第5話 冨田城攻め
南部家は源義光の玄孫の光行が甲斐国南部の河内地方にあたる巨摩郡南部牧に住んでいたことから南部氏を称したが、奥州合戦の頃に奥州糠部に土着したのが本家に当たる。伊勢南部家は信濃南部氏が二十年程前に入部してきて支配を固めている。
当初は幕府奉公人であったが、今は北畠家に服属している。つまり南部家を攻撃すると北畠に横やりを入れられる危険があるということであるが、領地が離れていることもあるので問題ないと思い攻撃を決めました、確実に関係は悪化すると思われます。
そして、朝倉家の茂福城と南部家の冨田城の間は五十町(約500m)程の距離しか離れておらず朝倉家としてはまさに目の上の瘤といった具合であった。更に戦力も同程度しかないので是非とも倒しておきたい相手です。
「父上。北畠に干渉されたくはありません。出来る限りの兵力を連れて一気に攻め落とすべきだと思います」
「そういえば南部は北畠に服属していたな」
「所領が離れていることから軍事的な介入はすぐにはできないでしょうが、口頭での介入は確実にしてきます。故に赤堀を信じて全兵力で一気に攻め落とすべきです」
「赤堀がそこまで信用できるか」
「もし攻めてきたら私が返り討ちにします故ご安心を」
「言いおるわ! それでは羽津は任せるぞ」
「承知いたしました」
そして父上は朝倉勢と共に連合軍を組み冨田城に攻めていきました。
その二週間後北畠家から鳥屋尾満親(鳥屋尾満栄の先祖かな? それとも鳥屋尾定恒かな、まあどうでもいいか)がきた。流石に私に対応させてくれるわけも無く曽祖父様が対応しました。
「単刀直入に申し上げる、南部家に対する攻撃を止めていただきたい」
「と言われましても、もうすでに攻撃をしているものを止めるというのは簡単にはいかぬでな」
「羽津如きが北畠を敵に回して生きていけると思っているので?」
「当主がこの場にいないので簡単に返事はできませんな。冨田城まで直接いかれてはいかがかな」
「そうさせていただこう! 今回の事後悔しても遅いと思いなされ」
そう息を荒くして鳥屋尾某は出て行った。
「北畠と北勢の間には長野工藤氏がいますがどうするつもりなのでしょう?」
「さてな、何も考えていないのではないか」
「使者にするにしては粗忽者でしたね」
「うむ、徳寿丸は使者を出すときは機転が利くものを出すようにするといい」
「勉強になります」
場所は変わって冨田城攻めをしている父上と忠盛殿。
藤林家を使い使者が来た同日中に私からの書状を父上に届けれました。
「野戦に勝ち、敵も冨田城内に押し込んだ。勝ちは見えましたな」
「しかし厄介なのがくるようですぞ」
「といいますと?」
「息子からの手紙によると羽津城に北畠からの使者が来たらしいです」
「使者はなんと?」
「冨田攻めを止めろと一方的に言ってきたそうです」
「それに対して羽津城はなんと?」
「特に言質を与えずに我らの元に行かせたと」
「では時間がないということですな」
「被害が増えるのが嫌ですが強攻といきましょう」
「そうですな。広郷強攻じゃ! 一番乗りは当家が取るのだ!」
「虎義よ当家こそが一番乗りをとれ!」
「御意」「承知いたしました」
北畠の使者が到着した頃には冨田城は落ち南部一門は処断された後でした。
「南部一門を滅ぼすとは何事か」
「と言われましても既に終わった後ですが」
「一門の生き残りを探して冨田城に戻すのだ」
「それに従う理由が我らにはございませんな」
「北畠を虚仮にしたこと後悔することになるぞ」
「覚えておくとしましょう」
北畠の使者は憤怒の表情を浮かべて多気御所に帰って行きました。
「では冨田は朝倉家にお任せいたします」
「承知した阿倉川攻めの折には確実に援軍を出すといたそう」
これにて朝倉家と羽津家の硬い盟約が確認されることになりました。
阿倉川城は羽津城から西に十三町(約1300m)程の近距離にある城です。城主は舘氏で今は阿倉川家を称しています。阿倉川城を落としてしまえば広大な農村地帯を支配することが出来ます。
石高も単独で三千石を超えることが可能になるので羽津家にとっては重要な戦になります。しかしそれだけの価値があるということは阿倉川家が強敵である証拠でもあるので簡単には攻め込めません。
「刈り入れ時期も近いから阿倉川攻めはそのあとかな」
確か史実では天正元年に浜田元網が侍大将に阿倉川を攻めさせたて火縄で阿倉川の三男を討ち取ったとあったが結局阿倉川城を落としたかどうかは詳しいことは分からないのよね。
史実に沿って火縄が完成してから阿倉川攻めをするかな、今攻めても田んぼの細道で戦わざるを得ないから戦い難いのよね。
藤林家に連絡を取って火縄が完成したか確認してみようかな。
「あー、長門殿こないかなー」
と独り言を大声で言った。恐らくこれで長門殿がきてくれるはずなので、色々相談してみよう。
そして夜を待って。長門殿が来るのを待った。
「あのような呼ばれ方をされますると」
苦笑いを浮かべながら長門殿がいつの間にか部屋にいた。
「藤林家に通じている人間が分からない以上ああするしかないのですよ」
長門殿はふむ、確かにと独り言ちで
「では繋ぎになる女中に明日にでも接触させましょう」
「それは助かる。独り言の多い若だと思われたくはない」
というと二人で小さな声で笑った。
「して御用とは?」
「私の知識は使えましたか?」
「石鹸と清酒は早々に物になりました。後は販路の問題ですが。若の案で各地においた商会を使ってなんとかなるでしょう。椎茸に関しましては何分自然の物なので中々難しいですな」
「火縄はどうでしょう」
「若から貰った設計図が詳細であったこともあり物になりそうなのですが」
「ですが?」
「数を作るのが難しいのと、火薬の入手がむずかしいですな」
「まあ私が渡した火薬の精製法でも一から三年かかるって書いていますしね」
「急ぐので?」
「北畠に目を付けられました」
「それは危ういですな」
「それと阿倉川城攻めが予想以上に難航しそうに思っていまして」
「しかし阿倉川を落とさねばこれ以上の拡張は難しいぞ」
「赤堀と浜田が使えればまだ楽なのですがね」
「両家を降らせる為には阿倉川が必要ということだな」
「力攻めしかないでしょうか」
「殺すか?」
「それは最後の手段にしましょう」
「善斎に相談してみるといい、軍略にも詳しいはずだ」
「なるほど御坊なら詳しそうですね」
「では儂は帰るぞ、また何かあれば連絡をくれ」
「では、私は寝るとします。本日は来て下さってありがとうございました」
翌日になり、特に目立った特徴のない下女中が話しかけてきた。
「静と申します、長門様に御用がある時は私に合図を送って下さい」
「では静の方を見て二回頭を掻いたら長門殿を呼んでください」
「畏まりました」
そう言うや否や私の前から消えてしまいました。藤林の里は目の前から消えるのが得意なのかな
「開源寺に向かう供を頼む」
「はは」
四半刻ほどのんびりと進み開源寺に到着したので中に入っていきました。
「お前は事前に使者を寄こしたりはできんのか」
「御坊は暇かと思いまして」
「はあ、まあよい。それで今日は何の用だ?」
「阿倉川城攻略についてご相談をと思いまして」
「ふむ、どう攻略しようと思っているのか話してみよ」
「阿倉川城南方から攻めて行こうと思っているのですが、田んぼと細道なので苦戦しそうで」
「まて、何故南方から攻める」
「未来人の知識で浜田家が南方から攻めていたので」
「馬鹿者が、未来人の知識に引っ張られ過ぎだ朝倉に北から攻めさせて羽津は東と南から攻めればよかろう。その上で長門兄に阿倉川家は早々に逃げ出すつもりだと流言を流させろ、そうすれば阿倉川城など簡単に落ちるわ」
「なるほど未来人の知識に引っ張られすぎていましたか」
「便利な知識が多いのだろうがそれに引っ張られ過ぎだな」
「言葉もありません」
「まあ少しずつ成長していけばよい」
羽津城に戻った後に静を探し頭を二回掻いておいた。
その夜再び長門殿がきてくれました。
「まさか二日連続で呼び出されるとは思いませんでしたよ」
「善斎御坊に会った後に呼び出されると思っていたでしょうに」
ふふふ、まあなと笑いながら答えてくれました。
「長門殿には阿倉川家に羽津と朝倉の連合軍が攻めてくるということと、阿倉川家は城と家臣を捨ててて逃げようとしていると流言を流して下さい」
「それぐらいの簡単な仕事ならすぐ終わらせてやろう、攻めるのは冬か?」
「私はそのつもりなのですが、父上達と相談するのを忘れていました」
「抜けておるの」
軽く呆きられてしまいました。
「まあ流言は仕掛けておこう」
「よろしくお願いします」
「ではこれにて失礼」
目を凝らして見ていたのに、全く見えずに消えてしまいました。忍びに命を狙われたらどうすればいいのか。
朝食を食べながら父上に質問しました。
「阿倉川城攻略はいつ頃になるのですか?」
「徳寿丸、そういうのは大人に任せるべきですよ」
「いいや、構わない。阿倉川攻略は刈り取りが終わった後だ」
「攻め方は北から朝倉家、東と南を当家ですか?」
「その通りだが、よくわかるな」
「昨日御坊に教えて頂きました。その時策を貰ったので藤林家を使って阿倉川家に対する流言をしかけてもらいました」
「なるほど、それはいい策だな」
冨田城を終えて次は阿倉川城攻めへの準備をしながら刈り入れの時期を迎えました。
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