第6話 農業改革と城攻め
そうだ千歯扱きを作ろう。そう思い立ち父上を説得して予算を確保して製造を開始させました。
収穫が完了し乾燥作業中に数十挺作ることに成功して農家に使わせた所脱穀作業が早く終わったと感謝されました。
それに対して藤林家と朝倉家から自分達も使いたかったと、軽い苦情がきましたが、来年はそちらにも回すということにしてやり過ごしました。
ついでに唐箕も作って農家にやらせてみたら好評だったらしい。これについても藤林家と朝倉家から欲しいとせっつかれたので。備中鍬の知識は先んじて父上から藤林家と朝倉家にもたらすことになりました。他の知識も求められたので畔付大鍬と小鋤も伝えておきました。
私は発明家では当然ないので善斎御坊から学問を教わるようになりました。ついでに朝倉家の嫡男と当家の重臣の子息である小国・佐藤・斎木・中島・高城・桜塚・弓倉・神童・古湊・舟木・梓川に尾張から流れて来た織田を集めて講義をするようになりました。恐らくは私の将来の重臣達になる子供たちなのでしょう。
ここで邪魔になったのが未来人の知識。この時代の言葉がまあ読めないこと。まっさらな状態からスタートになるので朝倉の嫡男や家中の重臣の子にも心配される始末。これは城に戻ってからも勉強が必要だと改めて思いました。
羽津城に戻ってから母上に泣きつくことにしました。
「母上、字が読めないし書けません!」
「何となく徳寿丸なら出来ると思い込んでいましたが無理でしたか」
「未来人の知識があっても何でも出来る訳ではないようです」
「それはその通りでしょう。なれば母が字を教えて差し上げましょう」
「よろしくお願いします」
こうしてしばらくの間は開源寺に通わず母上から字を教えて頂くことになりました。後々考えてみると善斎御坊が疎遠になってしまいかねない私と母上の間を取り持つ策だったのかもしれません。
ある日の朝、食事を家族で楽しんでいる時に父上に言い忘れていたことがあったので伝えました。
「父上」
「なんだ徳寿や」
「私の正室は藤林家から来ていただくことにしてください」
「ふむ。一族の結束を考えれば悪い案ではないが」
「あと、綾を藤林家の嫡男に」
「確かに藤林家は重要ではあるが二重に縁を結ぶ必要があるか?」
「両家の間の血が薄いので濃くしておく必要があると思います」
「ふむ、徳寿がそう言うということは藤林家はすでにその案で承諾済みということか」
「あー、えっとどうでしょう」
「まあいい、会議に諮ってみよう。そなたも出るか?」
「私は明らかに親藤林家派と見られてそうなので反感を持たれないように参加は見送ります」
「そうだな、そなたは藤林家と親しいからな。ところで阿倉川城はどういった状態だ?」
「藤林家に任せた流言により城中は疑心暗鬼に陥っております。城主の阿倉川舘氏は城外に打って出るのを恐れているようです」
「それでは籠城戦になるか」
「阿倉川方の兵糧を藤林家に任せてみますか?」
「任せるとは?」
「焼くのは勿体ないので、少し高値で買い付けます」
「それでは藤林家は大損ではないか」
「京付近に持っていけばもっと高く売れますよ」
「なるほどな、その上で兵糧攻めか」
「時間をかけ過ぎて他家に口をだされたくありません」
「北畠か」
「他にも関・神戸・長野と強敵揃いですよ」
「領土を広げるたびに頭痛の種が増えて来るな」
「領土を広げると接する強豪も増えていきますからね」
父上達は私の進言を受けた上で正式に藤林家に依頼をし兵糧攻めをすることに来まりました。
その夜長門殿が来ました。
「兵糧を転がして金が手に入るのに、当家からも金を毟り取るかね」
「それはそれ、これはこれでございますよ」
と怖い顔でぐふふと笑っていた。
「しかしこれに成功しますと戦のやり方が変わって来ますな」
「これからの戦は金だ銭がどれだけあるかが勝利に直結します。忍びの仕事も更に増えることでしょうね。当家のこれから次第ですが服部と百地も抱え込めると助かりますが」
「そのことでございますが、当家が豊かになったのをみて石鹸等の製法を教えろと言って来てまして」
「すぐ傍で藤林家だけが儲けていたら面白くないでしょうね。教えてしまって構いませんよ」
「では我らと同じ条件を飲むかを確認してから教えるとしましょう」
「百地と服部が頑なにならないように気を付けてくださいね。将来的には両者とも支配下に入れるつもりなので」
「甲賀はどうなさるので?」
「六角の影響力が強すぎるので今のところは静観します」
「承知いたしました。では阿倉川に最後の仕込みをしておきましょう」
「やり過ぎは駄目ですよ」
「承知」
そう言うと長門殿はすでに姿を消していました。忍者というかNINJAだなあれは。そう思いつつ眠りにつきました。
そして父上達が出陣する時がきました。
「父上ご武運を」
「うむ、ここまでお膳立てをしてもらったのだ負けは無かろう」
「油断だけは無いように」
「分かっておるわ。留守を任せたぞ徳寿丸」
「はい、お任せください」
そうして父上達は阿倉川城へ向けて出立していきました。
その夜いつものように密かに私の部屋に入ってきた長門殿に無理やり起こされました。
「なにようでごじゃりましょう」
「まだ目が覚めていないようでござるな、まあ儂の話を聞けば目もさめるじゃろう」
「あい?」
「赤堀と浜田が戦支度をしている」
「は、なんですって! 狙いは・・・・・・羽津ですか」
「恐らくはそうだろうな。だが向こうも急な出陣ゆえに準備は整っておるまい」
「陣触だ」
「若何かおっしゃいましたか?」
「陣触を出せ! 敵は赤堀と浜田です。それと曽祖父様と祖父様を起こして評定の間に来るようにしていただくのです」
「落ち着いてきたようじゃな」
「情報感謝いたします。私は評定の間に向かいます」
「あまり生き急がれるな」
「あと八十は生きるつもりなので大丈夫です」
ふっはっはと笑い長門殿は姿を消していました。
ところ変わって評定の間。入って早々曽祖父様が
「一体どういうことだ陣触まで勝手にだしおって。子供の遊びではすまぬぞ」
それを取りなすように祖父様が
「まあ取り合えず話を聞いてみるといたしましょう」
その言葉を受けて話し合いが始まりました。
「長門殿の話ですと、赤堀家と浜田家が急に戦支度を始めました」
「両家が組むとなると当家か」
「南を信用しすぎましたか、阿倉川と組んでいたのか」
「阿倉川と組むことはないでしょう阿倉川方が疑心暗鬼ですし、問題は籠城するか打って出るかです」
「どれくらい集まる?」
「百がいいところですかね」
「それで打って出るのは無理があるのではないか?」
「三滝側沿いに布陣すれば、どうにか出来ませんか? 野戦もせずに籠城となると士気が心配なのですが」
「向こうも急な出撃のはず、上手くいけばどうにかなるか?」
「私をお連れいただけないですか?」
「そなたにどれだけの将器があってもそれだけは認めれん」
「そうですよね。ではひと当てして籠城戦といきましょうか」
「百名で籠城戦か阿倉川城に行ってる忠虎を呼ばんのか?」
「今の機を逃せば次に阿倉川城を落とす機がいつくるかわかりません。我らだけで籠城し、父上達が阿倉川城を落とすのを待つとしましょう」
「一応二十人を残していくから我らが帰らなかったら、すぐに忠虎に連絡をするのだ」
「承知いたしました」
「他の親族は連れて行く故そなたに任せるぞ徳寿丸よ」
攻城戦の最中に防衛戦が起こるとは思っていなかったな。まさに油断! しかし親族である赤堀と浜田がこうも簡単に裏切るとは思わなかった。和平条件に叔父達を押し付けるとしよう。だけどその前に勝たないといかないよね。
阿倉川城を落として赤堀と浜田を合わせると五千石くらいになるか、それに朝倉を足すと六千三百くらいにはなるかな。まあ捕らぬ狸の皮算用っていうし、まだ喜ぶのは早いか。
「若殿余裕そうですな」
「帰ってなかったのですか。なんでしょうかね負ける気がしないので余裕がありますね」
「連合軍は四百は出してきましたぞ」
「千なら焦るのでしょうけどね」
「うん? 野戦は敗れたようですね」
「被害は?」
「忠度殿が殿軍を務めて整然と引いていますね」
「流石は叔父上ですね」
「赤堀軍が周りこんで奇襲を仕掛けました。羽津勢は軽く混乱していますな。被害が増えますぞ」
「よし出陣する」
「よろしいので?」
「今出ずにいつ出る」
「護衛くらいはいたしましょう」
「総勢出るぞ! 続け」
「若鎧は?」
「そんなもの来たら重くて動けないわ。行くぞ!」
そして交戦中の曽祖父様達を見つけた処で
「木の枝を馬にくくり付けろ足軽は腰に木の枝を付けるのだ」
「何の意味があるので?」
「野戦はいかんと言われているので戦わないで敵を引かせます」
「全員付け終わりました」
「よし、それでは阿倉川に行っていた部隊が戻ったぞ! 等と叫びながら敵に向かうのだ。戦う必要はない」
「分かりました全軍突撃!」
「阿倉川攻めが終わったぞ!」「援軍が来たぞ!」
「曽祖父様、祖父様ご無事で?」
「あれほど戦うなと言ったであろう!」
「故に戦っておりません。戦っていいのでしたら隙だらけの赤堀勢など瞬く間に討滅してくれましょう」
「うぐ、まあいつまでも騙し切れるものではあるまい。羽津城に戻るぞ」
「任せていただけたら赤堀と浜田なぞ叩き潰して差し上げますのに」
「まだ初陣には早い! 長門も止めんか」
「何をするのか見て見たいという気持ちになりましてね」
「それは分かる。だがそれはそれだ」
「では羽津に戻りましょう」
防衛戦が本格的に始まります。
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