第6話 特訓のはじまりと蠢く陰謀
エソナ大森林へ足を踏み入れてから半日、瞬平は未だ、メヴィの元には辿り着けずにいた。
「ハァハァ、ここらへんで弁当でも食っておくかな」
獣たちの追跡を一時的に撒いた瞬平は、高い木の頂上まで登り、腰を落ち着けていた。
「直線距離だとたったの10キロなのに、獣に追われて右往左往していたら、走った距離は10キロどころじゃないぞ、しかもほぼダッシュ状態だから、半端なく疲れた…」
愚痴を言いながら刹那からもらった弁当を開いて、口に入れていく。
「ん~、うめぇ~っ!、刹那が嫁さんか…」
ニヤける瞬平だが、すぐ真剣な顔になり、
「俺たち、子供のころからずっと一緒で、お互い両想いなのはなんとなくわかっているけど、まだどちらからも告白したことないんだよな~、…一緒にいるのが当たり前になっちまって、告白とかあまり意識したことないしな…、俺から刹那に告白したら、刹那はなんて喜んでくれるかな?、喜ぶだろうな、容易に想像がつく…、よし!決めたっ!地球に帰ったら刹那に告白しよう!、言っておくが、これは死亡フラグじゃないぞ!?」
そんなことをひとり呟く瞬平であった。
「しっかし、アイツらもしつこいな~、撒いては他の獣に追われ、挟み撃ちにされそうになれば全力で飛び越え、メヴィのところまでやっと半分くらいかな?…、わざとかは知らないけど、メヴィの気配をビンビンと感じるんだよな~、それとなく居場所を教えてるんだろうか?、なんだかんだで優しいよな、メヴィのやつ」
呟きながらメヴィの気配を感じる方角に目を向ける瞬平。
「それに、嫌でも実感するな、この脚力の成長具合…、走る速度も、跳躍力も、もう普通の人間のレベルじゃなくなっているのがわかる…、これがメヴィのくれた「力」なのか…」
そう、実際に瞬平は、人間よりも速いはずの獣たちに追われても、追いつかれることもなく、今いる木に登る際も、よじ登るのではなく、枝から枝へのジャンプで素早く済ませられたのだった。
「弁当も食い終わったことだし、そろそろ続きと行こうかな」
立ち上がるとリュックを背負い直し、瞬平は高さ20メートルはある木の頂から飛び降り、難なく着地。
「木のてっぺんにいるとき、まったく高さに対する恐怖心が湧かなかったから、もしやと思って試してみたけど、本当に成功するとは…」
そこへ、瞬平に気付いた獣たちが集まってくる。
「きたよ、ゾロゾロと」
瞬平は獣たちに囲まれる前に走り出したのだった。
その頃、シンク村では…
クロノがデイジーから託された瀕死の帝国兵を連れ帰ると、刹那は驚きながらも慌てて男に治療術を施し、男は一命を取り留めたのだった。
彼の名前は「スコット・コールマン」、現在行方知れずの帝国将軍「グレン・ヴァルドル」の元副官で、今はスタイセンの指揮下に組み込まれていたという。
そして、デイジーをスタイセンの元へ連れて行った後の経緯を、刹那とクロノに説明したのだった。
「ん~、スコットさんが助かったのはよかったけど、デイジーちゃんが心配だよ~」
刹那が心配そうにしていると、
「オレは再び国境に戻るつもりだ、彼女が危険な状況なら、オレが手を貸すから心配するな」
「うん、ありがとう、クロノくん」
そんな二人のやりとりをみていたスコットが、
「ところで君たちは何者なんだい?、王国の人間にはみえないが…」
「え~と、異邦人?かな?」
刹那はなんとなく思いついた言葉で答える。
「そうか、君たちは僕の命の恩人だよ、だが恩を返したくても、今は手持ちがなくてね、本当にすまない!」
スコットは頭を下げ、そう言うと、
「スコットさん、お礼なんかいいよ~、死にそうな人を助けるのは当然のことだもん、…それに今は帰らないほうがいいよ?、その将軍て人に殺されかけたんでしょ?、戻ったら危ないよ~」
「心配してくれてありがとう、刹那くん、…だが僕は、この国に攻撃を仕掛けている帝国の人間だ、ここにいれば君たちにも迷惑が掛かるだろう」
そこへ、カウンターで話を聞いていたロナルドが話に割って入る。
「ちょっと待ってくれスコットくん、君はデイジーさんを助けようとして殺されかけ、デイジーさんはそんな君を助けるため、クロノくんにこの村へ送り届けさせたんだろう?、悪いが、そんな境遇の君を、帝国人だからって理由で虐げるような人間は、この村にはいないよ」
刹那がうんうんと頷きながら、
「おじさんの言うとおりだよ、村の人はいい人たちばかりだもん!」
「ですが…」
困惑するスコットをみて、ロナルドは、
「よし決めた!
他ならぬデイジーさんのためだ、王国と帝国の情勢が落ち着くまで君はこの宿で預かることにするぞ!」
「さっすが!おじさん!」
笑顔で軽く両手を打つ刹那であった。
その後、クロノは国境へ向かい、スコットはロナルドたちへ感謝しつつも、ただ厄介になるだけでは申し訳ないと、村の警備や食料確保のための狩りを買って出たのだった。
そして刹那は、村人たちの手伝いや村の子供たちに遊びや勉強を教えるなどをし、刹那の人当たりのよさもあってか、たちまち村の人気者になっていったのだった。
舞台は変わり、国境…
デイジーたちは脱出に成功し、ギルバートの元へと戻り、帝国であったことを話していた。
「スタイセン将軍がそんな卑劣なことをか…、俺は直接会ったことはないが、今まで話で聞いた印象とは全くの別人だな?」
「私も同感です、おそらくは…」
「魔界の瘴気ってやつか?」
「ええ、その可能性が高いカと…、そうなると、直に皇帝陛下にお会いしない限り、帝国軍の侵攻を止めることはできないでしょう」
「会うと言ってもな~、敵陣を越えるのはそう簡単なことじゃないぞ?」
「そうですね、ここは総長殿に相談してみてはいかがでしょう?」
「爺さんにか?、ま、仕方ねえか、デイジー、明日にでも爺さんに会ってきてくれねえか?ここから東に陣を張っているはずだ」
「ええ、わかりました、私が話をしてきます」
「ああ、そうしてくれ、俺はここの守りがあるからそっちは任せた、
…それと、団員たちを助けてくれた青年だが、お前さんの知り合いなんだって?、もしかしてコレか?」
ギルバートがデイジーに向かって親指を立ててみせると、
「ちっ、違いますよ!彼とは昨日知り合ったばかりですっ!先輩、こんな時にからかわないでください!」
「お?!その慌てよう、しかも顔が赤いぞ?もしかして満更でもないんじゃねえか?」
「ち・か・い・ま・す!、彼はメヴィ殿の連れですから!」
「なんだ?あの嬢ちゃんの男か?」
「それは…わかりませんが…」
デイジーは顔を赤らめながら俯いた。
「デイジーにも可愛いところがあるじゃねえか、お前さんだってもう嫁に行ってもおかしくない年齢だ、少しは素直になったほうがいいぞ?」
「くっ、もう知りません!」
デイジーはそそくさと逃げるようにその場を離れようとしたとき、
「明日は頼んだぞ!今夜はゆっくり休んでくれ!」
ギルバートは声を掛けたが、デイジーはなにも答えず、寝床としてあてがわれたテントへと入っていったのだった。
「お~お、乙女だね~」
「デッケル団長はデリカシーなさすぎです!」
同席していたクリシュナは、文句を言うとデイジーを追ってテントへと向かった。
「クク、かみさんへのいい土産話ができそうだぜ、あのデイジーがねぇ」
ギルバートは生暖かい目でデイジーのいるテントをみつめ、呟くのだった。
夕暮れ時のエソナ大森林。
「ハァハァ、もうすぐメヴィのところへ着きそうだな、ん?あれ?」
瞬平が何気なく後ろを振り返ると、追ってきていたはずの獣たちが1匹もいなくなっていた。
「瞬平!お疲れ様!」
声を掛けられ、前に向き直ると、そこにはいつの間にかメヴィが姿があった。
「ハァハァ、やっと着いたのか?」
汗だくで、息も絶え絶えの瞬平に、
「はいこれ!」
メヴィが弁当の包みを差し出してきた。
「これってメヴィが刹那からもらった分だろ?食ってなかったのか?」
瞬平はそれを受け取りながら聞くと、
「ワタシは食事を取らなくても平気だからね、瞬平にあげるよ、まあ刹那の料理は美味しいから、食べたくはあるけどね」
「じゃあ、ありがたく頂くか」
瞬平は包みを開くと勢いよく食べ始め、
「ん~、うめ~、あれだけ動き回ったあとだと旨さも格別だな」
だが半分ほど食べたところで手を止め、それをメヴィに指し出し、
「メヴィも食えよ、そんな食べたそうな目でみていられると、なんだか罪悪感が湧いてくるからな」
「いいの?、ホント、「キミたち」はいい子だな~」
それを受け取ったメヴィも勢いよく食べ始め、あっという間に番頭箱を空にしてしまったのだった。
「はやっ!もっと味わって食えよ!」
「え?ちゃんと味わってるってば、あ~美味しかった~」
「うわ!なにそのふにゃけた顔」
「だって刹那の弁当が美味しすぎるんだもん、クロノが食べながら泣いたのも納得だよね!」
「ま、美味しいのは同感だけどな」
二人は和気藹々で食事を済ませた後、瞬平が重要な疑問を口にする。
「そういえば、弁当は貰った分全部なくなったわけたけど、明日からどうするんだ?」
「ん~、どうしよっか~?、ワタシが村まで行って、刹那に用意してもらうか、それともそこらへんで食材を調達して、自分たちで作るか、どっちがいい?」
「なんだよそれ!?、言っておくが俺は簡単なものしか作れないぞ?、メヴィは作れるのか?」
「ワタシはこれでも「なんでも」できる美少女だよ?」
「なんで疑問形なんだよ!?、なんか不安だ」
「じゃあ作ってあげよっか?」
「いや、刹那の弁当でお願いします…」
「ぶー、失礼だな~」
口を尖らせるメヴィ。
「お!なんかメヴィが可愛くなってる?」
「ッ!瞬平のクセに生意気だぞ~、そういう瞬平には、明日から、いや今夜からビシバシいくからね!」
「な!夜まで特訓するのかよ?!」
「夜の間は、夢の中で、ね!、もちろんエッチな意味じゃないからね?」
「あ、当たり前だろ!?」
「と、言いながら、ワタシの胸をチラ見して顔を赤くする瞬平がかわいいな~」
「ぐぬぬ!」
「フフ、さっきワタシをからかったお返しだよ~!」
「さあ瞬平、まだ早いけど、今日は疲れただろうから、もう休んでいいよ」
そう言うと、メヴィが右手の人差し指を立て、指先からシャボン玉のような球体を発生させると、それはみるみる大きくなり、直径2メートルほどのサイズになった。
「今夜からはこの中で休んでね!」
その球体を瞬平の方へゆっくり飛ばすと、それは瞬平を飲み込んだ。
「な、なんだこれ?!面白いな!」
「その中にいれば、ケガや疲労はあっという間に回復できて、外敵からも守ってくれるから、安心して眠れるよ!」
そう言うとメヴィは、右脚の爪先で、中の瞬平ごと球体を上空へと軽くと蹴り上げた。
「わっ、うわーっ!」
慌てる瞬平をよそに、球体は上昇を続け、周りの樹木よりもひときわ高いところで停止した。
「瞬平が眠ったら、特訓開始だよ!、サプライズもあるからお楽しみにね!、リアルのワタシは用事があるから夜の間はいなくなるけど、その中なら安全だから心配はいらないよ」
球体の外で並んで宙に浮いているメヴィがそう言うと、
「アー、ホシガキレイダナー」
瞬平は日の暮れた空を見上げ、呆けていた。
そんな瞬平の様子をみて、
「ちょっと刺激が強かったかな?、…じゃあおやすみ瞬平!」
声を掛け、メヴィはその場から瞬時に姿を消したのだった。
メヴィの姿が消えたことで我に返った瞬平。
「はっ?!非常識なことばかりで、無意識に現実逃避してしまった…、しかしメヴィのヤツ、よくいなくなるけど、どこでなにやってるんだ?、まあいいや、アイツが謎だらけなのは今に始まったことじゃないしな」
瞬平は球体の中で仰向けになり、
「うぉ!プヨプヨしててなかなか寝心地がいいな、しかも全方位が見渡せるから気持ちがいい!」
両手を頭の後ろで組み、夜空を眺める瞬平。
「ホントに星がキレイだな、この中に地球があるんだろうか?、刹那は今頃なにしてるんだろう、なんか心配だな」
瞬平は自然と瞼が降りはじめ、
「ふわぁ~ぁ、さすがに今日は疲れた、お休み刹那…」
そこで完全に眠りに落ちたのだった。
その後、瞬平は夢の中で目を覚まし、
「はっ!ここは?」
そこは、見渡す限りなにもない空間、白い地面と雲ひとつない青い空、全方向地平線以外なにもない世界だった。
「ここが夢の中?」
そこへ突然目の前にメヴィが現れ、
「うわっ!ビックリした~!」
「おはよ、瞬平、といってもリアルの瞬平は、文字通り「夢の中」なんだけどね」
「いきなり現れて驚かすなよ!、…で、そもそも夢の中でなにをするんだ?」
「まあわかると思うけど、夢の中で肉体の強化は出来ないから、ここでは主に感覚のレベル上げをしていくよ!」
「なるほど、感覚の強化か…、具体的には?」
「今回は動体視力を鍛えていくね、…ワタシはキミの追えるギリギリのスピードで攻撃していくから、キミはそれを躱していけばいいだけ、できるならワタシへの反撃を狙ってもいいよ、とにかくワタシを目で捉えることに集中すること!」
メヴィは数メートル後ろに下がり、
「じゃ、いくよ!、まずは直進で行くからね!」
メヴィがピョンピョンと跳ね、軽く準備運動をする。
「え?!お、おい!」
瞬平は慌てて構えるが、
「なっ!」
気付いたときには目の前にメヴィが…、瞬平の眼前に右手を突き出す、…その手はデコピンの型を呈していた。
「はい!もらい!」
メヴィの細い中指が瞬平の額を強打し、その威力で瞬平は数十メートルは後方へ転がり跳ねていった。
勢いが収まり、地面で大の字で横たわる瞬平。
「い、痛くない?、やっぱりここは夢の中なんだな…」
起き上がり、再び構えた。
「今のは油断しただけ、次頼む!」
遠く離れたメヴィに大声で次を促した。
とはいえ、メヴィのヤツ、半端なく速い、どうする?
などと考えていると、
「ん?頭の中に勝手にイメージが湧いてくる?、…わかった、やってみる!」
それはメヴィが、瞬平の頭に直接、攻略のコツをイメージとして送ったものだった。
その後、瞬平は何度もデコピンを食らいながらも奮闘し、自分でも気付かないうちに、動体視力が格段にレベルアップしていったのだった。
「それじゃあ今回はここまでにしようか、夜が明けたらリアルでおさらいだからね!」
「なに?!リアルであのデコピンを食らいまくるのか?!死ぬぞさすがに」
「安心してよ、リアルではキミがワタシを攻撃する番だからさ」
「いや、女の子を攻撃とか、メチャクチャやりづらいんだけど?」
メヴィはニッと笑い、
「ワタシを女の子扱いしてくれるのは嬉しいけど、甘いよ瞬平、本気でこないと特訓にならないからね?」
「といってもな~」
瞬平はメヴィの大きな胸をチラッとみる。
「あ~あ、やっちゃったよ~」
メヴィがそう言い溜め息を吐くと、
「瞬ちゃんっ!今メヴィちゃんのおっぱいみてたでしょ~?」
「ゲッ、この声は…」
瞬平は恐る恐る声のした後ろに振り向くと、
「瞬ちゃんのエッチ!」
そこには膨れっ面の刹那が立っていた。
「ここは夢の中だよな?…てことは、この刹那も夢の産物ってこと?」
「そう思う?瞬ちゃん…」
そう言うと、刹那は瞬平に歩み寄り、両腕を広げ抱きつき、瞬平の耳元で、
「おつかれさま、瞬ちゃん、でもエッチなのはダメだよ?」
刹那はアピールするように、抱きついた瞬平に自分の胸をグイグイと押し付けてきた。
「セツナサン、これはさすがに恥ずかしいんですが…」
瞬平は硬直して動けなかった。
「ホント、二人は仲がいいね~、夢の中でもイチャイチャしちゃって~」
メヴィは微笑ましげに二人をみつめる。
「メヴィ、これって?」
「うん、実体ではないけど本物の刹那の思念体だよ!」
「だよな~、この距離感…、てか刹那もお疲れ!」
瞬平も刹那の耳元で囁くと、刹那の両肩に手を置き、引きはがす。
「ぶ~、まだくっついていたかったのに~」
頬を膨らませる刹那。
「まあそれは次の機会に、な?」
「しょうがないな~、瞬ちゃんは」
「それ、俺のセリフだからな?」
「メヴィ、さっき言ってたサプライズって」
「うん、お察しのとおり、刹那のことだよ」
「でもどうやって?」
「簡単なことだよ、刹那が眠ってしまえば、キミたちの夢をリンクさせるだけだからね」
「いや、それは簡単なことじゃないだろ?」
そんな呆れ顔の瞬平とは対照的に、
「私は瞬ちゃんに会えるならなんでもいいけどな~」
ニコニコ顔の刹那。
「キミたちをここで会わせたのは、そのイチャイチャをみるのもあるけど、一応離れていた間の情報交換もしてもらおうと思ってね」
「なるほど…てっ、そのイチャイチャってのは恥ずかしいからやめてくれ!」
「私は全然構わないけどね♪」
離れたはずの刹那が、いつの間にかニコニコしながら瞬平の腕にしがみついていた。
「情報交換しよっ!瞬ちゃん」
「そ、そうだな…」
その後、二人はその日あったことを話し合った。
「村や国境でそんなことがあったのか…
聞いてると、帝国ってのがなにげにヤバそうだな、デイジーも無事だといいけど…」
「だよね~、でもデイジーちゃんならきっと大丈夫だよ!クロノくんも付いてるしね」
「だといいけどな…、刹那も、村にメヴィの守りがあるからって油断しないようにな?」
「うん!もちろんだよ!」
そこで今まで黙って話を聞いていたメヴィが口を開いた。
「話は終わったかな?」
二人は黙って頷く。
「じゃあ最後にワタシから刹那にひとつ、…瞬平が明日からも刹那のお弁当が食べたいんだってさ、お願いできるかな?」
「もちろんだよ!美味しいお弁当作るからね!瞬ちゃん」
その後、三人は解散し、瞬平と刹那はそれぞれ深い眠りに就いたのだった。
瞬平たちがこの星へ来て、3日目の朝…
瞬平は前日の特訓での疲れが完全に取れ、清々しい朝を迎えていた。
「ふわ~あ、身体がメチャクチャ軽い、頭もスッキリだ!」
「おはよ!瞬平、よく眠れたようだね?」
声のしたほうへ視線をやると、メヴィが宙で胡坐をかいていた。
「オッス、メヴィ!早いな」
「はいこれ!」
メヴィは、見覚えのある包みを瞬平へと差し出してきた。
「これって刹那の?」
「うん、今貰ってきたばかりの出来たてだよ、刹那からの言伝で「朝昼2食分だからいっぺんに食べちゃダメだよ!」だそうだよ」
それを受け取った瞬平は生唾を飲み込み、
「それじゃあ早速いただくとするかな、ん?メヴィの分は?」
メヴィは瞬平に渡した分しか持っていなかった。
「ワタシは宿でいただいてきたから心配いらないよ?」
何気なくメヴィをみた瞬平が、ハッとあることに気付き一瞬固まり、すぐ目を逸らした。
「メヴィ、お前な~、その短いスカートで胡坐はやめてくれ!、下着が丸見えだろ!」
そう言って赤面する瞬平。
「瞬平はホントにカワイイな~、ワタシはみられても全然気にしないよ?」
「このっ!からかうなっての!俺が気になるんだよ!」
「しょうがないな~」
メヴィは胡坐から直立へと姿勢を変えた。
「瞬平が食べ終わったら、早速昨夜話した特訓を始めるよ!」
「おう!今日もよろしく頼むぜ、メヴィ!」
その後、瞬平が朝食を取り終わると、二人で地上へ降り、特訓を開始したのだった。
瞬平は全力で拳や蹴りをメヴィに繰り返し放つが、メヴィはそれらを軽く避けたり、手のひらで受け止めていった。
なんだ?この感じ、拳や蹴りは当たっているのにメヴィにその威力が伝わっていない、むしろ俺のほうにその反動がきているような、俺の攻撃を受け止めているメヴィの手のひらが、まるで柔らかい壁のような、拳に痛みはないがメチャクチャ重いものを攻撃しているようだ。
「それでいいよ瞬平!、キミが順応するまでこれを続けて、順応するたびにワタシはスピード、防御のレベルを上げていくから、どんどん攻めてきていいよ!」
「面白い!とことんやってやる!」
瞬平は気合い十分といった感じで、メヴィに挑んでいくのだった。
そのころ、デイジーは国境沿いを東に向かい、第一騎士団が防衛にあたっている地へと赴いていた。
その野営地で一際大きなテントでは、第一騎士団団長にして騎士団総長も勤める老騎士、サイモン・ロックバインが控えていた。
「総長殿、お久しぶりです!」
デイジーは胸に右手を当て敬礼をする。
「よく来たなデイジー、本当に久方ぶりじゃな、たまには顔をみせに来てくれればワシも嬉しいんじゃがのう」
「すみません、私も国内の巡回や姫様の警護で、なかなか時間が取れなかったもので…」
「フッ、冗談じゃよ、皆(みな)それぞれ忙しいのだから仕方あるまい、で、此度の来訪は、昨日の伝令の件も含めて、なにやらいろいろありそうじゃな?」
「ええ、それが…」
デイジーは、今まで知り得た魔族や帝国に関する情報をサイモンと共有するのだった。
「なるほどな、戦争を止めるため帝国の皇帝に会いに行きたいとな…、じゃが、前線指揮官のスタイセン将軍が異常なほど好戦的で話の通じる相手ではないときたか…」
サイモンは頭を捻り、顔を顰め、
「知ってのとおり王国には、帝国にあるような潜入に長けた部隊は創設されていない、だからと言って不慣れな者を送り込んで無駄死にさせるわけにもいかん」
「では私が…」
「待て!デイジー」
デイジーの言葉を遮るサイモン。
「お前さん、潜入を買って出るつもりじゃな?、いかんぞ、お前さんは騎士団長じゃ、そう単独行動ばかりしていては団員たちに示しが付かん、あまりひとりで背負い込むもんじゃない!」
「それは…」
デイジーが言葉に詰まると、
「お前さんが一刻も早く戦争を止めたい気持ちはわかるが、自分自身の役割を忘れちゃいかんぞ」
サイモンの言葉に、考え込むデイジー。
とその時、テントの入り口から声が、
「なら、オレが彼女の代わりに帝国に潜入しようか?」
「その声、クロノか?!」
入り口が開き、クロノが中へと入ってくる。
「クロノ!どうしてここに?!」
「頼まれごとは済ませてきた、…心配はいらない、昨日の彼なら刹那が助けたからな」
「それはよかった、…ではなくてだな!この一帯は騎士団が確保している場所、部外者が簡単に侵入できる場所ではないぞ!?」
デイジーが珍しく狼狽している中、サイモンが、
「なるほどな、君がデイジーの話に出てきたクロノ君じゃな?」
「ああ、よろしく頼む」
「昨日は、デイジーや団員たちを救ってくれたそうじゃな、ワシからも礼を言わせてくれんか」
サイモンはクロノに歩みよると彼の右手を取ると握り締め、
「ありがとう、クロノ君」
「いや、オレの役目はデイジーを手伝うことだからな、気にしないでくれ」
クロノは照れたようにそっぽを向いた。
「そうはいかん、いつか礼をさせてもらうぞ」
「総長殿!」
二人のやりとりをみていたデイジーが声をかけると、
「そうじゃったな、クロノ君が引き受けてくれるのならこちらとしても助かる、危険な役目じゃが頼めるだろうか?」
「ああ、元からそのつもりだ、ただし、オレはこの世界のことには疎い、色々教えてもらえると助かる」
「フム、それじゃあデイジー、テントをひとつ貸してやるから、彼にその色々を教えてやってくれんか?」
「わ、わかりました、…ではクロノ、場所を移そう、少し長くなるかもしれないが、教えられる限りのことを教えよう」
そうして、デイジーとクロノは借りたテントに移動し、デイジーはクロノに、この大陸の地理、各国の現状、重要人物について、時間の許す範囲で教えられる限りのことを教えたのだった。
同日昼過ぎの帝国内…
1台の馬車が帝都から街道を東へ向かい移動していた。
それを草むらからみていたフードを被って顔を隠したマント姿の男たちが数人、それぞれ馬に乗り出し、その馬車の追跡を始めたのだった。
「わかってるな?くれぐれも傷つけるなよ!」
先頭を走る男が後続の仲間たちへそう伝えると、男たちは腰から剣を抜き、馬車へと接近すると連携の取れた動きで包囲していった。
馬車の御者台には2人の帝国兵が乗っていたが、両側から挟みこみ彼らの首にそれぞれ剣を突き付け、馬車の停止を促したのだった。
抵抗は無駄だと悟った彼らは馬車を止めた、その直後、剣を突き付けていた男たちは、剣の柄で彼らの頭を殴りつけ気絶させたのだった。
外の騒動に何事かと馬車から飛び出してきた一人の兵士も、扉脇に身を潜めていた先頭の男の手刀を後頭部に受け、合えなく失神。
「彼ら(帝国兵)を道端へでも寝かせておけ!」
先頭の男は他の男たちに指示を出し、馬車に乗り込むと車内にいた人物が、
「何者だっ!?」
その人物は年端の行かない少年で、彼は懐から短剣を取り出し、震える両手で握り締めると剣先を男へと向けた。
男は自分のフードを剥ぎ、
「殿下、ご無事で何よりです、どうかわたしの話を聞いてください」
殿下と呼ばれた少年は、男の顔をみるなり震えが止まり、剣を下ろし、
「どうしてお前がこんなことを!?」
男は片膝を着き頭を下げると、
「ここは危険です、まずはわたしどもの隠れ家へ移動しましょう」
だが少年は、
「なぜだ!?…なぜお前は父上の命令に背いて、軍を逃げ出した!?」
少年は男に激しく問い詰める。
「殿下…、王国への侵攻は陛下のご命令ではありません!、ここはわたしを信じて、付いてきてください!」
少年はしばらく考え込み、
「…わかった、今はお前を信じよう、だがちゃんと説明してもらうぞ!」
「もちろんです、殿下!」
男は少年を連れ、自分の馬に乗せると、他の男たちと共にその場から走り出したのだった。
その夜、スタイセンの詰めている国境付近のテントに、ある男が訪れていた。
「ザギか…、では報告を聞こうか!」
椅子に腰掛け頬杖をつきながらその男に尋ねるスタイセン。
「スタイセン将軍、報告には良い報せと、悪い報せがございますが、どちらからにいたしましょうか?」
ザギと呼ばれた男は、薄ら笑いを浮かべながら尋ねた。
「では良い報せからで頼む」
「それでは…、依頼を受けていた二人の人物の捜索ですが、居場所がわかりました、…まず、王女は東のバリアルト共和国にある、サルバスの街に身を隠しているようです、詳細な位置も判明していますので、いつでも捕獲可能です」
「フフ、王国の姫を押さえて人質とすれば、簡単に王国を手に入れられそうだな」
スタイセンはニヤけ顔で、続きを促した。
「そしてもう1人、「せつな」なる人物がいるというシンク村の位置が特定済みです、ただし、「せつな」という人物は名前しかわかっていないため、本人の特定はこれからになりますのでしばらくお待ちを…」
「そちらも、私に恥をかかせた「クロノ」という男と戦乙女の知り合いなら、保険として使えるだろう、いずれも機会を狙って攫ってくるのだ!いいな!」
「御衣に!」
ザギは頭を下げそれに答えた。
「最後に悪い報せですが、セリオス殿下の移送中の馬車が、何者かの襲撃を受け、殿下がそのまま連れ去られたとの報告が入りました」
それを聞いたスタイセンは頬杖から頭を上げ、その手で肘掛を力強く叩くと、
「クッ、目立たないように護衛の兵士を減らしたのが裏目に出たか…」
「現在、痕跡を追跡中とのことです」
「よし!賊の居場所が分かり次第俺に知らせろ、いいな!」
「了解しました」
こうして、魔族の脅威が迫る中、1人の男の野望により大陸全体が混沌の渦へと呑み込まれていくことになるなど、「彼女」以外の者は知る由もないのだった。
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