第4話 朝倉忠盛

 曽祖父様に祖父様に父上と重臣二人を相手に昨日の会談についての説明をしました。


 まず父上が私の説明に対して質問をしてきました。


「条件については、まあわかった。だがこの物品を当家で作らないのは何故か」

「羽津で作ったらすぐに他に真似されてしまいます。故に秘匿性が高い藤林の里で作ってもらおうと思いました」


 続いて曽祖父様は長門殿に対しての不信感からか


「長門は信用できるのか?」

「正直今でも怖い気持ちはありますが、こちらが向こうの信用を裏切らない限りは大丈夫かと」


 家老の小国虎義が言葉を発します。


「しかし若! 危険すぎます」

「長門殿のようなお方は信じることが大切なのですよ、怖がって遠ざけようとする者には力は貸してくれません」

 

 それに対し曽祖父様が吠えました。


「それは儂の事か!」

「と言いますか仕事に対し謝礼を払わないのはあり得ないのではないでしょうか」

 

 曽祖父様はぐぬぬと唸って黙りました。そこに父上が話しかけます。


「朝倉の叔父上の話を詰めねばなるまい」


 それに対して祖父様が問いかけます。


「弟がどうしたのか」

「徳寿丸が善斎御坊に頼み込んで調略してもらえるようで」

「難しい時期に養子に送り込んだから頑なになってそうだが」


 その後朝倉に対する態度をどうするか相談している時に、朝倉からの使者が到着し忠盛殿が直接訪ねてくることになりました。

 長門殿といい忠盛殿といい行動が早いです。


 そして数日後念の為に善斎御坊にも立ち会っていただき、緊張感のある中忠盛殿との会見が始まりました。


 まずは現当主である父羽津忠虎が挨拶をしました。


「忠盛殿久しぶりですな。曽祖父の葬儀以来かな」


 父が軽く皮肉を加えて挨拶をしました。それに対して忠盛殿は軽い感じに返答を返します


「そう皮肉をいいなさるな、羽津の本家が勢いが無かった故挨拶に赴くのも億劫でな、何せこちらは四百石程の吹けば飛ぶような小勢力じゃからな」

「当家が役に立たないといいたいのか!」

「実際そうでござろう」


 売り言葉に買い言葉で総論が激しくなる前に介入するとします。


「両者それまで」

「徳寿は黙っておれ!」

「童に何が分かるというのか」

「童にわかる程度に聞き苦しい話なのですよ。まずは茶でも飲んで落ち着きましょう」


 暑くなった議論とは逆に冷めた茶を取り替えさせて、改めて話し合いを始めます。


「まずは、わざわざ来ていただきありがとうございます」

「うむ、まあ遠い訳では無いしの」

「今後は親しくお付き合いをお願いしたいものです」

「それは儂も思うが」

「そこでどうでしょう、両者の和がなったことを記念して力を合わせて冨田の南部を叩きませんか」

「確かに南部は邪魔だが、羽津に利益がなかろう」

「朝倉が富田を持てば南への圧力をかけやすくなるのですよ」

「浜田に押し出すのか?」

「その前に阿倉川を落としてしまいたいですね。武力か謀かは決めかねていますがね」

「そのために背後を固めたいということか」

「大叔父上、私は天下を取りたいのです」

「唐突且つ大きすぎる夢だな」

「はい、今はただの夢にすぎません。故に一歩一歩足場を固めたいのです。お力をお貸しいただけませんか?」

「北畠はどうするつもりだ」

「間に長野がいる以上は口しかだせませんよ

 忠盛殿は少し考えた後に


「よろしい、男なら大きな夢を持ってこそじゃ。この朝倉幽玄忠盛の力をお貸しいたそう」


 その後は冨田城の南部家攻略の為の手筈を決めた上で、更に阿倉川城攻略の手筈を確認して忠盛殿は帰っていきました。


 忠盛殿との会談が終わった後は父上と曽祖父様と祖父様と小国虎義と佐藤虎政で会議を始めました。


 まず曽祖父様が声を上げました。


「今回の会談は、おおよそ成功と呼べるだろうな」


 次いで祖父様が笑いながら言いました。


「最初はハラハラとしたがな」


 父上も苦笑いを浮かべながら


「それは言わないで下さい。朝倉だと思うとどうしても」

「朝倉とはそこまで不仲だったのですか?」


 それに対して曽祖父様が


「元々朝倉とは不仲な所に無理やり養子として送り出したので反羽津的な態度を出さなければいけなければいけなかったのだ。忠盛には悪いことをした」

「よくそんな家に養子を送りこめましたね」

「戦で勝って和平条件として無理やりにと言った感じだ」

「それは後にしこりを残しそうですね」

「それを知らないこととはいえ簡単に取り除いたのが、徳寿じゃ見事だな。しかし唐突に冨田攻めを言い出すとは思わなかったわ。」

「朝倉にはもう少し力を持ってほしいですからね。それに阿倉川攻めや浜田城攻めで後詰めをして欲しいのでその為の一手です」

 

 父上が唸りながら声をだしました。


「先に利益を上げさせてしまうと、断りにくくなるということか」

「北方への守備が少なく済むだけでも上出来なんですがね」




 帰り道で朝倉忠盛は提案された案について考えていた。

 善斎御坊から麒麟児だとは聞いていたがあれ程とは思ってもいなかった。忠虎はあれを御せるのか、それとも既に諦めて子供に全てを任せているのか不思議な家だ。

 しかし徳寿丸が話に入ってからは有意義な会談になったのは事実だったな、羽津の戦に手伝わされそうではあるが、その代償として冨田ならそれほど悪く無い。冨田を手に入れれば石高も千石は超えることになりそうだ。中々面白い時代になりそうじゃわ。


「広郷よ、戻り次第戦支度じゃ」

「冨田を取れるのは大きいですね」

「まあ本家のお手伝い戦も増えそうではあるがな」




 これで朝倉の大叔父を身内に取り込むことに成功した、今現在の当家の石高は千八百くらいだから朝倉を加えて二千二百から二千三百といったところか。

 これに冨田の南部を潰せば朝倉が千石くらいになるから二千八百と言った所かな阿倉川城の舘家を滅ぼせば当家の石高が二千三百くらいになる、これくらいになればそれなりの影響力を手に入れれるはず、そうしたら浜田と赤堀に無理やり叔父達を養子として突っ込むか、その為にはそれぞれの家の家中を荒れさせる必要があるか、長門殿に動いて貰うとしよう。


 おっとと声にだし両頬を軽く叩きました。


「父上も言っておられたな何事も一歩一歩だ。焦って動いてはいかん」

「ほほほ、考え事は終わりましたか?」

「母上いらしていたのですね」

「ええ、難しい顔をしてうんうん唸っていたのを見ていましたよ」

「それはお恥ずかしい、それで私に何か御用でも?」

「あら徳寿丸は冷たいですね、母と話すのは嫌ですか」

「そういう訳ではないのですが、何か恥ずかしい気持ちがあって」

「ふふ、未来人の感覚だと私は年下ですものね。それが母だとなると複雑な気持ちになるのもわかりますが、私達は家族だということをしっかり意識しなさいな」

「確かに母上の申し様が正しいようですね。それでは何の話をしましょうか」

「なんの話でもいいのですよ、例えば未来の話とかどうですか?」

「そうですね未来では鉄道という物があって遠方とも速い速度で移動できるようになっております」

「再現はできないのですか?」

「流石に蒸気機関の知識が無いので難しいですが、なるほど馬車鉄道なら使えるかもしれないか」

「使えそうな知識が出て来たようですね」

「ありがとうございます。父上達に相談してみます」

「忙しい子ですね」



 鉄道を利用するのは無理だよね、そうなると木道を利用するのが現実的か高速移動と大量輸送が出来るようになれば大規模な戦を行る時に有利に立ち回れるが、現状は普通に荷駄でことたりそうなんだよな。まあ将来の為に茂福を経由して大矢知に繋がる木道を作るのは悪く無いかもしれないな。

 お金稼ぎは結局のところ米転しが一番よさそうかな、まだ先物取引が無い時代だし直接買い付けて高騰している場所で売るのが一番かな。藤林家に商社を作らせて取り扱わせるとしますかね。


 木道を利用しての馬車鉄道については理解自体はしていただけたのですが、今すぐに必要とは思えないと却下されてしまいました。米転しについては私と長門殿で相談してやっていいと許可がおりたので御坊に頼んで長門殿を呼んでいただけるようお願いすることにしました。本日はもう遅いので翌日開源寺に行こうと思い布団に入り寝ようとしたら、長門殿がすでにいました。


「お呼びしようとは思っておりましたが、まだ呼んでいないのですが?」

「女中の中に当家の者がおりましてな、若がお呼びしていると連絡が来ましてな」

「それは便利でいいですね」

「ほう、当家の者が潜んでいても気にしないと」

「いざとなったら守ってもらえそうですし」

「信頼を頂けるのは嬉しいですが信頼しすぎかと思いますが?」

「そうですか? 父上達にはまだ相談していませんが、正室は藤林家から貰おうと思っていたのですが」

「それは、また、何で」

「当家と藤林家の血が遠くなりつつありますからね、藤林家は当家にとって虎の子だと思っておりますので」

「左様でございますか」

「それはそれで仕事です」

「お伺いしましょう」

「桑名、京、堺、博多に店を出し各地の米の相場が違うことを利用して、お金を稼いでもらいます」

「なるほど我らの諜報網を持ってすれば相場を利用するのも簡単と」

「京の店は大乱が終わってからでいいですよ」

「取り分は私四に藤林が六でいかがですか」

「四でよろしいので」

「私は知恵を出しただけで実際に仕事をするのは藤林家ですからね」

「しかしそれほど金を稼いでいかがなさるのか」

「兵を金で雇おうかと思いまして」

「なるほど、石高に縛られるのは嫌と」

「当家が大大名なら違う道もあるのでしょうが」

「まあ小大名ですからな」


 私と長門殿は小声で笑って、この日の会談を終えた。

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