫び回させろ」
「承知」
「長野城の米は?」
「もう一粒もありません」
「乱世とはいえ心苦しいことだ」
「その乱世を短くするのが願いでは」
「そうだな、泣き言を言ってもいられないか」
「それでは夜になったら起こしてくれ」
「承知」
そして夜が更ける前に各将を集め
「各隊長には事前に伝えてあるが符牒はいつも通り『勝ち』に対し『大勝利』だ、では行け我が八徳衆よ!」
少しの間を置いて各将が一斉に敵に襲い掛かっています。この籠城戦で一番我慢してていたのはもしかしたら彼らかもしれません。
しばらくしたら『首をとったどー』っという声が聞こえましたが夜襲の意味わかってるのかねあいつ。
そうこうしていると混乱から立ち直りかけて守りを固めている敵が見えました。堂々と篝火なんて焚いちゃってまあ、中将ともなると自分が殺される可能性なんて考えていないのかね。
「大介あそこを狙え!」
「北畠政郷の姿は見えませんが」
「構わん、あそこに撃って撃って撃ちまくれ!」
「畏まりました、火縄隊打ち方始め!」
そろそろ頃合いか、止めないとどこまでも突っ込んでいくのが我が八徳衆の怖い所だしね。
「引鐘をならせ」
「お早いのでは?」
「八徳は放っておくとどこまでも行きかねん」
「なるほど、我らはどうしますか」
「八徳が戻るまでは、先ほどの場所を狙って撃ち続けよ」
「承知しました。引き続き撃て!」
八徳衆が戻ったところで斉射も止めさせ休憩をさせました。
ちなみに上げた首二千だってさ、八徳衆は千弱しかいないのに倍以上の戦果を挙げるってこの人達本当になんなんだろう。
一方その頃北畠の本陣では
「一体我らは何と戦っているのか」
「被害状況が分かってきましたが二千近くやられています」
「たった千五百を倒すのに二千以上が討たれたのか」
「しかもあちらには大した被害が出ておりません」
「ここで引き揚げたらどうなる?」
「伊勢における当家の威信が地に落ちます、逆に羽津に名を成さしめる結果になるでしょう」
「進むも地獄、引くも地獄か」
その時声を上げたのが鳥屋尾満親(以前羽津を脅しに来た人)
「殿、羽津如きに舐められては今後の伊勢経略に多大な影響を受けます」
「満親の言うことにも一理あるが」
「羽津を北伊勢の守護に推薦すると言って引かせるのはいかがでしょう」
「しかし、幕府がこちらの言うことをきくか?」
「推薦すると言うだけで、就任を確定できるわけではありません。当家は嘘をいっているわけではないのです」
「なるほど、それなら当家の顔も立つか。ならば満親早速使者として赴け」
「は! 畏まりました」
「という話をしておりました」
忍びこわ!
「ふ、馬鹿にしてくれる。まあいい鳥屋尾には会おう」
そして鳥屋尾満親が本丸まで通されました。
(これは思った以上にしっかりした城だぞ、落とすとなると今の数倍の被害は覚悟せねばなるまい)
「こちらでお待ちください」
(北畠の使者を待たせるとはなんたることだ)
「久しいな満親よ」
「覚えていらっしゃったのですね」
「うむ、北畠からの報復が一体いつ来るのか楽しみに待っていたのだが中々来ないから忘れそうになっていたがな」
「(このくそ餓鬼が)あの折は口が過ぎまして申し訳ございません」
「(思考が駄々洩れだな使者には向かんわ)そうなのか、で北畠の降伏の話にでもきたのかな?」
「降伏とはなんのことやら、中将様が特別に羽津様を北伊勢の守護に推挙してもいいので兵を退くがいいとのことです」
「そうか、では御教書かそれに準じる物をお渡しいただこうか」
「それは」
「まさか北畠中将は空手形で兵を引けなどというふざけたことを言っているのではあるまいな」
「我が主を馬鹿にするか」
「私を馬鹿にしているのが、そちとそちの主なわけだが」
「くっ、後悔なさるなよ」
「それを聞いたのは二度目だな、その後悔を今度こそはみせてほしものだ、使者殿がお帰りださっさと追い出して塩でも撒いておけ」
「覚えておけ貴様を八つ裂きにしてくれるわ」
「見苦しい上に聞き苦しい、これが北畠の重臣というのなら北畠中将の器量も知れるというものだ、さっさと追い出せ」
長野について全く触れていなかったな、背中を押したくせに単独講和をしようとしたということか両者の関係はうまくいっていないようだな。これを利用しない手はないな。
「長門」
「は」
「長野と北畠は上手く行ってはいないようだ」
「ほほう」
「上手く使え」
「承知いたしました。その前にひとつお伺いしたいのですが」
「なにか」
「長野と北畠の処遇をどうするかです」
「両家とも族滅だ」
「御名に傷がつきませんか?」
「六角や幕府とも遣り合おうというのに何時裏切るか分からないやつを抱え込む余裕はない」
「分かりました調略はしない方向でうごきます」
「うむ」
付城暮しも少々飽きて来たな、御坊に色々押し付けているとは言え内務も見たいところだ。それに私含めて皆が臭い、衛生面を考えて付城にも風呂を設置させるようにしようかな。
とは言えこちらは千五百にむこうはまだ一万以上いる簡単には勝てんし野戦になると景兼が必ず私の護衛につくからな。
昨日の様な夜襲を定期的にやらせるとしよう、長野は米が無いのに気づいたら引きそうな気がするが、今更引いてもどうにもならんよね。
包囲下にあるはずなのに何事もなく弾薬を運び込む伊賀忍者に疑問を覚えつつ作戦も考えたので布団に入って寝ました。
大将は細かいこと気にしすぎたらいかんよね。
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