第10話 昔ばなしと魔女の伝説
瞬平たちがこの星に来てから6日目…
共和国南部の街・サルバス。
「そうですか、共和国も帝国の脅威に晒されているのですね、…話はわかりました、王国からの迎えが来ましたら、わたくしは明日にでも帝国へ戻ります、…フランクおじさまにはよろしくお伝えください」
フランクの使いから説明を受け、そう返事を返したシェルヴィナ。
「…あとこれは、フランク様には口止めされているのですが、・・・」
彼は、共和国が降伏する場合、首相の首を差し出さねばならないこと、その上でフランクは王国に救援を求め、拒否された場合は大人しく自分の首を帝国に差し出し、国民に犠牲を出させない考えであることを王女に打ち明けたのだった。
「帝国がそんな残酷な条件を!?、…わかりました、わたくしは王都へ戻り次第お父様へ進言いたします、共和国への援軍の派遣を!」
「ありがたきお言葉感謝いたします!」
使いの者はは深々と頭を下げる。
「お父様も盟友の危機に黙ってはいないでしょう」
シェルヴィナは早速借りている自室へと戻り、帰国の準備に取り掛かった。
「しかし今回の帝国の行動は、本当にセルジオ皇帝陛下のお考えなのでしょうか?、とてもじゃありませんけど信じられません!、あのお優しい陛下がそんなことをするなんて…、お父様やデイジー、ほかの皆も無事でしょうか、わたくしだけこんなところに逃げ隠れて…、わたくしに出来ることがなにかあれば…」
荷物をまとめながらひとり心情を口にするシェルヴィナ。
「迎えの者が到着するのは今夜あたりかしら、そうなるとやはり出発は明朝ですね、夕食の後にでもお屋敷の方々にご挨拶をしておきましょう」
そう言いながらシェルヴィナは私物をまとめていくのだった。
帝国、スタイセンのいるテントでは…
「フンッ、なんたるザマだっ!、お前たちが部隊に同行していながら、殿下とヴァルドルを取り逃がすとはな!、しかもザギ!、貴様は左目まで奪われるとは、伝説の生き残りが聞いて呆れるわ!」
怒り心頭のスタイセンが、ザギやイアンに罵声を浴びせていた。
「返す言葉もございません、…しかし、あの場に《紅の戦乙女》が現れ、しかもかなり腕の立つ者まで連れていまして…、それに仕留めたはずのヴァルドルが、瀕死の状態からあっという間に復活するなど、想定外のことばかり起きまして」
左目に眼帯を着けたザギが現場で起きたことの説明をすると、
「あの女か!、ちょこまかと動いて俺の邪魔ばかりしてくれる!」
忌々しげな顔のスタイセン。
「もしうまくいっていれば、わたしの部下が道連れにしているはずですが…」
「フンッ、「うまくいっていれば」か…」
スタイセンは呆れ顔になり、
「それとは別に、シンク村の件も失敗に終わったらしいな?」
「そちらは部下が1人も戻っていないため、詳細は不明でして…」
「チッ、使えん奴らだ!、…イアン、貴様は自分の持ち場へ戻っていいぞ、近いうちに我々も本格的に攻めに入る、レイラはとっくに入り込んでいることだしな、…くれぐれも妙なマネはするなよ?、貴様の大事なモノはこちらの手の内にあるのだからな、ハハハハッ!」
イアンは無言のまま背を向けると、その場を後にするのだった。
「してザギよ、王女のほうはどうなっている?」
「は、明日王女のいる屋敷にに襲撃をかける計画になっております」
「王女もなかなかの上物だったからな、久々に会うのが楽しみだ!、ワッハッハ」
舌なめずりをし、いやらしくニヤけるスタイセン。
「共和国は戦わずして手に入るかもしれんが、王国が援軍を出す可能性も高い、…まあそうなれば、王国は騎士団長が減った状況で兵力を分散させなくてはならなくなるからな、どちらにしろこちらにとっては好都合だ!、そして王女を手中に置いてしまえば、王国も下手に逆らえまい!」
上機嫌になっていくスタイセン、だが彼は知らない、自軍に猛毒を抱え、その上帝国内に自分の計画を破綻させる存在が忍び込んでいることを。
帝都の北にある街・シャイクス。
日が暮れたころ、クロノはこの街への潜入を果たしていた。
「スタイセンの別荘はあれだな」
茂みの隙間から小高い丘の上に建つ館を観察しているクロノ。
「しかし別荘に地下牢とはな、なにか人には言えない趣味でも持っていそうだな」
身を隠しながら館へと近づいていく。
「まばらだが灯りがみえる、まあ重要な人質がいるならそれなりに兵を置いているのも当然か…、侵入は容易いだろうが、問題は対象を保護した後だな、さてどうするか」
館の地下牢内では…
「なんとかここから出られないものか、さすがにセリオスが心配だ」
「陛下、お気持ちはわかりますが、今は助けを待ったほうが…」
牢の中で話をする中年の男女、男は帝国の皇帝・セルジオ。
女はイアンの妻、マーヤである。
そしてマーヤの膝に頭を乗せて眠っている幼い男の子。
「もう閉じ込められて何日目か、一向に助けも来ない、もう助けをあてにはしていられないだろう、マーヤは大丈夫なのか?、何日もこんなところに閉じ込められて体調はなんともないか?」
「ええ、私は大丈夫ですが、この子が心配です」
「そうだな、6歳のティムには、この状況は酷かもしれないな」
寝ているティムをみつめるふたり。
「しかしゲオルグのヤツ、わたしを閉じ込めてなにを企んでいるのか、閉じ込められてから外の情報が全く入ってこない…、だからこそ早くここを出て、状況を確かめなくては…」
その時、牢の扉の外から、
「な、なんだ貴様は!…、グハッ!」
見張りの叫び声と、その後に「ドサッ」という音が聞こえてきたのだった。
気になったセルジオが扉に近づくと、扉の覗き窓が開き、何者かが中を覗き込んできた。
彼は中を見渡した後セルジオに視線を向けると、
「アンタが皇帝か?」
思っていたより若いな、30代といったところか…
彼は意外といった様子でセルジオに騙り掛けた。
「いかにもそうだが、君は一体?、それに見張りはどうした?」
「ああ、見張りの男ならしばらく眠ってもらった、…オレはアンタを助け出しにきた者だ」
「なんだと!?、君は何者だ?」
扉越しに興奮気味に尋ねるセルジオ。
「オレは王国のとある人物に頼まれて、アンタを探していた、そしてここに行き当たったんだが、…とりあえず扉を開けるぞ」
彼は見張りの腰から鍵束を奪い、1本ずつ鍵穴に刺し込んでいく。
「わたしを助けてくれるのはありがたいが、できればこちらのご婦人と子供も一緒に、というわけにはいかないだろうか?」
その言葉に彼は、覗き窓からマーヤとティムをみると、
「ああ構わない、だが安全なところまではなにが起こるかわからない、それだけは覚悟しておいてくれ」
とその時、「カチャリ」と鍵の外れる音がし、扉が開放された。
「本当にありがとう、すまないが君の名前を教えてくれないか?」
セルジオは直接対面した彼の両手を包むように握り、名を尋ねる。
「オレはクロノ、王国のデイジー・グレイスから頼まれてここにきた」
そういうと、クロノは被っていたフードを剥いだ。
「なに!?彼女がか?、そもそもなぜ王国の者がわたしを?、…すまないが、わたしは囚われてからずっと、外と隔絶されていて、スタイセンの反逆以外なにも知らない、すまないが、今帝国で起きていることを教えてくれないだろうか?」
「それは構わないが、まずは安全なところまで移動しよう、ここはシャイクスという街だが、アンタが信頼できる知り合いはいないか?」
「そうか…、ここはシャイクスだったのか…、すまないがシャイクスに頼れそうな者は住んでいない」
少し考えてから答えるセルジオ。
「かと言って、アンタが帝都に戻っても、再び捕まるだけ、最悪殺されにいくようなものだろう」
「そうだろうな、…今最も頼れそうなのは、イアンかグレンだろうが、今どこにいるのかはわからない、せめてこのふたりをイアンの元へ帰してやりたいのだが…」
マーヤとティうに目をやるセルジオ。
「イアンにグレン…、スタイセンと同じ、帝国の将軍だったか、普通に考えたら、国境辺りで指揮をとっているだろうが」
クロノが少し考えてからそう言うと、
「国境で指揮だと!?、一体なにが起きているんだ!?」
クロノの言葉に驚きを隠せないセルジオ。
「簡単に言うと、帝国と王国は現在戦争状態にある、帝国の侵略が発端のな」
「クッ、なんと愚かなことを…」
セルジオが驚いたのはもちろんのこと、そばで話を聞いていたマーヤもショックを受け、「そんな、戦争だなんて…」と両手で顔を覆った。
「帝国内に安全な場所がないなら、一旦王国へ向かったらどうだ?、国境を越えるのは難しいだろうが、そこを越えてしまえば帝国にいるよりもはるかに安全だろう」
そうクロノが提案すると、
「その手があったか、だが君にそこまで危険なことに付き合わせては…」
「オレは構わない、決まったのなら行こう」
クロノは躊躇うことなくそう言うと、背を向け出口へと向かった。
「ま、待ってくれ!、この建物に他の見張りは?」
慌てて後を追うセルジオが尋ねる。
「心配はいらない、全員眠らせてまとめて空いている部屋へ閉じ込めてある、…外に手ごろな馬車があった、少し目立つが女子供がいるならそれを使ったほうがいいだろう」
後方を歩く母子(おやこ)を視線を向け、そう言うクロノ。
騒ぎで目を覚ましたティムの手を引いて歩くマーヤ。
「ママ、お外に出られるの?」
目を擦りながらマーヤをみつめ、尋ねるティム。
「ええ、あのお兄さんが助けてくれたのよ、きっとパパにも会えるわ」
「やった~~!」
はしゃぐティム。
無事館を出て、馬車まで辿り着いた一行。
「オレが手綱を握るから、アンタたちは荷台で身を潜めていてくれ」
クロノは指示を出すと席に着き、セルジオたちが荷台に乗り込んだ。
その馬車の荷台はよくある半楕円型の布製の屋根が付いたもので、前方と後方が開いているタイプのものだった。
「クロノだったか?、道中よろしく頼む」
荷台から声を掛けるセルジオ。
「ああ、それとアンタたちは荷台から顔を出さないでくれ、騒ぎになったら面倒なんでな、…さて、どこから国境を目指すかだが、よさそうなルートはないか?」
セルジオたちに尋ねるクロノ。
「そうだな、共和国経由だと安全かもしれないが、さすがに距離がありすぎる、…ここは西のノガルド山脈沿いに南下してはどうだろう?」
少し考え、案を出すセルジオ。
「分かった、西に抜ける道をみつけたらそちらへ向かおう、後はオレに任せてアンタらは休むといい、もう夜も遅いことだしな」
「ああ、お言葉に甘えさせてもらおう」
「お兄ちゃんオヤスミナサイ!」
クロノの気遣いの言葉に返事をするセルジオとティム。
「ああ、おやすみ、ゆっくり休んでくれ」
こうして馬車は走り出し、南西の方角を目指すのであった。
夕刻、シンク村へ着いた刹那たち、それを出迎えたスコットは、見知った顔ぶれの来訪に、驚きながらも安堵の笑みを浮かべ、再会を喜ぶのだった。
「ご無事でなによりです!、グレン様!」
グレンに駆け寄り片膝を着くスコット。
「お前も無事でよかった!、スコット!、今回は大変な役割を押し付けてすまなかったな」
「いえ、僕自身が決めたことですから、グレン様がお気になさることではありません!」
「お前のことをずっと心配していたんだが、そう言ってもらえて少しは気が楽になったよ、…さてこれからのことなんだが、彼女(デイジー)のご好意で王都まで案内してもらえることになってな、セリオス殿下と共に国王陛下に助力を求めに行くつもりだ、そこでお前にも部隊に復帰してもらいたいのだが構わないか?」
グレンの問いかけに、1度刹那たちに視線を向けたスコットは、
「そうですね…、復帰したいのは確かですが、彼女(刹那)には命を救われ、村人たちにもよくしてもらいました、その恩に報いたいので…」
そんなスコットの言葉を遮り、
「スコットさん!、仲間に会えてよかったね!、それと私たちに恩返しなんて必要ないよ?、今はスコットさんのしたいことをすればいいと思うよ!、早く戦争を終わらせてくれるなら村人たちだってそっちのほうがいいに決まってるしね!」
刹那が笑顔でそう告げ、
「刹那くん…、ありがとう!、その言葉に甘えさせてもらうよ!」
「スコット!、君のこの村での仕事はわたしが引き継がせてもらうよ!」
リュートが声を掛ける。
「リュートさん…、貴方にも本当にお世話になりました、また機会があればお話しましょう!」
「ああ、その時を楽しみにしているよ、スコット」
「わたしたちは彼らに大きな借りができたようだな、スコット」
「ええ、本当に返しきれないほどにですね」
頷き合うグレンとスコットなのであった。
「それではそろそろ王都へ向かいましょうか、…リュート!、刹那と村のことを頼む!、貴方なら心配することもないだろうが、気をつけて!」
デイジーはグレンたちを促し、リュートに声を掛けると、
「君と別れるのは非常に辛いが、わたしへの信頼の言葉、確かに受け取った!、君と再び会えることを信じて責任を果たそう!」
「あ、ああ、よろしく頼む、…刹那も今度いつ会えるか分からないが、気を付けてな、瞬平にもよろしく伝えておいてくれ」
「うんわかったよ!、デイジーちゃんもがんばってね!、そして絶対無事に帰ってきてね!」
こうして、デイジーはセリオスたちを連れ、シンク村を後にしたのだった。
その後、宿のホールで夕食を済ませた刹那とリュートはそのままテーブルで話をしていた。
刹那はリュートに魔族のことを話し、その後リュートはある昔話を刹那に聞かせるのだった。
「わたしがこれから話すのは、あくまで相棒から聞いた話なのだが、この星には二つの大陸と激しい海流を生み出している大渦があるんだ、その海流のせいでこの大陸の人間は外海に出ることができない、つまりもうひとつの大陸との交流がないどころか、今現在他の大陸の存在や、この世界が「星」であることを知る者は、このウインドール大陸にはごく僅かしかいない、それと言うのも、大渦が発生したのが今から1200年前の大昔、その永い時の中で段々と人々の記憶から、それらの情報が薄れていったからなんだそうだ。」
「ふぇ?、1200年前?、でもそんなにすごい大渦っていきなり出来るものなのかな~?」
刹那が興味津々といった感じで尋ねる。
「それはこれから話す内容でわかると思うよ、…1200年前、ここウインドール大陸ともうひとつの大陸、ステロニア大陸との間で大きな争いがあったらしい、その争いの原因は人種の違い、ステロニア大陸に根ざした「マジスタ族」は、膨大な魔力を身に宿し、強力な魔法を日常的に使えたそうだ、…逆にウインドール大陸の「ウィンダル族」は魔力はあるものの、極微量で使える魔法といえば簡単なもの、それもある程度訓練を受けていないと使えない、よく知られているのは医者が使う治療魔法や回復魔法、それに国に仕える者が使う魔法の矢なんかがあるね」
「へぇ~、私はまだみたことないけど、そんな魔法があるんだね!」
「まあ君が使っていた治療の術、魔法ではないようだが、それには遠く及ばないちょっとしたものさ、…だがマジスタ族のそれは違う、魔法でいろいろなことが出来たらしい。おそらく昼間会ったザギとかいう男、アイツはマジスタ族だと思う」
「え?、でもマジスタ族って、この大陸にはいないんじゃないの?」
「それも含めてこれから話そう、…ある程度友好的な交流があったウィンダルとマジスタだが、ある時マジスタの中に自分たちより力の劣るウィンダルを、奴隷として使おうという考えの者が現れ始めた」
「そんな!、同じ人間なのに?そんなの酷いよ!」
「刹那の言葉も尤もだが、とかく力を持った者にはそういう考えに至る者が少なからず出て来るものだ、…そして賛同者が増えてくるとウィンダル狩りがはじまった、もちろんウィンダルも黙って狩られるわけもなく、徐々に戦争へと発展していったんだ」
「そ、そんなぁ…」
悲しそうな表情に変わっていく刹那。
「ん~、この話はここまでにしておくかい?、君のそんな悲しい顔をみているとわたしも罪悪感が湧いてくるのだが…」
「ごめんねリュートさん、大丈夫だから続きを聞かせて!」
顔を引き締める刹那。
「刹那がそう言うのなら続けよう、…それは戦争とは名ばかりの一方的な虐殺だった、戦略魔法や飛行魔法が使えるマジスタの圧倒的な勝利で終わると思われたその時、マジスタの中に反旗を翻す者が現れた、彼女の名は「フィーネ・グランフォード」、元から強行派の考えに反対していた彼女は、度重なる彼らの愚業に我慢ができなくなり、集めた同志と共にウインドールに渡り、マジスタをステロニアに封じることにしたんだ」
「封じるってどうやって?」
「フィーネは史上最強の魔力の持ち主と言われていてね、他の者を圧倒するほどの魔力の持ち主だったそうだ、彼女は自分自身の魔力すべてを使ってステロニア大陸の周囲に、マジスタ族特有の魔力にのみ反応する結界を張り、マジスタを大陸に閉じ込め、自分自身を人柱とし大渦とそれに連なる激しい海流を発生させたそうだ、…つまりフィーネは今も大渦の中心で眠りながら魔力を放出し続けている」
「え?、その人って1200年前の人だよね?、それが今も生き続けているの?」
驚きを隠せない表情の刹那。
「まあそれも何らかの魔法でってことなんだろうと思う、そしてそれらの事実が伝説の魔女の話が生まれた所以なのだろう」
「なんかフィーネさんが可哀想、1200年もひとりぼっちだなんて辛すぎるよ~、…?、そのステなんとか大陸のマジスタの人たちって今はどうなって?」
「ん~、それはわたしにもわからないな~」
実を言うと、前に海を越えようとエクサに頼んだけど、猛烈に反対されて結局叶わなかったんだよ。
心の中で呟くリュート。
「ただ、フィーネと共にこちらに渡ってきていたマジスタの子孫たちが、今もこの大陸のどこかで生き続けているという話だ」
「へぇ~、そうなんだ?、メヴィちゃんに聞いたらもっとなにかわかるかな?」
「ん?、確かに彼女もいろいろな術を使っていたし、…彼女もしかしてマジスタ族じゃないだろうね?」
考え込むリュート。
「ん~、それは違うんじゃないかな~?、だってメヴィちゃん…、ううん、これ以上は私から話すことじゃないかな?」
「な、なんだい?、その言い方気になるのだが」
「だってメヴィちゃんや私たちのことは、簡単には話せるような内容じゃないし、聴くならメヴィちゃんから直接聴いたほうがいいと思うから」
「刹那がそこまで言うなら仕方ない、今度メヴィに聴いてみよう」
「ふぁ~ぁ、でもリュートさんに凄い話を聞いちゃったような…」
あくびをし、瞼が下がりぎみな刹那。
「けっこう話し込んでしまったな、今夜はこのへんにしておこうか?刹那」
「そ、そうだね、眠くなってきちゃったし」
今夜も瞬ちゃんに会えるかな?、リュートさんに聞いた話教えてあげよっと!
こうして昔話はお開きとなり、二人はそれぞれの部屋へと戻って行ったのだった。
そのころ、レイラの軍を追い王国西部へと向かった第六騎士団は、占拠されたと報告があった西の町・セイラムを包囲していたのだが…
「やはりおかしい、街に帝国軍がいる気配がない、すでに移動したのか?、仕方ない、ここは偵察に出した者が戻るのを待つしかないか」
第六期師団団長ミゲル・ハモンドは、なにか違和感を感じながらも偵察の報告を待つのだった。
それからしばらくして、偵察に出ていた団員が、ある人物を連れて戻ってきたのだった。
「ん?お前はどこの所属だ?」
ミゲルは連れられてきた騎士団員らしき者を観察しながら問うと、
「わたくしは第二騎士団の者であります!、ある方からセイラムに来るであろう、いずれかの団長殿にと言伝を言いつかっておりまして」
「で、その言伝って言うのは?」
怪訝な顔で聞くミゲル。
「はい!、ある場所で待つ、団長1人で来られたし、とのことです、ある場所とはこちらになります」
その団員は懐からメモを取り出し、ミゲルへと手渡した。
「なるほど、なんとなく読めてきたぞ、お前さんの団長殿は「息災」なんだな?、さて、それじゃお誘いを受けるとするか、…俺はこれから出掛けるから後のことは頼んだぞ!」
ミゲルはメモをみながら表情を緩め、伝令役の肩を叩いたあと、副団長に後を任せ、私服に着替えるとセイラムへとひとり向かうのだった。
セイラムのとある酒場へと到着したミゲルは中へ、見回すとカウンター席の一番奥によく見知った巨漢がグラスを傾けていた。
「任務をサボッて酒とは、いいご身分だな?、ギル!」
ミゲルは巨漢に歩み寄ると声を掛ける。
「担当の任務地を考えれば当然だが、やはり来たのはミゲルのおっさんだったか」
私服のギルバートが振り向き、言葉を返す。
「さて、俺もサボッて酒でも飲むか、もちろんお前の奢りでな、…マスター!俺にも同じものを頼む!」
ギルバートの隣の席に腰掛けるミゲル。
「まったくおっさんはちゃっかりしてやがるぜ!」
「で、早速だがディクスは無事なのか?」
「ああ、街の西に団を待機させている、ディクスはそこで療養中だ、少しばかり負傷しててな」
「そうか、ふたりとも無事で何よりだ、死んだと報告を受けたときは…、まったく心配掛けさせやがって!」
ミゲルはギルバートの大きい背中を平手で叩くと、グラスに口を付けていたギルバートが、
「ゲッホ、ゴホ、なにしやがるおっさん!、酒をこぼしちまったじゃねえか!」
「フン、心配させた罰だよ、…で、今の状況はどうなってるんだ?、帝国軍はどうなったんだ?」
「それが、帝国でもいろいろあるらしくてな」
ギルバートは、スタイセンの反逆の可能性と戦争が彼の独断である可能性、レイラがスタイセンの裏をかくため、密かに帝国へ戻ったことをミゲルに話した。
「とりあえずおっさんは国境の防衛に戻ってくれねえか?、次期にスタイセンの野郎が本格的に攻め込んでくるだろうからな、…あと俺やディクスは死んだことにしたままにしておいてくれ、スタイセンを油断させるためにもな、…俺は密かに防衛線の後方で援護に付くつもりだから、背中は任せておいてくれ!」
「ああ、話は大体わかった、だが、総長にもこのことを黙っておくのか?」
「ああ、いいタイミングがくるまではな、あとデイジーにはもう知らせてあるからアイツと会うことがあれば情報交換でもするといいぜ」
「フッ、本当にお前はデイジーにベタベタだな?」
「フン、アイツは妹みたいなもんだからな、アイツの親父さんに代わって支えてやりたいだけだ!」
「ああ、わかってるさ、俺もハリソンにはいくつも借りがあるからな、アイツがいない今、その借りは娘であるデイジーを支えることで返すつもりだ」
「わかってるなら茶化すんじゃねえよ!おっさん!」
「フフ、さて、後輩の奢りで1杯やれたことだし、俺は国境に戻るとするかね」
「死ぬなよ、おっさん」
「フン、誰に言ってやがる、俺は逃げ足だけは速いからな、心配無用だよ!」
そう言ってミゲルは、ギルバートに背を向けると手をヒラヒラさせ、酒場を出て行ったのだった。
その頃共和国では王国からの救援要請に対する返事が届いていた、その内容とは…
今すぐ援軍を送ることはできないが、必ず送るから降伏せず堪えてくれ、というものだった。
「王国は協力を約束してくれたが、これからどうする?フランク」
議員の1人が尋ねると、
「本格的に攻め込まれたらこの国の戦力ではそう長くは持たないだろう、だがしかし、王国との戦争で帝国も簡単にはこちらに兵を割けないだろう、その間にできるだけ兵を国境に配置しよう、兵たちには王国の援軍が来るまで耐えてもらうしかない」
「そうだな、早速軍部に連絡を入れよう」
こうして共和国は徹底抗戦に出ることを決めたのだった。
帝国、スタイセンのテント…
「さて、共和国からの返事がなしとは、あてが外れたな、…まあいい、王国を落としてからでも遅くはあるまい、だが窮鼠猫を噛むとも言うしな、下級士官の部隊をいくつかを共和国との国境に送り、けん制させておくか」
スタイセンはひとり考えを巡らせ、妥当と思った案を実行に移すのだった。
日が変わったころ、デイジーたちは王都へ到着し王城へ…
深夜にも関わらす、国王はセリオスたちの謁見を許し、セリオスとグレンはデイジーの案内で謁見の間へと通された。
「久しいな、セリオス」
優しく微笑む国王だが、まだ30代後半とは思えないほどにその顔は窶れ、顔色は悪く健康とは程遠いものだった。
「お久しぶりです陛下、夜分遅くに申し訳ありません、…ところで顔色がすぐれないようですが?」
セリオスが気になったことを尋ねてみると、
「ああすまない、最近帝国への対応でろくに休めていないのでな、先ほどデイジーにも少しは休めと叱られたよ」
その言葉にハッとし、申し訳なさそうな表情に変わるセリオス。
「なに、セリオス、お前が気に病むことはない、先ほど大体のことはデイジーから聞いたところだ、これまで大変だったなセリオス、それにヴァルドル将軍も」
「ハッ、ありがたきお言葉いたみ入ります」
頭を下げるふたり。
「して、これからのことなのだが、まずはデイジー、君には団を率いて共和国へ向かってほしい、そこで帝国との国境の防衛にあたってくれないか」
「やはり帝国は共和国も標的にしているのですね?」
国王の言葉に戸惑いながら尋ねるデイジー。
「ああ、日が変わって昨日の話になるが、帝国が共和国に降伏勧告を突き付けてきたそうだ、降伏する場合その証として、首相の首を差し出せとまで言ってきたそうだ」
「それは…、そんな無茶な申し出まで!?」
驚きを隠せないデイジー。
「さすがにわたしも驚いたが、聞いていたスタイセン将軍の考えだとすれば予想の範疇だろう」
「確かに…、ちょっと待ってください!、今共和国におられる姫様はご無事なのですか?」
「ああ、娘は帰国させることになってな、もう迎えの者が娘の元に着いているはずだ」
「そ、そうですか、それを聞いて安心いたしました」
安堵し胸を撫で下ろすデイジー。
「というわけで、娘を快く保護してくれたフランク首相に恩もある、行ってくれるな?デイジー」
「ハッ!、心得ました」
デイジーは胸に手をあて、謹んで任務を引き受けるのだった。
「そしてセリオス!、お前にはスタイセンの反逆を帝国のなにも知らない者たちに知らしめてやってほしい!」
「はい!、父上と我が国を取り戻すためにも必ず!」
「少しみないうちに成長したなセリオス!」
こうして、国王との話し合いが終わると、デイジーは急ぎ共和国へと引き返す形となり、セリオスとグレン、その部下たちは少し休んだ後、国境にいるサイモンと合流するため出発するとこになったのだった、そしてその頃には完全に夜は明けていたのであった。
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