第17話 羽津法度之次第
服部半蔵が来ました。初代の前は違う姓だったはずですが、その辺は気にしないことにします。
「よく来たな服部半蔵、もしくはようやく来たなと言った方がいいか」
「その辺はご勘弁を、当家は二木家に近すぎます故藤林や百地程自由に動けなかったのですよ」
「で、欲しいのは石鹸と清酒か?」
「徳寿丸様は伊賀の暮らしをご存知ですか?」
「ふむ、土地が痩せていて、貧しいとは聞いている」
「私が望むのは石鹸と清酒造りを伊賀全体で認めてもらうことです」
「私個人としては認めてもいい所ではあるが」
「条件を受け入れ下されば、惣国一揆に働きかけ伊賀は羽津家に従属するよう説得いたします」
「従属か」
「藤林や百地のような家臣化を望まれますか?」
「いや、その辺はどっちでもいいが、六角や二木はどうするのだ? 私に付いたと知れば黙ってはおるまい」
「その辺は一揆で対処いたします」
「そこまで貧しいのか」
「はい、情けないことですが」
「伊賀の国主を藤林とする、その上で従属ということならよかろう」
「二木と六角はどうしますか?」
「しばらくは無視だ、動いてくるなら私も動く、三上忍で相談の上で六角、二木、幕府の動静を探ってくれ」
「幕府とはどちらので?」
「ふふ、将軍は義尚だけではないか」
「西方は持たないと?」
「というより数年以内に大乱は終わるよ」
「なんと!」
「その辺は長門か丹波に聞くといい、条件に付いては了解した。取り敢えずは緩やかな従属関係ということでよかろう」
「はは、ありがたく」
伊賀全体で約十万石、二木家と六角家の影響が強い所は抜いたとして当家の影響下に入るのは六万石といったところか、北勢と関をとりこんだことで伊勢における領地が十五万石といった所なので当家の影響力は二十万石程度といったところか、記憶を取り戻した頃に比べれば大きく領土を増やしたと言えるが斯波、土岐、長野、北畠、六角といった強敵と領土を接するようになってしまった。
農業改革によって農業力を上げることと桑名を手に入れたことによる交易力の上昇によって農業も商業もこれまでよりかなりの上昇を見込めるが、やはり火縄の数を増やさないとどうにもならないかな。
そうこう悩んでいるうちに正月を迎え六歳になった。これからは農繁期になって来るから戦は無いと思いたいですね。
その間も法度作りは続けていて甲州法度之次第をまるまる真似してみました。
具体的には
・国人・地侍が罪科人の所領跡という名目に土地を処分することを厳禁し、領国全体を羽津氏が領有することを定める。
・国人・地侍が農民から理由なく名田を取り上げるようなことを禁止して、農民を保護する。
・訴訟時において暴力行為に及んだものは敗訴とする。
・年貢の理由なき滞納は許さず、その理由次第によっては地頭に取り立てさせる。
・家屋税として貨幣で徴収する棟別銭について、逃亡しても追ってまで徴収する、あるいは連帯責任制により同じ郷中に支払わせる。
・隠田があった場合には、調査により取り立てる。
・被官について、羽津徳寿丸の承諾なく盟約を結ぶことを禁ずる。
・他国に勝手に書状を出してはならないことを定める。
・喧嘩両成敗。
・浄土宗と日蓮宗の喧嘩禁止、宗教問答の禁止。
・分国法は分国内のいかなることも拘束し、当主である羽津徳寿丸自身も法度に拘束される。
・主旨に反する言動に対しては身分の別を問わずに訴訟を申し出ることを容認するものとする。
・法度を増やす場合は羽津徳寿丸の独断とせず七衆並びに奉行衆との衆議によって定めるものとする。
かなり大まかですが多すぎても誰も覚えてくれないので十三条にしておきました。
「よいのか? かなり甘い気がするが」
「民達の支持というのは天下を狙う上で大切になってきますからね」
「ふむ、それでは清書してしまうか」
「それを事前に七衆と奉行衆更に奉公衆と外様衆に配布して七衆と奉行衆を集めた上で賛否を問うて改めて発布といたします」
「気を使いすぎだと思うがの」
「重臣に対する配慮は必要ですし、私の無茶な策に付いて来てくれてますしね」
「ふはは、確かに徳寿の無茶に突き合わせているのだから配慮は必要か」
「戦は勝てばいいんですが、内政はごり押しという訳にもいかないので大変ですね」
「それで法度の名前はなんとする?」
「以前に申し上げた、羽津法度之次第でいいでしょう」
「ふむ、単純だがわかりやすいか」
「賛成が得られれば民衆にも広く広めて私の統治方法を知らしめたいですね」
「なるほどな、これが知れ渡れば流民も増えるかもしれんな」
「流民が増えれば遊休農地をいかせますし」
「美濃勢がかなり殺していきおったからな」
「そのうち痛い目にあわせてやりますよ」
「今年は戦はするのか?」
「私はしたくないのですが、問題は相手もそう思ってくれているかですね」
長野程度ならば奉公衆だけでも倒せる可能性はある故農民を休ませることが出来るが北畠や六角が動くと総動員が必要になってくるか、尾張と美濃は大乱に夢中だからこちらに来ることはないか。
「長門」
「は!」
「長野と北畠に六角の動きを探っておけ、来ないとは思うが尾張と美濃もだ」
「要は隣接している敵勢勢力全てということですな」
「特に長野と北畠だ、当家の拡大で焦っているのは両家だ、下手すると組む可能性もある」
「水と油では?」
「未来人の知識だと界面活性剤というのを入れると混ざるらしいぞ」
「当家が界面活性剤だと?」
「そうなる可能性があるということよ、何ごともありえないということはない」
「分かりました注意しておきます」
「百地と服部を下に置いたが問題はないか?」
「表向きはないですが、不満に思う若い衆がいるのはやむを得ないでしょう」
「ふむ、取り敢えずは今のやり方でやっていく、百地と服部を上手く使え」
「はは」
「今年は平和だとありがたいのだがな、いやだめだ」
「殿?」
「大乱が終わったら動けなくなるぞ、その前に長野と北畠を滅ぼす必要がある」
「確かに大乱が終わると動きにくいですね」
「田植え前に奉公衆と新規雇入れの足軽だけで長野を滅ぼす」
「やれやれ、忙しいことだな」
「長門は長野や北畠と連絡を取るものがいないか注視しろ」
「裏切り者がいかねないと」
「外様衆を見張るのは当然よ」
「承知いたしました」
「若殿様、我々も戦にお連れ下さい」
「六歳児なんぞ戦に連れて行けるわけがなかろう」
「殿、私は」
「十一も駄目じゃ!」
「これ、若を困らせる出ない、徳寿とて本来は戦に行く年齢ではないのだ」
「さて外様衆はどう動くか」
正月の空気も抜けきった頃に八徳衆と新規雇用の足軽隊と足軽鉄砲隊を引き連れて長野工藤家の長野城に向かいました。
そうすると何故かそこには北畠の大軍がいました。ありえなくはないとは思っていましたが、本当に長野と北畠が結ぶとは長野はそこまで追い詰められていたんだね。
「殿流石に兵力差がありすぎますがどうしますか」
「長門」
「気が付かず申し訳ありません」
「それはいい、戦力はどの程度だ」
「北畠が一万に長野が五千です」
「景兼ここに付城を築く。羽津から人夫を雇入れろ、更に資材も羽津からもってこい」
「動員はされないので?」
「必要はないな」
「こちらは千五百であいては一万五千ですが」
「だから問題ない」
「だが付城に半年近く籠ることになる、さっさと普請を終わらせろ」
「はあ」
「景兼私を信じろ」
「はは!」
「それでどういうことなのですか?」
「普通に考えて見よ」
「といいますと」
「田植えも終わっていない状態で北畠も長野も動員できるギリギリまで動員しているのだ、秋の収入はないだろうな」
「それで強固な付城と」
「焦った北畠と長野は必死に攻め寄せてくるだろうな、そこをしっかり守りを固めた付城が待ち受けるわけだ」
「米を焼きますか?」
「今焼くとこちらの狙いを悟られかねないから今はいい」
「畏まりました」
それから一週間ほどである程度の形になり、籠ることにしていくことにしました。
「攻めて来ておいて付城に籠ってるとは、羽津徳寿丸はなんともなさけないではないか」
「流石にこの数には怯えているのかもしれませんね」
「ほほほ、麿の力には及びもしないということよ。羽津には千石くらいが丁度いいわ」
「というようなことを話しているようです」
「まだ、こちらの狙いには気付いていないか、しかし気付くのもそう遅くはあるまい、弾薬を多く頼むぞ」
「出来るだけお持ちいたします」
「頼んだ」
「政郷様これ以上対陣が続けば今年の田植えができません」
「なるほど、あの子倅の狙いはそれか、真に小賢しいことをする」
「政郷殿、こちらも困ります、打って出ましょう」
「やむを得ないな打って出るぞ!」
「とのことです」
「会話がだだ漏れなのは怖いな」
「火縄が三百に弾薬は百発は撃てるだけある、もんだいなく勝てよう」
「北門に石黒智安と小島棟員、東門に速水吉光と稲葉景兼、南門は成田秀元と菅谷義継、西門は日高広胤と加藤孝吉が守れ。本丸は私が直接足軽衆を率いる、鉄砲足軽は新井田大介だ」
『畏まりました』
「さてと、北畠中将はどの程度に戦ができるのか楽しみじゃな」
「我ら八徳衆が城門は守り切ってみせます」
「我が火縄部隊が敵将を討ち殺して見せましょう」
兵力差は十倍ですがこちらの士気は軒昂です。もちろん負けるつもりは無いですが北畠がどの程度の戦をするのかを楽しみに待っていましょう。
って私がまるで戦好きみたいになってるじゃないですか、やだー。
伊勢の行方を決める長野の戦いが始まります。
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