第10話 啄木鳥
戦勝であったが父上が戦死したこともあり全体的に士気は低い中羽津城へと帰還しました。
「虎義、軍を解散していい。だが弱った所を狙ってくる家はあるかもしれないから何時でも招集できるようにしておくのだ」
「承知いたしました」
「虎政は葬儀を差配せよ」
「畏まりました」
「祖父様は私に代わって感状を書いて下さい。私はまだ満足に字が書けませぬゆえ」
「ふはは、承知だ」
「高城、弓倉、斎木、佐藤、小国宛で頼みます。後は功名帳通りに」
「うむ」
「私は父上の元にまいります」
父上の元に向かう途中に長門が現れた。
「千種か?」
「ご明察。中がぼろぼろですな。反撃をしてくることはありえないでしょう」
「だろうな」
「神戸と長野は動きそうか?」
「神戸は関と組んで六角と争っていますが分が悪いですな。長野は相変わらず北畠ですね」
「今のうちに北勢を固めたいが」
「先日の敗戦で兵力に不安がありますな」
「問題はそこよな,朝倉家に蒔田城を取らせるか」
「北に向かうので?」
「西にばかり向かっていたからな、ここらで領土を綺麗にしたい」
「内政に力を入れるのでは?」
「父上が死なれてしまったからな、強い羽津を見せつけないと周囲から襲われかねない」
「朝倉家に蒔田城を取らせながら、私は萱生城と下野城を落とす」
「一気にいきますな」
「父上がいなくなった喪失感を埋めたいだけなのかもしれんが」
「立ち止まるよりはいいかと」
「それより長門の怪我はもう大丈夫なのか?」
「まだ突っ張りますが大したことはございません」
父上の遺体が安置されている部屋に到着した頃には長門は姿を消していました、忍び怖!
部屋に入ると姉妹が号泣していたが母は気丈にも涙をこらえていました。
「母上」
と呼びかけると、優しく私を抱きしめてくれました、
「徳寿丸、あなたが泣いていいのはこの場所だけです。今は我慢しないでいいのですよ」
その言葉により、それにより私も涙腺が決壊し号泣してしまいました。
一刻程母上の元で泣いていると涙が止まってきました。
「もう大丈夫ですか?」
「はい、これからは羽津家の当主としてやっていきます、母上、そして父上見ていて下さい。羽津家を天下に名だたる家に育て上げて見せます」
「無理だけはしないように、母は常に徳寿丸の味方ですから」
「ありがとうございます。母上に見守られているだけで徳寿は頑張れます」
そして再び評定の間に向かいました、すると再び長門が隣に現れて重臣の皆を集めたと言ってきました。
「ご苦労。手間が省けたわ」
「それでは」
「待て長門、そちも当家の重臣だ。そなたも評定にでよ」
「儂は忍びですが」
「関係ない、例え商人でも百姓でも重臣と私が判断したら評定には出す!」
「それでは参加させていただきます」
「うむ」
そうして評定の間に着いたら重臣が集まっていました。
祖父様が
「重臣を集めてどうするつもりだ?」
「関と神戸は六角に対処する為に動けません、長野は北畠に対処する為に動けません」
「動くのか」
「父上が死んだ今、ここで弱気でいると他家から付け入られます。そこで領土を守るために攻めます」
「領土を守るために攻めるか」
そこに小国虎義が
「してどこを攻めるのですか」
「萱生城と下野城じゃ、更に朝倉家には蒔田城を奪って貰いたい」
それに対して朝倉忠盛が
「攻めとるというより接収する感じだな。当家の領地を増やせということか」
「ええ、その通りです。今回の戦で当家と分家を合わせて一万石は超えるのが目標だ」
「朝倉は了承いたしました」
「よし、それでは陣触を出せ! 今のうちに取れるだけ北勢を取るぞ」
『はは』
「軍奉行は小国虎義とし、総奉行は佐藤虎政とする。旗本軍奉行は斎木虎綱、武者奉行は中島虎久とし、槍奉行は神童虎守と梓川虎犂、弓奉行は弓倉虎行と古湊虎則とする、使番目付は舟木虎永とする。まず狙うは萱生城だ」
強気の態度が良かったのもあって、着到も素早く行われ出陣の儀式も終わりいざ出陣というところに百地丹波から報告がありました。
「萱生城の春日部家に下野城の江見家と中川城の坂家が連合を組んできました。兵力は八百といったところです。こちらより二百は多いですが」
「ふ、大した差ではないし、戦うのが一度で済むのは逆に楽というものだ」
「火縄を使うので?」
「それは戦況次第だな」
「相手は台地に陣を張るようです」
「若、戦力が劣っている上に台地にいる敵を討つのは、いささか骨が折れますが」
「軍評定を始める」
「はは!」
「敵が丘にいる以上こちらの不利は明らかです。撤退も視野に入れるべきかと」
「所詮は急場をしのぐために作られた連合軍です、暫く時が経てば解散するかと」
と弱気な意見が多かったので
「萱生は落とすし連合軍も壊滅させる」
「何か策が?」
「稲荷に本隊を布陣して数日睨み合いをする。まずはそれからだ」
「畏まりました」
「で、どういう策なのです?」
「数日経てば教えるさ、敵の出方を見てみないと成功するかわからんしな」
「羽津の小僧は低地に布陣したのか、戦を知らんというのは憐れよのう」
「まあこの場で討ってやるのも慈悲かの」
「幼子を大将とするとは祥月もひどいものよ」
「という話をしていたようです」
「ふふん、ここまで油断してくれていれば策は成功だな。戦評定をする諸将を集めよ」
「は」
「評定とのことでしたが」
「我が策既に成れりだ」
「といいますと」
「虎義は夜になったら二百の兵を連れて密かに陣を出て敵陣の後方を突け。そうしたら慌てて低地に下りてくるからそこを我が本体が潰す」
「おお、これは見事な策。何という策なのでしょう」
「策の名前か、啄木鳥の策だ」
勘助くんごっめーん。策もらっちゃうよ
「なるほど啄木鳥が餌を取るのになぞらえているのですな」
それ違うらしいけどね
「敵は馬鹿だ、見抜かれる可能性が低いとは思うが、炊飯の煙を多くしたりせんようにな」
そして小国虎義率いる別働隊が密かに敵の後方に周りこみました。史実で失敗している策だけに実は結構心配でしたが。藤林家の連絡によるとぐーすか眠りについているようで安心しました。
若は軍神の化身か、これほどの見事な策を立てるとは数日間何もしなかったのは敵の油断をさそっていたということか。目標地点に着くと碌に見張りも無く寝ていたので策の成功を確信した。
「大声で叫びながら突撃するのだ、春日部家が、江見家が、、坂家が、裏切ったと大声で叫ぶのだ」
「はは」
「行くぞ」
「春日部家が裏切ったぞ!」
「江見家が裏切ったぞ」
「坂家こそが裏切ったぞ」
といい奇襲を仕掛けたら大混乱をおこした。今が好機
「既に羽津家は撤収している。一旦低地に移動するのだ!」
「こら、そんな命令していないぞ」
「もう止まらん流れにまかせるしかない」
「羽津がいないなら大丈夫だ」
大将次第でここまで変わるものか、若であれば一喝しただけでこの程度の混乱は治めてしまいそうだが。
「このまま敵のケツを叩いていくぞ」
そうすれば挟み撃ちになるな。なるほどそれが狙いか
床几に座り目を瞑っているとどうやら周りは私が寝ていると思っていたらしく、撤退の際の殿を誰がやるかと相談していました。父上が死んだことで羽津勢は少し臆病になっているようです。
そのまま待っていると不規則に走る足音がかすかに聞こえてきました。
「長門」
私が寝ていると思っていた連中は驚いていましたが、それはまあどうでもいいです
「来ていますな」
「うむ、皆聞け! 虎義に散々甚振られた敗残兵どもがここにやって来るぞ弓と槍を準備せよ。この戦いで連合軍を名乗る烏合の衆を叩き潰してやる!」
それから四半刻もしないうちに連合軍改め烏合の衆が眼前に現れました。数の上ではそれでも烏合の衆が勝っているというのに前後から挟まれた混乱もあり、碌に抵抗も出来ずに討たれていきます。
一刻もしないうちに烏合の衆はまともに立っている者が殆どいなくなってしまいました。私は目一杯の大声で
「武器を捨てた者は助命して治療してやるがどうする!」
というと抵抗する者がいなくなりました。萱生城内もほぼ空に等しく春日部家婦人は捕虜として丁重に扱うこととして、これにて萱生城の合戦終了です。
評定では意気軒高すぎて次に攻める城についての議論が進まなかったので
「どうせ守備兵もおるまい。両城同時に攻めればいい。萱生城の守りには阿倉川城の叔父上に一時任せるとする」
ということに決まり両城を同時に攻めましたが、思ったとおりに守備兵がほぼおらず勧告をしたら簡単に落ちました。
私は下野城に向かったのですが城主一族の助命と城主の出家で良いと言うと泣いて喜んでいた。私ってそんな虐殺するイメージあるのかな? いや無いよね。
下野城と伊坂城を落とした両軍は中上城で合流。そして城攻めしようとしたところで即降伏。何でも城主の舘が残った兵を引きつ入れて中野城に籠っているらしく抵抗なんてできないとのこと。じゃあもっと早く降伏すれよっと思うが、最後の奉公のつもりなのかもしれないですね。
ということで今回の遠征最後の城である中野城に向かった所今回こそ確実に戦になりそうな空気が漂っています。一応降伏の使者を送りましたが、あろうことか使者の首を切って投げつけてくるという蛮行を行いました。
これには我が軍も大激怒です。余りの怒りっぷりに、
「大手門を攻撃します」
「はい」
「同時に絡めても攻略します」
「はい」
「成田秀元一番乘りー!」
「はい」
っとはいを繰り返すマシーンと化していたら中野城を撫で斬りにしてしまいました。私のイメージが
ということで今回の大遠征は私のイメージが損なわれた以外は大成功におわりました。
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