第11話 桑山宗矩

 戦いも終わり、父上の葬儀も無事終わりました。その際に長門に耳打ちされました。


「山名教之が死にもうしました」

「殺したのか?」

「いえ、流石に近づけませんので」

「では二月後に宗全は死ぬぞ」

「宗全が死んだ後はどうなるので」

「細川が押し返すが勝元も死ぬのでな、世の中うまくいっているものよ」

「宗全の死因はなんでしょうか」

「昨年に切腹未遂をおかしているので、その傷が原因と言われていたが詳しくはわからんな」

「勝元の方はどうなのですか?」

「病死と言われているが、山名派の暗殺という話もあるな」

「止めますか?」

「何故当家が細川の為に動かねばならぬ。北畠は東側だぞ。それより備中鍬がどれだけの効果を示すかを確かめる方が優先だ」

「それについてなのですが、何故備中なのですか? 伊勢で作ったのですし伊勢鍬でいいのではないですか?」

「未来人の知識で作ったものだからな。流石に名前まで変えるのは罪悪感があってな」

「なるほど」

「昨年は戦をし過ぎだ。当家の武威を示した以上侮る家は少ない。今年はのんびり内政をする、ただ情報は必要だ、藤林と百地には悪いが休みはないぞ」

「承知仕りました」


 そう言って相変わらず消えていきました。

 あれって私も真似できるのかな。ちょっと練習してみようかな。


 しかし山名教之が死んだか、これに意気を落として宗全も死ぬのだよね。そしてその数か月後には勝元も恐らく死ぬでしょう。つまりは歴史通りに物事は進んでいるということですね。にも拘らず私は火縄を始めとして後世に発見されたり発明される物を作ってしまっています。つまり歴史を修正することは可能ということでしょう、ならばこの後に起きる戦乱を早い段階で治めることも出来るということ、戦乱で苦しむのは民達。今後戦乱が起きない世の中をつくる為に戦乱を起こすというジレンマに狂いそうになります。

 応仁の乱後も室町の権威が完全に失われるわけではありません。九代将軍も十代将軍も六角攻めを行っています。まあ十代将軍は河内征伐の最中に追放されていますが。

 明応二年の政変は今から丁度二十年後に行われますが、当家の拡大次第では起きない可能性もありえますね。目標としては十年以内で伊勢志摩伊賀を統一するくらいの勢力にしたいものですね。

 となると目標としては北勢を制圧し、神戸と関を潰して長野を奪い北畠と決戦といった感じですが、農繁期にいちいち戻らなければいけないのは面倒且つ時間の無駄ですね。そろそろ羽津領内でも石鹸や清酒を作り始めるか。

 一応長門と丹波に特例として与えている許可ですし領内で作ることに関しては相談した方がよさそうですね。


「若」

「丹波か、どうした?」

「謀反です」

「宗矩か?」

「ご明察、予想されていたので?」

「とういうよりそんな大胆な事をするのは宗矩くらいだ」

「相手は三百といったところです」

「やるじゃないか、宗矩め」

「農兵をかき集めたようですね」

「こちらは足軽隊だけで戦う」

「農兵を集めないので?」

「宗矩の誘いにのってやるさ、重臣を集めよ」

「既に呼び出しております」

「仕事が早いのは好きだ。今後とも頼むぞ」

「はは」


 評定の間に着いたら重臣達もすでに集まっていた。


「百地殿を疑う訳ではないが、誤解ではないのか」

「あの宗矩殿が謀反などと」

 

 宗矩は忠臣として名高かった為重臣達も困惑しています


「皆は勘違いしているな、宗矩が忠誠を抱いていたのは父上に対してだ、私に対しての忠心など最初からない」

「いかがなさいますか」

「農民たちはこれから始まる農期に備えて英気を養っている最中だ、徴兵するのは可哀そうだな。宗矩は三百といったところだそうだ、間違いないな丹波?」

「は、しつこい位確認をしております」

「ならば、あえて宗矩の挑戦を受けてやろう。私の足軽隊を三百出す。ふふふ、宗矩の死を賭けた私への教育受けてやろうではないか」

「宗矩殿は」

「今の話は忘れろ、ただ相手の兵は無駄に殺すなよ。我が領民なのだ」

「承知いたしました」

「軍奉行は小国虎義とし、総奉行は佐藤虎政とする。旗本軍奉行は斎木虎綱、武者奉行は中島虎久とし、槍奉行は神童虎守と梓川虎犂、弓奉行は弓倉虎行と古湊虎則とする、使番目付は舟木虎永とする。まあ以前と一緒だが成田秀元と加藤清吉を物頭とする、そちらの武勇期待している」

『おまかせあれ』

「兵を雇う利点はやはり動きが早いことにあるな、翌日に出陣する」

「はは」


 評定も終わり自室に戻る最中に長門がきました。

「宗矩殿の器量はかなりのものです、殺しますか」

「殺さないよ、宗矩には以後も働いてもらうつもりだ」

「しかし謀反を起こしておりますが」

「宗矩としては納得したいのだ、自分が仕えるに値するか否かを」

「よくわかりませんな」

「長門とて納得できる相手に仕えたかろう」

「それは分かりますが、謀反までしますか?」

「桑山宗矩は隠れなき名将だ、それだけに誇りも高い、自分を納得させる為なら命も賭けようというものよ」

「他の諸将の方々はどうなのでしょう」

「他の将はどちらかというと子供の私を守らなければと思っているのだ、私が失敗すれば勉強の為に開源寺に押し込めるくらいはするかもしれんが、成人すれば主君として仕えるつもりだろうよ。それより長門」

「は」

「そなたが断るなら無かったことにする故に正直に答えて欲しいのだが」

「なんのことでしょうか」

「石鹸と清酒を羽津領内で作ってもかまわんか?」

「それについては若がお決めになればよいことなのでは?」

「藤林家が家中にいるからと、そなたとの約定はないがしろにはできない。優越的権利をそなたに渡している以上私はそなたの許可が必要なのだよ」

「若にそこまで大切に思っていただけているとは」

「私は藤林に冷たく当たっていたか? というか将来の妻を藤林から娶るのだから大切な外戚だぞ」

「正直に言いますと米転がしの収益の方が大きく石鹸や清酒を他でやっていただいても問題ありません」

「ならば領内でも行おう。足軽を増やす為にも銭はいくらあっても足りんからな」

「若、我ら藤林一族は全てを投げ捨ててでも若の為に働きます」

「それでは困る我が妻まで投げ捨てられては私は後継者を残せないではないか」

「ふはは、確かにその通りですな」

「気張るな長門、功を焦る若者でもあるまい」

「そうでしたな、それでは桑山勢を探ってきます」

「さてと宗矩はどんな策でくるか」


 

 若はここまでは及第点だが敵が弱すぎたというのもあった。儂が三百だしたと聞けば、虎の子の足軽三百で向かってくるに違いない。

 そこで若に本当の戦場という物を見せてくれるわ。儂が勝てば若の後見人に儂が付けばいい。仮に若が勝てば羽津家の未来は安泰と言うことで安心して死ぬことが出来るわ。


「父上本当にやるのですか? 今なら謝罪すればお咎めなしもありえるかと」

「そちらを巻き込んで悪く思うが、これは儂なりの奉公なのだ」

「謀反が奉公等聞いたことがございません」

「若が天下に夢を抱く以上やらねばならぬのだ」



 そして出陣式を終えて出陣しました。馬に跨りながら今回の合戦場になりそうな地理を考えていました。宗矩に任せていたのは中上城です、ということはその近くで戦うことになると考えてふっと思いました。よく考えれば籠城する訳でもない宗矩が中上城付近に在陣しているとは限りません。

 慌てた様子をみせないようにしつつ急いで長門と丹波を呼びました。


「長門! 丹波!」

『は』

「宗矩は中上城にいるのか?」

「そのはずですが」

「嫌な予感がする、長門は中上城へ、丹波は周辺の偵察をいたせ」

「わかりました」

「私の予感では中上を捨てて奇襲してくるつもりだ」

「なんと」

「急ぎ中上に向かいます」


 さて、このまま進軍するか、一旦ここに陣を張り情報を集めるかだね。宗矩が中上城にいた場合はここに陣を張った私は怖気づいたと見られる、そうなると家臣たちもこれまで程言うことは聞かなくなるだろう。

 家臣たちが五歳児の言うことを唯々諾々と従っているのは私が無敗であることが大きい、なるほど宗矩めこれが私に対する試練か、中々に厄介なことをしてくれるわ。考えに考えた末一旦ここに陣を張ることにしました。


「全軍停止! 一旦ここに陣をはる」

「このような所に陣を張るのですか?」

「宗矩が中上城で待っていてくれるとでも?」

「は! 確かに」

「宗矩の居場所を探さなければ意味がない。謀反を起こした以上宗矩にとって中上城は必要ではないのだ」

「籠城する可能性は」

「どこから援軍がくるのか」

「若!」

「長門殿か」

「どうであった」

「中上城は空です、米の一粒もありませんでした」

「宗矩迂闊なり、米を残していない以上狙うべきは一つだ」

「若?」

「宗矩の狙いは羽津城よ。羽津城を落とせば宗矩の勝ちだ」

「では宗矩に先んじて羽津に向かいましょう」

「虎義落ち着け、宗矩を探している丹波がそろそろくる」

「若」

「萱生を超えていました」

「奇襲もいいが、それでは宗矩が納得いかんか」

「若?」

「大矢知に布陣し正面から宗矩を待つ」

「兵を隠し奇襲する好機ですが」

「奇襲しか出来ないと思われては心外だしな、それに奇襲というのは正道で勝てぬからやるものなのだ」

「陣形は?」

「魚鱗でよい」

「正面から叩き潰すのですね」

「鶴翼だと相手の兵が逃げにくかろう」

「逃がすのですが」

「当たり前だ、当家の領民だからな」


 そしてしばらく経つと桑山家の旗印が見えました。



「若の軍の数はどのくらいに見える?」

「三百かと」

「つまり奇策では無く正道で向かってきたと」

「ふはは」

「父上?」

 思わず笑ってしまった、こちらの考えを全てよんでいるか、羽津の将来は安泰か。


 羽津徳寿丸対桑山宗矩による大矢知の戦いが始まります。

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