第8話 刹那の危機と銀髪の旅人
仮面たち(バットアイ)がシンク村へ近づくと、みえない「何か」に阻まれ、村への侵入が果たせずにいた。
彼らは手分けをして、村の外周を回り、進入口を探すがみつからず、武器を使ったり、地面に穴を掘ったり、高い木からロープを垂らしたりと、できる限りの方法を試してみたが、村へ入ることはできなかった。
そこへ、街道を村に向かって歩いてくる幼い男の子と女の子の二人連れの姿が…、仮面たちはすぐさま子供たちを取り囲んだ。
女の子は男の子の後ろへ隠れ、
「お兄ちゃん、このひとたちこわい!」
男の子は女の子を庇うように両腕を広げ、仮面たちを睨みつけた。
1人の仮面が子供たちの目の前まで歩み寄り、子供たちの目線に合わせてしゃがむと、
「君たち、シンク村の子かい?、お兄さんたち村に用事があるんだけど、なぜだか村の中に入れなくてね、入り方があるならお兄さんたちに教えてくれないかな?」
仮面は懐から果物を取り出し、男の子に差し出すが…
「おまえたちワルモノだろ!、セツナ姉ちゃんが言ってた!、ワルモノは村に入れないって!」
「セツナ」という名前を聞いた仮面たちが顔を見合わせ頷き合った。
「フフ、ここにいるのは間違いなさそうだな、…君たち、その「セツナ」というお姉ちゃんがどんな人か、お兄さんたちに教えてくれないかな?、教えてくれたら、もっと果物をあげるよ?」
優しい口調で話す仮面。
「だれがおしえるもんかっ!、おまえたちなんかデイジーさまがやっつけてくれるんだからな!」
男の子が興奮気味に声を揚げると、仮面は持っていた果物を握りつぶし、
「交渉決裂か、仕方ないな~、せっかく穏便に済まそうとしてるのに、あんまり聞き分けがないと君たち、この果物みたいにバラバラにしちゃうよ?」
仮面の態度が一変し、冷酷な視線で子供たちを射抜いた。
女の子は泣き出し、男の子は怯え、身体が震えだしていた。
仮面はそんな子供たちを意にも介さず、彼らの後ろにいる仲間に目配せをすると、合図を受けた仮面がすばやく女の子を羽交い絞めにし、男の子から引き剥がし、ナイフを彼女の喉元へとあてた。
男の子はそれを目で追い、
「リーナッ!、妹を放せっ!」
男の子が追いかけようとするが、対話役の仮面が後ろから男の子を掴んだ。
「はなせーっ!」
男の子は暴れるがまったく抜け出ることができない。
「グスッ、お兄ちゃんこわいよ~!」
ボロボロと泣きじゃくるリーナ。
「フフ、ここで君に相談があるんだが、…君が村に行って、セツナお姉ちゃんとやらをここに連れてきてくれないか?、そしたら妹を返してあげるよ?、でも、ここで断ったら、妹の首が地面に落ちちゃうかもしれないよ?」
それを聞いて悔し涙を流す男の子。
「さあ!、わかったらさっさと行ってこい!」
男の子は強く背中を押され、1度振り返り妹をみてから村の中へと走って行ったのだった。
シンク村、宿の裏手で洗濯物を干している刹那。
少し前からボスは落ち着かない様子で、唸ったり、周辺をウロウロとしていた。
「ボンちゃんどうしたの?なにかあった?」
刹那が話しかけるとボスはなにかを訴えるように刹那をみつめてきた。
「ん?、どこかから血の匂いがするの?、…だれかケガでもしたのかな~?」
刹那は少し考えてから、
「ボンちゃん場所はわかる?、なにかイヤな予感がするから、一応スコットさんに相談してみようか」
仕事を中断し、宿の前に回ったところで、道の向こうから誰かが走ってくるのがみえた。
「カイくん?、どうしたんだろ、あんない慌てて…」
近づいてくるカイをみて、刹那はしゃがんで出迎える。
「え?カイくん!?、どうして泣いてるの?ケガでもしたの?」
泣いているカイをみて、刹那は慌てて聞いてみると、
「グスッ、セツナ姉ちゃん、リーナが!、リーナが悪いヤツらに殺されちゃう!」
「えっ!、リーナちゃんが!?、…カイくん、落ち着いて!、なにがあったかお姉ちゃんに話してくれるかな?」
「グスッ、う、うん」
カイは泣きながら、先ほどの出来事を刹那に話した。
「私になんの用があるのかはわからないけど、私が行けばリーナちゃんを返してくれるんだね?」
「う、うん、でもそうしたら、セツナ姉ちゃんが殺されちゃう!」
「2人とも、どうしたんだい?」
そこへ、村の見回りから戻ってきたスコットが、2人のただならぬ雰囲気を感じて声を掛けてきたのだった。
「スコットさん!?、ちょうどよかった、実は…」
刹那が事情を説明すると、
「仮面の者たちか…、それは多分バットアイの連中かもしれない、…諜報や暗殺を生業とするスタイセン将軍お抱えの部隊だよ」
「でもなんで帝国が私を?」
「それは…、多分だけど、僕が殺されかけたとき、スタイセン将軍と対峙したグレイス団長やクロノくんから、何らかの形で君の存在が伝わったのかもしれない」
スコットは少し考えてから、心当たりを語った。
「スコットさんとうしよう?、私が行かないとリーナちゃんが!…」
そんな刹那にスコットは、カイには聞こえないように刹那の耳元で、
「言いにくいんだけど、…君が行ったところで、用済みになった時点でリーナちゃんは殺されると思う、アイツらはそういうヤツらなんだ!」
「ッ!」
刹那の目からみるみる涙が溢れ出すが、それを拭い去り、決意の眼差しへと変わり、
「そんなこと絶対させないよっ!」
瞬ちゃんもメヴィちゃんもいない、私がなんとかしないと!
「もちろん、僕もスタイセンの思惑通りにさせるつもりはないよ」
スコットも決意のこもった瞳で言い放った。
「僕も伊達にヴァルドル将軍の補佐をしていたわけじゃないからね、手伝える限りのことはさせてもらうよ!」
「ありがと~、スコットさん!」
涙を拭い、真剣な眼差しで頷く刹那。
「とはいえ、こちらの戦力は、僕とボスだけ、…そこで僕に考えがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
「アウ!」
ボスは手伝うと言わんばかりのフットワークをみせ、
「ボンちゃんもありがと~」
ボスの頭を撫でる刹那。
「スコットさん、その考えっていうのは?」
「ああ、それはね・・・・・・・、という感じでいこうと思うんだけど、どうかな?、もちろん刹那くんに他の考えがあるなら聞くけど」
「ん~、私にはそれ以上の考えなんて思いつかないかな…」
「それじゃ、この作戦でいこう!、とりあえず、ロナルドさんに言って、必要な物の用意と、村人たちに外出を控えるよう伝えてもらおう」
そう言うとスコットは宿の中へ。
「カイくんたちのご両親にも事情を説明しておかないとね!」
刹那も行動を開始するのだった。
かくして…
スコットは、弓と剣を携え、連中からの死角で、尚且つ弓の射程範囲の民家を探し出し、連中に悟られないようにその家の屋根に登り、低姿勢で様子を伺っていた。
「あれだな…、連中は5人か、…目立たないように茂みに身を隠しているな、…さて、ボスのほうは」
視線を巡らせ周囲を確認するスコット。
「あ、いたいた、あそこか」
スコットの視線の先には、縮んだ姿のボスが、彼らにみつからないように迂回して背後に回り込み、茂みに身を潜めているところだった。
「これで準備は整った、あとは君の出番だよ、刹那くん」
ひとり呟くスコット。
刹那はカイから聞いた場所へ向かい、村からは出ずメヴィのフィールドの内側で止まると、大きな声で、
「私が刹那ですっ!、リーナちゃんを返してくださいっ!」
刹那の位置からでは人の姿は見えなかったが、しばらくすると彼らは街道脇に生い茂る草むらから姿を現したのだった。
仮面は5人、そのうち1人がリーナを抱え、ナイフを突きつけている。
「君がセツナか、…あるお方が君に会いたがっていてね、すまないが我々と一緒に来てくれないかな?」
「私が行けばリーナちゃんを返してくれますか?」
「ああ、もちろんだとも、約束しよう、…それじゃあこの子を開放するのと同時に、君はこちらに歩いてきてくれないか?」
「…わかりました!」
刹那は真剣な表情で答えた。
「あ~、妙なことは考えないほうがいいよ、こちらももしもの時のために保険も用意してあるんでね」
「保険だと?!、僕はなにか見落としているのか?」
聞き耳を立てていたスコットが慌てて周囲を警戒するが、これと言ってなにも見当たらない。
そんなスコットをよそに、仮面はリーナを解放、刹那はフィールドを出て仮面のほうへと歩き出した。
リーナは刹那のほうへ駆け寄ろうとするが、刹那は首を横に振った。
「セツナお姉ちゃん?」
「リーナちゃん、カイくんが村で待ってるから、急いで行ってあげて」
「う、うん、でもセツナお姉ちゃんは?」
「私は大丈夫だから、ね!」
リーナは頷くと村の中へと走って行った。
それを見届けた仮面たちは刹那確保のため彼女に走り寄ろうとしたとき、1本の矢が彼らの1人の首に突き刺さり、糸の切れた操り人形のように地面へと倒れたのだった。
「チッ、全員身を隠せ!」
その言葉に仮面たちは一斉に草むらへと飛び込んだ。
だがそこには元の姿に戻ったボスが…
草むらに散り散りに隠れた仮面たち、…ボスは1人、2人と、音もなく近づき、喉笛を噛み砕いていった。
しかし、それもそこまでで、…突然どこからともなく2本の矢が続けざまにボスの体に突き刺さった。
「アゥーーン!」
その場にへたり込むボス。
刹那は仮面たちが姿を隠したあと、村へと避難しようとしていたが、ボスの悲痛な泣き声を聞いた途端、踵を返し、
「ボンちゃん!どこ!?」
刹那はボスを探して草むらの中へと入っていく。
「刹那くん行っちゃダメだ!、…さっきの矢はどこからだ!?」
スコットは目を凝らし、矢の出所を探った。
「クッ、あそこか…」
それは村外れの高めの木の上、1人の仮面が枝の上から草むらに向け弓を構えていた。
「あんなところに伏兵とは…、完全に見誤った、すまない刹那くん!」
弓を持った仮面の位置は、刹那たちを挟んだ反対側、スコットの弓の射程範囲外だった。
スコットは慌てて屋根から降り、弓を置くと剣に持ち変え、
「頼む、間に合ってくれ!」
スコットは刹那たちを助けるべく走り出したのだった。
草むらの中をボスを探して歩き回る刹那。
「ボンちゃん、どこ!」
ボスの唸り声を頼りに、そちらへと歩いていく刹那だったが…
「クク、みつけたよお嬢さん、…自分から声を出して居場所を教えてくれるとはなんて気の利くお嬢さんだ、…だが小癪な真似をしてくれたおかげでこちらも犠牲が出てしまったよ、…鳴き声から察するに、猟犬でも潜ませていたようだが、毒矢を喰らった以上そう長くは持たないだろう、…ま、これでおあいこだろ?、さあ一緒に来てもらおうか?」
刹那の腕を掴む仮面。
「イヤーッ!、ボンちゃん!ボンちゃん!」
掴まれた腕を振り払おうと抵抗する刹那。
「フフ、ちなみにさっきの子供たちにも消えてもらう予定でね、ある仕掛けがしてあるんだ、あのふたりが接近するとドカンッ、てね、…悪いが目撃者を消すのも仕事なんでね」
仮面は愉快な話でもするようにそう言った。
「そんな…、子供たちまで…、お願い!だれか助けて!」
ボスと子供たちを助けたい一心で刹那は叫んだ。
そこへ、スコットが弓兵を警戒しながら刹那を探しに来たのだった。
「刹那くんどこだっ!」
「スコッ・・・」
声を出そうとした刹那の口を塞ぐ仮面、そこへ生き残りのもう1人の仮面も合流してくる。
「あっちで2人、巨大なオオカミに殺られてた、そのオオカミも虫の息だったがな、…アイツに感謝だな」
その仮面は弓の仮面がいる木のほうへと視線を向けた。
「チッ、だが部隊の半分を殺られた…」
刹那を捕らえている仮面がそう言いながら、草の間からスコットをみた。
「アイツは確か、ヴァルドル将軍の右腕だった男か…、やはりまだ生きていたか、…だがソイツもここで終わりだ!、仲間の仇を取らせてもらう!」
飛んでくる矢を避けたり、剣で弾きながら刹那を探していくスコット、だがそこへ、草むらの隙間から仮面の投げナイフが飛来し、スコットの右太ももを直撃。
「んん~~っ!」
口を塞がれた刹那が必死に声を揚げようとするが、それはスコットには届かず、彼は太ももを押さえながら倒れこんだ。
「アイツも これで終わりだ!」
その言葉通り、木の上の弓の仮面が、地面に這い蹲るスコットに狙いを定め、弓を引き絞る。
「これまでか…、刹那くんだけでも救いたかったが…」
スコットが死を覚悟したその時だった、拳ほどの石がどこからともなく飛来し、木の上の仮面の側頭部に直撃、仮面はそのまま枝から転落、地面へと叩きつけられたのだった。
「一体なにが?!」
それはスコットだけではなく、仮面たちも同じ言葉を発していた。
その時刹那は、呆気に取られている仮面の隙を突き、勢いよくしゃがむと仮面の腕からすりぬけ、ボスのいると思われる場所へと走り出した。
「いい判断だ、お嬢さん!」
その声の主は刹那とすれ違うように突然現れ、瞬く間に2人の仮面の後頭部に連続で手刀を浴びせ、彼らを沈黙させたのだった。
「フッ、殺気を出しまくってくれたおかげですぐに居場所がわかったよ」
銀髪で、マントを纏った旅人風の青年が、倒れた仮面を見下ろし呟いたのだった。
「さて、さっきのお嬢さんにご挨拶でも…、ん?どこに行ったのかな?」
すでに刹那はその場にはおらず、ボスの元へと急ぎ、すぐさま治療術を施し始めた。
「お願い!死なないでボンちゃん!」
その時刹那の頭にひとつの疑問が浮かぶ、この治療術が毒に効果があるのか?、と。
刹那はそれでも、助けられると信じて治療術を続け、その想いが通じたのか、ボスがゆっくりと瞼を開いた。
「あぅ~、よかったボンちゃん!」
刹那は泣きながらボスの首に抱きついた。
「ごめんね、ボンちゃん、危ない思いさせちゃって…」
ボスはそれに答えるように、刹那の涙を舐め取るのだった。
「ほう?、面白い術を使うね、キュートなお嬢さん!」
刹那たちのそばにいつの間にか立っていた銀髪の青年が声を掛けてきた。
「それにフェンリルのお友達というのも驚きだ」
「あ、あなたはさっき助けてくれた?」
青年を観察する刹那とボス。
「フフ、礼には及ばないよ、男として可愛い女の子を助けるのは当然のことだからね!」
「それでも!、本当にありがとう!」
刹那が立ち上がろうとすると、
「その前に、彼のそれを抜いてあげようか?」
青年がボスの背中に刺さった矢を指差した。
「あ、そうだね、助けるのに夢中で…、ごめんねボンちゃん」
「わたしが抜いてあげるから、すぐにさっきの術を使ってあげるといい」
青年はそう言うと、ボスに近づき、矢を2本とも一気に引き抜き、刹那はすぐその傷口を塞いであげたのだった。
「そうだ!、スコットさんと子供たちも助けないと!」
刹那は息を吐く暇も惜しんで走り出し、街道で倒れているスコットに駆け寄ると、
「出血がひどい…、今助けますねスコットさん」
「わたしがナイフを抜いてあげよう」
青年は気を失っているスコットに近づき、彼の脚に刺さったナイフを引き抜くと、刹那が治療を始め、
「お兄さん、本当にありがとう、…あとはカイくんたちのところへ急がないと…」
刹那は青年にお礼を言いつつも、子供たちが心配で気が気ではなかった。
「その、カイくんというのは?」
事情を知らない青年が尋ねてきた。
「村の子供たちです、あの人たちが爆発するなにかを子供たちに仕掛けたらしくて…」
刹那は仮面たちの倒れているほうに目をやる。
とその時スコットが意識を取り戻し、起き上がる。
「刹那・・・くん?、無事だったのか?、本当によかった…、僕の読みが甘かったせいで危険な思いをさせて、本当にすまなかった!」
項垂れるスコット。
「スコットさんのせいじゃないですよ~、頭を上げてください」
「あ、ああ、ありがとう刹那くん、…ところでそこの彼は?」
頭を上げ、銀髪の青年に視線を向けるスコット。
「このお兄さんが助けてくれたんです!、あっという間にあの人たちをやっつけて、あ!それよりも村に戻って早く子供たちを助けないと!」
すると、青年が村のほうを指差し、
「お嬢さんのいう子供たちというのは、あの子たちのことかな?」
刹那たちが青年の指差したほうに目をやると、カイとリーナがフィールドの内側から手を振っていた。
「はぅ~、あの子たちも無事だったんだ~、ほんとうによかったよぅ~」
刹那は涙を流しながらも満面の笑顔を子供たちに手を振り返した。
でもどうしてだろ?、あの人たちの仕掛けが失敗したのかな?、ま、2人が無事ならそんなのどうでもいいや!
刹那は疑問に思いつつも、ボスとともに子供たちの元へ走り出したのだった。
取り残されたスコットと青年、ふたりは顔を見合わせ、どちらともなく顔を綻ばせ、無事を喜び合う刹那と子供たちに優しい視線を向けるのだった。
「本当によかった、みんなが無事で…、貴方が助けに入ってくれていなかったら最悪な結果になっていましたよ、本当にありがとうございました!」
スコットはそう言うと、青年に頭を下げた。
「フフ、礼には及ばないさ、可愛い女の子を助けるのがわたしの使命だからね!」青年は胸を張り鼻高々に言った。
「そ、そうなんですか…、さ、さあ、貴方もシンク村へどうぞ!、助けてもらったお礼をさせてください!」
スコットは青年のノリに困惑しながらも、そう言うと、
「あ~、さっきも言ったがお礼は必要ないが、村への招待は快く応じようかな、…わたしは元々この村に用事があってね、…この村にメヴィという少女はいないかい?、確か金髪の小柄な子で…」
スコットに詰め寄る青年。
「ちょ、近い、近いですよ!?、…と、とはいえ、僕もこの村に来てほんの数日でしてね、確か、あそこにいる刹那くんの連れがその子だったかと…、僕もチラッと見かけた程度ですが、見た目も一致してますし」
「ほう、いるのなら国を出てはるばる来た甲斐があるな~!」
「でも、その子にどういった御用で?」
「いや~それがね、10日ぐらい前かな、わたしの相棒がその子と知り合いになってね、話を聞いたら非常に興味が湧いてさ!、だって、すこぶる美少女で不思議な能力(ちから)を持ってるって言うんだから、男なら興味を持って当然じゃないかい?ねぇ君ィ!」
さらに詰め寄る青年。
「だ、だから近いですって~!、それにその子、今は村にいないと思いますよ?、そもそもいないほうが多い気がしますし」
青年を押し返しながらそう答えるスコット。
「そ、そうなのかい?、いや、だが会えるまで待たせてもらうよ!、でなければここまで来た意味がないからね!」
青年が顔の前で両手を握り締め、興奮気味にそう言うと、
「ま、まあ村には宿もありますし、それは構いませんが…」
「それじゃあ宿まで案内してもらえるかい?、え、え~と?」
「あ、僕はスコットと言います、訳あってこの村で世話になってます、あの女の子は刹那くんです、…貴方のお名前は?」
「あ~わたしかい?、わたしは「リュート」、ただの旅人さ、よろしくなスコット!」
リュートと名乗った青年は、笑いながら両手でスコットの両肩をパンパンと叩いた。
「え、ええ、じゃあこちらへどうぞ」
スコットは彼を村へと先導していき、村の入り口で刹那たちと合流し、宿へと向かうのだった。
その後、スコットは村の男衆を連れ村の外へ、気絶していた2人の仮面を拘束し、自決の仕掛けを外してから空いている納屋へと閉じ込め、4人の死体を回収し、騎士団に引き渡すまでの間、村で保管することになった。
後日、刹那がメヴィから聞いた話だが、子供たちに施された仕掛けは、フィールドの通過と同時に無害化されていたとのこと。
カイの服に忍ばせられていた爆薬は性質変化を起こし無害な物質に…、リーナに施された起爆の魔法も強制解除されたとのことだった。
「リュートさんて言うんですね!、さっきはホントにありがとうございました!」
宿に戻った刹那とリュートは、ホールのテーブルに向かい合う形で腰掛け、刹那は改めて感謝の言葉を口にしていた。
「気にしないでくれ、君のような美少女を助けないとあっては、わたしのプライドが許さないからね!」
「そ、そんな~、び、美少女だなんて~」
顔を赤くし両手を頬に当てモジモジする刹那。
「く、口説いてもダメですよ!、私には心に決めた人がいるので、リュートさんには靡きません!」
「そ、そうなのかい?、それは残念だな~…」
と言っても、彼女をみたかぎりおそらくまだ10代半ばの子供、わたしの守備範囲ではないしね。
心の中で呟くリュート。
「ところでリュートさんは、メヴィちゃんに会いに来たんですよね?、…でもメヴィちゃんが戻ってくるのはたぶん明日の朝になると思いますよ?」
刹那はメヴィが弁当を取りに来るタイミングをリュートに教えた。
「それじゃあ、わたしはこの宿で部屋を借りて、それまで待たせてもらおうかな」
「あのぅ、リュートさんはどこから来たんです?、それにメヴィちゃんとはどんな関係なんですか?」
刹那が気になった疑問をぶつけてみると、
「この国は今戦争中みたいだし、どこから来たかは今は伏せておくよ、…メヴィって子とは直接の面識はないけど、わたしの相棒が以前彼女と会っていてね、どんな子か話を聞かされていたから、1度会ってみたいな~と思ってさ」
「へぇ~、相棒さんがメヴィちゃんの知り合いなんですね~!」
「で、刹那からみて、メヴィという娘はどんな子なんだい?」
リュートは乗り出し、目を輝かせ聞いてくる。
この村に入れたってことはリュートさん、悪い人じゃないみたいだし、メヴィちゃんのこと少しくらい話しても、大丈夫だよね?
刹那は少し考え、
「ん~、メヴィちゃんはですね~、すごく可愛くて、おっぱいが大きくて、不思議な能力(ちから)をたくさん持ってる女の子ですよ!」
「お、おっぱい!?、そ、それはまた非情に興味深い!」
リュートは鼻血を垂らしながら、さらに目を輝かせるのであった。
「明日はデイジーちゃんも来る約束だし、デイジーちゃんのことも紹介しますね!」
「ん?、そのデイジーというのは?」
「デイジーちゃんですか?、デイジーちゃんはですね~、すごい美人さんで~、この国の騎士団長をしているすごい人ですよ~!」
「デイジー、美人、騎士団長、…もしかして「紅の戦乙女」のことかい?!」
「く、くれない?、よくわかりませんけど、デイジーちゃんは確かに、赤い髪に赤い鎧を着ているから、そんな感じかな~?」
「うお~!、なんということだ!、ここにいれば噂の彼女にも会えるのか!?、なんたる興奮!、いや幸運!」
両手の拳を握り、ガッツポーズをとるリュート。
「リュ、リュートさん!?」
見た目はカッコいいのに、なんかすごく変な人みたい…、まあカッコよさでいえば瞬ちゃんには敵わないけどね!
その後、宿に戻ってきたスコットを交えて、リュートと戦争や魔族の情報を共有し、リュートは力になれることがあれば協力を惜しまないと約束してくれたのだった。
その日の深夜、関所の街・テムズ…
グレンたちはセリオスを連れ、無事にこの街まで辿り着いていたが、予想以上にバットアイの追跡が速く、街の裏路地を移動中に発見され、交戦状態となる。
だが、グレンの部下たちがグレンとセリオスを先に行かせるため、その場に留まりバットアイの足止めをするのだった。
グレンは部下たちの身を案じつつも、セリオスを連れ、身を隠しながら王国側の出口を目指していた。
「殿下、わたしの命に代えても、貴方をシュトラール王の下へと送り届けてみせます!」
移動中、グレンはバットアイに追いつかれたことで、より目的達成が難しくなったことを悟り、そんな言葉をセリオスに向けたが、
「なにを言っている!、僕たちを逃がすために残ったお前の部下たちのためにも、僕たちはなんとしても生きて目的を果たすぞ!」
迷いのないセリオスの瞳、それをみたグレンは己を鼓舞し、
「そうですね!、必ず王都に辿り着き、スタイセンの企みを阻止し、陛下を助け出しましょう!」
「ああ、頼むぞグレン、…とはいえ、こんなときイアンもいてくれればな…」
「殿下…」
そして空が明るくなり始めたころ、ふたりはようやく出口に辿り着き、王国へと足を踏み入れたのだった。
「殿下、ここで少しお待ちを、先回りさせた馬を呼び寄せますので」
セリオスが頷くとグレンは指笛を吹いた、しばらく待つと近づいてくる足音が…
「ッ!、この足音は!?、殿下はわたしの後ろへ!」
グレンはセリオスを背後へ隠すと、剣を抜いた。
やがて、街道脇の林から複数の人影が現れ、その中によく知った顔をみつけた二人は、驚きの表情に変わるのだった。
そのころ、クロノは…
帝都に辿り着き、皇城に忍び込んだクロノだが、皇帝はおらず、警備兵を密かに捕まえ締め上げ、皇帝の居場所を聞きだし、騒がれぬよう拘束し空き部屋へと放り込んだのだった。
「皇帝の居場所は、スタイセンの別荘の地下牢か…、アイツ(スタイセン)と会った時に、なにか胡散臭さを感じたが、まさか反逆の首謀者だったとはな…、さて、次は皇帝の救出か」
クロノは城を後にし、次なる目的地を目指すのだった。
時をほぼ同じくして、バリアルト共和国では…
帝国より届けられた降伏勧告により議会を緊急招集、話し合いが進められていた。
「フランク!、そんなふざけた要求を呑む必要はないぞっ!」
議員のひとりが首相、フランク・テイラーに訴える。
「降伏のみならず、首相の首を差し出せとは、帝国はどこまで堕ちるつもりだ!」
他の議員も怒りのこもった言葉を口にしていた。
そんな中でも冷静に語りだすフランク。
「先ほど、シュトラール王国が帝国軍の侵攻を許し、王国北西部が占拠されたと報告があった、我が国の兵力では帝国のそれに遠く及ばない、…そして降伏勧告への返答の期日は今日一杯、…まずは難しいだろうが、王国に助力を仰ごう、それが無理なら私も腹を括るしかないだろう、抵抗してむざむざ国民から犠牲を出すわけにはいかない」
「フランク…、よし早速王国に使者を送ろう!」
議員のひとりがその手配のため動き出した。
「あと、王国から一時避難しているシェルヴィナ王女にも国に戻っていただこう、この国にいても逆に危険が増すだけだ、…最後に1度顔をみたかったが、そんな余裕もないだろう…、王女のいるサルバスにも使者を出してくれ」
フランクは寂しそうな表情で職員に命じたのだった。
6日目早朝、シンク村宿屋の一室…
「起・き・て!、待っていたよ、キミがリュートだよね?」
「な、なんだ…、まだ眠いのに~、だがこの可愛らしい声は?、ん~?・・・ッ!」
少女の声で目を覚ましたリュート、しかし彼の目の前にあったのは!?
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